【ものづくり】東京モーターショー2019:NCV (Nano Cellulose Vehicle)プロジェクト
セルロースナノファイバー(CNF)部材を搭載したコンセプトカーを披露
2019/11/12
要約
NCV (Nano Cellulose Vehicle)プロジェクトは2016年10月26日にスタートした環境省委託事業で、次世代素材セルロースナノファイバー (CNF: Cellulose Nanofiber)を活用し、2020年に自動車で10%程度の軽量化を目標としている。京都大学が代表事業者となり、計22の大学・研究機関・企業等で構成されるコンソーシアムにより、サプライチェーンの一気通貫体制を実現した。
東京モーターショー2019では本プロジェクトの集大成として、CNFを多くの部位で採用したコンセプトカーが初披露された。本レポートでは、NCVコンセプトカーおよび搭載部材について概要を紹介する。
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NCVコンセプトカーの展示 | NCV搭載部品の展示 |
NCVプロジェクトの共同実施機関
京都大学、京都市産業技術研究所、宇部興産、昭和丸筒、昭和プロダクツ、名古屋工業大学、利昌工業、秋田県立大学、イノアックコーポレーション、キョーラク、ダイキョーニシカワ、三和化工、マクセル、アイシン精機、デンソー、トヨタ紡織、トヨタ自動車東日本、金沢工業大学、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント、東京大学、産業技術総合研究所、サステナブル経営推進機構
関連レポート:
NCV (Nano Cellulose Vehicle) プロジェクトの展示取材 (2019年3月)
NCVコンセプトカー
NCVコンセプトカーは環境省のブース中央に置かれ、その横に設置されたコーナーではCNFを使用した各種部材が紹介パネルとともに展示されていた。また、NCVプロジェクトの概要を示した説明パネルには、原料のセルロース関連の説明、CNF製造のフロー、自動車分野への応用展開であるコンセプトカーの説明などが記され、下部に本プロジェクトに参加した各大学、企業、研究機関が示されていた。
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NCV試作車の展示 CNFの原料である木材チップの上に展示 |
NCVプロジェクト説明パネル |
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NCV試作車の内装 | NCVに搭載された主要部品主要樹脂とCNFの複合比率、 成形加工法、事業担当者などを記している。 |
(執筆者撮影、以下同様)
次章では、NCVコンセプトカーに搭載された主要部品について、部材別に簡単な解説を示す。
・ドアトリム(トヨタ紡織)
・ルーフパネル(トヨタ自動車東日本)
・ボンネット(利昌工業)
・リアスポイラー(キョーラク)
・フロントアンダーカバー(キョーラク)
・パケトレフロントカバー(イノアックコーポレーション)
・ホイールフィン(京都大学)
・ルーフサイドレール(昭和丸筒/昭和プロダクツ)
・フロア部材(金沢工業大学)
・エンジンフード(金沢工業大学)
・バッテリーキャリア(トヨタ車体)
・インストルメントパネル、リフトゲート(ダイキョーニシカワ)
・エアコンケース(デンソー)
・インテークマニホールド(アイシン精機)
・シートクッション(三和化工)
・めっき部品(マクセル)
NCVの搭載部品
ドアトリム(トヨタ紡織)
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ドアトリム |
ポリプロピレン(PP) CNF10%複合材料、射出成形で成形。
目標:
① 現行ドアトリムと同等の性能、生産性、コスト
② 軽量化率15%以上
懸念事項:
① 衝突時の割れ
② 耐衝撃強度向上の対策
今後:
① 長期耐久性
② 射出成形による連続生産性の確認が必要
ルーフパネル(トヨタ自動車東日本)
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ルーフパネル 展示パネル:ルーフパネル |
トヨタ自動車東日本担当の部材で、王子ホールディングが協力した。ポリカーボネート(PC)のCNF15%複合材料で、射出圧縮成形で成形。
目標:
① 軽量化率:無機ガラス比50%、樹脂ガラス比20%
② 生産性、品質は現行品同等。
懸念事項:
① 耐久品質
② コスト
今後:市場適正品質の確保、耐久性能評価及び材料コストの低減が挙げられた。
ボンネット(利昌工業)
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ボンネット |
利昌工業担当の部材で、名古屋工業大学、秋田県立大学が共同開発した100%CNF材のハニカムコア。真空バギング成形で成形。
目標:
① 軽量化率(期待) 50%以上
② 剛性(期待) 2倍(対スチール)
③ 見栄え、断熱性向上、NVH向上なども期待
懸念事項:
① 品質低下による軽量化効果縮小
② 成形時間大幅短縮、塗装性、電磁波シールド性、長期耐久性、耐水性、燃焼性等
今後:
① 必要品質の評価
② 成形時間大幅短縮の検討
③ 断熱、NVH等の評価
④ 一体成形によるコストダウンの可能性検討
リアスポイラー(キョーラク)
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リアスポイラー |
PPのCNF 10%複合材料で、ブロー成形で成形。中空軽量製品でCNF添加により剛性強化。
目標:
① 軽量化率 10%以上
② 生産性、品質、コストは現行品と同等
懸念事項:
① 成形時や部品燃焼時の臭気発生
② CNFの分散不良
今後:
① 必要品質評価や軽量化効果の確認
② 吸音特性の調査
③ 懸案事項(吸水性、燃焼性、臭気、VOCなど)の重要度認識
④ コスト概算など
フロントアンダーカバー(キョーラク)
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フロントアンダーカバー |
PPのCNF 10%複合材料で、ブロー成形で成形。中空軽量製品でCNF添加により剛性強化。
目標:
① 軽量化率 10%以上
② 現行設備で生産可能であり、品質、コストが現行品並み
懸念事項:
① 成形時や部品燃焼時の臭気発生
② CNF材の分散不良
今後:
① 必要品質評価や軽量化効果の確認
② 吸音特性の調査
③ 懸案事項(吸水性、燃焼性、臭気、VOCなど)の重要度認識
④ コスト概算など
パケトレフロントカバー(イノアックコーポレーション)
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パケトレフロントカバー |
PPのCNF 10%複合材料。射出+発泡成形で成形。CNF添加により剛性向上。
目標:
① 軽量化率 20%以上
② 生産性:現行品同等
③ 品質:内装トリムとしての耐衝撃性確保
④ VOC(特にアセトアルデヒド):規格内
⑤ コスト:CNF50w%マスターバッチ価格550円/kg以下
懸念事項:
① VOC対策必要
② 高濃度マスターバッチ使用時のCNF分散性
今後:VOC対策マスターバッチ材料でのトライと低減効果検証
ホイールフィン(京都大学)
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ホイールフィン |
京都大学担当の部材で、名古屋工業大学が共同開発した。ポリアミド6 (PA6)のCNF 10%複合材料で、3Dプリンターによる積層成形で成形。金型不要のため、射出成形では成形不可能な複雑形状品の成形にも対応可能。
目標:
① 射出成形品より10%以上軽量化
② 生産性を追求する部材には適用できないが、小型部品なら生産効率の向上は可能
③ 品質:射出成形品と同等
懸念事項:寸法の経時変化
今後:
① 樹脂改良による成形速度の向上
② CNFとバイオ系材料の応用検討
③ 粉体の粒度分布制御による表面平滑性向上
ルーフサイドレール(昭和丸筒/昭和プロダクツ)
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ルーフサイドレール |
昭和丸筒/昭和プロダクツが担当の部材で、名古屋工業大学と秋田県立大学が共同開発した。CNFシートとアルミが芯・中空部材となっており、シートワインディングで成形。
目標:
① 軽量化率(対スチール) 30%以上
② 生産性:CFRP品と同等以上
③ 品質:現行品(スチール)と同等
④ コスト:CFRP品と同等以下
懸念事項:
① 品質低下(吸水)に伴う軽量化効果の縮小
② 生産性の確保(連続生産)
③ 湾曲等ストレート以外の形状
今後:
① 軽量化効果の数値化
② 巻き取り時間、作業性検討
③ 懸念事項の重要度確認(耐水性等)
④ 薄肉アルミの加工コスト確認等
フロア部材(金沢工業大学)
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フロア部材 展示パネル:フロア部材 |
金沢工業大学が担当の部材で、トヨタカスタマイジング&ディベロップメントが共同開発した。CNF紙/エポキシ樹脂をVaRTM低圧成形。CNF大型軽量構造部品の成形可能性判断が目的。
目標:
① 軽量化率(対スチール)50%以上
② 生産性:型占有時間1時間以上。大型一体成形可能
③ 品質:成形検討のみ(素材の特性を活かした材料構成を考慮)
④ コスト(対スチール製)同等以下
懸念事項:
① 基本部品特性未評価(剛性、側突性能等)
② 成形時間の大幅短縮
③ 素材の特性を考慮した評価
今後:
① 大型一体成形の更なる可能性追求
② 成形性向上
③ 軽量化以外の長所(断熱、NVH等)の詳細評価
④ 懸案事項(吸水、EMI、安全性等)の重要度認識
⑤ 防水塗装性評価など
エンジンフード(金沢工業大学)
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エンジンフード |
金沢工業大学が担当の部材で、トヨタカスタマイジング&ディベロップメントが共同開発した。CNF紙/エポキシ樹脂をVaRTM低圧成形。CNF大型軽量構造部品の成形可能性判断が目的。
目標:
① 軽量化率 50%以上
② 生産性:型占有時間10分
③ 品質:走行可能レベル
④ コスト:(対スチール製)同等以下
懸念事項:
① 信頼性詳細評価(歩行者保護、開閉耐久等)
② 成形時間短縮、専用製造設備要
③ 電磁波シールド性
④ 補修性等
今後:
① さらなる大型一体成形の可能性把握
② 成形性向上
③ 軽量化以外の長所(断熱、NVH等)の詳細評価
④ 懸案事項(吸水、EMI、安全性等)の重要度認識
⑤ 防水塗装性評価など
バッテリーキャリア(トヨタ車体)
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バッテリーキャリア |
トヨタ車体は本プロジェクトの参加メンバーではないが、別のCNF関連のプロジェクトに参加しており、今回はNCVコンセプトカーに搭載されている部品を参考出展していた。PP/CNF 15%複合材料を使用し、金属部品の30%の軽量化を達成したとのこと。
インストルメントパネル、リフトゲート(ダイキョーニシカワ)
PP/CNF、PA/CNF複合材料を射出・発泡成形し、内装部材の量産可能性追求が目的。
目標:
① 軽量化率(現行材料置換)20%以上、(スチール比)50%以上
② 生産性:現行品同等の加工性
③ 品質:鏡面平滑性確保、発泡特有のスワール不具合レス
④ コスト:現行品同等
懸念事項:
① 物性(耐衝撃性)低下に伴う軽量化効果縮小
② CNF凝集による平滑性低下
今後:
① 物性、機能性改善(CNF分散性向上、発泡セルの制御等)
② スペック適合評価(長期耐熱性、耐湿性、難燃性、VOC)
③ 発泡外観改善
④ 材料コスト
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インストルメントパネル | リフトゲート |
エアコンケース(デンソー)
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エアコンケース |
ポリオレフィン/CNF複合材料を射出発泡成形。大型・複雑形状の部材の軽量化実現を図る。
目標:
① 軽量化率:現行品(PP/タルク材料)に対し10wt%以上
② 生産性:現行品と同等のサイクルタイム
③ 品質:製品に必要な機械物性(剛直性)を満足し、現行品の半分以下の反り
④ コスト:現行材料に対しコストアップ10%未満
懸念事項:
① 更なる軽量化した際の機械物性との両立
② 吸水時、加水分解時の物性や寸法安定性への影響
③ 成形時の熱ストレスによるVOC発生
④ 高発泡に伴う生産性(サイクルタイム等)の悪化
インテークマニホールド(アイシン精機)
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インテークマニホールド |
PA6/CNF15%複合材料を射出成形した環境にやさしいインテークマニホールド。
目標:
① 軽量化率:(対PA6-GF30)10%以上(PA6-GF30とPA6-CNF15の機械特性が同等の場合)
② 生産性:現行射出材同等レベル
③ 品質:製品要求品質の確保
④ コスト:2030年までに現行材料と同等
懸念事項:CNFの吸水、凝集。
今後:
① 設計形状最適化による寸法安定性の確保と耐圧性能の向上検討
② CNF材料の成形と溶着の最適条件見極め
③ CNFのコスト調査
シートクッション(三和化工)
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シートクッション 展示パネル:シートクッション |
ポリエチレン(PE)にCNFを添加し高発泡・高強度フォームを加熱圧縮成形(内部に30倍発泡品の製品を入れ、15倍発泡品で包んで成形)
目標:
① 軽量性率:10~15%
② 生産性:現状の加熱圧縮成形法と同等
③ 品質:現状レベル
④ コスト:現状と同レベルor約5%アップ
懸念事項:CNFコスト
今後:コンセプトカーの断熱材・吸音材(風切音低減)として使用可能。
めっき部品(マクセル)
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めっき部品(ドアハンドル等) 展示パネル:めっき部品(フロントグリル) |
CNF- PA6を用いためっき、発泡成形技術の複合化による軽量高剛性部材量産を図る。
目標:
① 軽量化率:現行ABS樹脂めっき品に対し20~30%(発泡成形品)
② 生産性、品質、コスト:現行品同等
懸念事項:めっき品質の安定性、生産性(射出成形、めっきプロセス最適性)
今後:
① 必要品質評価
② めっき基材表面品質の向上
③ 軽量化以外の利点の評価
④ 生産性
⑤ コスト概算
CNFによる自動車の軽量化
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CNFによる軽量化開発 |
CNFによる軽量化開発をまとめたパネルでは、CNFの特徴や物性を紹介。原料から樹脂ペレットまでの工程を紹介し、CNFを使用するときの効果や応用例なども紹介している。
CNFは環境にやさしい、日本で多く供給できる貴重な資源である。その応用開発は、まだ緒に就いたばかりであるが、CNFを自動車に搭載し軽量化を図る本プロジェクトは、非常に挑戦的である。今回のモーターショーでこれほど多くの部材を搭載したコンセプトカーが展示されたことは非常に価値があり、各部材は見応えがあった。厳しい要求物性やコストの問題等を考慮すると、CNFが本格的に自動車に搭載されるようになるのは、まだ先のことと思われるが、CNVが発売される日が早く実現することに期待したい。
参照先:環境省 NCVプロジェクト
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/ncv/
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キーワード
ものづくり、モーターショー、軽量化、樹脂成形、プラスチック、セルロースナノファイバー、CNF、NCV、Nano Cellulose Vehicle
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