日産リーフ分解調査:リチウムイオンバッテリーパックの構造解説

バッテリーモジュールの仕様変遷と工夫点

2018/11/27

要約

日産 リーフ リチウムイオンバッテリー

  モーターと駆動系に続き最新型リーフの分解レポートとして、本稿ではバッテリーについて述べる。リーフは発売以来、一貫してオートモーティブエナジーサプライ社(以下AESC)のバッテリーをグレードアップしながら採用し続けており、リーフとともに進歩し、熟成されてきた。本稿ではその技術的変遷もレビューする。

 

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バッテリーパック

バッテリーパック仕様

モジュール数 24
セル数 192 (2並列96直列)
定格電圧 350 V
容量 40 kWh
外形寸法 L x W x H 1547 x 1188 x 264 mm
重量 303 kg
重量エネルギー密度 132 Wh/kg

(寸法はフランジや取付足部を含む)

 初代リーフ以来バッテリーは床下搭載を継続している。バッテリーパックの大きさはほぼ不変だが、充電される総電力量は格段に増加。201024kWh(初期)→201530kWh(マイナーチェンジ)→201740Wh(フルモデルチェンジ)と改良されてきた。

バッテリーパック搭載スペース 取り外したバッテリーパック
バッテリーパック搭載スペース。パックは取付け後、下面が車体フレームとほぼ面一になる。数本の黒っぽい帯はパックと車体鋼板の間のクッション材。最上部中央の小窓は車室内からサービス・プラグ(*注)を操作するアクセス孔。オレンジ色の高電圧ケーブルがバッテリーパックに接続される。 取り外したバッテリーパック。手前に見える3ヵ所の足(奧にも対称位置にある)でパックは車体に固定される。室内後席足元スペースを確保するため中央部が谷状に凹んでいる。凹部中央の白い部分にサービス・プラグ(*注)が取り付けられる。矢示部品はパック内外空間を通気するブリーザー。


 バッテリーパック全体は水の浸入を防ぐ構造になっている。通気のためのブリーザー(写真内矢示面に2個ある)、3個の電気系コネクターおよび上部に設けたサービス・プラグ(*注)の取付部が外部に開口しているが厳重にシールされている。(後述のバッテリーパックケースの項参照)
 バッテリー列は分割されており、各部をそれぞれモジュールスタックと呼ぶ。

(*注) フロント高電圧部の回路は、外部への電源 (+) コネクター ↔ メインリレー1 ↔ リアモジュールスタック ↔ サービス・プラグ ↔ フロントモジュールスタック(左)↔ 同(右)↔ メインリレー2 ↔ 外部への電源(-) コネクター  がこの順序で接続される。緊急時はシステムがメインリレー1および2を瞬時に遮断する。サービス・プラグは車両整備や解体時に使用するもので、車室内のリッドを取り外し、3段階の手順を踏まなければ外れない。

 

パック上蓋を取り外したところ
パック上蓋を取り外したところ。バッテリーモジュールが多数搭載されているが、手前2/3をフロントモジュールスタック(左と右あり)、後部の横一列のグループをリアモジュールスタックと呼ぶ。セルの搭載姿勢はフロントスタックでは水平(平積み)、リアスタックでは垂直(縦置き)になる。 各構成品の名称と位置を示す。各ハーネスの名称は日産の呼称。


 ジャンクションボックス(左上の画像)には2個のメインリレー等が装着されている。高電圧ハーネスは駆動モーターのPower Delivery ModulePDM)へ配電、車両通信ハーネスはVehicle Control ModuleVCM)との間でCAN通信を行う端子である。

 電池温度センサーは図示の3ヵ所に装着されており、NTCサーミスター(温度上昇すると抵抗値が下がる素子)である。バッテリーはその性能を発揮する温度範囲に上下限がある。測定された温度データはバッテリーコントローラーに伝達される。

 電流センサーはサービス・プラグ直前に装着されており、特性の異なる2個のエレメントが内蔵されている。電流がつくる磁界をコア部(写真の黒い直方体)で検知し電圧を発生する。この電流値の積算等からバッテリー充放電状態(SOCState Of Charge)を計算する(*注)。
(*注)バッテリーSOCは、全セルを個別に測定する。



バッテリーモジュール

バッテリーモジュール仕様

セル数 8 (2並列2直列 x 2ユニット)
外形寸法 L x W x H 300 x 222 x 68 mm
重量 8.7 kg

(L寸法は端子部突起を除く)

 

 初代リーフ以来、モジュール構造も数次にわたり改良されてきた。最新のモジュール構造はその集大成といってよい。最初期の設計は閉構造に近い強固な金属ケースに4セルを納めていた。やがて側壁が大きく開放され、さらに8セルを納めるものとなり、都度重量軽減とパック容量当たり蓄電量が増加した。

モジュールから上蓋を外した状態 外した上蓋 最初期モジュール
モジュールから上蓋を外した状態 外した上蓋 (セル合せ面視) 参考:最初期モジュール
(資料:日産自動車ホームページ)


 

 最新モジュールは8セル(2並列2直列のユニット2個)を内蔵。起電力はユニット当り約14.6 Vと鉛バッテリー程度である。これらセルは粘着剤で貼り重ねられる。樹脂板(黒色)をはさみこみ、金属カバーが取り付けられる。ボルト締付け後、モジュールと内部電極は加圧された状態となる。

セル間 セル密着面 セル密着面
セル間に隙間はなく、締付け後互いに加圧密着される。 上カバーのセル密着面には樹脂板(黒色)が粘着剤(奧の白い部分)で止められている。セル表面にも粘着剤(中央の艷のない部分)がある。


 バッテリーパックは強制冷却機構をもたないが、モジュール組立方法が冷却を可能にしている。すなわち、伝熱性のよいラミネートタイプセルを加圧密着させることで、セル内部の局所的蓄熱を防ぎ、発生した熱をすみやかにモジュール外周面に伝える。セル内部抵抗が小さいことと大型大熱容量電池が高負荷時の温度上昇をゆるやかにし、自然空冷方式を成立させている。



バッテリーセル

バッテリーセル仕様

公称電圧 3.65 V
外形寸法 L x W x H 261 x 216 x 7.9 mm
重量 914 g
重量エネルギー密度 224 Wh/kg
容積エネルギー密度 460 Wh/l
構造 ラミネートタイプ
正極材料 LiNixMnyCozO2
負極材料 グラファイト

セル構造に関する説明は下の画像を参照方。
正極材料は下表「日産自動車における市販 BEV用バッテリーの変遷」を参照方。


  負極材料のグラファイトは炭素原子が多数重なった積層構造を採る。各層間の結合力は弱く、この層間にリチウムイオンが侵入し電極の機能を果たす。

粘着しているセルを上方にはがしたところ 同セルを電極側から見る
粘着しているセルを上方にはがしたところ。薄膜状の正・負極やセパレーターを切断・重畳しラミネートフィルムで挟み封止したラミネートタイプと呼ばれるもので、コンパクトでシンプルな構造である。 同セルを電極側から見る。セルの電極タブはまだ外部電極に挟まった状態である。

 

  今回のフルモデルチェンジ (FMC)においてバッテリーの最も大きな改良はセルの正極材料の変更と内部抵抗の低減である

(1) 層状構造 三元系材料の採用
  旧モデルのスピネル構造(*注)、マンガン-ニッケル系材料からの大転換である。(下表「日産自動車における市販 BEV用バッテリーの変遷」を参照方)
  (*注)スピネル構造:ジャングルジムのように格子が形成される構造で、その内部をリチウムイオンが出入りする。

(2) 内部抵抗の低減
  日産自動車の発表によれば、上記の電極変更や電解液の見直し等で単位容量当りの内部抵抗値が半減している。これは、容量を増大しながらバッテリーの自然冷却方式を維持する為の重要な特性向上である(*注)。
  (*注)電池の発熱は化学反応熱と電流抵抗による発熱の和である。Liイオン電池では化学反応熱は小さく、抵抗による発熱が支配的で、内部抵抗の低減が有効となる。

 

日産自動車における市販 BEV用バッテリーの変遷

バッテリーパック
No 車名・年式 総電庄 総電力量 重量 エネルギー密度
1 プレーリージョイEV・1997 345 V 31 kWh 370 kg 85 Wh/kg
2 初代リーフ・2010 360 V 24 kWh 225 kg 110 Wh/kg
3 2代目リーフ・2017 350 V 40 kWh 303 kg 132 Wh/kg
バッテリーセル
No セル数 セル構造 正極材料 負極材料 セル供給
1 96 (1並96直) 円筒 LiCoO2 ハードカーボン ソニー系
2 192 (2並96直) ラミネート LiMn2O4 + LiNiO2 グラファイト AESC
3 192 (2並96直) ラミネート LiNixMnyCozO2 グラファイト AESC


  ハードカーボンは炭素層が整然と積層せず、層間空隙が大きくリチウム収納には好適であった。しかし、製造が難しいこと、放電時の電圧低下が大きいことなどから一般的に採用されなくなった。


  上表の通り、バッテリーは3回の改良を経て機能向上してきた。いずれも正極材料が異なる。この正極材料の変遷を詳細に下記で解説する:

LiCoO2 (コバルト酸リチウム、層状構造)

 プレーリージョイEV、ルネッサEV、アルトラEVに同時期に採用
 最初期のLiイオン電池に採用。層状構造とは、端的にいえば平面的なO層とLiイオン層とCo層の3元素が縦に積み重なった構造である。この結晶構造は強固なものでなく、Coのコストが高いことと相まって他材料の模索が始まった。

プレーリージョイ プレーリージョイ

(資料: プレーリージョイ販売カタログ 1997年5月)

 

LiNiO2 (上記材料のコバルト → ニッケル置換の試み、層状構造)

 日産、NECは採用しなかった
 層状構造のままCoNiに変えコスト低減をはかる試みである。ただしNiLi層への混入し、電池容量の低下やNiLiへの混入など製造問題が多かった。結局、部分置換(Co-Ni混在)やさらにMn置換も加えた三元系への過渡的ステップに終わった。

 

LiMn2O4 (マンガン酸リチウム、スピネル構造)

 NECトーキンが世界で初めて製品化
 層状構造より安定なスピネル構造をとる物資であり、充電時にリチウム侵入があっても寸法変化がない。またコバルトやニッケルよりコスト面でも有利でもある。NECでは1996年から製品化しているが、自動車への適用はなかった。

 

LiMn2O4 + LiNiO2 (上記材料へのニッケル追加による改良、スピネル構造)

 初代リーフが採用
 リーフのバッテリーは日産とNECグループの合弁企業、AESC製を採用した。したがってNECトーキンの技術がAESCのバッテリーに反映された。上記のマンガン酸リチウムは電解液を電気分解し易い(容量低下やガス発生がある)ことから、大容量・長期使用の為には課題となった。しかし、ニッケルを適量添加することで容量低下が抑制できることが判り、量産BEV用正極として本格採用された。

 

LiNixMnyCozO2 (コバルト追加=いわゆる三元系、層状構造)

 2代目リーフ用に新規採用
 現リーフではいっそうの電池容量増加が必要とされ、リチウムイオンの蓄積が高密度に行える層状構造が採用されることになった。材料を三元系とし、層状構造の懸念点をセル各部設計の最適化で克服しつつエネルギー密度の増大を達成し、2017年以降リーフで使用されている。



バッテリーパックケース

 BEVのバッテリーパックは単なる容器ではなく、大型構造物・重量物である。電池を水や衝撃から保護しなければ車両、乗員に重大な危険をもたらす為、自動車コンポーネントとしては新しい開発要件が求められた。

 

大型構造物としての構成

 ケースは上下2分割構造でハイテン(引張強度の強い鋼材)をプレスして成形し、内部には多数の構造部材が溶接・締結されている。全体はパック下面を強固な3本のビームで支えており、合計6本の「足」で車体に取り付けられる。電池内蔵後に、上蓋は合せ面にパッキングを貼りボルト止めされる。

上側ケース 下側ケース
上側ケース(蓋)の内面。合せ面にはパックを一周する黒いパッキングが貼付けられている。 下側ケースの内面。縦・横の峰がT字形に境界を走り、その上に各スタック基板が締結される。

 

バッテリーパックケース バッテリーパックケース


  モジュールはスタックごとに設けた基板の上に載り、基板が下側ケース上に締結される(写真はフロントモジュールスタック)。


  内部の多数の構造部材と外部の「足」を以下の写真に例示する。

内部構造部材 内部構造部材 内部構造部材
内部構造部材 内部構造部材 内部構造部材
内部構造部材 内部構造部材 内部構造部材

 

内部電池の保護

  事故のような強い衝撃が加わった場合、まず車体骨格が衝撃を受ける設計となっているが、ケース自体にも強化と衝撃吸収構造が見られる。

パックケース側壁とモジュール間の空隙 パック下面
パックケース側壁とモジュール間の空隙は約50mmである。これは側突時に電池ダメージを避けるクラッシャブルゾーンとして重要である。 パック下面には太い梁が3本、横方向に通る。


  ケース内部への浸水防止も行き届いた配慮がなされている。

ケース内部への浸水防止 ケース内部への浸水防止 ケース内部への浸水防止


  上下ケースの合せ面には全周にパッキングが貼り付けられている。これらは剥がすと再使用できない。

コネクター基板取出部 コネクター基板取出部 サービス・プラグ取付部
コネクター基板取出部では数本のスタッド、ボルトがケースを貫通している。このような部分には裏面にシール剤(写真明るいグレーの部分)を塗布してある。 サービス・プラグ取付部には6本のボルトを囲む様に成形パッキングがあり、上側ケースに密着しボルト部からの水やダストの侵入を防ぐ。


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キーワード
分解、日産、LEAF、リーフ、EV、バッテリー、リチウムイオン電池

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