※英LMC Automotive社のアナリストによるショートレポート (4月27日付) をマークラインズが翻訳したものです。
・イランにおける近年の販売動向は驚くほど変化が激しい。トランプ前米国大統領が経済制裁を再開したことで、外資の自動車メーカーは国内メーカーとの提携終了を余儀なくされ、2019年にイランの自動車生産・販売活動が危機的状況に晒された。
・しかし、最近では目覚ましい回復をみせている。制裁による打撃、新型コロナウイルス、世界的な原油安という3重の脅威にもかかわらず、イランの自動車業界は2020年から2021年にかけて力強く復活している。国内二大自動車メーカーであるイランホドロ (Iran Khodro)とサイパ (SAIPA)の協調的な取組みと、政府や軍からの支援が相まって部品の国内調達に成功し、国内市場を制裁と外的リスクの影響から部分的に隔離することに成功している。
・最近の回復は著しいものの、イラン市場の年間販売台数は過去最高だった2017年の水準を1/3強下回るレベルに留まっている。したがって、市場の本当の潜在力はまだ活かされていないままになっている。そして、米国の制裁が鍵を握っていることに変わりはない。
・バイデン政権とイラン政府間の交渉は継続中であり、最近の報道によれば、合意がまとまるとの見方が強まっている一方で、米国側は合意できるチャンスは失われつつあると警鐘を鳴らしている。イランとの包括核合意であるJCPOA (Joint Comprehensive Plan of Action)の更新が実現すれば、経済制裁は緩和され、外資の自動車メーカーはイラン市場へのアクセスが可能になる。さらに、制裁が解除されれば、新規投入車種の多様化や競争を通じた販売活動が促進されるだけでなく、経済見通しの大幅な改善を後押しすることにもなる。市場が開放されれば、イランは石油の輸出を再開して世界の高い需要を取り込むことができる上、ロシアからの代替調達先を探している欧州諸国に資源を提供できる可能性さえある。
・LMC Automotiveのベースシナリオでは、2022年内に新たな合意が成立し、米国による制裁の大部分が解除される。そして、外資メーカーもイランでの事業再開が可能になると予測している。
・しかしながら、このシナリオでは上向きと下向きの双方のリスクがバランスしている。今後数ヵ月にわたって膠着状態が続き、交渉が中断した場合、イランの生産活動は現地のサプライチェーンのみに依存することになり、中期的に前年比1桁台の成長で安定的に推移すると予測される。一方で、2022年上半期に制裁が緩和され、イランがエネルギー供給を拡大できれば、ベースシナリオよりも早い回復につながる可能性がある。この場合、自動車市場は2025年前後までに2017年の水準を上回る可能性がある。3つのシナリオを想定しつつ、引き続き政府間の協議に注目したい。
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