東京モーターショー 2013:次世代パワートレイン技術と商用車
レクサス/富士重工のダウンサイジング直噴ターボエンジン、日野の小型商用EVプラットフォーム
2013/12/20
要 約
![]() トヨタ・レクサス 2.0L ターボエンジン |
本レポートは、 第43回東京モーターショー(2013年11月20日-12月1日)での日本乗用車メーカーの次世代パワートレインを中心とした技術展示と、商用車メーカーの展示の概要である。
日本の乗用車メーカーの技術展示では、トヨタ・レクサスと富士重工がダウンサイジング直噴ターボエンジンを、マツダはハイブリッドシステムを展示した。
また、ダイハツは次世代パワートレイン技術を披露し、スズキは1気筒あたり2つのインジェクターを使った、開発中の1.0Lデュアルジェットエンジンを参考出品した。
日産は、2020年までに市販車に搭載することを目標とする自動運転技術を披露。
日本の商用車メーカーでは、いすゞがタイで生産している海外向けSUV mu-Xを参考出品し、日野は小型商用EVプラットフォームを初披露した。海外メーカーまたはその傘下にある商用車メーカーでは、VolvoグループのVolvoブランド/UDトラックス ブランドと、Daimlerグループの三菱ふそう、そして、現代自動車が出展した。
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・サプライヤー編 EV/HV関連部品 | ・サプライヤー編 安全装備、燃費向上 | ・EV/FCV/CNG車の最新動向 |
トヨタ・レクサス、富士重工、マツダの新型エンジン
トヨタ・レクサスと富士重工は、2014年に市場投入予定のダウンサイジング直噴ターボエンジンをそれぞれ初披露した。マツダは、独自のSKYACTIV技術を用いたガソリンエンジンの1.5L版と、トヨタから技術供与を受けて開発したハイブリッドシステムを披露。
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トヨタ・レクサス | 2.0L ターボエンジン | 2014年に発売されるレクサスブランド車(LF-NXの市販版と見られる)に、搭載される2.0L4気筒 ダウンサイジング直噴ターボエンジン。ポート噴射と筒内直噴を組み合わせたD-4Sシステムを搭載。応答性を重視してツインスクロールターボを採用。エキゾーストマニュフォールドの一部(4本から2本への集約部)はシリンダーヘッドと統合されている。そのことで、エンジンの冷却水を使って排気を冷やすことができ、ターボチャージャーへの熱負荷を減らすことができる。トヨタブランド車にも導入される計画。 |
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富士重工 | 1.6L DITターボ | 富士重工がLEVORG向けに開発したダウンサイジング水平対向直噴ターボエンジン。同社で初めて直噴ターボエンジンにアイドリングストップ機能を搭載。最高出力125kW、最大トルク250N・mを発揮。当エンジン搭載のLEVORGの燃費性能は17.4km/L(富士重工測定値)。 |
マツダ | SKYACTIV-G 1.5 | 新たに開発した排気量1.5Lの直噴ガソリンエンジンSKYACTIV-G 1.5を新型Axelaに搭載(最高出力82kW)。同社のSKYACTIV-Gガソリンエンジンは、既に1.3L、2.0L、2.5Lのラインナップがあるが、2.0Lのエンジンをベースに1.5Lは開発された。2.0Lと同じく、圧縮比は13.0であり、気筒からの排気効率を高める4-2-1排気システムを搭載。 |
SKYACTIV- HYBRID | トヨタからモーター、変速機、バッテリーなどHVシステムの技術供与を受けて開発されたマツダのハイブリッドシステム。組み合わされるガソリンエンジンは排気量2.0LのSKYACTIV-G。クールドEGRシステムを搭載して圧縮比を14.0へ高め、排気システムは4-1式を採用。 | |
エンジンの最高出力は73kWとトヨタのPriusの1.8Lエンジンと同じに設定。ガソリンエンジンモデルに搭載されている2.0Lエンジンの最高出力114kWと比べると、出力はかなり抑えられており、上記のSKYACTIV-G 1.5と比べても出力は低く設定。モーターの最高出力は60kW、システム合計出力は100kWとなっており、こちらもPriusと同じ。 |
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ダイハツとスズキの次世代パワートレイン技術
ダイハツは次世代のパワートレイン技術を5つ披露。そのうち、エンジンのプラグの火花を大きくする技術と大容量キャパシターは実用化が近いとしている。また、スズキは1気筒あたり2つのインジェクターを使った、排気量1.0L(開発中)と1.2L(発売中)のエンジンを展示した。
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ダイハツ
e:S GREEN Ignition | エンジンプラグから発生する火花を大きくする技術。燃焼室内をプラズマ化することで火花を強くし、高周波を当てることで火花を揺らして、火花を大きくする。EGR(Exhaust Gas Recirculation)量が多くなると、燃料が燃えにくくなることに対応する。実用化が近い技術。 |
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e:S GREEN Capacitor | 高電圧化することで、充電容量を増やしたキャパシター。通常のキャパシターの電圧は3.8Vであるが、このダイハツのキャパシタは4.4Vとのこと。実用化が近い技術。 |
e:S GREEN Combustion | エンジンの燃焼室内のイオンを監視してタイミング良い点火時期をコントロールし、触媒を早く暖めて排出ガスをきれいなものにし、燃費も良くする技術。現在でも搭載されている技術であるが、より精密に3次元で監視をできるようにして行きたいとのこと。実用化にはやや時間がかかる。 |
e:S GREEN Thermoelectrics | 排気管内を通る排気の熱ムラ(温度差)を利用して、熱電素子で発電する技術。軽自動車のエンジンは回転数が高く、排気に温度ムラが多いため、その利用を考えた。まだ実用化には時間がかかるとのこと。 |
燃料電池スタック | アンモニア系の液体燃料(CleaN2 Fuel)を使って発電する燃料電池スタック。高価な白金を使用していないため低コスト。まだ耐久性に課題があり、10年10万kmの耐久性が目標。 |
スズキ
1.2L デュアル ジェットエンジン |
圧縮比を12に高めて、出力/トルクと燃費性能を高めた1.2L4気筒エンジン。圧縮比を高めたことによるノッキング(異常燃焼)発生を抑えるために、水冷式クールドEGRシステムをスズキとして初めて採用。また、1気筒あたり2つのインジェクターを採用し、噴出燃料の微粒化(約2/3)を行って燃焼効率を高めた。2013年7月に、小型車Swiftにこのエンジンを搭載したグレードを新たに設定した(最高出力67kW、最大トルク118N・m、燃費性能 26.4km/L:JC08モード)。 |
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1.0L デュアル ジェットエンジン | 開発中の1.0L 3気筒デュアルジェットエンジン。新たにローラーロッカーアームを採用して摩擦抵抗を低減。樹脂ヘッドカバーの肉厚を上記の1.2Lものと比べて2.0mmから1.5mmへ薄くした。このモーターショーで展示した、コンパクトクロスオーバーのコンセプトカーCrosshikerに搭載。 |
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日産の自動運転技術とステアバイワイヤ
2020年までに自動運転技術を搭載することを目標とする日産は、自動運転の実験車両と、自動運転に向けた重要な技術の一つとしているステアバイワイヤの機能(ダイレクトアダプティブステアリング)を搭載した新型SKYLINEを展示した。
自動運転実験車 | 日産は、EV Leafをベースとした自動運転車を開発し、米国Nevada州と日本 神奈川県で公道実験中。同社は、2020年までに自動運転技術を複数車種に搭載することを目指している。 |
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自動運転車には、総合研究所が開発している市街地での運転を想定したものと、先行開発部門が開発している高速走行用の2種類存在する。高速走行用(展示車)にはレーダーを搭載し、レーザースキャナー6つ、前方監視用のカメラを3つ、アラウンドビューモニター用のカメラ4つをセンサーとして用いる。市販時には高速走行用と市街地走行用の2つの車両の技術を合わせて搭載することになる。 | |
実用化に向けた課題は、人工知能の判断能力の改善(特に合流や交差点)、法規制、社会の理解だとする。 | |
ダイレクトアダプティブステアリング(ステアバイワイヤ) | 自動運転に向けた技術の一つとする、ハンドルの動きをステアリングシャフトを介さず操舵輪に伝えるステアバイワイヤの機能を、(日産によると)量産車としては世界で初めてSKYLINE/Infiniti Q50に搭載。ハンドルの動きを3つのECUを介して、ステアリングアクチュエーターに伝えて操舵する。この機能によるメリットは3つあるとしている。1: 運転手に安心感を与えること、2: 不要な振動を運転手に伝えず、運転手の疲労軽減になる、3: アクティブレーンコントロールの機能(下記)を実現できること。 |
3つのECUはそれぞれ、ハンドルの回転を検知するステアリングフォースアクチュエーターと、操舵輪を動かす2つのアクチュエーターを動かし、相互監視も行っている。ダイレクトアダプティブステアリングが停止したときはフェイルセーフのため、クラッチを締結することで、ステアリングシャフトを介した通常の操舵を可能とする。 | |
アクティブレーンコントロール | 70km/h以上での走行時に白線と車両の向きをルームミラーにあるカメラが検出して、タイヤの角度とステアリングの操舵反力を微調整する機能。横風や路面に傾斜がある場合などに、車の直進性が高まるために修正操舵が減少し、運転手の疲労軽減につながる。 |
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いすゞは海外向けSUV mu-Xを、日野は小型商用EVプラットフォームを展示
いすゞはタイで生産している海外向けSUV mu-Xを参考出品し、ほかに、中型トラックの六輪駆動車、小型CNGトラックを展示。
日野は小型商用EVプラットフォームを出展し、バスとトラックでプラットフォームを共有するビジョンを提示。
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いすゞ mu-X |
いすゞ Forward 6WD |
いすゞELF CNG-MPI |
いすゞ
mu-X | 2013年10月31日に発表したPPV(Passenger Pickup Vehicle)と呼ぶ3列シートのSUV mu-Xを日本で初披露。タイで生産し、豪州、ニュージーランド、フィリピンなどへ輸出している(日本では販売を行っていない)。車両の開発はタイで、エンジンの開発は日本で行った。 |
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ホイールベースは、ベース車であるPickup D-MAXより250mm短縮して2,845mm。2.5Lもしくは3.0Lのディーゼルエンジンと5速ATを組み合わせる。GMのChevrolet Trailblazerの姉妹車。 | |
Forward 6WD | いすゞの中型トラックForwardの六輪駆動車。2011年の東日本大震災後、東京消防庁が走破性の高い車両を求めたため、Forwardの四輪駆動車をベースに製作した(2012年2月納車)。同社は元々、防衛省向けに六輪駆動車を納入しており、その技術を応用。 |
ELF CNG-MPI | CNG(圧縮天然ガス)を燃料とする小型トラック(発売中)。排気量4.6Lエンジンを搭載し、最大出力は96kw/3200rmp(ネット値)。気筒毎にインジェクターを配置し、きめ細やかな燃料噴射が可能なMPI(Multi Point Injection)を採用。標準タイプは186Lの、ロングタイプは300LのCNGタンクを搭載。 |
いすゞは日本メーカーで唯一CNGを燃料とする、小/中型トラックとバスを生産しており、2012年までに累計約1.5万台を世界9カ国で販売した。2015年には車両重量25tの大型CNGトラックの投入を計画。また、航続距離延長を目的にLNG車のモニター走行も検討していく予定。今後、CNG車の販売が拡大していくためにはCNGの供給拠点の増加、CNG価格の低下が鍵になっていくとしている。 |
日野
Poncho Mini | 小型EVバスのコンセプト。モーター類を運転席下に収め、前輪駆動とすることで客室の床面を平面かつ低くできた(床面高400mm)。全長4,915mm、全幅1,890mm、全高2,245mmとなっており、現行のPoncho Shortと比べて全長で1,375mm、全幅で190mm、全高で855mm小型化されている。 |
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電池は床下に敷き詰めている。複数の電池を検討中で、採用する電池によって最低地上高は異なる。実際に購入したいという希望があれば開発を進めていく意向。販売価格は電池の価格によるとのこと。 | |
小型EV商用車プラットフォーム | Poncho Miniにも採用している小型EV商用車プラットフォームの原寸大モデルを展示。バスとトラックとでプラットフォームを共有することで、量産効果が得られてコストを大きく引き下げることができる。前後の車重の配分を工夫すれば、トラックでも前輪駆動が可能とのこと。 |
MELPHA PHV | 中型バスMELPHAをベースとしたPHVの実証試験車。6.4Lディーゼルエンジンと最高出力175kWのモーター、容量40kWhのリチウムイオン電池を搭載。EV走行は通常の走行で約20km程度可能。燃料タンク(100L)が満タンであれば、最大248kWhの電力を外部へ供給することができる。展示したモデルは室内を診療室に改造した指導診療室仕様モデル(他に通常のバス仕様の実証試験車が1台ある)。 |
モーターはトランスファー(エンジン/AMTと後輪をつなぐ機構)に付けられている。モーター走行をするときは、エンジンとAMTの間のクラッチを切る。 |
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Volvoグループ(UDトラックスとVolvo)、三菱ふそう、現代自動車の商用車
海外メーカーまたはその傘下の商用車メーカーとして、VolvoグループのVolvoブランド/UDトラックス ブランドと、Daimlerグループの三菱ふそう、そして、現代自動車が出展した。
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Volvoグループ
UD トラックス
Quon Fuel Demonstrator | 世界初公開された、燃費向上実験用の車両。Quon CD 25t車をベースに10%以上の燃費改善を達成した。搭載している8Lエンジンは、各部の機械抵抗を低減し、過給により吸気量を増やすことにより、ベース車両に設定されている11Lエンジンに匹敵する性能を持つ。また車両の軽量化により最大積載量が増加。 |
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キャブの上部と側面の接合部の見直しとホイールカバーを装着し空気抵抗を低減。さらにGPSや地図データを活用して、カーブや坂道を認識し速度制御を行 い、省燃費運転をサポートするAdvanced Driver Assistance System (ADAS)を搭載している。 | |
Quester | Questerは2013年8月にバンコクで世界初披露され、東京モーターショーで日本初公開となった新興国市場向けモデル。部品はアジアを中心に現地調達され、エンジンは日本から供給。バンコク工場で生産され、2014年以降は中国・インドでも生産開始予定。中国では「酷騰(KuTeng)」という名称で、東風汽車との合弁会社である東沃汽車の杭州工場で生産される。 |
QuesterはVolvo Groupの共通プラットフォームをベースに設計され、キャビンの寸法は全長2,229mm、全幅2,470mm、全高2,000mm。道路整備が十分でない新興国での使用を視野に、フレームの最低地上高は高めに設定され、また重架装やオーバーロードに耐えられる頑丈な設計になっている。 | |
エンジンは8Lと11Lの2種類が設定される。展示されていた Quester GWE 6x4 Tractorは最高出力309kW(420ps)、最大トルク2,000Nmの11L直列6気筒エンジンが9速MTと組み合わされ、Euro 3排出基準に準拠している |
Volvo
Volvo FH | Volvo Trucksの主力モデル。キャブ内の移動が容易になるようなフラット設計フロアや、ドライバーへの負担を軽減するシートのエアサスペンションなどを搭載し、長距離運転向けに設定されている。展示されていたVolvo FH4x2 トレーラーヘッドの車両重量は7,450kgで、最高出力324kW(440ps)、最大トルク2,220Nmの12.8L直列6気筒エンジンを搭載している。 |
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三菱ふそう、現代自動車
三菱ふそう FI |
日本初公開となる中型トラック。アジア・アフリカ市場に向けて設計されている。小型トラックCanterのキャビンと中型トラックFighterの足回りをベースとしつつ、内外装などもコストを抑えた。Daimler India Commercial Vehicles(DICV)と共同開発した。パワートレインは排気量3.9Lの4D37型ディーゼルエンジンと6速MTを搭載。2013年4月からDICVのインドOragadam工場で生産され、ケニア・スリランカ・ザンビアなどで販売されている。 |
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現代自動車 Xcient | 2013年4月にソウル・モーターショーで発表され、今回日本初公開となる、先進国の商用車市場向けた大型トラックの新モデル。日本市場でも発売予定で、欧州・北米にも販売ネットワークを拡大する。2017年に世界販売台数、累計6万台達成を目標としている。トレーラーヘッドのサイズは全長7,040mm、全幅2,490mm、全高3,980mmで、キャブの室内の高さが1,895mm。長距離運転に向けて空間が大きく設定されている。最高出力520ps、最大トルク225kgf•mの12.7L直列6気筒ターボ付きエンジンを搭載。 |
![]() 三菱ふそうFI |
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