分析レポート ブレーキ (日本市場編)

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ブレーキはクルマの基本性能の一つである「止まる」をつかさどるシステムであり、その性格上から重要保安部品として管理のもと生産・品質保証されている。本稿ではABSやESCなどのブレーキ制御システム、ブレーキブースターやブレーキペダルなどの補機類や補助ブレーキ類については特に言及しない限り触れず、ファウンデーションブレーキ、つまりブレーキ機構部品であるディスクブレーキ構成3部品・ドラムブレーキ構成3部品を中心に扱い(※)、主要サプライヤーのビジネス概要と搭載情報をもととしたシェア状況を分析する。 一般的に四輪車の制動力前後比は前7:後3と云われており、またFF車が主流となり前後配分比が前輪主であることから、前輪のほぼ100%にディスクブレーキが採用され、後輪は普通・1.5L以上の小型乗用車系を中心に半数強がディスク式、軽自動車、小型商用車、小型廉価車を中心に市場の半数弱がコスト主要因にてドラム式となっている。これらを合算すると日本市場におけるブレーキ部品の構成比はディスク式の部品生産量が約3/4を占め、残り約1/4がドラム式となっている。 本稿は日本市場についての分析であるが、主要各社ともグローバル化に伴う海外拠点強化に取り組んでいるため、必要に応じグローバル化の視点でも言及する。 ※ドラムブレーキ構成部品は搭載情報のみ

1) サプライヤー概要

曙ブレーキ工業(株)

• 系列: 独立系ブレーキ部品メーカー
• 事業: 本稿で扱う6部品のうち、ディスクキャリパー、ディスクパッド、ドラムブレーキシューおよびライニングの4部品を生産。
• 納入先: 商用車を含めた全ての日本車メーカーの国内生産車およびGM・Ford・ダイムラーなど欧米主要メーカーにOEM供給。
• アフターマーケット市場: 補修品でも優位にあり、たとえばディスクパッドの日本市場シェアはOEM供給で1番手であるが、アフターマーケット市場もトップシェア約40%の強みを持つ。
• 拠点整備・グローバル展開:
  本稿は日本市場について述べているが、曙ブレーキ工業の特徴の一つとして海外展開に積極的であることが挙げられる。1986年、米国でのGMとの合弁製造会社設立以降、北米、アジア、欧州に製造拠点のグローバル展開を進め、FY2018(2018年3月期)売上率国内外比率は、海外分が約73%に及ぶ。
  同社は、2016年から、組織体制を一新した。これまでの業務内容別の縦割り組織から、製品軸ごとに四つの事業部制に移行。製品ごとに責任や権限を明確化することで、事業の効率化やグローバルでの事業活動を活性化するのが狙いである。新体制に移行することで営業や生産といった業務間の連携を強化し、収益性向上や新規受注の拡大に結びつける。
  
  
• 北米事業
• 地域別売り上げ(2018年3月期)では前述の海外約73%のうち北米が約70%とトップであり、約3/4を占めるが、北米では売上高が下落しており、米系完成車メーカーによるセダンタイプの乗用車生産からの撤退や補修品市場の一時的な在庫調整による摩擦材の受注減などの影響を受けている。
• 2009年12月に独Robert Boschから北米ファウンデーションブレーキ事業資産を買収し、FY2013(2014年3月期)のOEM売上比では日系サプライヤーながらGM向けが25%とトップであり、日系の日産(13%)や、トヨタ(12%)よりも高いシェアがある。(Robert Boschからの事業譲渡に関しては、2010年11月に北米事業に続いて欧州、アジア、豪州、南米事業を検討していたが、曙ブレーキ工業の将来戦略と合致しない理由から2011年3月に協議を中止した経緯がある)
• 日米欧の完成車メーカーの増産が計画されているメキシコでブレーキ部品の製造会社Akebono Brake Mexico S.A. de C.V. を2012年に設立、2013年より生産開始した。
• 欧州事業
• 地域別売り上げでは前述の海外約73%のうち欧州は僅か6%に留まる (2018年3月期）要因は、フランス工場における利益率の高い摩擦材ビジネスの減少とスロバキア工場における高性能量販車用ディスクブレーキ製品のための諸費用発生による。
• 2020年までに欧州の営業・開発人員を現状の3倍にあたる150人以上に拡大する。同社は2015年8月からスロバキアで、高性能ブレーキキャリパーの組み立てを開始して欧州メーカーへ供給するなど、欧州事業を拡大している。営業・開発体制を強化し、幅広い欧州メーカーからの新規受注に結びつける。
• スロバキアの工場では、2018年半ばにも欧州でアルミ製ブレーキキャリパーの鋳造から加工、組み立てまで一貫した生産体制を構築する。アルミ製キャリパーのアルミ鋳造は、現在米国拠点で製造して輸入しているが、欧州現地メーカーから調達し輸送費を抑え、欧州市場でのコスト競争力の強化につなげる。
• 新興国事業
• 新興国においては、ニーズにあった低コスト品の開発、現地開発、現地調達、現地生産が課題と認識し現地化を推進している。
• 中国において、主要取引先の日産向けに加えて、GMや日系OEMの新規受注により、生産能力を増強、2015年夏までに、キャリパー工場は7ライン35万個/月まで高めた。
• 「日米中心」から「日米欧アジア」へのグローバル化の加速を中期経営計画でを示している。
• 南米戦略は課題。
• 商品開発:
• 電動化: 電動パーキングブレーキ(EPB)を2019年目標に開発中である。EPBは既にライバル各社が製品化しており、後発であるがゆえ他社参入が少ない(量産中はアドヴィックスのみ)ドラム式EPBに注力する方針である。
• 軽量化: 小型車向けのアルミ製ブレーキキャリパーを開発し、日系自動車メーカーへ提案し、2019年頃の実用化を目指す。アルミ製キャリパーは現在、コスト面から、高性能車向けが中心となっているが、開発製品を足回りの軽量化が可能な次世代ブレーキキャリパーとして位置づけ、他社との差別化を図ることで数量が見込める量販車種での採用に結び付けたい考えである。
• 銅フリー摩擦材: 2021年・2025年と段階的に施行される米カリフォルニア州(SB346)およびワシントン州(SB6557)の環境負荷軽減規制「ブレーキ摩擦材の重量比銅含有量規制」に対応した製品。2018年までに、次世代摩擦材の開発を目指す。原材料など基礎開発から新規に行い、銅の含有量規制に適合しながら制動性能やブレーキの鳴き、ブレーキダスト量など、摩擦材に求められる性能を高い次元で両立する。摩擦材はニーズによってスチール繊維を含まないノンアスベストオーガニック材(NAO材)と、金属系摩擦材のロースチール材(LS材)を使い分けている。これらのメリットを融合した付加価値の高い次世代製品の開発により、高級車などで新たな需要の開拓につなげていく考えである。

(株)アドヴィックス

• 系列: トヨタ系アイシン精機子会社、トヨタ自動車
• 事業: ブレーキ総合メーカー
• ブレーキ制御システムおよび本稿で扱う部品ではディスクローター(アイシン高丘(株))、ディスクキャリパー(一部を豊生ブレーキ工業(株))、ディスクパッドおよびドラムブレーキシュー(豊生ブレーキ工業(株))の計4部品を生産。
• 車輪速センサーを除くABS/ESCの制御システム製品でも国内生産シェア50%程度を有するトップサプライヤー。制御システムではコンチネンタルやボッシュなど欧米の競合メーカーとの競争激化のなか、需要が拡大している小型車向製品やABS/ESCの強化を通じて事業規模の拡大を図っている。
• 2010年にアイシン精機よりブレーキ部品生産拠点である刈谷工場(愛知県)や生産子会社および海外生産子会社を譲渡されたことで生産拠点が確保され、生産・営業・開発が一体となり競争力強化体制を整備した。
• 2018年4月、同社が豊生ブレーキの発行する第三者割当増資を引き受け、連結子会社化する手続きが完了した。豊生ブレーキは日清紡ブレーキのドラムブレーキ事業を取得し、日本とタイ拠点の営業を始めた。
• 2018年3月期決算は、売上高は5865億円、営業利益101億円
• 供給先: トヨタグループ向けが中心であるが、日産、ホンダ、マツダ、スズキなど各日本車メーカーにも幅広く納入。
• 生産体制整備: 前述の通り2010年まで海外を含め生産拠点を持たなかったことから、2010年以降は譲渡分を含め国内の生産体制整備と海外生産拠点展開。
• 国内生産拠点展開
• 再編により、製品ごとに生産を集約。量産効果を高めて競争力の向上を図る。
• アイシン精機とアドヴィックスは、2015年2月、愛知県半田市に設置を予定している新工場の建設に着手。2016年以降、アドヴィックスがデンソーとアイシン精機から制御ブレーキの生産移管を受けることに伴うもので、アイシン精機・半田工場の敷地内で建設を始めた。投資額は約110億円。アイシン精機が建設し、アドヴィックスに貸与する。2016年1月以降、横滑り防止装置、回生協調ブレーキ、ハイドロブースターなどを生産する。新工場の建屋面積は、工場スペースが3万7,600平方メートル、事務所スペースが6,750平方メートル。2016年時点の従業員数は約200人を見込んでいる。
• 海外生産拠点展開
  2016年4月現在、米国3拠点、メキシコ1拠点、ブラジル1拠点、チェコ1拠点、中国4拠点、タイ1拠点、インド2拠点、インドネシア1拠点、南アフリカ1拠点。近年の新規生産拠点は、以下の通り。
• メキシコ: ハリスコ州ラゴス・デ・モレノ市に工場を建設。投資額は約15億円。
• ブラジル: アイシン精機がサンパウロ州イトゥ市に持つ生産拠点に入居し、自社製品の生産ラインを設置する。設備投資額はアイシングループ3社合計で41億円。
• インドネシア: アイシングループで取得したカラワン県の用地に、同社とアイシン精機がそれぞれ新工場を建設する。投資額は2社合計で75億円。
• チェコ: ピーセク市にブレーキ部品の生産会社「ADVICS Manufacturing Czech s.r.o.」を設立、2015年から生産を開始している。独ダイムラーから初受注したディスクブレーキキャリパーを「メルセデス・ベンツGLC」、「Eクラス」、「AMG・C43」向けに生産している。
• 南アフリカ: 新会社「ADVICS South Africa (Pty) Ltd.」を設立する計画。豊田通商の拠点の一部を賃借して生産体制を構築する。
• 商品開発: 近年発表された新商品をみると、以下の通り、ファウンデーションブレーキに高度な制御システムを組み込んだブレーキシステムを市場に投入してきている。
• 2017年7月に発売されたトヨタ自動車の新型カムリ(XV70)に、作動音が従来製品比5％低減の世界トップクラスの静粛性を特徴とする新世代のキャリパー一体式電動パーキングブレーキが搭載された。
• 小型車向けに世界初となるドラム式EPBを開発、ドラムブレーキ内にアクチュエータを搭載する機構を開発、2014年12月に発売された、ホンダN-BOX Slashに初採用された。
• 2015年、トヨタ4世代目でTNGA最初のモデルと発表された新型プリウスに、同社の新世代電子制御ブレーキシステムが採用された。このシステムは、ハイブリッド車などで、油圧ブレーキ力とモーターによる回生ブレーキ力を協調させながら、減速時の運動エネルギーの回収を最も効率良く行うよう制御するシステムであり、従来のシステムに比べ、油圧応答性を向上された。これにより、滑らかなブレーキフィーリングとエネルギー回収領域の拡大を実現し、燃費向上に貢献。また、今回開発されたシステムは、将来の高度な運転支援制御にも対応可能な機能拡張性を有している。

日清紡ホールディングス(株) / 日清紡ブレーキ(株)

• 日本市場での大手摩擦材メーカーのひとつ。パッド・ライニングなど摩擦材の製造とドラムブレーキの組立が主力。
• 摩擦材、特にライニングは日本車メーカーの殆どに納入しており、生産量シェア50%超を確保
• ブレーキ摩擦材の世界市場では、ルクセンブルクの TMD Friction Group S.A. を完全子会社化(2011年11月)したことにより、欧州・米州市場を補完した。
• 日清紡ブレーキが有するノンアスベスト材を中心に展開するディスクパッドなどの摩擦材は日系や韓国系の自動車メーカーの多くに供給実績があり、一方TMD社はロースチール材を軸とし、高い開発・製造力を持ち、ロースチール材が主流の欧州系メーカーに強みを見せている。得意とする分野が異なることで、両社は大きなシナジー効果を見込んでいる。
• 2009年4月、持株会社制により「日清紡ホールディングス株式会社」への移行に伴い、日清紡績のブレーキ事業部が分社化独立し設立。
• 独Continental AG (旧Continental Teves AG) とブレーキ事業で提携。

• 2018年4月、豊生ブレーキは日清紡ブレーキのドラムブレーキ事業を取得し、日本とタイ拠点の営業を始めた。
• 拠点整備: 中国・タイ・韓国・インドなど主にアジア地域に生産拠点を確保し、完全子会社 TMD Friction Group S.A. の欧州・米州拠点とともにグローバル体制を整備。TMDとの購買面での連携において、従来の共同購入から一歩進め、互いの情報を統合した良質な安価な材料の世界最適調達をスタートさせ、コスト競争力をさらに高めていく方針。
• 中国: 山東省煙台市の煙台経済技術開発区に中国国内で5拠点目となる摩擦材製造会社「賽龍(煙台)汽車部件」を2017年7月に設立した。 現地の日系や米国系自動車メーカー向け納入増強のため、2012年5月江蘇省常熟市に開設した「日清紡賽龍(常熟)汽車部件」の生産能力を2014年に月産120万個超へ引き上げ、また韓国子会社 Saeron Automotive Corporation の中国生産拠点の生産能力も併せて引き上げた。ファウンデーションブレーキ以外では、独Continental AGの中国子会社との合弁会社を2013年江蘇省揚州市に設立し、2015年にブレーキ制御システム部品を生産開始する。
• インド: 現地摩擦材メーカーへの出資比率を引上げるなど、事業を強化。
• ブラジル: TMD Friction Group S.A.の現地子会社 TMD Friction do Brasil S.A. を約64億円を投じ移転拡充し、2020年までに売上高を倍増させる。
• 商品開発
• 銅フリー摩擦材: 2021年・2025年と段階的に施行される米カリフォルニア州(SB346)およびワシントン州(SB6557)の環境負荷軽減規制「ブレーキ摩擦材の重量比銅含有量規制」に対応した製品。2012年4月に基本開発を完了し各社へプロモートを行った中で試作・評価を経て生産開始時期を決めていく。また子会社のTMD Friction Group S.A. も独自動車メーカー向けに2013年6月時点で客先の第一次認証をパスさせており、競合サプライヤーに対し曙ブレーキ工業とともに先行した位置にある。

日信工業(株)

• 系列: ホンダ系。ホンダが34.86%出資
• 事業: 摩擦材以外のブレーキ基本部分の製造、組立をはじめ、 油圧系・電子制御系部分まで幅広く手がける。2016年4月1日、同社は、Autolivとの合弁会社｢Autoliv-Nissin Brake Systems (ANBS)｣を設立した。ANBSは、同社から分割したブレーキ・コントロール(メカトロ)及びブレーキ・アプライ(バネ上)システム並びにそれらに関する部品の開発、設計、製造及び販売に関する事業をAutoliv Electronicsとの間で合弁会社化したもの。日本、中国、米国、タイ(開発のみ)に開発・生産拠点をもつ。本事業の事業価値は総額582億円(約524.4百万ドル)。出資比率は、同社が49%、Autolivが51%。同社の同部門は、今後は、Autoliv Electronicsのパッシブセーフティエレクトロニクス、ADAS製品、ブレーキ制御システムを扱う部門に属する。
• 納入先: ホンダが主力。スズキ、富士重工、ダイハツ、マツダ、三菱にも納入。
• 拠点展開: ホンダ車生産の世界展開に呼応して、北米、欧州、中国、インドに生産拠点を設置。
• 国内、北米拠点: 新開発品をはじめとした高付加価値品が中心。
• メキシコ: 2012年lrapuato市に設立した Nissin Brake de Mexico, S.A. de C.V.の2014年の生産開始にともない、米国生産拠点から生産の一部を移管。生産コストや自由貿易協定(FTA)を活用した物流費の低減で価格競争力を高める。
• アジア、南米: 新興市場向けの普及・廉価品を軸に製造。
• 商品開発:
• 2012年7月にリース発売開始されたホンダ・「フィットEV」に初搭載され少量生産されていた電動サーボブレーキが改良を経て、2013年夏に発売開始されたホンダ・「フィット・ハイブリッド」およびホンダ・「アコード・ハイブリッド」に搭載され量産体制に入った。ホンダとの共同開発品ではあるが、技術優位性の高い新製品を早期に系列外にも売り込むために、複数の自動車メーカー向けに営業活動を開始した。
• 通常走行時のブレーキパッドとディスクの摩擦抵抗を従来比85%低減した「低引き摺りブレーキキャリパー」を2012年に開発し、軽自動車やコンパクトカーから大型乗用車にも対応するバリエーションを拡充し、欧米完成車メーカーなどへの提案活動も強化する。この抵抗低減により、車両重量や走行パターンにもよるが約1%程度の燃費改善が望めるとしている。
• 同社は、2015年5月に発売されたマツダの新型スポーツカー「ロードスター」でアルミ製リアブレーキキャリパーを受注、供給を開始した。マツダとの取引は今回が初めて。ロードスターの受注を足がかりに、好調に販売を伸ばすマツダへの採用提案を積極化し、新規受注の獲得につなげていく。長野で全数生産し、広島へ供給する。
• 同社は、2015年12月、新型電動パーキングブレーキ(EPB)を開発した。ディスク式とドラム式の2種類で、ともに2017年の生産開始を予定する。ドラム式EPBは、他社製のEPBを搭載したホンダ「N-BOX」が同時期に市場に投入されたところだが、同社では初めて。今後需用拡大が見込まれるEPBビジネスを本格展開することで、ブレーキ市場での競争力を高めていくことが狙い。

日立オートモティブシステムズ(株) (日立AMS)

• 系列: 日立系。2009年7月に(株)日立製作所から分社独立。ブレーキ事業では、2004年に吸収合併した旧トキコ(ブレーキ基本部品、油圧系部品)と 旧日立ユニシアオートモーティブ(ブレーキ制御部品)の事業を継承。
• 事業: キャリパー、マスターシリンダー・ブースター、ABS/ESCシステム・部品などを製造。本稿で扱う部品はキャリパーのみであるが、日本市場での納入量はトップサプライヤーであるアドヴィックスに次ぐ水準にある。電子化・電動化に対してパワートレインやシャシー制御など積極的に新商品を投入している。同社は、単なるファウンデーションブレーキのコンポーネントサプライヤーとしてだけではなく、今後急速な発展が見込まれる高度運転支援システム(ADAS)や、自動運転システム制御に不可欠なステアリングシステム、ブレーキ制御、さらには、サスペンション制御まで含めた開発能力に強みがある。2016年4月1日、自動運転関連の事業強化を目的に、「情報安全システム事業部」を新設した。新たな事業部は、事業戦略の策定を担う「グローバル事業企画部」のほか、「設計開発本部」「システム品質保証部」などで構成される。約200人の人員体制でスタートし、適宜拡充する計画。2016年8月に発売開始された日産「セレナ」に続き「エクストレイル」にも搭載されているADAS「プロパイロット」向けのECUを供給している。
• 納入先: トヨタ、スズキ、富士重工をはじめ日産、マツダなど。系列下ではないものの旧来より日産との関係が深く日産のシェアが高い製品が多いなか、ブレーキ分野に関しては部品では曙ブレーキ工業、制御システムではボッシュに後塵を拝している。

日立化成(株)

• 系列: 日立系。1962年に(株)日立製作所化学製品部門が分離・独立し日立化成工業が成立。日立製作所の出資比率は51.21%。
• 事業: ブレーキ部品ではディスクパッド、ブレーキアッセンブリーを生産。ブレーキ事業以外の自動車部品分野は内装・外装品をはじめとした樹脂成型部品、エンジンバルブなどの粉末冶金部品、リチウムイオン電池用負極材など化成品メーカーの特徴をみせている。
• 納入先: 日産、富士重工、ダイハツ、トヨタ、フォード (日産向け以外は日立オートモティブシステムズ経由)
• 拠点整備:
• 国内: 山崎事業所(茨城県日立市)にてブレーキ摩擦材の製造を行ってきたが、2009年3月にグループ内企業の浪江日本ブレーキ (日本ブレーキ工業の子会社)に生産を移管・統合。2012年、日本ブレーキ工業(株)を完全子会社化。
• 2013年に営業部門を日立化成へ統合、2015年に開発部門を日立化成に統合した。
• 海外:
• 北米・南米: 摩擦材を中心とした自動車部品事業の強化のため、メキシコに製造・販売子会社 Hitachi Chemical Mexico, S.A. de C.V. を2008年に設立し、パッドを現地生産化。メキシコでの生産能力増強を進める。
• アジア: 中国、タイ、インドの3拠点体制。タイは、2002年設立の日本ブレーキ工業と日信工業の合弁会社Japan Brake (Thailand) Co., Ltdは、2015年にHitachi Chemical Asia (Thailand) Co., Ltd.に統合。中国は、2004年設立のFoshan J.B. Automotive Products Co., Ltd、インドは、2011年、日本ブレーキ工業との合弁会社、Allied JB Friction Private Limited (AJF)を設立、出資比率は、日立化成グループが51%で、インド合弁会社のAllied Nippon Limited (ANL) が49%となる。2013年11月に稼働した。

日本ブレーキ工業(株)

• 系列: 日立化成グループ。ホンダ系の日信工業からも21%の出資を受け協力関係にあったが、2012年、日立化成により、完全子会社化。2013年に営業部門を日立化成へ統合、2015年に開発部門を日立化成に統合した。
• 事業: 摩擦材メーカー。自動車以外にも鉄道車両・産業機械用も扱う。品目はディスクパッド、ライニングの製造のほかブレーキ組立も行う。
• 納入先: ホンダ、マツダ、スズキ、GM、フォードなど
• 拠点整備:
• 海外では90年代初頭にインドに合弁会社を設立し、現地生産を開始。続いてタイ、中国に生産拠点を拡充。韓国、中国など、アジア地域での技術供与ベースでの進出が多い。
• 2014年、広島生産拠点を閉鎖。
• 2015年、ジャパン・ブレーキ・タイランド社(タイ)を含む、タイの日立化成グループ4社が、Hitachi Chemical Asia (Thailand) Co., Ltd.に統合。

アイシン高丘(株)

• 系列: トヨタ系アイシングループ
• 事業: 鋳造加工専門メーカーで、ブレーキ部品ではディスクローター、ドラムなどの鋳造部品の生産が主体。アルミキャリパーやコーナーアッセンブリーなども製造。
• 納入先: トヨタグループ、スズキ。(トヨタ向けディスクローターはアドヴィックス経由)
• 拠点整備: 中国、タイ、インドネシアでは現地企業との合弁形態で、米国では単独で鋳造部品工場を運営。

浅間技研工業(株)

• 系列: ホンダ系。ホンダが約8割の株式を保有。
• 事業: 鋳造部品メーカー。ブレーキ部品では、ディスクローター、ドラムの鋳造・加工が主力。
• 納入先: ホンダ
• 拠点整備: 米国、インドネシアの工場でディスクローターを現地生産し、主にホンダの現地車両組立工場向けの生産を行う。

(株)キリウ

• 系列: 住友商事系。住友商事がほぼ100%の株式を保有。旧日産系部品メーカー。
• 事業: ブレーキ部品事業をメインとし、ディスクローター、ドラムを独自開発、製造する専門メーカー。その他の自動車部品ではAT用オイルポンプ、シリンダーブロック、各種ブラケットなど金属加工製品を生産。
• 納入先: 日産をはじめとした主要日系自動車メーカーや、曙ブレーキ工業、アドヴィックスなどのブレーキシステムメーカーへもTier-2として取引を拡大している。
• 拠点整備:
• 国内: ブレーキ事業生産拠点は子会社を含め4拠点体制。
• 海外: 2012年にディスク部品とブレーキ部品のグローバルシェアを8%から2015年に10%まで引き上げる目標を掲げ、積極的な海外展開をおこなっている。
• 北米: 米ケンタッキー州に機械加工工場、メキシコ・レルマ市に鋳造・機械加工工場の2拠点体制。
• アジア: 中国、韓国、インド、インドネシア、タイの5拠点体制。このうちタイでは鋳造ラインを増設し2013年より稼働しており、生産能力を倍増させ月間5,000トンに引き上げた。また中国では住友商事と台湾・六和機械の合弁会社である富士和機械子会社「富士和機械工業(湖北)有限公司」に出資して株式18%を取得。中国の自動車メーカー向けにブレーキディスクとブレーキドラムの生産を2012年よりおこなっている。

(株)ダイハツメタル

• 系列: ダイハツの連結子会社
• 事業: 鋳造部品製造/加工メーカーで、ディスクローター、ブレーキドラムを生産。
• 納入先: ダイハツおよびトヨタのダイハツOEM車向け。

ヨシワ工業(株)

• 系列: マツダ系
• 事業: 鋳造部品/加工メーカーで、主にディスクローターを生産。
• 納入先: マツダ向け。

コンチネンタル・オートモーティブ(株)

• 系列: 独メーカーのコンチネンタルAGと日清紡ホールディングスが共同出資し、2000年に設立したコンティネンタル・テーベス社が前身。
• 事業: パッドは自社生産していないが、ブレーキシステム全般の開発、製造を行っている。特に、ABS・ESCなどの電子制御ブレーキシステムの拡販に注力。
• 供給先: ファウンデーションブレーキ部品ではマツダを筆頭にホンダと日産の一部のモデル向けの供給にとどまる。電子制御ブレーキシステムはマツダ、スズキ、ダイハツをはじめ主要日本車メーカーに納入。

ボッシュ(株)

• 系列: 独ロバート・ボッシュグループの日本法人。旧ヂーゼル機器、旧自動車機器の流れを汲む旧ボッシュブレーキシステムのブレーキ事業を継承。
• 事業: 小型・軽量・低コスト化によるABS/ESCの制御システム製品事業の強化に注力しており、ファウンデーションブレーキ部品ではディスクキャリパーを僅かに供給するのみにとどまる。
• 納入先: 制御システム製品はトヨタ、日産、ホンダをはじめ主要日系自動車メーカーへ納入しているが、ファウンデーションブレーキ部品ではトヨタ向けのみ。

Brembo S.p.A.

• 系列: 独立系でイタリアに本社を置くディスクブレーキメーカー。
• 事業: ハイパフォーマンス車向け高性能ブレーキや商用車用高性能ブレーキを製造。
• 納入先: トヨタ、日産、三菱、富士重工の一部の上級グレードモデル用に供給。

2) サプライヤーと製造品目一覧 (グローバル製造品目)

1) 世界事業拠点展開状況

2) 主な提携・合弁関係図

1) ディスクブレーキ部品

ディスクローター

ディスクキャリパー

ディスクパッド

2) ドラムブレーキ部品

ブレーキドラム

ブレーキシュー

ブレーキライニング

• ディスクローターは鋳造工程での凝固に至る過程で金属組織間に内部応力を残留させ、熱処理加工ではその残留内部応力を意図的に放出させ、均衡化し、ひずみやクラックを発生させにくくさせるノウハウが必要であり、キャリパーのサプライヤーとは顔ぶれが異なる。
• 日系ではアイシン高丘、キリウ、ヨシワ工業、浅間技研工業、武田鋳造、ダイハツメタル、欧米系では高級スポーツカー向け限定のBrembo。日本市場(国内生産モデル)では、日系サプライヤー搭載モデルが約99%。
• 日本市場メーカー別シェア概観(2016年)では見ると、過半数まではいかないがトップがアイシン高丘ついで、キリウ、ヨシワ工業で続き、この上位3社で市場全体の8割近くを占めている。
• 各サプライヤーの2016年生産量シェアに寄与する納入数量が多い主要自動車メーカー別では、以下の通りでありケイレツ色が残っている。
• トヨタ: トヨタ系のアイシン高丘が約95%のシェア。
• 日産: OEM供給されているモデルと高級スポーツモデルを除く全モデル・全納入数量が旧日産系・現住友商事の完全子会社であるキリウ1社の独占納入。
• ホンダ: ホンダ系の浅間技研工業が搭載モデル数でも納入数量でもほぼ100%のシェアを占める。
• その他: マツダ向けはヨシワ工業、ダイハツ向けはダイハツメタルが各々100%近いシェアを占め優勢にある。スズキ向けは、キリウが約80%、残りはアイシン高丘。
• 主要サプライヤー別では、
• アイシン高丘: トヨタ系アイシングループのローター・サプライヤであり、アドヴィックスを経由してトヨタへ納入される。納入数量・搭載モデルともトヨタシェアの80～90%を占めトップ。トヨタ以外の日系自動車メーカーへの納入もあるが、スズキ向けを除いて何れもシェアは低い。しかし日本市場のローター・サプライヤとして生産数量トップサプライヤである。
• キリウ: 旧日産系であるため、日産向けは近年でもほぼ100%のシェアをほこる。またダイハツ以外の日系自動車メーカーへも納入しており、なかでもスズキと富士重工向けはトップシェアである。ディスクローターの生産数量はアイシン高丘に次ぐ。
• ヨシワ工業: マツダ納入シェアはほぼ100%であり、マツダ以外ではマツダ・ボンゴのOEM生産元である日産向けがある。キリウの1/3程度のローター納入規模ではあるが、キリウに次ぐローター・サプライヤ。

• 主要なサプライヤーは、日系ではアドヴィックス、日立AMS(オートモティブシステムズ)、曙ブレーキ工業、日信工業、欧米系ではコンチネンタル・オートモーティブ、ボッシュおよび高級スポーツカー向け限定のブレンボ。日本市場(国内生産モデル)では、日系サプライヤー搭載モデルが90%超に達する。
• 日本市場メーカー別シェア概観(2016年)を見ると、アドヴィックスが過半数には届かないが一位、日立AMS、曙ブレーキ工業と続く、これら上位3社で市場の8割以上を占める。以下は、コンチネンタル・オートモーティブ、日信工業が、ZF TRW、ブレンボ、ボッシュ萬都が少ないシェアを持っている。
• 各サプライヤの2016年生産量シェアに寄与する納入数量が多い主要自動車メーカー別では、
• トヨタ: トヨタ系のアドヴィックスが約80%、次いで日立AMSが約15%、曙が5%弱となっている。
• 日産: 曙ブレーキ工業が60%強、次いで日立AMSが約35%、コンチネンタル・オートモーティブが約2%。搭載モデル数では曙ブレーキ工業と日立AMSでシェアを競っているが、曙ブレーキ工業製搭載モデルは生産量が多いモデルが主体であり、納入数量シェアで考えると曙ブレーキ工業が日立AMSを抑えている。
• ホンダ: 日信工業が約65%、アドヴィックスとコンチネンタル・オートモーティブとZF TRWの3社が各々10%前後で横並び、曙ブレーキ工業が5%未満とつづく。
• 主要サプライヤー別では、
• 曙ブレーキ工業: 系列サプライヤーを有すトヨタやホンダを含めた主要自動車メーカーへ納入しているため、ファウンデーションブレーキの日本のトップサプライヤー。しかし、キャリパー日本市場の納入数量シェアではトヨタに強いアドヴィックスや日立AMSの後塵を拝している。優位性がある納入先は日産と三菱。
• アドヴィックス: ファウンデーションブレーキとともにブレーキ制御システムでも大手であり、トヨタ系列であるためトヨタ向けは豊生ブレーキ工業生産分を含めると納入数量・搭載モデル数とも約70%を占める。生産数の多いトヨタ車搭載部品であるため、ブレーキ分野トップの曙ブレーキ工業を抑えキャリパー納入においてトップシェアである。曙ブレーキ工業と同様に主要各社へ納入しているが、トヨタを除くとトヨタグループのダイハツを含めても納入シェアの優位性はみられない。
• 日立AMS: アドヴィックスと同様にファウンデーションブレーキとともにブレーキ制御システムでも大手であるが、現在ファウンデーションブレーキではディスクキャリパーのみである。歴史的に日産との関係が強いが、搭載モデル数では競っているものの納入数量では曙ブレーキ工業の後塵を拝している。優位性がある納入先はスズキと富士重工および日産であり、対トヨタも強力なアドヴィックスに対し善戦。
• 日信工業: ファウンデーションブレーキとともにブレーキ制御システムも製品化しており、ホンダ系であるためホンダへの納入のシェアは搭載モデル数でも納入数量でも約90%。ホンダ向け以外は、トヨタグループと日産を除く各自動車メーカーに納入をしているが、優位性はみられない。

• ディスクパッドはブレーキ摩擦材としての制動性能および引きずり抑制と耐久信頼性が必要とされる。キャリパーを主としたディスクブレーキのサプライヤーとともにパッドに特化したサプライヤーを含んだ顔ぶれとなる。
• 日系ではアドヴィックス、日清紡ブレーキ、曙ブレーキ工業、日立化成、日本ブレーキ工業など、欧米系では日清紡ブレーキ子会社の TMD Friction、Honeywell International、高級スポーツカー向け限定のBremboなど。日本市場(国内生産モデル)では、日系サプライヤ部品の搭載モデルが約95%を占める。
• 日本市場メーカー別シェア概観(2016年)では、アドヴィックスが首位、日清紡ブレーキ、曙ブレーキ工業、日立化成の順となっており、この上位4社で市場の9割ほどを占める。
• 生産数が多いトヨタ向けトップであるアドヴィックスがディスクパッドの日本市場トップシェアで、ディスクパッド生産数第一位であるが、各社へ納入を行っている日清紡ブレーキと曙ブレーキ工業がアドヴィックスを追従している。これら3社でディスクパッド日本市場の約8割を占めているとみられる。
• 各サプライヤーの2016年生産量シェアに寄与する納入数量が多い主要自動車メーカー別では、
• トヨタ: アドヴィックスが80%弱のシェア、次いで、日清紡ブレーキ約15%のシェア。トヨタ系アイシングループのアドヴィックスが搭載モデル数、納入数量ともシェアはトップである。
• 日産: 日立化成が50%強のシェア、次いで、曙ブレーキ工業が40%弱、日清紡ブレーキの完全子会社のTMDが約10%とつづいている。日立系の日立化成と独立系の曙ブレーキ工業の2社で日産向けの9割近くを占める。
• ホンダ: 日清紡ブレーキが約45%のシェア、次いで、日立化成完全子会社の日本ブレーキ工業20%強、独立系の曙ブレーキ工業とトヨタ系のアドヴィックスが各々10%前後とつづいている。
• その他: スズキ・富士重工向けトップが日清紡ブレーキ、マツダが日本ブレーキ工業、三菱が曙ブレーキ工業、ダイハツは日立化成がトップである。
• 主要サプライヤー別では、
• アドヴィックス: トヨタ系アイシングループのパッドサプライヤーであり、納入数量・搭載モデルともトヨタ向けトップシェアをほこる。トヨタ以外の日系自動車メーカーへの納入は何れもトップシェアは無いが、日本市場のパッドサプライヤとして生産数量トップサプライヤーである。
• 日清紡ブレーキ: ディスクパッドのほかドラムブレーキライニングのブレーキ摩擦材に強みをみせるサプライヤー。完全子会社化したTMD Friction は欧米のみならず一部の日系自動車メーカーへもディスクパッドを納入しており、両社製を合わせるとすべての日系自動車メーカーに納入している。ホンダ、スズキ、富士重工向けではトップシェアである。
• 曙ブレーキ工業: ファウンデーションブレーキのトップサプライヤーであるが、ディスクパッドに関してはアドヴィックスと日清紡ブレーキの後塵を拝している。日清紡ブレーキと同じくすべての日系自動車メーカーへディスクパッドを納入。三菱・ダイハツ向けではトップシェアであり、日産向けも優位にある。
• 日立化成: 日立系であり歴史的に日産向けは優位であるが、ディスクパッドの国内生産分は日本ブレーキ工業の子会社へ生産を移管している。日産向け以外のトヨタ・ダイハツ・富士重工などの納入シェアは低い。上位3社による市場シェアは約80%を占めており、3社につづく位置づけではあるがその差は大きい。
• 日本ブレーキ工業: マツダ向け生産量が最も多く、ホンダ、スズキ向けがつづく。日清紡ブレーキと競っているマツダ向けを除くと他社向けの優位性は低い。

売上高 (連結ベース)

注) ブレーキ部品およびブレーキ関連部品の生産拠点のみ記載。
形態: ○地域統括 ●製造拠点 ★開発・技術拠点 ☆技術供与、相互協力