GMが2019年にドライバーレス車をライドシェア市場に投入、Google/Waymoも参入へ

AIの急速な進化により、市街地での完全自動運転が2020年前後に実現

2018/02/02

要約

GMが2019年にライドシェアリング市場に投入するドライバーレス車Cruise AVの実験車両(資料:GM)

 本レポートは、2018年1月17~19日に、東京ビッグサイトで開催された第10回オートモーティブワールドセミナーでの、インテル株式会社 政策・事業開発ダイレクター兼チーフ・アドバンストサービス・アーキテクト(兼名古屋大学 客員准教授)野辺 継男氏による、「市街地での自動運転の課題と展望」と題した講演を中心に、市街地でのレベル4自動運転車の実用化の見込み、その背景等について報告する。

 自動運転車が搭載するAIのここ2~3年の急速な進化により、2020年前後に市街地でのレベル4自動運転が実用化される見込みとなった。ほぼ同じ時期に、高速道路でのレベル3の自動運転も投入される見込み。野辺氏によると、欧米のOEMは自動運転から手動運転に切り替える場合の困難性からレベル3をスキップし、市街地でのレベル4ドライバーレス自動運転の実現に注力している。

 市街地でのドライバーレス車は、最寄駅から自宅等の最終目的地までのラストワンマイルの需要や、カーシェアリング、ライドシェアリングなどの新モビリティが大きな市場になると見られている。

 GMは、他社に先駆けて、2019年にステアリングホイールやペダル類を装備しない自動運転車を、米国の複数の大都市でライドシェアリング市場に投入すると発表した。

 Google/Waymoも、現在アリゾナ州フェニックス近郊で行っているドライバーレス車の走行実験をベースに、近く商業ベースのライドシェアリングサービスを開始する計画。Google/Waymoの自動運転技術は、大手OEMを超えて最先端にあるとされている。

 なお米国議会では、ドライバーレス車について現行の安全基準FMVSSの適用除外とし、多くのドライバーレス車の路上走行実験を可能にする決議が、2017年9月に下院で可決され現在上院で審議されている。

関連レポート:
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自動運転とは何か~深層強化学習の利用~

 現在の車は、人間のドライバーが運転することを前提に作られている。自動運転ではドライバーが行っていることを車載コンピュータに置換えるので、そのためのソフトウェアが重要になる。

 例えば繁華街を走行する場合、従来型のアルゴリズムでプログラムをつくると、直近の信号が赤なら止まる、黄なら現在の速度で交差点を渡り切る時間を予測するなど膨大・複雑なことになり、全ての可能性をリストアップし解決していくことは事実上不可能である。

 そこで、車載コンピュータはまず三次元地図上で自車の位置と直近の信号を確認する。ここ2~3年で急速に進化したディープラーニングの適用による高度な物体認識と走行アルゴリズムの深層強化学習を行う。その結果、三次元地図上で走行可能な経路を確認し、「その経路をこのように走ればよい、またそのためには、アクセル、ブレーキ、ステアリングをこのように操作すればよい」と学習していく。ディープラーニングにより、人が通常気づかないことに気づくこともある。



自動運転の仕組み:車載システムとクラウド

 車はドライバーの操作通りに動くようになっており、またADAS機能がドライバーの運転操作を補完するので、初心者でも運転できる。当然車載コンピュータの指令通りに動く。各種のセンサーが車速、ステアリング・アングルなどを把握しているが、今後LiDARやステレオカメラなどが追加され、車の周辺環境をよりよく監視する体制を整える。

 車載コンピュータが車の操作を指令し、センサー群が車の走行やそれに伴う周辺環境の変化を把握して車載コンピュータにフィードバックする。車載コンピュータは、そのフィードバックに基づき計算し直して新たな操作の指令を出す。このフィードバック・サイクルにより正確な走行を期している。現在の技術では1/10秒で回しているが、将来は1/30秒に短縮することで、よりスムーズな運転が可能になるであろうとのこと。

 以上は車載の装備において進行するが、車載コンピュータはクラウドにつながる。クラウドから最新の三次元地図を取得し、またクラウドでディープラーニングにより自動運転操作のソフトウェアを向上させて、その結果得られた走行アルゴリズムを車載コンピュータにover-the-air(OTA)で送り込む。この部分がここ2~3年急速に進化してきたところであり、今後自動運転をさらに発展させていくポイントになっている。



高速道路での自動運転と市街地での自動運転

 野辺氏は、数年前から自動運転に2つの方向性、高速道路型と市街地型を想定し、それぞれに合わせた技術開発が必要であろうとの論を展開してきた。

 高速道路における自動運転は、高速走行ではあるが交差点や障害物はなく、車間距離保持、車線キープなどのADASの延長線上で、いわば既存クルマ産業によるイノベーションの継続である。 2014年頃までは、2020年頃にSAE基準レベル3の高速道路での自動運転が実現すると見られていた。しかし、レベル3で自動運転中に予期せぬ事態が発生して手動運転に切り替える場合の困難性や事故の場合の責任などが認識され、課題となっている。

 一方、市街地でのレベル4の自動運転を2020年前後に実現する動きが顕著になってきた。市街地では歩行者、自転車などがあり、周囲環境の予測困難性は高いが、低速走行であり自動運転する地域を限定するので三次元地図の作成も比較的容易である。野辺氏によると、ディープラーニングの適用による高度な物体認識と走行アルゴリズムの深層強化学習により、地域を限定したレベル4「完全自動運転」の実現性が高まっている。この分野は、Web系企業が主導する破壊的なイノベーションになると思われ、過去2~3年で急速に進化している。



市街地でのレベル4自動運転:ラストワンマイルと新モビリティの市場

アイサンテクノロジー、岡谷鋼機、ティアフォーの3社がラストワンマイルに向けて共同開発した自動運転・小型EVのマイリー(Milee)(ヤマハ発動機の電動ゴルフカートをベースに開発、オートモーティブワールド2018に出展)

<ラストワンマイルの市場>

 市街地でのレベル4自動運転の市場としては、最寄駅から自宅等最終目的地までのラストワンマイルの輸送が挙げられる。タクシーやマイクロバスがドライバーレスになることで、輸送コストは1/3になると予想されている。また、乗車する顧客向けの宅配便など貨物を混載することも検討されている。

 日本の道路延長距離は、高速道路の8,652kmに対して市街地道路(都道府県道と市町村道の合計)は116万kmあり(国土交通省資料)、市街地道路での潜在的な市場は大きい。ドライバーレス車は、過疎高齢化地域での交通弱者のライフラインとしての役割も期待されている。



<オンデマンドの新モビリティ市場>

 完全自動運転車を利用した、人とモノの移動のオンデマンド化(Mobility as a Service: MaaS)への需要が増大している。背景としては、

  • 国際的な都市への人口移動によるクルマ所有インセンティブの低下(渋滞や駐車場不足など)
  • スマホ等の高速モバイル通信の市場浸透を利用した、高い利便性を提供する新しい輸送ビジネスモデルの出現。簡単に車を呼び出せるツールが万人の手元に存在する。UberやLyftが代表例であり、クラウドにより、国際展開も容易である。
  • 人手不足の解消、各国でトラックドライバーの不足が深刻になっている。
  • 社会コスト低減の要求:エネルギー消費・公害・渋滞問題解消

などが挙げられる。

 新たなモビリティを供給する側の体制も整いつつある。三次元地図については、販売車両にコンパクトに埋め込んだLiDARにより地図データのメンテンスを行い最新の状態を保持することが可能になる。最適配車システムの構築によって、車両資産利用の最適化も進む見込み。



GM:2019年にドライバーレス車をライドシェアリング市場に投入

 GMは2017年11月末、Chevrolet Bolt EVベースで開発したレベル4の完全自動運転車「Cruise AV」を、2019年に米国の複数の大都市でライドシェアリング市場に投入すると発表した。GMは2016年3月に、自動運転ソフトウェアのスタートアップ企業Cruise Automationを買収した。技術者数は、当初の90名から2017年には1,200名に増加、2018年には2,100名への増員を見込んでいる。

 GMは、LiDARと駆動用リチウムイオン電池を内製することにより、ライドシェアリングの平均コストを、現在の2~3ドル/マイルから2025年には1ドル/マイルに低減するとされている。発表の概要は以下の通り。

  • GMは、「Zero crashes」「Zero emissions」「Zero congestion」のビジョンを掲げた。Cruise AVはEVで、5台のLiDAR、16台のカメラ、21台のレーダーを装備する。
  • Cruise AVは、設計当初から完全自動運転車として開発した。従って、ステアリングホイール、ペダル類や、人が運転するためのコントロール機器は持たない。乗客は、タッチスクリーン式のタブレットで、車の位置やその他走行状況を確認できる。
  • Cruise AVは、事前に指定した、既に三次元地図が作成されている地域(geo-fenced boundaries)の中でのみ走行できる。地域外の地点を目的地に設定することはできない。
  • Cruise AVフリートのためのOperations Centerがあり、乗客はボタンを押すことでOperatorと通信し質問もできる。Cruise AVは、非常時には安全な場所に停車する仕組みだが、乗客は別のボタン(OnStar emergency button)を押して支援を求めることができる。衝突の場合は、自動的にOnStarアドバイザーに通報される。
  • Cruise AVフリート間で、道路状況などの情報を共有する。1台のCruise AVが危険な状況を発見すると、他の車にも伝えられ、フリートのパフォーマンスと安全性を高める。
  • 2系列のコンピューターシステムを持ち、万が一メインのコンピュータに問題が発生しても、補助システムが支える。

Cruise AVの外観
(資料:GM)

Cruise AVの内装、ステアリングホイールやペダル類はない
(資料:GM)
Cruise AVが搭載するセンサー
(資料:GM)



米国議会で、自動運転車の導入を早める法制化の動き

 Cruise AVは、ステアリングホイール、ブレーキペダル、アクセルペダルを装備しない。現行のFederal Motor Vehicle Safety Standards(FMVSS)はステアリングホイールの無い車を認めていないため、同車はFMVSSに抵触する。そこでGMは、Department of Transportation(DOT)にCruise AVをFMVSSの適用除外とするよう申請した。これにより、最大2,500台について適用除外とすることが可能だという。

 なお、自動車業界のロビー活動もあり、米国議会下院は2017年9月に自動運転車の導入を妨げていると思われる法規を修正する議案を超党派で可決し、現在上院で審議されている。そのポイントは、

  • 3年以内に、各OEMにFMVSS適用除外となる自動運転車を年間8万台まで販売することを認める。より多くの自動運転車で路上走行実験を行い、データを収集できるようにする。
  • 各州が独自に自動運転車の技術基準を制定することを制限する。登録・保険等については、各州が権限を維持する。
  • DOTに、自動運転車の新たな安全基準を作成するよう促す、など。





Google/Waymo:自動運転車を数千台増やし、研究開発段階から運用・導入へ

 Google/Waymoは、2017年4月から、アリゾナ州フェニックス市郊外で、「Early riders program」と呼ぶ一般顧客を乗せる自動運転車の路上走行実験を開始した。ただし補助ドライバーが前席に座っていた。

 2017年10月からは、補助ドライバーのいない自動運転車で同プログラムを行っている。アリゾナ州は、ドライバーレス車の路上走行を認めている。ただし当面は、Waymoの社員が助手席ではなく運転席の後に座って走行している。

 Early riders programは無料で顧客を乗せているが、Waymoはこのプログラムをベースに、近い将来に商業ベースでのライドシェアリング事業を開始する計画。

 Waymoが進める自動運転車も、GMと同じレベル4で、地域、道路のタイプ、車速、天候や時間帯などで制限した範囲での自動運転になる。Waymoは、三次元地図を作成しながら地域を拡大していく計画で、天候や時間帯はできるだけ広く設定したいとのこと。

 従来のFirefly(丸い形の小型車)は2017年6月に引退し、現在はChrysler Pacificaを改造したSelf-driving car 600台が走っている。Waymoは2018年1月、FCAからさらに数千台のPacificaを調達すると発表した。2018年後半から供給が始まり、フェニックス以外の地域に展開される。Waymoは、「我々の自動運転車は、研究開発の段階から運用と導入に向けて動き出した」との声明を発表した。


Waymoの、走行実験車(Chrysler Pacificaベース)の外観

(資料:Waymo)

Waymoの自動運転車は、当初、限定した地域内(黒の部分)を走行する。斜線の部分に自動運転の範囲を広げていく。(資料:Waymo)


Google/Waymo:路上走行400万マイルを達成、膨大なシミュレーション走行も実施

 Google/Waymoは、自動車メーカーを含めた競合相手より長い距離の路上走行実験を行ってきている。Googleは、10年ほど前に自動運転車のプロジェクトを開始した。それを引き継ぐGoogle親会社Alphabet傘下のWaymoは、2017年11月に、自動運転車の路上走行400万マイル(644万km)を達成した。一般のドライバーが走行するには、300年かかる距離とのこと。累計走行距離の増加は加速しており、2009年に開始して2015年6月に100万マイル、2016年10月に200万マイル、2017年5月に300万マイルで、その後5カ月で400万マイルを達成した。毎日あらゆる状況の道路を走行することで、車のAIがいかに安全かつ快適に走るかを学習している。

 路上走行に加えて、これまでに25億マイルをシミュレーション走行した。現在、25,000台ものバーチャルWaymo自動運転車が、1日800万マイルの走行をしている。複雑で人のドライバーでも迷ってしまうような交差点を仮想空間に創出し、その交差点での様々な状況を想定して、安全・スムーズに通過するためのシミュレーションを繰り返している。

 こうした走行と学習の結果、Waymoの自動運転車は、普通のドライバーが一生に一度出会うかどうかという稀な状況にも対応できるとのこと。

Waymoのシミュレーション走行:詳細なバーチャル地図を作成し、黄信号が点滅しているなど困難な状況でのシミュレーション走行を行う。同じ交差点を、車を替えて何回も走行させる。ソフトウェアを更新しては、さらに条件を変えて走行を繰り返す。さらに車、歩行者、自転車を増やして、複雑にした状況下で走行させる。ここで作成したソフトウェアを実走行で検証する。(資料:Waymo)

  Waymoは、GoogleのAI部門と連携していることや、センサー、レーダーなどを内製していることが大きなメリットである。また、Fiat-Chrysler、レンタカー大手のAvisと提携し、Lyftには10億ドルを出資している。ホンダは2016年12月、Waymoと米国にて自動運転技術領域の共同研究に向けた検討を開始。両社の技術チームは、Waymoの自動運転技術であるセンサーやソフトウェア、車載コンピュータなどをホンダが提供する車両へ搭載し、共同で米国での公道実証実験に使用していく計画。



Waymo:走行実験中に補助ドライバーが関与した頻度は大幅に減少

 自動運転で実験走行中に、補助ドライバーがステアリングやブレーキ操作で介入することをDisengagementと呼ぶ。カリフォルニア州は、各自動車メーカーに走行実験の状況報告を求め、「Disengagement」の件数を発表している。

 下表に見る通り、Waymoは、カリフォルニア州でOEM各社に比べ圧倒的に長い距離の自動走行をしており、1回のDisengagement当たりの平均走行距離(補助ドライバーの介入なしで走行した距離の平均)も第2位のBMWの8倍と長い。またWaymoの2015年実績と比べても、走行距離を1.5倍に延長しながら、介入なしでの平均走行距離を4倍に延長した。



カリフォルニア州での自動運転走行における補助ドライバーの介入(Disengagement)件数

自動運転
走行距離(マイル)
Disengagement
件数
1回のDisengagement当たり平均走行距離(マイル)
2016年 Google/Waymo 635,868 124 5,128
BMW 638 1 638
Ford 590 3 197
日産 4,099 28 146
GM 9,730 149 65
Daimler 673 183 4
Tesla 530 182 3
2015年 Google/Waymo 424,331 341 1,244

資料:米国カリフォルニア州Department of Motor Vehicles



自動運転車が自動車産業に及ぼす影響:サービスプロバイダーが優位に

 講演の最後に、野辺氏は、自動運転車が自動車産業に及ぼす影響に言及した。

 現在自動車産業は、製造能力をキーとして、完成車メーカーを頂点とするピラミッド型になっている。世界の動きは、「EV + 完全自動運転 + モビリティ事業」に向いている。現在計画されている地域限定のレベル4完全自動運転車は個人ユーザーに売るのではなく、モビリティ事業に供給される。逆にモビリティ事業なしにレベル4の拡大はない。

 モビリティサービスが拡大していくと、自動車業界は「いかにタイムリーに適切なモビリティを提供していくか」というサービスの競争となり、市場優位性は顧客に密着するサービスプロバイダーに移行する。多くの欧米自動車メーカーはこのことを認識し、自らサービスプロバイダーになることを目指している。

 

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キーワード
自動運転、ドライバーレス、レベル4、GM、Google/Waymo

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