異種金属接合に関する技術動向

GM、GE、SIEMENSなどの特許出願動向

2021/09/30

要約

  本レポートは、トヨタテクニカルディベロップメント株式会社(TTDC)が提供している「技術情報配信サービス-swimy」の特許情報をもとに、昨今の自動車業界を取り巻く技術トピックスに関するレポートをMarkLinesが作成した。TTDCは、知的財産(IP)事業と計測制御事業を展開。知的財産(IP)事業では世界の自動車開発に関する情報収集と解析を行い、研究企画のコンサルティングをはじめ、外国語特許の出願や技術翻訳を実施している。

  近年、自動車業界において車体の軽量化を目指してハイテン材、アルミニウムといった多様な材料の適用が進みつつあるが、これらの材料を適用するにあたって異種金属接合の技術は非常に重要な要素である。今回は、異種金属接合の技術について、世界における各社の特許出願動向を示す。

  異種金属接合技術に関する特許の出願件数は、2011年以降増加しており、2016年に450件を超えピークに達しているが、その後減少傾向がみられる。出願人ごとの出願件数に注目すると、GM、GE、SIEMENS、神戸製鋼所、Daimlerの順に出願件数が多い。出願件数が多い出願人の開発アイテムに注目すると、GMは開発アイテム「RESISTANCE SPOT WELDING ALUMINUM TO STEEL USING PREPLACED METALLURGICAL ADDITIVES(事前に配置された冶金添加剤を用いたアルミと鋼の抵抗スポット溶接)」、GEは開発アイテム「Weld filler additive and method of welding(溶加材および溶接方法)」、SIEMENSは開発アイテム「SINGLE CRYSTAL WELDING OF DIRECTIONALLY SOLIDIFIED MATERIALS(方向性凝固された材料の単結晶溶接)」の出願が最も多い。また、日本企業・研究機関の日本での出願において、出願件数規模は大きくないが、1件あたりの被引用件数の平均が高い出願人として、ダイセルポリマー、アイテック、中部アルミット工業、武蔵精密工業、豊橋技術科学大学が挙げられる。

 

トヨタテクニカルディベロップメント株式会社

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異種金属接合に関する特許出願動向

  本レポートでは、異種金属接合に関する全体的な技術動向と、出願件数が多い出願人の代表的な特許事例、さらに日本企業・研究機関の中で出願件数規模は大きくないが1件あたりの被引用件数の平均が高い出願人の特許事例を紹介する。

 

表1 本レポートにて紹介する特許事例
公開番号 出願人 発明等の名称 技術分野
US10682723 GM Resistance spot welding steel and aluminum workpieces with electrode having insert 鋼とアルミの抵抗スポット溶接
US10421148 GM External heat assisted welding of dissimilar metal workpieces 鋼とアルミの抵抗スポット溶接
US8960525 GE Brazing process and plate assembly ろう付け接合
CN103962670B GE Brazing process, braze arrangement, and brazed article ろう付け接合
US2015/0367445 SIEMENS DEPOSITION WELDING WITH PRIOR REMELTING 基板への部材の溶接
US2015/0108098 SIEMENS SINGLE CRYSTAL WELDING OF DIRECTIONALLY SOLIDIFIED MATERIALS 方向性凝固したニッケル基超合金等へのレーザー溶接
特開2015-142960 ダイセルポリマー
ダイセル
複合成形体の製造方法 アルミ等の金属成形体と樹脂成形体との接合
特開2012-166217 アイテック
中部アルミット工業
アルミニウムとアルミニウム又はアルミニウムと異種金属で形成された部材同士の接合方法及び同接合構造及び端子台の製造方法 アルミ部材とアルミより硬い異種金属部材とのはんだ付け接合
特開2015-89550 武蔵精密工業
豊橋技術科学大学
異種接合方法 鉄系材料・アルミ系材料の摩擦撹拌接合

 

  異種金属接合技術に関する特許の出願件数は、2011年以降増加しており、2016年に450件を超えピークに達しているが、その後減少傾向がみられる。
※2020年以降の出願件数は、現時点で未公開のものがまだ多数存在するため、グラフ上に表示していない。

図1 出願件数の年推移

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

 

  出願人ごとの出願件数に注目すると、GM、GE、SIEMENS、神戸製鋼所、Daimlerの順に出願件数が多い。

図2 各社の出願件数

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

 



GM:事前に配置された冶金添加剤を用いたアルミと鋼の抵抗スポット溶接

  出願件数が多い出願人の開発アイテムに注目すると、まずGMは開発アイテム「RESISTANCE SPOT WELDING ALUMINUM TO STEEL USING PREPLACED METALLURGICAL ADDITIVES(事前に配置された冶金添加剤を用いたアルミと鋼の抵抗スポット溶接)」の出願が最も多い。

図3 GMの開発アイテム(出願件数上位3アイテム)

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

 

  開発アイテム「RESISTANCE SPOT WELDING ALUMINUM TO STEEL USING PREPLACED METALLURGICAL ADDITIVES」の開発が最も活発であった2016年において、US10682723、US10421148 の出願国が最も多く、US、DE、CN へ出願されている。US10682723は自動車部品等における鋼とアルミの抵抗スポット溶接において、インサートを適用することで強度と耐久性を向上する技術であり、US10421148は鋼とアルミの抵抗スポット溶接において外部熱源を制御することで強度を向上する技術である。

図4 US10682723代表図 図5 US10421148代表図


GE:溶加材および溶接方法

  GEは開発アイテム「Weld filler additive and method of welding(溶加材および溶接方法)」の出願が最も多い。

図6 GEの開発アイテム(出願件数上位3アイテム)

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

 

  開発アイテム「Weld filler additive and method of welding」の開発が最も活発であった2013年において、US8960525、CN103962670Bの出願国が最も多く、CN、EP、JP、US へ出願されている。US8960525は熱交換器やマイクロミキサーといったチューブ-プレート構成部品等のろう付けにおいて、ろう付けフォイルを用いてろう付けにおける継ぎ目の品質と強度を上昇させる技術であり、CN103962670Bは融点の異なる2種類のろう付け材料を用いることでろう付け物品における欠陥を低減する技術である。

図7 US8960525 FIG.4 図8 CN103962670B 図2


SIEMENS:方向性凝固された材料の単結晶溶接

  SIEMENSは開発アイテム「SINGLE CRYSTAL WELDING OF DIRECTIONALLY SOLIDIFIED MATERIALS(方向性凝固された材料の単結晶溶接)」の出願が最も多い。

図9 SIEMENSの開発アイテム(出願件数上位3アイテム)

出典:技術情報配信サービス-swimy URL:https://thinktank.toyota-td.jp/pub/list

 

  開発アイテム「SINGLE CRYSTAL WELDING OF DIRECTIONALLY SOLIDIFIED MATERIALS」の開発が最も活発であった2013年において、US2015/0367445、US2015/0108098の出願国が最も多く、US2015/0367445はWO、EP、KR、USへ、US2015/0108098はCN、EP、TH、USへ出願されている。US2015/0367445は基板への部材の溶接において、部材が溶接される領域の全体を覆うような再溶融領域を基板上に設けることで基板と部材の間の応力を低減する技術であり、US2015/0108098は方向性凝固しデンドライトを含んだ金属材料(ニッケル基超合金等)に対するレーザー溶接において、レーザーを一定の条件で制御することで亀裂の発生を抑制する技術である。

図10 US2015/0367445代表図 図11 US2015/0108098代表図


日本企業・研究機関の日本での出願

  また、日本企業・研究機関の日本での出願において、1件あたりの被引用件数の平均が高い出願人を以下に示す。出願件数が少ない出願人であっても、他の特許から引用されるような重要な特許を出願していれば、この指標の値は高くなる。

図12 日本企業・研究機関の日本での出願における1件あたりの被引用件数の平均が高い出願人

 

  数多くの特許を出願する大企業ではなく、出願件数が少ない中小規模の出願人であっても、他社に注目される価値の高い技術を持っている場合がある。今回は、1件あたりの被引用件数の平均が上位の出願人の中で、2011年以降の全ての技術分野における特許出願件数が1000件未満である出願人(ダイセルポリマー、アイテック、中部アルミット工業、武蔵精密工業、豊橋技術科学大学)を中小規模の出願人と仮定し、その特許を紹介する。

  特開2015-142960(ダイセルポリマーとダイセルの共同出願)は、アルミ等の金属成形体と樹脂成形体との接合において、事前に金属成形体の接合面に連続波レーザーを照射しておき、その後金属成形体を金型に配置して樹脂を射出成形することで、加工時間を短縮し、金属成形体と樹脂成形体の接合強度も高める技術である。

  特開2012-166217(アイテックと中部アルミット工業の共同出願)は、端子と端子台の接合や、車体部品の締結等において、アルミ部材とアルミより硬い異種金属部材とを嵌めあわせてはんだ付けで接合する際に、アルミ部材の外面に形成された突状部が削れてアルミの新生面が現れることによって、確実な接合と、部材が端子である場合の電気抵抗の低減を実現する技術である。

  特開2015-89550(武蔵精密工業と豊橋技術科学大学の共同出願)は、異材からなる車両部品の製造等において、接合ツールのショルダー部と硬質材(鉄系材料等)・軟質材(アルミ系材料等)との間に隙間を保って摩擦撹拌接合することで接合ツールの寿命を延ばす技術である。

図13 特開2015-142960代表図 図14 特開2012-166217代表図 図15 特開2015-89550代表図

 

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キーワード
TTDC、特許出願、異種金属接合、溶接、軽量化、ハイテン材、アルミニウム、GM、GE、Siemens

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