走行中ワイヤレス給電の最新動向

~自動車技術会主催の公開委員会・見学会から~

2019/12/10

要約

  電気自動車の充電に伴う利便性の課題や大容量バッテリーのコスト問題を解決する手段の1つとして、駐車場などでの停車中に非接触で充電を行うワイヤレス給電(WPT)とともに走行中給電(Dynamic WPT)の研究が世界的に行われている。走行中給電の手段としては架線から電力を受ける鉄道のような研究事例もあるが、路面又は壁面に設置したコイルから高周波の電磁界で電力伝送する走行中ワイヤレス給電の事例が多い。

 

第3世代走行中ワイヤレス給電実験車両
第3世代走行中ワイヤレス給電実験車両

  東京大学大学院新領域創成科学研究科の堀洋一教授・藤本博志准教授、ブリヂストン、日本精工(NSK)、ローム、東洋電機製造、他による研究グループは、インホイールモータと走行中給電の要素研究を進めている。2019年10月に発表した「第3世代」インホイールモータのユニットでは、乗用車クラスのEVをターゲットにした1個当たり25kWのモータ・インバータと走行中ワイヤレス給電の回路の全てをホイール内に収納して実車での走行実験に成功している。

  モバイル機器のような小電力用途では400KHz帯の電界結合や6.7MHz帯の磁界結合もあるが、電気自動車では85KHz (79~90KHz)での磁界結合が使われる。最近は共振条件を上手く使った磁界共振結合が注目され、本プロジェクトも85KHzの磁界共振型でワイヤレス電力伝送を行っている。

  また、神奈川県内の市街地一般道路において車両の走行データを取得し、信号機手前にクルマが滞在する時間的割合を定量化してシミュレーションした結果、仮にすべての信号機の停止線前から30mの区間で走行中給電できるようにした場合、走行中に断続的に給電されるため、車載バッテリー充電量の変化は走行前後でほぼゼロにすることができ、大容量バッテリー搭載なしに連続走行可能なことが確認されたとしている。

 

走行中給電の未来像
走行中給電の未来像(左:スマートシティ、右:高速道路)(出典:東京大学プレスリリース)

 

  本稿では2019年11月8日に東京大学 柏キャンパスで行われた自動車技術会主催(企画:電気動力技術部門委員会)の「走行中ワイヤレス給電の最新動向と今後の展開」公開委員会・見学会の内容を紹介する。開催にあたり、最初に東京大学教授 堀 洋一 氏(自動車技術会 前理事)より挨拶があった。

  電気自動車(EV)では電池の開発が重要と言われるが、電池の大容量化ではなく走行中給電が様々な問題を解決する。電車には航続距離という概念がないことからもわかるように、電気を電池に貯めて使う必要はない。走行中給電に否定的な意見もあるが、ワイヤレスの給電システムを日本中に作った場合、およそその費用は5千億円程度との試算もあり、日本が世界をリードするためには、もっと積極的に進めることが必要であると強調した。

 

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