Google / Waymoの自動運転への取り組み

LiDARの独自開発、膨大な走行データによるプラットフォーム構築

2018/12/18

要約

Chrysler Pacifica Hybrid
Chrysler Pacifica Hybrid (Waymo Taxi)
自動運転車を用いたタクシー配車サービス (資料:Waymo)

  自動車業界におけるコネクテッドを語る上で、IT企業の存在は無視できないものとなった。その一方で、IT企業が自動車業界に参入することへの脅威と懸念があることも事実である。

  数あるIT企業の中でも自動車業界への参入に積極的なGoogleについて、前稿ではそのサービスと自動車業界へ関わりを持ったきっかけなどについて説明した。今回のレポートでは、Google/Waymoが自動運転車を開発する真の目的は何か?を考察していく。


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Googleにおける自動運転技術開発の経緯

  Googleの自動運転技術を語るときに、Sebastian Thrun(セバスチャン・スラン)氏の功績を抜きには語れない。Google Carの生みの親でもあるスラン氏が最初に自動運転技術(当初はロボットカーと呼んでいた)に取り組んだのは、2004年にDARPA(注)が開催した「DARPA Grand Challenge」であることは有名な話である。
  (注)DARPA (米国防高等研究所)は軍事車両の自動化開発であるGround Unmanned Support Surrogate (GUSS)に注力し、現在は軍事訓練に参加できるレベルまでの開発成果となっている。

  その後、スラン氏は活動の場をGoogleに移し、2011年に最初のGoogle Carを開発した。そして2016年12月にGoogleが開発を進めてきた自動運転技術をAlphabetの子会社であるWaymoに統合すると発表し、当時は「Googleは自動運転事業の開発を諦めた」と話題になった。しかし、実際にはGoogleをサービス事業に集中させ、それを支える自動運転プラットフォームの開発をWaymoにという戦略構図となっている。

 

GoogleとWaymoの役割
GoogleとWaymoの役割 (資料:各種情報より作成)

GoogleとWaymo それぞれの役割と事業

  前回のレポートでは、Googleが目指すのはサービスのプラットフォーム化であり、ハードウェアはサービスを提供する手段であると説明した。自動運転に関しても同様にGoogleは自動運転時代に必要となるサービスの提供に注力しており、その手段となる自動運転車はハードウェアと考え、Waymo は自動運転そのものをつかさどるプラットフォームに注力した開発を進めている。つまり、Waymoも最終的な製品としての自動運転車の製造・販売がゴールではなく、自動運転車を製造する自動車メーカーへ自動運転プラットフォームを提供するのが狙いといえる。

  では、Google/Waymoがそれぞれ狙う自動運転時代の事業とは何であろうか?

  右図は、自動運転技術に対するGoogleとWaymoの役割分担を図式化したものである。親会社のAlphabetによりGoogleから分離したWaymoであるが、自動運転開発においてGoogle/Waymoは密接な関係を保っているといえる。特に自動運転技術に欠かせない人工知能に関しては、Googleが開発したプラットフォームを活用している。また、自動運転車が実用化された際にはそれを使う人と自動運転車両とのコミュニケーションが必要となる。この部分に関しては、スマートフォンで培ったサービスが大いに活躍することが容易に想像できる。

 



Waymoが真に狙うのは自動運転プラットフォーム

  Waymoが自動車を販売するのか? この質問に対しては賛否両論があると思うが、ここでは「No」を前提に話をしていく。

  Waymoは現在、約600台の実験車両から得られるデータを元に自動運転技術の開発を行っている。同じ自動運転技術の開発を進めているTeslaがすでに30万台の車両を市場に送り出しており、そこから走行データを得ていることを考えると小規模に思える。さらに、Waymoの自動運転車両が走行を認められているのはテキサス州やカリフォルニア州、ミシガン州、アリゾナ州などに限られているため、世界中を走行しているTeslaには遅れを取っているようにも見える。

  しかし、Teslaが市販車両から得ているデータは完全自動運転に向けたデータではなく、自動追従やADASといったエリアのデータに過ぎない。ここに、Waymoとの大きな差があるといえる。

  その鍵を握るセンサーがLiDAR (ライダー)である。無数のレーザー光を発し、物体からの反射で距離を測定するLiDARにより、高精度に空間データを取得することは、完全自動運転では重要なセンサーデータとなる。また、Waymoでは、電波により物体検知を行うRadar (レーダー)も活用している。LiDARとRadarの大きな違いは、検知できる分解精度である。

 

Waymoの自動運転技術

  Waymoは完全自動運転に向けて専用システムを搭載した約600台の車両を用いてデータ収集を行っている。このデータ収集車両による公道走行データは2009年の設立以来、1,000万マイル (約1,600万km) 分に達したと発表している。

  また、Waymoは自動運転用の人工知能技術として、Googleが開発したTensor Flow (オープンソースで公開している機械学習に用いるためのソフトウェアライブラリ) によりMachine Learningを用いたシミュレーション走行を重ねてきた。このサイバー上でのシミュレーション走行では2018年初頭に総走行距離が70億マイル (約112億km) に達したと発表している。

Waymo自動運転車の走行距離レポート
Waymo自動運転車の走行距離レポート (資料:Waymo)

 

  Waymoの自動運転としての特徴は、RadarやLiDARによるセンシングで空間データを取得している点にある。また、Waymoはこれまで様々な車両を用いて自動運転の実験走行を行っている。これは、特定の車両に依存しないプラットフォームの開発を目指しているとも言える。

 



センサーハードウェアを独自開発

Waymo 自動運転車両センサー
Waymo 自動運転車両センサー (資料:Waymo)

  自動運転技術として重要なセンサーハードウェアについて、初期段階でWaymoは複数のセンサーサプライヤーからハードウェアを購入してシステムの構築を行っていた。しかし、2017年以降はハードウェアを内製化することで、コストダウンとともに、ハードウェアとソフトウェアの最適な組み合わせによる高精度なシステムを実現する方向を目指している。その1つに、LiDARの開発がある。

 

独自開発のLiDAR

  Waymoが開発したLiDARの詳細は未公開だが、"自動車周辺専用の短距離用"(A)、"周辺を連続的にセンシングする高解像度ミッドレンジ"(B)、"道路上の物体を素早くズーミングできる次世代長距離用(サッカー場2つほどの広さをカバー)"(C)、の3種類のLiDARを開発した。(B)と(C)のLiDARは 車両天井に取り付けられ360度の周囲空間をセンシングするために使われる。車両の前方・左右・後方に付けられた(A)のLiDARは、車両の下部を含む車両周辺を全てセンシングするように配置され、どんな小さな物も人も検知できるシステムとなっている。

  この独自システム(独自のハードウェアとソフトウェアによるセンシング)は、他社の高額なLiDARシステムに比べ、コストを90%以上削減したと発表している。

 

独自開発のビジョンシステム

  Waymoの自動運転技術を支えるセンサーシステムはビジョンシステムと呼ばれている。このドーム型のユニットは車両の天井に装着されており、ここには先の高解像度ミッドレンジセンサー(B)と8個のモジュールを配置する360度の高解像度カメラが内蔵されている。また、このドームユニットには音声検出とGPSなどの補助センサーも内蔵されている。このほか、ビジョンシステムにおいて大敵となる汚れなどを取り除くために、ドーム型の周囲を洗浄するための洗浄液の噴射装置とワイパーが装備されている。この洗浄システムはGoogle/Waymoの特許である。

 

自動運転システム用プロセッサーはIntel製、そして次世代は・・・

  Waymoは2019年当初の自動運転システム用プロセッサーとして、Intelのチップを採用していることを2017年に明らかにしている。自動運転システムではNVIDIAのプロセッサーが主流となっているが、IntelはMobileyeを買収したことで本格的に自動運転システム用プロセッサーの開発に力を入れている。現在、Waymoが望むAIチップを具現化できるのは、NVIDIAを除くとIntelが唯一の会社であることは間違いない。

  一方、AIチップでは、Googleが開発しているTensor Processing Unit (TPU)の存在も気になる。AIについての詳細はここでは詳しく触れないが、Cloudで学習されたAIタスクを組み込み側(エッジ)で動かすための小型のEdge TPUも開発している。WaymoとGoogleの関係を考えると、次世代の自動運転システムにこれらの技術が採用されないとも限らない。

ワイパーシステムの特許 Edge TPU
ワイパーシステムの特許 (資料:Pub. No.: US2016/012 1855 A1) Edge TPU (資料:Waymo)


自動運転への取り組み

カリフォルニア州における完全自動車両のテスト走行

  2018年11月初めにWaymoはカリフォルニア州車両管理局(DMV)から州内の一部の地域において、運転手が同乗しない完全自動運転車両のテスト許可を他社に先駆けて取得した。Waymoがテスト許可を取れた理由は、膨大なシミュレーションによる走行経験や、優れたセンサー処理技術による高度な自動運転技術が認められたことに他ならない。

  昨年3月にUberがテスト中に起こした悲劇的な事故の教訓を受け、自動運転車を開発する各社に対して連邦規制当局はテストデータの共有を推奨している。この自主的なレポートの報告を行っているのは、Ford、GM、NURO、NVIDIA、Uber、そしてWaymoの6社のみである。

 

タクシー配車サービスとデータ収集

  Waymoは2018年内に自動運転車を用いたタクシー配車サービスを開始する。同社はこのサービスのため、Fiat Chrysler Automotiveのミニバン「Chrysler Pacifica Hybrid」を最大6万2,000台投入する予定。この車両にもLiDARが装着されている。

Chrysler Pacifica Hybrid (Waymo Taxi)
(資料:Waymo)
WaymoとFCAの提携
(資料:FCA)


  配車サービス開始にあたっては、1,000万マイルの公道走行距離の達成とシミュレーションによる膨大な走行データを得たことで、Waymoは技術的に商用サービス提供が可能なレベルに至ったとの判断をしたと思われる。

  実験車両から本格的な商用サービスへ移行することで、Waymo は自動運転技術に必要となる実績データをさらに大量に入手することができ、より精度の高い自動運転プラットフォームの提供に一歩近づくことになる。この自動運転車両から得られるデータの入手こそが、Google/Waymoが描く将来の事業につながる。


参照先:
Google/Waymo:自動運転車を数千台増やし、研究開発段階から運用・導入へ
FCAの新5カ年計画「自動運転:Waymo、BMW、Aptivと提携」

 



Google/Waymo が考える自動運転世界の姿

  自動運転技術の開発において走行距離の多さは、自動運転の判断システムに大きく影響してくる。

  自動運転には欠かせない人工知能技術(以下ML: Machine Learningと表示)において、判断の正確さは、どれだけの運転経験をシステムが学習したか、その学習をどれだけ効率よく処理できるか、にかかっている。

  このようなシステムを作るためには、従来のようなプログラミングだけでは難しく、経験を瞬時に判断するシステムが必要となる。このためにはエッジコンピューティング技術を活用して端末側である程度の判断を行うと同時に、新たな事象を学習して、さらに端末側の知識レベルをアップデートしていく必要があり、各社がこのML技術の開発に凌ぎを削っている。

自動運転車と自動運転プラットフォームの関係
自動運転車と自動運転プラットフォームの関係 (資料:Waymoの車両を例に作成)


  Waymoはこの判断知能について、自動運転車全てが同じ判断をしなければ最終的に事故を起こさない安全なモビリティ社会は構築できないと考えている。そのために「自動運転プラットフォーム」をいち早く確立して、各自動車が同じプラットフォームを採用することを目指している。ある意味、この部分は競争領域ではないとの考えかもしれない。

自動運転プラットフォームの共通化
自動運転プラットフォームの共通化

 

自動運転に必要となる「脳」をプラットフォーム化する

  Googleが目指しているのが「情報のプラットフォーム」であるのと同じように、Waymoは「自動運転のプラットフォーム化」を目指している。そして、このプラットフォーム化には人工知能の技術が欠かせない。さらに、ここで重要となるのは「脳」を育てる学習レベルであることは言うまでもない。

  Waymoがシミュレーションによる仮想空間での走行距離を重視している背景には、以下のような理由がある。
1) 人が運転をして収集するデータの10年分を1日で収集できる。
2) 突発的な出来事や、実走行では難しい事故などを効率よく体験してデータ化できる。
3) シミュレーションに実走行のデータを加えることで 仮想都市ではなく実際の都市データを仮想空間上で再現することが可能となる。


  左下図は、Waymoによるシミュレーション走行の例である。実車走行によって得た情報(映像やLiDARによる空間情報など)を元に、現実と同じ環境を仮想空間上に構築している。これにより、仮想空間でありながら現実と同じ環境の中で様々な走行ケースや突発的な現象(雨や雪などの自然現象の再現も含む)、現実ではなかなか遭遇しにくい事故などの再現が可能となる。また、シミュレーション空間では単に走行するだけではなく、様々な走行条件を自動運転車に搭載するコンピューターに学習させるフィードバックを行うことで、一般のドライバーよりも多くの経験を積んだ自動運転用の「脳」を作り出していることになる。

  このような膨大な情報処理により作られた「脳」は、人工知能のNeural Network に変換され、車載コンピューターへ搭載され、エッジコンピューティングの技術により、知能を持った自動運転プラットフォームが完成する。

シミュレーション走行 自動運転プラットフォームとAI
シミュレーション走行
(資料:Waymo)
自動運転プラットフォームとAI
(資料:Waymo(車およびシミュレーター画像)の情報をもとに作成)


Google が真に狙うのはO2O (Online to Offline) ビジネス

  O2Oと呼ばれるビジネスモデルがある。Online(ネット上)から、Offline(ネット外)への行動を促すモデルであり、ネット上で配信したクーポンを持って店舗を訪問してクーポンを使う事例などがこれにあたる。

  GoogleはこのO2Oビジネスを、Google Mapを使って行ってきた。Googleが提供したのは、Map(地図)とそれを活用するための施設情報検索(POI検索)である。

 

Google/ Waymo のビジネスエリア
Google/Waymoのビジネスエリア

  Googleが設立された当初、Googleを有名にしたのはWeb検索エンジンだった。Web検索が世界的に広がったことで、Googleは世界中の人たちが検索をする情報を把握することができるようになった。Web検索エンジンでの検索が一般的になると、検索結果の上位に出る店舗や施設への人の流れに大きく影響することが分かってきた。このような環境が整うと、施設や店舗はGoogleが提供する検索エンジンで検索結果が上位に現れるような自社のホームページを作ることがビジネスにおいても重要となってくる。さらには検索順位を上げるためのサポートをする会社も現れた。

  Googleが目指すO2Oのビジネスにおいては、Waymoが提供する「自動運転プラットフォーム」もO2Oビジネスを広げるための端末にすぎない。また、Waymo が提供するプラットフォーム(PF)からの情報(データ)も、Googleにとっては大事な情報である。

  右図に示す、①、②、③、④によるサービスを用いることで、自動運転に必要となる、目的地検索、目的地までのルート、そして目的地へ到着した後のサービスへとつなげるサービスプラットフォームのビックピクチャーを描いているといえる。

  このようなサービスを市場へ導入するためには、ユーザーが使用するハードウェアが必要となる。Googleはそのハードウェアプラットフォームに対してAndroid OS を提供し(前稿の内容)、O2Oビジネス確立のためにWaymoの自動運転技術と連動したサービス開発を進めていると推定できる。

 



Alphabet社の組織編成(なぜAlphabet社が設立されたのか?)

  Googleは様々な企業の買収に加え、新しい技術開発、サービス開発、様々な事業への投資などにより、IT企業の巨人となったが、その一方でGoogleとしてのミッションが分かりづらくなっていた。事業を分割してGoogleを子会社化し、さらにGoogleサービス以外の事業についても子会社化することで自立性を持った事業グループとして再編を行った。その中にGoogleとWaymoが存在する。

Alphabetの組織図
Alphabetの組織図 (資料:各種情報より作成)


  Googleの自動運転事業をWaymoに移管したことで、GoogleとWaymoが独立した動きとなったように見えるが、実際にはGoogleとWaymoの両方を持つことで、Alphabetは将来の自動運転にまつわる様々なビジネスをリードすることができると考えているように思われる。


  真の自動運転社会の安全を考えると、全ての車が同じ知識レベルの判断を要求されることは容易に想像できる。この判断レベルの高度化に取り組んでいるWaymoが自動運転プラットフォームの強者であることは間違いない。これに加えてGoogleが自動車向けのAndroid OSを投入することで、Alphabetは自動運転時代の車載コンピュータープラットフォーム(Android OS)と自動運転プラットフォームとしてのAI(脳)の両方を提供できる会社となる。これらのプラットフォームがデファクトになった時、Google/Waymoは自動運転時代に欠かせない存在となっていくだろう。


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