自動運転とAI ~リスクと機会~

Mercedes-Benz、VdTÜV、IAVによる自動運転車の取り組み

2020/08/14

要約

  本レポートは、弊社と提携関係にあるドイツSpringer社の自動車技術専門誌「ATZ」(www.atz-magazine.com)および「MTZ」(www.mtz-magazine.com)のSpotlight記事を掲載しています。

Springer Fachmedien Wiesbaden GmbHについて

  2010年に、世界有数の科学・技術出版社Springer Nature Companyの傘下企業として設立。主に、エンジニアや社会科学者を対象とした技術専門誌の発行、書籍の出版、ならびに各種技術イベントの開催等を行っている。

自動車技術専門誌ATZについて

  Motorwagen-Zeitschrift (Motored Vehicles Magazine)として1898年に創刊された自動車技術専門誌。1929年からは「ATZ(=Automobiltechnische Zeitschrift:Automotive engineering magazine)」に誌名を変更。ドイツ語に加え、2001年より英語版の発行を行っている。

 

 

資料:ATZ/MTZ/ATZ electronics特派員 Richard Backhaus氏によるATZ electronics worldwide 2020年5月号のIN THE SPOTLIGHT記事 "Autonomous Driving and AI - Risks and Opportunities" をSpringer Fachmedien Wiesbaden GmbH(同社ウェブサイト www.springerfachmedien-wiesbaden.de)の許可を得て掲載しています。

 

 

 



知的な解釈が求められる

自動運転とAI
~リスクと機会~

人工知能と機械学習は、自動運転車の開発に必須であると広く見做されている。しかし、これらの技術は実際に人間のドライバーに代わってどのように展開されるのか、また何処で機能していくべきだろうか。

知的な解釈が求められる

  車載のドライバーアシスタンスシステムによってセンサー信号やcar-to-X通信データを処理する能力があっても、日常の道路交通において、より高度な自動運転(SAE基準のレベル4または5)を実行するには十分とは言えない。車を運転するには交通状況全般を知的に解釈することが必要なためである。この問題にどう対処するかという議論では、しばしばAI(Artificial Intelligence)への期待に言及することがある。このアプローチは革新的と思われるかもしれないが、実際にはコンピュータープログラミングの延長に過ぎない。プログラマーは算定の明確なルールを考案・結合してアルゴリズムを作成し、我々には現在、膨大なデータからルールを導き出すという選択肢がある。独アーヘン工科大学のInstitute of Automotive Engineering (ika)のDirectorであるProf. Lutz Eckstein氏によると「タスクを遂行するためにアルゴリズムを実行するコンピューターは全て一種のAIと言える。それは決して新しいものではない。通常AIと呼ばれているのは、しばしば機械学習(Machine Learning (ML))として知られるAIの特殊な適用である。近年、自動運転車の開発においてMLの使用は劇的に拡大した。例えば道路標識の認識など、MLは既に多くのドライバーアシスタンスシステムに不可欠な部分となっている。」Eckstein氏はまさにこの技術をさらに発展させることを主業務とするチームを率いている。

  MLの原理は、多くのデータに基づき決定を行うようコンピューターを訓練することである。例えば、今日のドライバーアシスタンスシステムで作動するアルゴリズムは、対象物を発見し認識するためにセンサーのデータを処理している。MLはさらにこの段階を超えて、周囲の車がどう行動するかを予測するうえでも貢献し、それにより、交通の状況をより包括的に評価して適切な運転操作の決定を可能にするための基準を提供する。Mercedes-Benzのエンジニアは、今後10年以内にAIが自動運転車の標準的な技術になると見ている。Mercedes-Benzの担当者によると「AIはこの分野において、環境を認識し、交通状況を解釈し、運転操作を計画するために活用される。MLは経験に基づいて知識を獲得するために使用される。つまり、コンピューターは蓄積された多くの事例からパターンを認識するよう学習する。これによりコンピューターは統計的な記録を使用して、最も複雑な環境をも検出し理解することが可能になる。」それにより、対象物の検出、位置確定、自動運転のリスク評価の質をかなり向上させることができるとし、German Association of Technical Inspection Agencies (VdTÜV)の担当者は「学習の過程はコンピューターによる計算に集中しているので、車載システムではなくホストコンピューターで実行される必要があり、MLにおけるシステムの訓練をサーバーで行うのはこうした理由による」としている。

 


カメライメージ(左図)とディープラーニングを活用した意味上の分割(右図)

  VdTÜVのTransport and Mobility Divisionを率いるRichard Goebelt氏によると、「オフラインで学習する場合、AIアルゴリズムの機能は車で使用する前の定められた訓練段階においてのみ変更可能。のちに車両を運行する段階でコンポーネントの機能は変わらない。つまり、検証の大部分は開発期間に行われる。」これとは対照的に、循環学習では定常化されたAIアルゴリズムがバックグラウンド情報を記録し、定められたポイントで追加のオフライン学習を行う。そのような反復作業が完了した段階でアルゴリズムは再評価され、実際の車両に展開される。独エンジニアリグ会社IAVのAutomated Driving Functions 部門Senior Vice PresidentであるMirko Taubenreuther氏によると、「クラウドサービスに繋がることは、AIを素早く開発できる点において意味がある。多くの車の運行データが記録され、クラウドにアップロードされる。」クラウド上で運行データは学習の目的に応じて1つまたは複数のAIが利用できる。「このようにクラウドに繋がったAIシステムは様々なデータソースを利用できる。訓練のデータが増えることでシステムの性能が強化される。」

  クラウドサービスから進んで、over-the-airのデータ送信では当初の車両への設定から長期間にわたって車両ベースのアルゴリズムをアップデート・改良することに利用される。しかし、この点に関してはMLの利用に関する別のアプローチも可能である。

  例えば、ikaの専門家は、クラウドサービスが車両の環境をリアルタイムに認知するのを支援し、協調して道路上で意思決定するシナリオを思い描く。「我々は現在、諸大学の仲間と共同で、German Federal Ministry of Education and Research (BMBF)が支援するUNICARagil ライトハウスプロジェクトのフレームワークの中でこのアプローチに取り組んでいる。もう1つのオプションは、現在車載ベースで処理しているアルゴリズムを幅広くクラウドに移すことである」とEckstein氏は言う。

  この方法は、例えば公共交通機関でのドライバーレス運転に有望なソリューションを提供するかもしれない。しかし、後者(クラウドへの移行)の実現はいくぶん遠いと考える技術者もいる。Mercedes-Benzのエンジニアは、クラウドベースのAIが交通状況を解釈するという使い方は、現時点では実行可能ではないとする。主な理由は、車は危機的な状況にリアルタイムで反応する必要があり、それは今日では車載センサーとその情報を処理するシステムによってのみ実現可能なためである。

AI適用の安全性を確保するために満たされるべき前提条件(ドイツでの調査結果)

 



異常な運転状況を管理する

異常な運転状況を管理する

  周囲の車のドライバーが交通法規を遵守しないことで引き起こされるような異常な運転状況は、交通を予測する上で難題となる。自動運転車はこのような状況に備え、疑いが生じた場合、少なくとも事故のリスクを最小化するために安全に停止できなければならない。例えば配送用車両が違法に駐車していて前方の車線を塞いでいるような場合に、このような問題解決能力は必須になる。この状況で自動運転車は数分(場合によっては数時間も)待つのか、それともDouble yellow line(追い越し禁止の中央線)を超えて(交通違反になる!)配送用車両を通り過ぎるのかを決定しなければならない。ここでのジレンマは、人間のドライバーは交通違反を犯すリスクをとるかどうか自分で決定することができるが、自動運転車は決定できないという点にある。IAVのTaubenreuther氏は「自動運転車の運転行為のレパートリーには原則的に交通法規に反する行為を含めるべきではない。結局、道路上の法規は必要な安全基準を正当に示すものなので、恣意的に無視されてはならない」としている。Mercedes-Benzの専門家は、現在の法規制は自動運転車が交通法規に違反することを禁じている、と指摘する。この問題を回避するには、コントロールルームで車両を監視している人に権限を委任するという方法が考えられる。IAVやMercedes-Benzによると、自動運転車の意思決定の限界を解決するために、車両をモニターしている権限者が当面の指令を出すということはあり得る。このような行為の責任は担当する個人(または法人)にあり、彼等は法的な責任も負うことになる。

自動運転車が事故を起こした場合、どこに責任があるか(ドイツでの調査結果)

  自動運転アプリケーションの系統的な評価に関して、Association of German Engineers (VDI)のThe Advisory Council for Automated and Connected Drivingでは、このような問題を扱うための勧告を出している。これらの勧告は様々な法的問題について挑んでいる[参考文献1]。このThe Advisory Councilは、スムーズな交通フローのためには調和して合流することを優先すべきだと提言する。VDIのVehicle and Traffic Engineering議長で勧告の共同策定者でもあるEckstein氏は「そうは言うものの、その提言を実行するためにどの程度の忍耐が必要になるかの定量化は難しい」としている。全般的に勧告の策定者側は自動運転車の運転レパートリーについて幅広いコンセンサスを確立することの重要性を強調し、それにより全体的な交通フローと安全性の改善をリードするとしている。

  専門家の間では、警察や消防署の緊急車両は路上の全ての車とcar-to-car通信で繋がるべきだという点で意見が一致している。また多くの専門家は、自動運転車に外部センサーを取り付けて、緊急車両の音響信号(サイレン音)を検出する能力を確保すべきだと推奨する。Eckstein氏は「ikaの研究所では、外部に取り付けたマイクロフォンにより、サイレンのような典型的なパターンの信号を検出する能力を高めるAIを展開している。勿論そのような異常時には、自動運転車もドライバーが運転する車と同様に通常の交通法規に反した行為が許されるだろう。」この点に関して、VdTÜVのGoebelt氏は関連する法的な限界を指摘する。「本来、システムに組み込まれたすべての運転行為は可能である。これは今日の基準では違法な運転行為も含まれる。従って今後の立法が重要であり、道路交通を管理する立法と車の登録の立法を調和させる必要がある。立法府が運転行為の許容範囲を決定することが重要である。」

 

Dr. Marco Zeuner
Senior Manager Autonomous Driving – Perception and Functional Testing at Mercedes-Benz

Mercedes-Benzの Dr. Marco Zeuner氏へ2つの質問

ATZ electronicsからの質問:AIとクラウドコンピューティングを結合することの利点は何か?

Zeuner氏:現在の運転操作はクラウドサービスには繋がっていない車載のAIシステムによって遂行されている。クラウドコンピューティングによって可能になる有益な応用としては、実際の交通状況から導かれた既存のAIシステムを強化するためにソフトウエアをアップデートすること、自動運転車が動けなくなった場合に遠隔からサポートすること、Mercedes-BenzのMBUX(対話式音声認識システム)のような数々のユーザーエクスペリエンス機能、などがある。

質問:自動運転機能のAIアプリケーションやAIアップデートを認証するには、どのような手順を踏むのか?

Zeuner氏:自動運転では安全性が決定的に重要であり、包括的な検証・確認が必要で、また確立された公認の手順に従って承認されることが必要。Mercedes-Benzはドライバー支援システム(例えば道路標識の認識)に安全なAIシステムを導入するうえで長年の経験がある。今後より複雑な自動運転機能に進む際にも、これまでの経験が生きてくると考える。

 



完全自動運転車の登録

UNICARagilプロジェクトのフレームワークにおいて、ikaは他の研究機関と共同で自動運転のAIシステムをクラウドサービスに移すための選択肢を開発している

完全自動運転車の登録

  VdTÜVからの上記の警告は、この問題は自動運転車の認証と定期検査のあり方と同様に現在では解決されていないとして、注意を払うよう呼び掛けている。さらにikaの専門家達は、この問題は自動運転の開発段階から始まる難題である、と付け加える。それ故、車の外と車を運転中それぞれで学習した成果について、人工ニューラルネットワークを十分モニターできるようなAIアーキテクチャーを選ぶことが必要である。VdTÜVは今後、個々のシステムのアルゴリズムとデータに関して、独立した強制力のある検査を推進しようと計画している。

 「将来の検査工程は、現在の機能に加えて、既に稼働しているシステムの影響とさらなる開発を含むべきである」とGoebelt氏は語る。VdTÜVはこのイニシアティブに対して幅広い支持を得ているという。VdTÜVが最近、IPSOマーケットリサーチに委託した調査結果においても、回答者(16歳以上の1,000人)の84%が、全ての重要なAIシステムの安全性を保証するために、独立した機関による強制力のある検査を行うことを支持している[参考文献2]。VdTÜVは、3つの分野における法的なフレームワークを求めている。第1に、法規制の及ぶ範囲を拡大すべきであるとし、ソフトウエアにおいては、それが安全性において適切であるとしても、EUの製品安全規制において製品とは見做されていない。

  2番目に、規定はAIシステムの進化に対応しなければならない。Goebelt氏によると「AIソフトウエアを製品に統合すると、長期的なサービスを行う上で製品の機能をかなり変更することになる。ソフトウエアのアップデートを煩雑に行うシステムやMLに依存するシステムでは特にそうである。そのようなケースでは、システムがスタートしたときには存在していなかったリスクが発生することがある。3番目に、AIを製品やサービスに使用すると(例えばサイバーセキュリティのような)新たなリスクに繋がる可能性があり、それらは現行のEU法規には明確に示されていないので、安全の定義を拡大する必要がある。」

 



長い道のり

長い道のり

  未解決の課題を考えると、自動運転の乗用車が欧州の街並みで一般的に見られるようになるまでには長い道のりがあるようだ。IAVのエンジニアは技術的な展望から見て2~3年の間に完全自動運転車は可能であり、それは主に高性能なセンサーシステムと近々実現が見込まれるコンピューターで可能だと言う。Taubenreuther氏は「車の適合性や登録にも関連する法的な側面も考慮すると、自動運転車が今後5~10年の間にドイツの道を走っているとは思えない。まだ解決されていないAIベースの機能に対する認証や市場の受容といった課題に関連するし、対応する法規の幅広い改定も必要になる」と語る。Eckstein氏も同様の意見で、「完全自動駐車のようなシステムは近く量産車に適用されるだろうが、個人的には2030年までに通常の都市部で個人所有車の完全自動運転が実現するとは期待していない。」

Richard Backhaus

 

参考文献

[1] Dietmayer, K.; Eckstein, L.; Form, T.; et al.: Automatisiertes und autonomes Fahren. VDI-Handlungsempfehlung 2019. Online: https://www.vdi.de/ueber-uns/presse/publikationen/details/ automatisiertes-und-autonomes-fahren, access: February 20, 2020

[2] Verband der TÜV e. V. (ed.): Sicherheit und Künstliche Intelligenz. Studienbericht. Online: https://www.vdtuev.de/dok_view?oid=777991, access: February 20, 2020

 

取材記者が考えること

  AIは他の多くの方式と同様に、開発の方式である。それは、幅広い新たな機会を導入するが、同時に多くのリスクを抱えている。我々(報道に携わるものは)、社会に明晰な説明のみを提供することが必要と考える。感情が充満する説明は、時に過度に楽観的な期待を持たせたり、受け取る側の状況によってはかなりの不安を持たせてしまうという、深刻な害を及ぼすことがある。何故なら、自動車産業にAIを導入することは最終的には自動運転が目的であり、欧州がこの重要な開発においてアジアや米国に遅れることにならないかという問いに関連する。それでも、透明な方式でAIを開発し、切れ目のない認証とモニタリング過程をベースとして安全で信頼できる自動運転システムを開発することによって、欧州は競合上有利な立場に立つことが可能になる。

Richard Backhaus
ATZ | MTZ | ATZ electronics.

 

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キーワード
Springer、ATZ、自動運転、ADAS、AI、機械学習、コンピューター、クラウドサービス、OTA、V2X、Daimler、Mercedes-Benz、VdTUV、IAV、ika、UNICARagil

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