Volkswagen Groupの危機:VWとディーゼル市場の今後の見通し

2015/09/28

序論

当レポートは、弊社と提携関係にある調査会社 LMC Automotive による2015年9月24日付け緊急リリースをマークラインズが翻訳したものです。LMC Automotive社は自動車産業に特化して、中長期のライトビークル、パワートレインなどの市場予測情報を提供しております(製品の詳細はこちらをご覧下さい)。

ディーゼル排気規制の土台を崩すような不正行為を行ったVolkswagen Group(VW)を取り巻くスキャンダルが世間を騒がせている。自動車業界はまだ何が起きたのか正確な情報を一つずつ集めている状況で、将来を考慮した結論を出すには早すぎる。しかし、現在焦点となっていて関心がもたれている重要なポイントを明らかにすることは可能である。VWは数日のうちに情報をさらに開示するつもりであることに留意する必要がある。以下の分析は自動車業界の販売台数とトレンドへの影響に限定したものであり、決算への影響は行っていない。



現在の状況

・VW Groupの一つのエンジン・ファミリーが、特に窒素酸化物(NOx)排気に重点を置いて、排気規制をくぐり抜ける不正ソフトを使用していたことが発覚した。今日までこうした不正ソフトが報告されたのは、世界で一番厳しい排気規制が採用されている米国だけであるが、最新の報告では不正行為は欧州でも行われていたという。

・不正ソフトは、車両が排気試験中であるかどうかを察知し、試験中と判断するとテスト・モードに切り替わるようになっている。テスト・モードではNOx排出レベルが規制値以下になるが、燃費は少し悪化する。実際の走行条件下では不正ソフトは別のモードに切り替わり、燃費は改善するもののNOx排出レベルは規制値の数十倍にまで高くなる。VWはこの不正ソフトが規制を不正に回避するための考え抜かれた手法であることを認めた。

・不正ソフトは2009年から搭載が始められ、米国では48万台に、世界中では1,100万台搭載されたという。この台数は同時期のVWの世界ライトビークル販売の20%に相当する。欧州で不正ソフトが搭載された台数はまだ公表されていない。

・問題となっているEA189ディーゼルエンジンはモデル末期で、米国では新型EA288ディーゼルエンジンに代替された。両方とも4気筒 2.0Lバージョンである。VWは新型2.0L ディーゼルエンジンの販売も停止した。VWは対象車種の問題に対処するため技術的な措置を取ると表明しているが、どのようにいつ実施するのか不明である。

・公式な調査が欧州、カナダ、韓国などの米国以外の市場でも開始されようとしている。

・これまでのところ、他の自動車メーカーが不正ソフトを使用しているという報告はない。この件に関してメディアは独立した機関でのテスト結果を示して、他メーカーにも疑いの目を向けているが、排気試験に合格するために他メーカーが同じ手法を取ったことを意味するものではない。



米国販売へのディーゼル排気スキャンダルの影響

 ディーゼル排気スキャンダルが広がるにつれて、LMC Automotiveは米国でのVW Groupの販売は短期的に悪い影響を受けると予想する。影響の大きさと販売減が継続する期間についてはもっと情報が明らかになるまでははっきりしないが、LMC AutomotiveはVW Groupのディーゼル車販売比率、販売台数、マーケットシェアの予測を行った。 LMC Automotiveの台数予測分析は以下の情報に基づいている。

・VWブランドの4車種、Audiブランドの1車種のディーゼル車販売が停止になっており、LMC Automotiveは販売停止が2015年期間中は続くと予想する。販売停止中のディーゼル車は、Audi A3、VW Beetle、Golf/Golf Sport Wagon、Jetta、Passatで2.0L TDIディーゼルエンジンを搭載している。

・LMC Automotiveは、V6 TDIディーゼル車を保有する顧客層の一部とVW Group(主にVWブランド)のガソリンエンジン車を保有する顧客層の一部が他のブランドか中古車へスイッチすると予想する。また、VW Groupの車を買おうとした顧客は購入を一時的に棚上げすることも考えられる。

 1-8月累計のVW Groupのディーゼル車の販売比率は15%で、2014年の16%から既に減少していた。販売停止中の5車種のディーゼル車の比率は1-8月累計で18%と高いが、2014年のディーゼル車の比率20%から少し低下していた。排気スキャンダルの状況を考慮し、LMC AutomotiveはVW Groupの2015年のディーゼル車の比率を12%(基本シナリオ)へ減らした。

VW Groupのディーゼル車シェア(米国販売)

修正後の基本シナリオ
・LMC Automotiveの基本シナリオでは、VWの2.0L TDIディーゼルエンジン搭載車の販売は2016年第1四半期後半から再開する。
・スキャンダルへの穏やかな反発が起こり、ディーゼル車の割合は10%以下に低下するが2017年までに12%まで回復する。(注:これは2013/14年にピークとなった18%よりも低い)。

悲観的シナリオ(妥当なシナリオ)
・EA288ディーゼルエンジン(2.0L TDIディーゼルエンジンの次期型)搭載車の販売停止は、2016年半ばまで継続され、第3四半期まで販売は再開されない。
・TDIブランドに大きなダメージとなり、一部の顧客しかディーゼルエンジン車を再購入しなくなる。
・AudiとPorscheのV6 TDIディーゼルエンジン搭載車はスキャンダルの反発からいくらか切り離されるが、VWブランドは大きく販売が減少する。

楽観的シナリオ(起こりそうにない)
・2.0L TDIディーゼルエンジン車の販売が今年中に開始され、VW Groupの対応が良かったことで顧客が好意的に反応する。もしもVWがスキャンダルと新世代のディーゼルエンジン車を切り離すことができれば、販売は回復するかもしれない。
・TDIディーゼルエンジンのシェアはそれでも2017年まで15%に戻らない。


 VW Groupへの影響はディーゼルエンジンの販売にとどまらない。販売全体への影響をみるときに、LMC Automotiveはディーゼル車が販売停止になっている車種の影響と短期的な顧客のスキャンダルへの反発の影響を分けて考えなければならない。

・対象となった車種の2015年1-8月累計販売は、23万2,502台、米国におけるVW Groupの販売の57%を占める。

・LMC Automotiveの修正後の基本シナリオに基づき、2015年はディーゼル車の販売停止が続き、消費者が他のブランドに向かうと仮定すると、最大でこれらの5車種で2万5,000台近くが影響を受ける。

・しかしながら、LMC Automotiveはディーゼル車を購入しようとした顧客のうちの一部は同じ車種のガソリン車を購入してVWやAudiブランドにとどまると予想する。マイナス分とプラス分を合わせて勘定すると、ディーゼル車が販売停止になった車種の影響は2015年で約1万台から1万5,000台の減少と予想する。

・事件発覚後間もないため今後の推移を見守る必要があるが、LMC Automotiveは、顧客の反発とブランド離れという要因によって2015年にVW Groupは、更に1万5,000台から2万5,000台の範囲で販売が減少すると予想する。

 従って、上記の2つの要因を加味して、LMC Automotiveは暫定予測として、VW Groupは2015年に最大4万台、これは9-12月の販売17%、これまでの年間販売予測の5%に相当するが、販売台数が減少するリスクがあるとみている。マーケットシェアはスキャンダル前の2014年の3.6%から、2015年は3.3%に下落すると予想される。明らかにこれは最悪のシナリオではないが、さらにスキャンダルが進展する可能性もある。2016年の間も同じような減少が起こると仮定すると、10-15万台の販売減少となり、マーケットシェアは3%以下に低下する。

VW Group スキャンダルの米国販売への影響




米国ディーゼル車市場のシナリオ

 米国ライトビークル市場のディーゼル車全体に目を向けると、VWへのダメージは2015年のディーゼル車販売全体には大きな影響を与えないだろう。米国市場でのディーゼル車シェアは3.4%から3.3%へ低下することにとどまる。今後2年間のうちに、米国ディーゼル車シェアはLMC Automotiveの当初予測から0.5%ポイント低下して、2016年に3.5%へ、2017年に3.9%へそれぞれ減少すると予想される。マーケットシェア低下のほとんどは、VWディーゼル車の減少によるもの。他の自動車メーカーのディーゼル車への影響は限定的であると予想した。

 LMC Automotiveの悲観的予測はより幅広い影響を考慮している。このケースでは、消費者は自動車業界全体の問題として大きな関心を持つ。いろいろな国で多くの自動車メーカーがディーゼル搭載車の排気テストを実施するという噂は、現実的ではないがありうることである。フルサイズ・ピックアップのビジネス使用車が、米国ライトビークルのディーゼル車の2%超を占めていることから、極端な減少が起こる可能性は低いとみている。

米国ライトビークル市場におけるディーゼル車シェア

 米国市場予測の重要な変化は、乗用車とライトトラックの比率が変わることである。過去数年間にわたって、乗用車はライトビークルのディーゼル車販売の18%を占めていた。問題となっているVWのEA189エンジンは乗用車向けであり、VWは米国でのディーゼル乗用車の大半を占めていたが、変化が起きるだろう。乗用車は2016年にはディーゼル車販売の12%まで低下すると予測される。

米国ライトビークルのディーゼル販売における乗用車の比率



欧州ディーゼル乗用車市場へのリスク

 このスキャンダルは米国に限定されるように見えた時点では、欧州のディーゼル車販売への影響も限定的であると予想された。しかしながら、いくらか不可解ではあるが、EUの規制は米国の規制よりも面倒なものではないにもかかわらず、VWの不正ソフトウェアはEUのディーゼル排気試験をごまかすことにも使用されたと思われる。LMC Automotiveの見解として、このことは欧州のディーゼル車ドライバーが自分自身遠くで見ている観察者という立場をはなれ不誠実さの犠牲になっているかもしれないと感じたことで、大変重要な欧州ディーゼル市場が更なる減少に直面するリスクを高めている。

 このスキャンダルは広範に広がっているディーゼル乗用車への否定的な評判にもう一つ悪評を加えることになった。過去1年近くにわたって欧州ではディーゼルに否定的なメディアの報告が途切れなく続いていた。2011年をピークにして欧州地域でのディーゼル車シェアは確実に減少してきている。興味深いことに、LMC Automotiveの分析は、これまでディーゼル車のイメージが減少の原因とされたことはなかった。競合する技術の進歩、燃料価格の変化、セグメントのシフトが変化の大きな要因であった。

 しかし、ディーゼル反対のメッセージ効果は累積的に効いてきており、ディーゼル車を選ぶ意思決定はぎりぎりの限界で行われている。この最新の出来事の直接的な結果として、ディーゼル車よりもガソリン車またはほかの技術が選ばれるかもしれない。この理由からLMC Automotiveは下記に西欧ディーゼル乗用車予測の新しい短期シナリオ(ディーゼル減少シナリオ)を作成した。

西欧ディーゼル乗用車シェア

 長期的には、LMC Automotiveの基本シナリオと「Lower Diesel(ディーゼル車が減少する)」シナリオとの差が拡大する。もし、ディーゼル車が大きな影響を受ければ、自動車業界はCO2規制に適合するために別の技術へのシフトを加速させるだろう。これにより、低CO2排出車における消費者の選択肢は広がり、ディーゼル車シェアは低下する。LMC Automotiveの基本シナリオは西欧のディーゼル車シェアは2022年に44%であるが、ディーゼル減少シナリオでは35%以下まで低下する。



米国以外のディーゼル車市場のリスク

 欧州と米国を別にすると、他の重要なディーゼル車市場はインドと韓国である。中国の乗用車ディーゼル市場は、ガソリン販売と比べて無視できるほど小さく懸念するほどではない。韓国の規制当局は試験プロセスに違反がないか調査を実施するだろう。異常が見つかればLMC Automotiveはディーゼル販売に圧力がかかるとみる。インドの排気規制は欧州や米国よりも緩やかであるが、ディーゼル乗用車市場は現状ディーゼルのイメージよりも相対的な燃料価格の方により敏感であり、このスキャンダルからのディーゼル車販売への直接のリスクは小さいだろう。



結論

 危機の震源地はこれまでのところ米国であり、重大な調査は深刻な財務上およびブランドイメージ上の大きなダメージが予想される。米国での短期的な販売への悪影響は不可避である。

 しかしながら、本日(24日)のドイツの運輸大臣が、同じ不正ソフトが欧州でも使用されていたと発言したことで、危機は新しいレベルへ進んだ。現時点では欧州のVWの反応はどうであるか、消費者の反応、規制当局と議会の反応などは不明である。しかし、欧州で対象となる台数は米国での台数よりもはるかに多いことは確かである。

 ディーゼル車の販売は、古い世代の車から排出される空質汚染問題について最近のいろいろなメディアからの批判を乗り越えてきた。特に、新世代のエンジンは前の世代よりも大きく改善されたことが受け入れられていた。ガソリン車に対するディーゼル車の燃費の優位性は揺るがないものの、欧州でディーゼル車のシェアは最終的にいくらか減少すると予想されていた。大見出しで報道されているこのスキャンダルは、ディーゼル車のイメージに大きな打撃を与え、欧州で予想されていた減少を加速させかねないリスクがある。

 もしディーゼル車のシェアが高い欧州で人気がなくなり始めれば、ハイブリッド車と電気自動車の販売が増加するかもしれない。自動車メーカーはこれまで次第に厳しくなるCO2排気規制に適合するために、ディーゼル車の燃費の良さが必要だった。もしディーゼル車のシェアが低下するなら、ハイブリッド車や電気自動車などの他のCO2を削減する技術がCO2排気規制に適合するために必要になる。

 もしも他の自動車メーカーが規制をかいくぐる同じような方法を使用したとしてスキャンダルに引き込まれたら、または、調査が進展するにつれて、VWの手法が自動車業界で行われている不正操作のパターンの一つであったら、競合他社との相対的なVW Groupの悪い評判は大きく減少する。しかし、この場合は大半または全ての自動車メーカーに抜本的な対応が迫られ、研究開発コストがかかることになる。

 短期的なVWブランドへの影響は非常に大きいが、他の自動車メーカーが車両の安全性欠陥への対応で成功したように、早急な是正措置と明確で的確なコミュニケーションがダメージを少なくするのに効果的であろう。今後の数週間または数カ月、VWは危機と関連して、技術的、政治的、規制上の、または金銭的な試練に応えなければならない。ブランドに対する重大で長引くダメージを回避できるかどうかは、VWの反応のあり方によって決定される。

アップデート

 関連する情報は今後とも連日のように流されることが予想され、初期の想定のいくつかは再評価する必要がある。重大な新情報、追加の分析が明らかになれば、LMC Automotiveは本件に関してさらにアップデートしていく予定。また、グローバル生産への影響も評価を行っているところである。