車両総合型式認証の相互承認に向けて

(国別の車両型式認証(N-WVTA)から国連の統一認証(IWVTA)へ)

2011/04/19

1.「国際的な車両認証の相互承認制度(IWVTA : International Whole Vehicle Type Approval)とは

 自動車を道路上で使用するためには、多くの安全規則や環境規則を満たさなくてはならない。日本や欧州(EU)などの自動車先進国では、車両認証法規のなかでその国で自動車を走らせるのに必要な安全や環境の規則が定められている。

 これらの自動車先進国では、それぞれの地域特性や歴史的な背景などから多くの規則が作成され、運用されている。それぞれの地域で自動車を販売し登録するためには、それぞれの地域で全ての規則を満たし、かつ全ての生産車両としてそれが保証されていることを証明(車両認証)する必要がある。これが、国別の車両型式認証(VTA: Vehicle Type Approval)である。

 このような国ごとの認証(各国認証)から、例えば、日本で車両認証が取得されて販売されている車両について、ドイツでも日本の車両認証書がドイツの認証書と同様に使用できること(相互認証)を目指すのが、「国際的な車両認証(IWVTA : International Whole Vehicle Type Approval)の相互承認制度である。

 もともと、自動車の生産や使用状況がグローバル化するに従い、車両全体の認証ではなく、個別の規則の統一を図る動き(国際基準調和)が国連の中で進められてきた。それが、UNECE/WP29「自動車基準調和世界フォーラム」で行われている国際基準調和活動である。

図-1 国連での車両認証に必要な規則制定とその認証の相互承認
図-1 国連での車両認証に必要な規則制定とその認証の相互承認

 
 そこでは規則の調和だけでなく、その調和規則に基づく認証の相互承認(MRA)も実施されており、それらを保証する枠組みがUNECE 1958年協定 ( *1 ) である。この認証の相互承認(MRA)では、1958年協定の加盟国間で同じUNECE規則について一カ国でその規則を満たした部品やシステムに対して認証書が発行されると、その認証書は他の加盟国では追加の試験を要求されずに受け入れられることが保証されている(現在、58の国や地域が加盟し、127の規則が存在する)。

図-2 相互承認の取り入れ方例
図-2 相互承認の取り入れ方例


 言い換えると、一カ国の車両認証に必要な技術規則の内、他の国で取得した認証書があれば、その規則については自国での認証取得は不要となる。そして、この認証書をどの加盟国で取得するかは申請者(自動車や部品メーカ)が自由に選択できる。

 例えば、図-2に示すように、タイヤに関するUNECE規則(R30)を日本とEUが採用している場合には両方の国/地域でこの規則を満足する必要がある。この時に同じ規則を採用しているどこかの1958年協定加盟国(日本やEUでなくても良い)でその認証を取得すればその認証書は加盟国間ではそのまま使用できる。

 タイヤメーカーは何処で認証を取得するかを自由に選べる。日本で生産したこの認証取得タイヤをEU域内に輸出する時に、EU域内のいずれの国でも追加要求なしで認証書が受け入れられる。

 これによって、政府や認証試験機関の手続きの簡略化や部品や自動車のメーカーの開発・生産コスト削減に貢献しており、最終的にはユーザーの負担軽減につながっている。1958年協定が単なる世界統一基準作成だけでなく貿易障壁を軽減する世界協定といわれる所以である。

 これらのメリットを現在の1958年協定で実現している部品やシステムの認証レベルから自動車全体の認証レベルまでカバーできるようにするために、自動車全体の認証に必要な規則の統一を図る動きが日本政府を中心にUNECE/WP29の中で起きている。

 これが「国際的な車両認証の相互承認制度」(Mutual Recognition of IWVTA)の確立に向けた動きで2009年秋に日本政府より提案がなされ、現在はUNECE/WP29傘下に作られた検討会議体(IWVTA-IG)で議論が始まっている。

図-3 IWVTAによる相互承認の概念
(図-3 IWVTAによる相互承認の概念)

 

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