※英GlobalData社 (旧LMC)のアナリストによるショートレポート (10月21日付) をマークラインズが翻訳したものです。
・需要の変動が大きい中国市場や欧州市場などとは対照的に、近年の日本の電気自動車(EV)市場は急激な変化を経験することもなく、安定的に推移している。
・2023年の乗用車のEV販売台数は前年比50%増の8.9万台で、乗用車市場全体に占めるEV比率は2.2%だった。EVの販売台数は日本の市場規模と比較すると比較的小さく、普及率は約1~2%にとどまっている。2018年時点ではEV販売台数が2.7万台で、構成比はわずか0.6%だったが、少ないながらもそれ以降徐々に上昇を続けている。
・上のグラフの通り、2022年~2023年にかけて増加がみられる。その主な要因は、日産「サクラ(Sakura)」と三菱自動車「eKクロス EV (eK X EV)」という軽自動車タイプのEVが発売されたためである。
・さて、日本でも車両価格の高さ、バッテリーの耐久性への懸念、航続距離への不安などが、消費者がEV購入を躊躇する主な要因となっている。
・軽自動車タイプのEVは、こうしたデメリットを軽減できることから、過去2年間で販売台数を伸ばした。日常の近場の移動手段が典型的な使用例である。長距離を移動するためではなく、通勤・通学・買い物など生活の足となるものだ。軽自動車タイプのEVはこのような用途で都合が良い。 ユーザーが夜間に充電すれば、公共充電ステーションで充電する必要も生じない。
・しかし、この軽タイプのEVの発売から2年が経過し、販売が落ち着きつつある。日本市場における軽EVの可能性を認識した日本の自動車メーカーは現在、軽商用EVの新車投入を手始めに計画している。これらは当初、2024年の前半に発売予定であったものの、追加の準備期間が必要となったことから、発売が数カ月間延期される事態となった。特にダイハツは今年初めの認証不正問題で、軽EVを含む新車に十分なリソースを割り当てる余力がなかったという。
・今後数年間、日本のEV販売は緩やかな成長を続けるだろう。その間、ハイブリッド車(HV)の人気は続き、燃料電池車(FCV)の販売も徐々に伸びると予想される。今後どのパワートレインが日本市場を席巻するか、その結果が分かるには、まだまだ多くの年月を要することになりそうだ。
・日本自動車工業会(自工会)は2024年4月、2023年度市場動向調査の結果を公表した。この調査は隔年で実施されているもので、前回は2021年に実施され、2022年に公表された。その結果は、上述のEVの販売動向を裏付けるものとなった。
・次世代自動車への意識について、四輪自動車保有世帯に購入検討順位を聞いた質問に対する回答は以下の通りだった。
・EVへの乗り換えが徐々に進んでいる影響もあり、比率は徐々に低下しているものの、HVが50%を占め、引き続き根強い人気を示している。次いで、EVが32%で前回(2021年)の30%から微増。HVとEV以外では、プラグインハイブリッド車(PHV)が11%、クリーンディーゼル車(5%)、FCVや水素エンジン車が(3%)と、いずれも前回調査の比率と同じだった。
・FCVについては、トヨタとホンダがEV分野への投資を増やすと同時に、この分野への投資も継続している。トヨタはこれまでに、FCVの「ミライ(Mirai)」と「クラウン(Crown)」を発売している。ホンダも2024年7月に「CR-V e:FCEV」を日本で発売している。なお、同モデルは米国からの輸入車となる。
・2024年9月、トヨタとBMWは次世代燃料電池システムの共同開発での提携を強化する計画を発表した。第一弾として、2028年にBMWによる初の量産型FCVの生産開始を予定している。
・日本以外では、現在EVが大きなシェアを握っている中国でも、水素分野とFCV分野に投資を進めていると報じられている。
・日本のEV市場が緩やかに成長する一方で、FCVや水素エンジン車もシェアを拡大する可能性がある。GlobalDataとしては、日本市場に関していえば、現時点で将来的にどのパワートレインが優勢になるかを語るのは時期尚早だが、現在のトレンドから判断すると、いずれはEVのシェアが優勢になるとみている。
・EVの販売拡大を加速するためには、上述のようにいくつかの課題が残されている。メディア報道によれば、潜在的な電力供給のひっ迫も懸念されている。EVが急速に普及した場合、充電に必要な電力の調達が困難になる可能性がある。
・日本は特殊な状況に見舞われている。2011年の東日本大震災とそれに続く原発事故の後、すべての原子力発電所が停止した。過去13年間で一部は運転を再開したが、2023年の稼働率は29%にとどまり、現在は火力発電が日本の電力の大部分を供給している。しかし、原油価格の上昇が、化石燃料による発電の経済性にマイナスの影響を与え続けている。
・これらのマイナス要因が適切に対処されれば、EVの販売は急速に拡大することになるだろう。
・最後に、やや主観的な意見かもしれないが、日本の消費者の立場では、2009~2010年頃にホンダのクーペ「インサイト(Insight)」やトヨタの初代「プリウス(Prius)」のようなHVが日本市場で急速に受け入れられたときに経験した熱狂とは対照的に、今の日本の自動車市場ではEVへのわくわく感を肌で感じられないのではないだろうか。
・このような観点から、日本国内におけるEVの販売はいずれ増加するものの、当面は緩やかなペースが続くとみられる。
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