人とくるまのテクノロジー展2016:マツダがG-Vectoring Controlを出展
マツダ、スズキ、富士重、ダイハツ、大型商用車3社の出展
2016/06/17
要 約
本レポートは、人とくるまのテクノロジー展2016横浜での、マツダ、スズキ、富士重、ダイハツおよび大型商用車3社(いすゞ、日野、UDトラックス)の出展内容を報告する。
マツダは、新発想の制御技術G-Vectoring Controlを紹介した。2016年後半から、主要車種に搭載していく。またコンパクトクロスオーバーSUV CX-3と、搭載する1.5Lディーゼルエンジンを出展した。
スズキは、新開発のフルハイブリッドシステム、1.0L ダウンサイジング・ターボエンジンのK10C型エンジン、およびインドに導入した2気筒0.8Lディーゼルエンジンを紹介した。
富士重は、2016年5月に改良型を発売したスポーツセダン「WRX S4」を出展。S4は、「スバル最高峰のAWDスポーツパフォーマンス」を有しながら、多くのドライバーに安心して快適に愉しむことができるという、新しい価値を具現化した。
ダイハツは、豊富なボディーカラーと内装色を揃えるキャスト・シリーズを出展。またデザインなど顧客の嗜好に合わせて、ボディー外板を選択できる「内外装着脱構造(DRESS-FORMATION)」を採用する軽スポーツカー コペンを紹介した。
大型商用車3社は、それぞれの大型トラックに搭載するディーゼルエンジンとトランスミッションを出展。さらに日野は、女性ドライバーも増えていることも考慮して安全装備を強化した小型トラック・デュトロを紹介した。
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マツダ:G-Vectoring Controlを出展、2016年後半から主力車種に順次搭載
マツダは、「人馬一体」の走行性能を高める技術として、新発想の制御技術「G-Vectoring Control (GVC)」を紹介した。新世代車両運動制御「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」の第一弾となるとしている。2016年後半から、主力車種のマイナーチェンジ、フルモデルチェンジの機会に導入していく。
GVCは、ステアリング操作による横運動に対して、前後加速度を連携させる制御ロジック。Powertrain Control Module (PCM)内にGVCの制御ロジックを配置し、最適なエンジントルクを決定する統合制御システムとして開発した。
いわば地味な技術ではあるが、搭載車に試乗した感想として、「悪路でのふらつきが少なくなる」、「カーブを曲がる際のハンドル操作がスムーズになる」、「<ハンドルを切りすぎてしまい、後でハンドルを戻す>という操作が少なくなる」、「なんとなく運転がうまくなったような気がする」などと報告されている。
「ターンイン」は、直進から旋回に移行していくことを指す。GVC制御車両では、減速G(加速度)とハンドル操作による横Gにより、斜め後方へのGが発生する。その結果、横方向のGだけが急に立ち上がるのではなく、後ろ方向から横方向へ円を描くように滑らかにGが移動する。前輪への荷重移動も加わって、通常車両より大きなコーナリングフォース(左図の前輪部の"Fy")が働き、スムーズな旋回を可能にする。前後のGの動きで前後輪の接地荷重を変化させ、旋回初期の応答性、旋回途中~コーナー出口に向けての車両安定性を向上させる。
G-Vectoring Control (GVC)の制御の原理と効果
制御の原理 | GVCでは、タイヤのパフォーマンスを最大化するために、タイヤにかかる接地荷重に着目。ドライバーがハンドルを切り始めた瞬間、GVCはエンジンの駆動トルクを制御して減速Gを発生させ、前輪への荷重移動を行う。これにより前輪のタイヤグリップを増加させ、車両の応答性を向上させる。 |
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その後、ドライバーがハンドルを一定操舵角で保持したときには、瞬時にエンジンの駆動トルクを復元して後輪への荷重移動を行い、車両の安定性を向上させる。この一連の荷重移動によって、前後輪タイヤのグリップをより引き出し、ドライバーの意図に応じて車両の応答性や安定性を高める。 | |
GVCが付加する減速度は通常わずか0.01G(Gは重力加速度の単位)で、微小なコントロールを人間の知覚より早い速度で行う。エンジンブレーキ以下の、ドライバーの操作では不可能なほど緻密で速い制御を行うことで、自然な運転フィーリングの向上が得られるとしている。 | |
GVCは、ソフトウェアの制御ロジックのみによりシステムを成立させているので、ハードの追加はない。搭載モデルの価格は据え置くとされている。 | |
効果 | 路面の凹凸やうねりなど外乱の影響によって、ドライバーは常にハンドルの修正操作を行っている。GVCは、微小なハンドル操作の応答性も向上させるため、この修正操作の量や頻度を格段に減少させる。ドライバーは思った通りのラインに沿って走ることができ、運転への自信が高まる。 |
ドライバーは、ハンドルの修正操作が減る分、疲労の蓄積が軽減する。同乗者の体の揺れも抑制され、より快適なドライブを楽しむことができる。 | |
GVCは、シーンに応じた接地荷重の最適化によりクルマの操縦性と安定性を同時に高めるため、雨の日や雪道、悪路などの厳しい道路状況になるほど、より高い効果を発揮する。また突然の障害物を回避する際にも、車両挙動をより安定させる。タイヤが路面をしっかりとつかむ「接地感」をあらゆるシーンで提供し、乗る人すべての安心感が高まる。 | |
GVCの 前提条件 |
GVCの緻密で微細なコントロールには、高感度で反応するエンジンとシャシーが必要。マツダは、GVCはSKYACTIVエンジンとSKYACTIVシャシーの存在によって実現した技術だとしている。2016年後半から、SKYACTIV製品群にGVCを順次採用する計画である。 |
マツダ:SKYACTIV-D 1.5Lディーゼルエンジンと、搭載するマツダ CX-3を出展
マツダは、2015年2月に日本で発売したコンパクトクロスオーバーSUV CX-3を出展した。日本では、SKYACTIV-D 1.5Lディーゼルエンジンのみを搭載する。全グレードに4WDを設定、また2WD/4WDのそれぞれに6速ATまたは6速MTを設定する。
またCX-3が搭載する1.5L ディーゼルエンジンを出展した。2014年9月に発売された新型デミオから搭載されている。14.8の低圧縮比が特徴で、クラストップレベルの低燃費(2WD・6MT車で25km/Lを達成)と、高価なNOx後処理システムなしで、ポスト新長期規制や欧州stage6などをクリアする環境性能を達成。また、世界初の「ナチュラル・サウンド・スムーザー」の採用により、発進時ややゆっくり加速するときに生じるディーゼルノック音を抑制した。
スズキ:新開発のパワートレインを紹介
スズキは、3機種の新開発パワートレインを出展した。
電動系では、既に(1)減速エネルギーを電力として蓄えてガソリン消費量を抑えるエネチャージと、(2)エネチャージにモーターによるエンジンアシストの機能をプラスしたSエネチャージを商品化している(同システムを、イグニスなどの小型車では「マイルドハイブリッド」と呼んでいる)。新たに、モーター走行も可能な「フルハイブリッド」システムを開発した。近くソリオに搭載するとされる。
内燃エンジンでは、2016年3月発売のバレーノに搭載した、ダウンサイジング・ターボエンジンである「ブースタージェットエンジン」を出展。また自社開発しインドで販売する小型車に搭載する2気筒 0.8L ディーゼルエンジンを出展した。
スズキ:フルハイブリッドシステム、直噴ターボエンジン、2気筒ディーゼルエンジンを出展
フルハイブリッド システム |
スズキは、新開発のフルハイブリッドシステムを出展した。ISG(Integrated Starter Generator、モーター機能付き発電機)はこれまでのマイルドハイブリッドシステムと共通で、さらに駆動・充電を行うモーター/ ジェネレータ(MGU)を追加した構成。 |
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トランスミッションはAGS(Automatic Gear Shift、Automated manual transmissionのスズキの商品名)を採用し、モーターアシストで、AGSで変速する時のトルク変動を埋めて滑らかなシフトを実現する。AGSは、ATのイージードライブとMTのようなキビキビした走りを提供してくれるが、ハイブリッドと組み合わせることで、そのポテンシャルを最大限引き出したとしている。 | |
東京モーターショー2015には、2015年8月にフルモデルチェンジしたソリオに、フルハイブリッドシステムを搭載したモデルを参考出品した。1,242ccデュアルジェットエンジン(1気筒あたり2つのインジェクターを持つ高効率エンジン)と組み合わせる。駆動方式は2WDで、トランスミッションは5速AGSを搭載していた。 | |
K10C型(直噴ターボ)ブースタージェットエンジン | 1.0L 3気筒エンジン(K10C)を直噴・ターボ化して、排気量1.6L自然吸気エンジン相当の高出力・高トルクを達成した。1.6L 4気筒自然吸気エンジンを1.0L 3気筒ターボエンジンに置き換えると、約10kgの軽量化とコンパクト化が可能。 |
直噴化による筒内冷却効果もありノッキング抑制が可能になるため、圧縮比を過給エンジンでは高めの10.0に設定することができた。日本で2016年3月に発売したバレーノでは、6速ATと組み合わせてJC08モード走行燃費20.0km/Lを達成した。 | |
E08A型2気筒ディーゼルエンジン | スズキが自社開発した、2気筒 793ccインタークーラーターボ ディーゼルエンジン。2015年6月にインドでマルチ社が生産する小型車「セレリオ」に搭載、インドでトップの燃費性能となる27.62km/Lを達成した。 |
アルミ製シリンダーブロックを採用、低圧縮比(15.1)と大型インタークーラーの搭載により、低回転での高トルクと燃費性能を両立させた。また、フライホイールを最適化することで、2気筒ディーゼルエンジン特有の低周波振動を軽減した。 | |
スズキは、FCA Italy(フィアット)と提携しライセンス契約で1.3~2.0Lのディーゼルエンジンを生産している。しかし2気筒793ccの排気量では、エンジン性能も搭載する車も異なるので、FCAとの提携に悪影響を及ぼすことはないとしている。 |
富士重:改良型WRX S4を展示
富士重は、2016年5月に改良型を発売したWRX S4を紹介した。
WRXは、1992年にインプレッサの派生車として発売されたスポーツセダンで、WRC(世界ラリー選手権)等に参加し結果を残してきた。2014年のフルモデルチェンジでWRXという独立したモデルとなり、純スポーツタイプのSTIモデルに加えて、「スバル最高の走りを、より多くの人に楽しんでもらえるようにしたい」との狙いからS4が設定された。
- 4つの「S」とは、
- Sports performance(スバル最高峰のAWDスポーツパフォーマンス)
- Smart driving(優れた環境性能)
- Sophisticated feel(洗練された質感)
- Safety performance(独自の総合安全性能)
を指す。
S4は、2.0L直噴ターボエンジンDIT(Direct Injection Turbo)を搭載、トランスミッションはよりスポーティな走りを実現するスポーツリニアトロニック(CVT)で、またWRXシリーズとして、初めて予防安全装備アイサイトとアドバンスドセーフティパッケージ(ハイビームアシストなど)を設定した(STIモデルは6速MTを搭載し、アイサイトは設定していない)。
2016年5月の改良では、インテリアの質感と静粛性を向上し、商品力を強化した。
スバルのシンメトリカル(左右対称)AWD
スバル車は、水平対向エンジンとともに、シンメトリカル(左右対称)AWDを訴求している。スバル車は縦置きエンジンなので、プロペラシャフトを中心に、パワートレインが左右対称、一直線上にレイアウトされている。四輪にバランスよく荷重がかかる設計で、どの車輪も効率よく駆動力を得ることができ、走りが安定する。 |
FF横置きエンジンベースのAWDは、エンジンとトランスミッションの荷重がフロントに集まり、左右も対称にならないので、荷重バランスが良くないとのこと。 |
ダイハツ:自分の好みに合わせて楽しめる「キャスト」と「コペン」を紹介
ダイハツは、2015年9月に発売した「キャスト(Cast)」を、「生活を彩る自分仕様の軽自動車」として紹介した。
- 顧客のスタイルに応える3つのバリエーション、エレガントな雰囲気のStyle、クール&スポーティなSport、アクティブ感覚のActivaがある。
- ボディーカラーを豊富に揃え、また「デザインフィルムトップ」によるツートーンボディも選択できる(最表層にフッ素系フィルムを施しており、ワックスがけは不要、耐久性も塗装と同等とのこと)。
- ボディーカラーに応じて、内装色も豊富なカラーから選べる。
また、軽スポーツカーコペンが採用している、デザインなど顧客の嗜好に合わせて、ボディーの外板を替えられる「内外装着脱構造」”DRESS-FORMATION”を紹介した。(車両の骨格部分は除き)クルマ全体を着せ替える、新しい楽しさを提供する。着せ変えセットは、豊富なカラーバリエーションで準備されており、価格はFull dress set:31.7万円(消費税抜き価格)、Front dress set:17.6万円(同)、Rear dress set:17.6万円(同)。
![]() 自分仕様の軽自動車が選べるダイハツ キャスト(アクティバ)、デザインフィルムトップを装着している |
![]() 外板を着せ替えることができる軽スポーツカー・ダイハツ コペン |
大型商用車3社:大型ディーゼルエンジンとトランスミッションを出展
大型商用車3社は、大型トラックに搭載するエンジンとトランスミッションを中心に出展していた。
いすゞは、大型トラック「ギガ」が搭載するディーゼルエンジンとトランスミッション、および海外向けピックアップトラック「D-MAX」とその派生車「mu-X」に搭載するエンジンとトランスミッションを出展した。
UDトラックスは、主力エンジンである11LのGH11TCと、組み合わせるAMT(Automated manual transmission)を出展。また中型トラック「コンドル」が搭載するディーゼルエンジンGH5TAを出展した。
いすゞとUDトラックスは、AMTの燃費の良さを訴求していた。実際のところを質問すると、ベテラン名人ドライバーのMT車燃費にはかなわないが、そういうドライバーは少なく、一般的ドライバーではMT車の平均燃費より良い燃費が出るとのこと。UDトラックスでは、高速道路を利用する長距離運送車は、8割の顧客がAMTを選択している(ダンプカーなどでは少ない)。なお、いすゞの大型クラス用AMTスムーサーGxには自動クラッチにもかかわらずクラッチペダルがあり、バックでプラットフォーム付けなどの場合、半クラッチを使用できるようになっている(中型車以下には、クラッチペダルのない機種を設定している)。
日野は、2トン積み小型トラック・デュトロを出展。このクラスでは女性ドライバーも多いので、特に予防安全・衝突安全両面を強化し、衝突被害軽減ブレーキシステムと車線逸脱警報が標準装備されている。またA05Cディーゼルエンジンを出展した。排気量5.1L、2段過給のダウンサイジング・ターボエンジンで、低燃費と高トルクを実現した。中型トラック・レンジャーやブルーリボンハイブリッドバスに搭載されている。
なお展示会最終日の5月27日、いすゞと日野は、高度運転支援に関わるITS技術を共同開発することで合意したと発表した。隊列走行などの技術開発を進める計画。
大型トラック「ギガ」に搭載する6NX1-TCSエンジン。小排気量(7790cc)と2ステージターボを採用し、軽量・コンパクトな設計。 | 左の6NX1-TCSとの組み合わせでラインアップされた9速MT。AMT(いすゞの商品名はスムーサーGx)も設定されている。 | 大型エンジン「GH11TC」と、右側はAMT(UDトラックスの商品名はESCOT-Ⅴ) |
いすゞ | UDトラックス | |
8トン積みクラス中型トラックが搭載する「GH5TA」エンジン | 安全装備を充実させたデュトロ 2 トン積みトラック | ダウンサイジングA05Cディーゼルエンジン |
UDトラックス | 日野 |
<自動車産業ポータル、マークラインズ>