※英GlobalData社 (旧LMC)のアナリストによるショートレポート (3月13日付) をマークラインズが翻訳したものです。
・米国の2023年の電気自動車(EV)販売台数は120万台超で、初めて100万台を突破した。全販売台数に占める割合は7.7%となった。メーカー別にみると、テスラが年間を通じて値下げを複数回実施したことが支えとなり、大幅な販売拡大目標を掲げる中、全EV販売の5割以上占めた。他の自動車メーカーも競争力を維持し、2024年のバッテリー調達に関する新基準の発効前に、インフレ削減法(IRA)に基づく税額控除を利用すべく値下げを実施した。通常、第4四半期は、ディーラーが前年モデルを割引価格で販売し、購入者が年初にいち早く税額控除の恩恵を受けられることから、一年で最もEV販売が増加するシーズンとなるが、2023年第4四半期は第3四半期と比べて横ばいとなり、EV市場失速の可能性を示唆した。市場が減少に転じたと言うにはまだ早いものの、EV販売への逆風は強まりつつある。米国EV市場はここ数年、2桁台の成長を続けてきたが、最近の販売成長率の鈍化を受けて業界では悲観的な見方が広がっており、自動車業界の幹部らは将来の成長目標に対するトーンを変更している。
・多くの車種が2024年1月1日に税優遇の対象から外れたことで、EV販売台数は1月に入りさらに減少した。インフレ圧力と車両価格が高止まりの状況にあるため、自動車メーカーは、税額控除の損失を相殺するため、さらなる値下げと値引きを迫られている。米国金利が高止まりを続けているため、連邦準備制度(FRB)が年半ばに利下げを実施するまで条件緩和は期待できず、自動車市場全体の状況は悪化を続けている。
・車両価格は、新車購入における意思決定プロセスで最も重視されるものだが、米国では十分な充電インフラが整備されていないことが、主流層のEV購入を阻む「アキレス腱」になっている。テスラのスーパーチャージャー網を除けば、米国全土における公共充電インフラの規模は小さく信頼性は低い。多くの充電ポイントが機能しておらず、機能していても、他のプラグイン車に占有されている場合が多いため、(かつてEVへの第1の不安要素であった)航続距離への不安は現在、充電利用可能性への不安へと変わりつつある。また、寒波のような天候が航続距離に悪影響を与えたり、充電ステーションが(凍結で)故障し全米ニュースになることも、毎年のように起こっている。2024年1月、シカゴのEVオーナーは、インフラが復旧するまでの間、公共充電器の前で何日も待機させられ、修理施設まで車をけん引してもらう事態に追いやられた。EVの所有に対するネガティブな情報は、EVが市場に依存し、地域ごとにユースケースが異なるというイメージを根付かせる。
・EVがこのような厳しい市場環境に直面する一方、ハイブリッド車(HV)の販売が急増している。トヨタは多くの次世代モデルにハイブリッド技術を標準設定しており、ホンダは新型「CR-V」と「アコード(Accord)」のHVバージョンを発売し、最量販モデルにHV技術を採用したことで成功を収めた。他の自動車メーカーについてもEV待ちの受注残が枯渇しているのを受け、HVの販促に軸足を移しており、連邦政府の資金援助で強固な充電インフラが構築されるまでの足がかりにしようとしている。GlobalDataはHV販売の急増は年内も続き、2024年の米国新車販売に占めるHV比率は9.9%、EV比率が9.6%で、HVがEVをわずかに上回ると予想している。
・上述のように、米国のEV市場は2024年に成長が停滞し、新車に占める割合は約8%と2023年比横ばいにとどまるリスクがある。消費者にとってのプラスの側面は、税額控除の損失を相殺するための値下げ、ディーラーで売れ残ったモデルのさらなる値引き、税額控除を活用したリース普及率の上昇などが挙げられる。しかし、市場をリードするテスラは4680型バッテリーセルの生産と2025年の次世代の低コスト車の発売を優先しているために成長期の狭間にあり、今年は他の自動車メーカーがEVをアピールする責任がある。