多様化する電動化技術(上):コンチネンタルの48Vハイブリッド

2016年から欧州で導入、2020年頃から本格普及を見込む

2016/02/05

要 約

 本レポートは、2016年1月に開催されたオートモーティブワールド2016におけるコンチネンタル社(Continental AG)の講演を中心に、同社の48Vスタータ・ジェネレータを搭載するハイブリッドシステムについて報告する。さらに日産とホンダの電動化戦略について、別途報告する予定。

 各国・地域で燃費・CO2排出量の規制が強化されている。これに対応するためには、内燃エンジンの改善だけでは限界があり、いくつかのタイプの電動化が進む見込み。今後、特にPlug-in Hybridと48V電源を持つマイルドハイブリッドが拡大すると見られている。

 2016年に、Continental製の48Vマイルドハイブリッドシステム(同社は48V Eco Drive Systemと呼ぶ)を搭載する 2 モデルが欧州で発売され、次いで2017~18年に米国と中国で発売される。

 さらにContinentalは、48Vシステムを進化させたSide mounted Starter Generatorを2020年頃に、またInline Starter Generatorを2025年頃に投入する計画。BoschとValeoも同様のシステムを発表している。(詳細は後出)


 48Vハイブリッドシステムについては、2011年にドイツ5社(Audi、VW、Porsche、Daimler、BMW)が、48V電源の共通仕様を策定することで合意し、さらに2013年に規格「LV148」を決定し部品メーカーに協力を求めたことから、48V対応の要素技術が整いつつある。EVやフルハイブリッドと比べて自動車メーカーが大きな開発工数を割くことなく、部品メーカーが提案できる体制になった。

 主な構成部品は、ベルト駆動のスターター兼ジェネレーター(Belt Starter Generator)、48V電源となるリチウムイオン電池、48Vから12Vに電力を変換する DC/DCコンバーターである。60Vを超えると、安全基準が厳しくなるため、それに抵触しない48Vを採用している。



 

48Vハイブリッド試作車
ContinentalとSchaefflerが共同で開発した48Vハイブリッド試作車、ベース車両はFord Focus。燃費をベース車対比で17%向上させ、また排ガスはEuro6に適合する (写真:Schaeffler)
48V Eco Drive systemのメリット
48V Eco Drive systemのメリットのイメージ
(写真:Continental)

 

関連レポート:
48V電源ハイブリッド:欧州各メーカー2016年以降一斉に製品化(2015年2月)
最新の電動関連技術:ボッシュ、シェフラー、ZF、NSK、NTN、ジヤトコ(2015年11月)




各国・地域で強化される燃費・CO2規制

 各国・地域での燃費・CO2排出量規制の強化が進んでいる。最も厳しい欧州では、乗用車のCO2排出量を、2015年の130g/kmから、2020/2021年には95g/kmに削減することを求めている。

2020年以降の、乗用車のCO2排出量規制値

EU 米国 日本 中国
2020/2021年 2025年 2020年 2020年
95g/km 97.8g/km 105g/km 116.8g/km

資料:ICCT (The International Council of Clean Transportation) (注)EUでは、2020年に販売される新車の95%のフリート平均が、また2021年に販売される新車(100%)のフリート平均が95g/kmを満たすことを求めている。なお、2015年規制値は130g/km。

 次の表は、Continentalが想定する、欧州での2013年のCO2排出量127g/kmを2020年95g/kmに低減する手段を示す。緑の背景の部分が電動化による効果で、11~14g/kmの効果を見込んでいる。

EU:2020年にCO2排出量95g/kmを目指す手段

(gCO2/km) 現状 改善効果 目標値
2013年の平均値 127
車体軽量化/空気抵抗低減 3-5
内燃機関の改善 10
Drivetrainの効率向上(エンジンのフリクション低減を含む) 3
電動化とスーパークレジット(注1) 4-7
エコイノベーション(注2) 7
Connected Powertrain(クラウド連携ナビなど) 2-3
改善効果累計と2020年予想値 29-35 92~98
2020年規制値 95
(注) 1. クレジットは、CO2排出量を算出する際の優遇措置。スーパークレジットは、CO2排出量50g/km未満の車両販売台数を、1.33台~2台分に割増しカウントするクレジット。
2. エコイノベーションは、CO2排出量テストには反映されないがCO2低減効果がある新技術について付与されるクレジット。例えば、Eco-mode button、Adaptive cruise control、Bi-Xenon or LED lightsなど。

 

 



48VマイルドHVが、2020年に400万台、2025年に1,300万台に拡大すると予測

電動化車両拡大の市場予測 Continentalは、48V Mild Hybrid車が2020年に世界で400万台になると予測している。2020年頃から、量産によるコストダウンが進み、より本格的な拡大期を迎え、2025年には1,300万台が48Vシステムを搭載すると予測している。

電動化車両の市場予測

(万台)
2015年 2020年 2025年
EV 100未満 100 300
PHV + Full HV 200 600 1,100
48V HV 0 400 1,300
合計 300未満 1,100 2,700

資料:Continental

 

 



地域・セグメント毎の電動化:48Vシステムは、欧州と中国で拡大

 下記の表は、世界市場で電動化の各システムがどのセグメントに普及するかについてのContinentalの予測を示す。

 48V Mild Hybrid Systemは、2020/2021年に95g/kmの規制値が実施される欧州でいち早く普及する見込み。欧州ではB~Eセグメントに幅広く採用されるが、特に販売台数の多いcompactとmidsize(ほぼ下表のB/C/Dセグメントを指すと思われる)セグメントは、低コストでの電動化が必要で、需要が強いと予測している。

 また、パワートレインを中心としたエンジニアリング・サービスを提供するAVLによると、48Vシステムは欧州と中国で採用が拡大し、両地域ではMild Hybridのほぼ100%が48Vを採用すると予測している。中国以外の新興国市場でも普及する可能性が高い。一方日本では、今後ともFull Hybridと12VベースのMild Hybridが拡大するが、48Vシステムの採用は進まないと見られている。

 欧州自動車メーカーは、48V Hybrid以外では、D/Eセグメント車のPHV化に注力している。D/Eセグメント車は車両重量が重くCO2排出量の大きいモデルが多い。各OEMは、利益率が高いD/Eセグメント車の販売を続けたいと考えており、そのためにはPHV化が有効。PHVには、CO2排出量の算出で1台が複数台にカウントされるスーパークレジットもある。またD/Eセグメント車では、PHV化のコストを車両価格に上乗せすることも可能で、ドイツ各社はPHVを積極的に投入していく計画。

 なお、欧州では高速走行が多いため、PHV以外のFull Hybridの普及は限定的と見られている。

セグメント毎に最適な電動化システム

モーター出力 セグメント CO2削減効果
A B C D E
Electric Vehicle 50-90 kW 100%
Plug-in Hybrid 50-90 kW 50-75%
Full Hybrid 20-40 kW 20-30%
48V Mild Hybrid 5-15 kW ~10%
12V Start-Stop <5kW 3-4%
資料:Continental
(注) 1. 色の濃い部分(印刷した場合は◎)で、需要が強いと想定されている。
2. 本表は、世界市場全体について考察したもの。

 

 



48Vハイブリッドシステムのメリット

 48Vハイブリッドシステムは、トルクアシストや減速時のブレーキエネルギー回収で燃費を向上させることはこれまでのハイブリッドシステムと同じだが、フルハイブリッドに比べ低価格(1,000ユーロ前後とされる)で多くのメリットを享受できる。

 また、48V電源とモーターを持つことにより、補機部品の48V化、エンジンを効率のよい状態で回転させながら実走行での十分な仕事をさせたり、また触媒を加熱して冷間始動時のHC排出量を削減することなども可能になる。電動スーパーチャージャー搭載も普及する見込み。

48Vシステムのメリット

搭載の容易さ、 低コスト  2016年に搭載されるContinentalの48V Belt Starter Generator(BSG)は、これまでの12V Belt Starter Generatorの替わりに、車両側の大きな設計変更なく搭載できる。
 現在の12V Start-Stopと高価なフルHVの間には、大きなギャップがあり、48Vはそれを埋める役割を果たす。また、法規上60V以上の電源を使用すると感電対策が必要になるが、48Vでは不要。
ブレーキエネルギー 回収の拡大  48Vシステムでは、12Vシステムより高い効率でブレーキエネルギーを回収し、より強力なリチウムイオン電池(容量は0.46kWh)に貯蔵する。
快適な始動  素早い、静かなエンジン始動が可能になった。
電気機器の 48V化  Continentalは、出力の大きいA/Cコンプレッサーや稼働率の高い冷却ポンプ、オイルポンプが48V化の候補だとしている。大型車のA/Cコンプレッサーや電動ローリング・スタビライザーなどは、12V電源では限界に近いとしている。
 電動スーパーチャージャーも採用される見込み。12Vでも可能だが、48V化することでフルに活用できるとのこと。

(注)ContinentalのBSGシステムは、水冷式と誘導モーターの採用が特徴。水冷式により、高い信頼性を確保し、空冷式のように配置場所を選ぶことがない。また永久磁石を使用しない誘導モーター採用により、コストを抑えた。

 

48Vシステムのエンジンへのサポート
ロードポイントシフト (ガソリンエンジン)  エンジンを2000~3000 rpmという燃焼効率の良い状態で燃焼させながら、48Vモーターがアシストすることにより、より負荷の高い実走行で必要な仕事をさせることが可能(結果として実用燃費向上・CO2削減になる)。
電気による触媒加熱 (ガソリンエンジン)  触媒を加熱し早く機能させることにより、冷間始動時にHC(炭化水素)排出量を50%削減。長いアイドリングストップ、またはコースティング時にも効果を発揮する。Continental AGは、"EMICAT"の商標で実用化している。
排ガス抑制 (ディーゼルエンジン)  エンジンのピーク負荷をモーターで補うことで、現行NEDCテストで10%、欧州で2017年から採用される予定のWLTCテストで20%のNOxを削減する。

(注)WLTCは、Worldwide harmonized light duty driving test cycleの略で、国際連合の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)内の作業部会で2009年から検討してきた、排ガスと燃費の試験方法を世界で統一する試み。日本も採用する方向で検討している。現行の試験方法より、最近の実走行状況をよりよく反映するものとなる。

 

 



Side-Mountタイプを2020年頃、Inlineタイプを2025年頃に生産開始予定

 2016年に導入される48Vシステムは、現在の12V Starter Generatorを48V用システムに置き換えた構造で、Continentalは、車両側の大きな設計変更は必要ないとしている。

 さらにContinentalはSchaefflerと共同で、エンジンとトランスミッションの間にStarter Generatorを配置するSide mounted Starter Generatorのプロトタイプ車(ベース車はFord Focus 1000cc EcoBoostエンジンと6MT搭載車)を開発し、2014年に発表した(ベルト駆動方式は踏襲する)。プロトタイプ車は、CO2排出量を114g/kmから94.6g/kmへ17%向上させ、排ガスをEuro5レベルからEuro6レベルに向上させた。2020年頃から量産を開始する。

 また、ベルトを廃止しクランクシャフト軸上にStarter Generatorを配置するInline Starter Generatorを開発し、2025年頃から量産を開始するとしている。

 

Continentalが計画する、48Vシステムの3つのArchitectureと、 それぞれの燃費節減効果。なお、13%の燃費向上は Start-Stopを搭載しない車両との比較 (写真:Continental) ContinentalとSchaefflerが共同で2015年9月のIAAに出展したSide mounted Belt Starter Generator。写真左奥がStarter Generator、右手前がクランクシャフト軸と2枚のクラッチ。その間に、両者を連結するベルトも見える。(写真:Continental)

48Vの3タイプのArchitecture

生産開始 タイプ モーター 出力 概要
2016年 Belt Starter Generator (BSG) 14kW  既存のベルト駆動によるオールタ-ネーターを、48VのStarter-Generatorに置き換える。車両側の大きな設計変更は不要。下記の2 タイプ発売後も、新興国向け仕様として残る。
2020年 Side Mounted Starter Generator 19kW  新たにSchaeffler製電子クラッチ(自動切断クラッチ)を配置し、Starter-Generatorとエンジンと切り離すことを可能とした。それによりブレーキエネルギー回生量が増加、当初のBSGに比べ燃費をさらに5%削減できる(合計18%の節減)。
 電子クラッチを採用したことで、アクセルペダルから足を離すと、自動的にエンジンとの連結を切りCoasting(惰性走行)に入り、高速走行での燃費向上に貢献する。Continentalのプロトタイプ車を使用したテスト走行では、車両は走行の約20%をCoastingしていたとのこと。
2025年 Inline Starter Generator 25kW  エンジンとトランスミッシンの間、クランクシャフト同軸上にモーターを配置する。永久磁石モーターを使用。クラッチでエンジンを切り離すことにより、電気駆動でのパーキングやクリーピングも可能になる。先進国向け仕様とのこと。
 ベルトを廃止することにより、ベルトによるフリクションロスがなくなるため、さらに2%の燃費節減効果が期待できる。

 

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>