[緊急レポート]トランプ大統領の北米通商政策 – リスクに晒される北米の自動車生産

2017/01/27

要約

 当レポートは、弊社と提携関係にある英調査会社 LMC Automotive による2017年1月18日付けの緊急リリースをマークラインズが翻訳したものです。LMC Automotive社は自動車・パワートレイン分野の市場予測サービスを専門に提供しております(製品の詳細はこちらをご覧下さい)。

 トランプ新政権の誕生により、メキシコ、カナダ、その他地域の自動車生産はリスクにさらされている。選挙期間中より、ドナルド・トランプ氏は税率など具体的な数値には言及していないものの、米国への輸入車に国境税を課すと発言してきた。また、NAFTAも廃止されるリスクが浮上している。

 米国の自動車生産規模は北米全体の3分の2を占めるが、OEMによる大規模な投資とアジア・欧州からの生産移管により、メキシコの生産がNAFTAの生産に占める比率は現在の19%から2020年に26%まで上昇する見通し。

 米国以外のNAFTA加盟国で生産される車両にペナルティが課される可能性により、OEMによる既存の車両供給体制や今後の北米における生産配置、新規車種立ち上げの計画など、すでに動き始めている案件を含めて影響を受ける可能性がある。新政府による政策の詳細が発表されるまで状況は流動的であり、不確実性は高い。トランプ大統領による新たな政策やネガティブなイメージが喧伝されることへのリスク回避が、OEMの計画立案者にとって重要課題となる。

 いくつかのOEMが車両供給拠点を米国外から米国内に変更すると発表しているが、メキシコやカナダ、その他の国からこうした生産移管の動きがさらに続く可能性がある。今回の大統領選挙に直接のリンクはないものの、OEMによる米国への投資計画が公的に発表される傾向は続くと見られる。

 究極的には、いかなる生産体制の変更もサプライチェーンに混乱をもたらす。OEMによる能増計画に呼応し、既にメキシコに大規模な投資を実行、あるいは投資計画を推進しているサプライヤーは多い。

 OEMとサプライヤーにとって、各投資案件の潜在リスクや、現在の生産能力がどの程度のリスクにさらされているかを先回りして把握し、今後の政策変更による悪影響を低減するための対応策を準備することが重要となっている。以下のレポートでは、どのOEMが特に高い生産拠点変更のリスクにさらされているか等を分析する。



米国ライトビークル販売 – 横ばいが続く

US Light Vehicle Sales Environment – Plateau

  • 米国のライトビークル需要は2020年に向けて横ばいの見通し。自動車メーカー間の競争は更に激化し、利益マージンへの下押し圧力は強まると見られる。
  • OEMによる現地化の拡大やメキシコの生産能力が50%拡大する見通しであることを背景に、米国市場に占める北米生産車の比率は上昇する見通し。


    北米のライトビークル生産と生産能力のトレンド

    NA Production and Capacity Long-term Trend

    • 北米の新車需要は2020年に向けて堅調に推移する見通し。
    • 現地化の進展と輸出の拡大が生産増加を牽引(メキシコ生産は130万台増加する見通し)。大規模な能力増強にもかかわらず、生産能力の活用率は85%~90%水準を維持する見通し。
    • 米国の生産規模は約20万台(2%)増加する見込み。一方でカナダの生産は縮小。


      各OEMの北米における国別生産台数

      NA Production by Country – OEM Breakdown



      米国販売おけるメキシコ生産への依存度

      North America Planned Capacity Investment
      • 多くのOEMがメキシコに大規模な投資を実施し、メキシコ工場から米国市場への車両供給を拡大している。
      • Fordは「譲歩案」と新たに発表した米国への投資計画にも関わらず、Focusの生産が米Michigan工場から墨Hermosillo工場へ移管されることに伴い、メキシコ生産車比率が上昇。
      • GMもメキシコ生産比率は上昇。Cruze/Equinox/Terrainのメキシコ生産開始による。
      • FCAのメキシコ生産車比率はNAFTA内外での生産体制再編の影響で低下。しかし、その比率は依然10%超。
      • トヨタのメキシコSan Luis Potosi工場は2019年に稼働予定。しかし、米国への100億ドル規模の投資計画発表後も、同工場へのプレッシャーは残る。
      • VWのメキシコ生産車比率はAudiのSan Jose Chiapa新工場の稼働とPuebla工場での新型Tiguanの生産開始により上昇。
      • BMWのメキシコ生産車比率は20%に近づく。San Luis Potosi工場で3 Seriesとその派生車の生産が開始されるため。












      米国販売車の生産地別割合(自動車メーカー別)

      自動車メーカー

      NAFTA域外からの
      輸入車比率
      米国生産車比率 メキシコ生産車比率 メキシコについての備考
      2016 2020 2016 2020 2016 2020
      Volkswagen 55% 43% 12% 17% 32% 40% NAFTA外やメキシコからの輸入比率高。
      Mazda 86% 75% 0% 0% 14% 25% (メキシコで生産する)Mazda3は生産国を変更するリスクにさらされている。
      Renault-Nissan 24% 25% 54% 50% 22% 25% 米国生産は減少。COMPAS(ダイムラーとの合弁工場)の稼働によってメキシコ生産が増加。
      GM 7% 6% 65% 66% 14% 19% NAFTA外からの輸入は減少。しかし、人気モデルのメキシコへの生産移管にはリスクあり。
      Ford  2% 4% 79% 73% 12% 18% 譲歩案成立もメキシコ生産車の比率が増加し、米国生産車の比率が低下。
      BMW 72% 48% 28% 35% 0% 18% 新型X7の生産立ち上げで米国生産車の比率は増加。ただし、メキシコ新工場はリスクにさらされる。
      Hyundai  52% 42% 48% 44% 1% 14% Kia Forte/Hyundai Accent/Kia Rioを生産するメキシコ新工場の稼働でメキシコ生産車の比率増える。
      Toyota 27% 21% 48% 49% 5% 12% CorollaとTacomaのメキシコ生産は、既にリスクに。
      FCA 7% 9% 54% 61% 18% 12% 従来から予定されていた計画を積極的に発表したことが奏功か。
      Honda 0% 2% 68% 70% 11% 8% リスクはあるものの、CR-Vの生産をメキシコからアメリカに移管する可能性あり。
      Daimler 50% 49% 50% 46% 0% 5% COMPAS(Renault-Nissanとの合弁工場)がメキシコの比率を高める。高い輸入比率はリスク要因。
      Fuji Heavy 60% 34% 40% 66% 0% 0% 更なる米国投資も予測され、米国でプレゼンス高。
      Tesla 0% 0% 100% 100% 0% 0% 全て米国生産。
      Source:  LMC Automotive

      自動車メーカー NAFTA域外からの
      輸入車比率
      米国生産車比率 カナダ生産車比率 カナダについての備考
      2016 2020 2016 2020 2016 2020
      GM 7% 6% 65% 66% 15% 9% Oshawa 2の閉鎖によりカナダの比率は低下。しかしカナダ自動車労組(Unifor)との契約に基づき、大型ピックアップの生産を米国からカナダへ移管する計画はリスクあり。
      Ford  2% 4% 79% 73% 7% 5% リスクは限定的も、Ford EdgeやLincoln MKXと言った人気モデルをカナダで生産している。
      Toyota 27% 21% 48% 49% 20% 18% Corolla生産をメキシコへ移すことでカナダの比率は低下。しかし、RAV4/Lexus RXの生産は残る。
      FCA 7% 9% 54% 61% 21% 18% 新たな計画なし。しかし、関税が設定されればカナダで生産する人気の中型バンに影響が出る。
      Honda 0% 2% 68% 70% 21% 20%

      Alliston工場が重要モデルCivicとCR-Vを生産。

      Source:  LMC Automotive


      北米の生産能力の見通し

      北米の自動車生産能力は2023年までに約300万台増強される予定。
      増強分の半分は現在のところメキシコで実施される予定。

      North America Planned Capacity Investment
        メキシコへの投資:
      • BMW – San Luis Potosi
      • Daimler – Aguascalientes (COMPAS) w/ Renault-Nissan
      • FCA – Toluca
      • Ford – Hermosillo
      • GM – San Luis Potosi
      • Hyundai – Monterrey
      • Mazda – Salamanca
      • Renault-Nissan – Aguascalientes 2 & COMPAS
      • Toyota – Guanajuato, Baja
      • Volkswagen – San Jose Chiap
          アメリカへの投資:
      • BMW – Spartanburg
      • Daimler – North Charleston (DG) 2
      • Faraday Future – North Las Vegas
      • FCA – Belvidere, Toledo North
      • Ford – Flat Rock Assembly
      • Fuji Heavy – Lafayette
      • Geely – Ridgeville
      • GM – Hamtramck, Lansing Grand River, Spring Hill
      • Honda – Greensburg
      • Hyundai – Montgomery
      • Tesla – Fremont (Tesla)
      • Toyota – Georgetown 3, Tupelo
      • Volkswagen – Chattanooga












      その他の論点

      • LMC Automotiveは、基本シナリオとして米国ライトビークル市場が今後数年の間1,750万台から1,760万台の範囲で推移すると予測する。しかしながら、多くの不安定要因や政治面の不確実性が浮上する中で、予測台数が上振れ、あるいは下振れするシナリオも想定される
        • 30万-50万台の上振れ – トランプ大統領による1兆ドルの個人所得税と法人税の減税、2,500億ドルの公共投資といった景気刺激策が奏功し、なおかつ、あまり保護主義的なスタンスが取られない場合。
        • 40万-60万台の下振れ – トランプ大統領が非常に保護主義的/孤立主義的な政策に回帰する。更に景気刺激策の実行に失敗し、移民の制限と強制送還によって労働力が減少する場合。不確実性の高まりを背景に、米国と世界経済に悪影響が波及する。
      • 既にいくつかの自動車メーカーが米国への新規投資とメキシコへの投資計画の中止を発表している。これらは、トランプ大統領による「米国外で生産する自動車メーカーにペナルティを与える」という選挙公約を恐れた動きにも見える。しかしながら、これらのうちの多くは、以前から計画されていたものや、小型車の需要減少とより高利益率な車両への需要シフトに対応したものも多く、政治的圧力のみに反応した結果とは言えない。
      • トランプ大統領の標的は当初デトロイト3であったが、現在はトヨタやBMWにも目が向けられている。このため、今後米国市場において米国外で生産された車両を販売している全ての自動車メーカーがターゲットとなる可能性がある。こうした状況下で事業環境は厳しさを増しているが、これまで自動車産業はNAFTA全体を単一市場として扱ってきた歴史があり、全てのプレーヤーに同一の条件が課される限り、自動車セクターはトランプ大統領による政策変更にも順応すると見られる。一方で貿易障壁の強化が、最終的に製品コストの増加として消費者に転嫁されるリスクが高いことは注意を要する。
      • 米国の生産工場への相当量の投資なしには、メキシコやその他地域から年50万台以上の生産移転を実現することは困難である。米国で生産能力が増強された場合、メキシコの既存工場の閉鎖や深刻な稼働率の低下を引き起こす可能性が高い。この結果、コスト増と利益率の低下、更にサプライチェーンにも悪影響が波及することが懸念される。

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