車載ソフトウェア分野の標準化活動:量産車への適用拡大が進む

AUTOSARおよびJASPARの活動状況

2013/06/19

要 約

 車載電子システムの高度化・複雑化が進み、各自動車メーカー、電装メーカーがすべてのソフトウェアを自社独自開発していてはコスト面や信頼性の面で成立しなくなるとの共通認識が自動車業界に広がり、欧州の自動車メーカー、電装メーカーを中心に、標準化活動が始まった。

 本レポートでは、車載ソフトウェア分野での世界の主な標準化活動の紹介をし、その中でも2003年に欧州で始まったAUTOSAR、および2004年に日本での車載ソフトウェアの標準化活動団体として設立されたJASPARの量産車開発への適用に向けての活動内容を紹介する。

 JASPARは、AUTOSARなどの関連団体と連携し世界標準活動への提案活動を行い、その成果は世界標準に反映されている。さらに、ISOの機能安全規格(ISO26262)の国内での活用のための具体化活動を行い、各種設計ツールを策定した。今後は、車載イーサネットの標準化活動など情報系の標準化活動が継続される。

 最後に、標準化活動対象領域の拡大と標準化済み技術の質の変化への対応が必要になるとの考察をまとめた。



車載ソフトウェアの標準化活動の背景

車載ソフトウェアの標準化活動の背景

 近年、車載電子装置の搭載数が車種によっては100個を超すとも言われており、車載ソフトウェアのソースコードは1980年代には数千行だったが、10年ほど前から百万行を越え、現在は数千万行になっていると言われている。

 そのため、車ごとに全てのソフトウェアを新規開発することは、コストの増加と製品品質の低下の観点から無理になるとの共通認識が自動車業界に広がった。そこで開発済みソフトウェアの再利用/流用を可能にすることなどを目的として、車載ソフトウェアの標準化活動が開始された。 (参照:AUTOSARやFlexRayの電子システム規格標準化に、自動車メーカー参加が急増 (2004年10月))

 その後、標準化活動の対象分野を拡大しながら活動はグローバルに継続され、標準ソフトウェアと自社開発ソフトウェアを組み合わせる開発スタイルによって開発効率の向上と製品品質の維持・向上の効果が得られることが実証されてきたことにより、量産車への適用が始まっている。

 



世界の主な標準化活動とAUTOSARの状況

活動団体の概要

名称   設立目的/活動分野
制 御 系 情 報 系 通 信 系
AUTOSAR 複雑で革新的な車載電子システムを、効率良くかつ高品質に実現するための技術として、開発済みのソフトウェアの再利用性を高めるための基本ソフトウェアの標準仕様を作る。
FlexRay Consortium 走行に関わる制御システム向けの高速車載ネットワークの通信規格の策定。車載ネットワーク「CAN」の10倍の速度(10Mbps)と信頼性向上を狙う。
OPEN Alliance パソコン接続で実績のあるイーサネットを車載装置に適用する規格の策定。高価なシールド線を使わないネットワーク構築を目指す。
CE4A 携帯機器と車載電子機器とのインターフェイスの標準策定。  *携帯機器=携帯電話、携帯音楽プレーヤー、ナビゲーションなどVDA(独自動車工業会)の傘下団体として8つのテーマで活動している。
CCC スマートフォンの車載接続に関する標準仕様の策定。(MirrorLink)
GENIVI IVI (In-Vehicle Infotainment)開発の効率化。(コスト削減、開発期間短縮)。家電情報機器で使われているOSであるLinuxをベースとしたオープンプラットフォームの構築を狙う。
JASPAR 高度化・複雑化する車載電子制御システムのソフトウェアやネットワークの標準化および共通利用による、開発の効率化と高信頼性確保
(注) AUTOSAR: AUTomotive Open System Architecture
OPEN: One-Pair Ether-Net
CE4A: Consumer Electronics for Automotive
CCC: Car Connectivity Consortium
IVI: 情報と娯楽を提供する車載機器。ナビ、DVD再生、インターネット接続など。
JASPAR: Japan Automotive Software Platform and Architecture
制御系: エンジン、ブレーキ、ステアリングなどの制御、およびドア開閉、窓ガラス昇降制御など。
情報系: メーター、ナビ、オーディオ、持込携帯機器など。
通信系: 車載の多重データ通信システム。

 車載ソフトウェア分野は、大きく分類して「制御系」「情報系」および「車内の通信系」の3つあり、それぞれの分野で標準化活動が行われている。標準化活動の発端はエンジン制御装置とブレーキ制御装置などの「制御系」および複数の「制御系車載電子装置」を接続するための「通信系」の標準化活動であったが、その後メーターやナビゲーションシステムなどの「情報系」およびこれらの車載情報機器を接続するための「通信系」に活動の対象が拡大してきた。

 標準化活動の中心は欧州であり、後述するJASPAR以外の活動の中心企業には欧州企業が多い。(GENIVIは米国にて発足しており、JASPARは日本の団体である。)

 また、AUTOSARおよびJASPARは、分野を特に限定せずに活動している。例えば、FlexRayの活動成果はAUTOSAR規格に反映されているし、JASPARはこの表に紹介したすべての標準化団体との技術交流を進めている。

 

主な自動車会社の参加状況(2013年5月時点)

トヨタ ホンダ 日産 GM Ford BMW Daimler VW PSA Renault Fiat Volvo Hyundai
AUTOSAR
FlexRay Consortium
OPEN Alliance
CE4A
CCC
GENIVI
JASPAR

◎:運営に参加できるメンバー ○:情報入手可能なメンバー

 日本拠点の活動であるJASPARを除いて、BMWが表中のすべての活動に参加していることをはじめ、欧州自動車メーカーの積極的参加が目立っている。 なお、韓国自動車メーカーであるHyundai(現代自動車)が標準化活動に積極的である。

 次節に、活動の広がりや業界への影響の大きさの観点、および次章で説明するJASPARの活動の理解を深める観点からAUTOSARの活動内容について概要を説明する。

 

AUTOSARの概要

名称  AUTOSAR ( AUTomotive Open System Architecture)
設立  2003年
設立目的  安全性や地球環境保護のために要求される、複雑で革新的な電子システムを、 効率良くかつ高品質に実現する技術として、基本ソフトウェアの標準を作ること。
基本スタンス  Cooperate on standards, compete on implementation
活動内容  ソフトウェアの拡張性・移植性・再利用性を高めるためのソフトウェア構造を定め、そのソフトウェア構造をECUに実装するための標準インターフェイスソフトや基盤ソフトの開発を行っている。(下記詳細説明参照)
 現在までに、Release 2.0, 3.0, 3.1, 3.2, 4.0, 4.1 まで仕様開発を完成し、これらの仕様の量産車への搭載が始まっている。
効果  開発済みアプリケーションソフトウェアの流用が可能になり、開発効率が向上する。例えば、A車用のブレーキ制御ソフトウェアを、新開発のB車用に制御定数など一部を変更するだけで流用できるため、B車用に新たにソフトウェアを開発することに比べて、開発期間が短縮できる。
 ECUハードウェアとアプリケーションソフトウェアの改良を独立して行える。
量産車への搭載状況  搭載している(予定を含む)自動車メーカー (5th AUTOSAR Open Conference 資料より)   ・VW, BMW, Daimler, PSA, Ford, GM, トヨタ
 2016年には約3億個のECUにAUTOSARソフトが採用されていると予測している。(同上)
参加メンバー  Core Partners: 9社、Premium Partners: 34社、Associate Partners: 72社
 自動車メーカーの参加は    Core Partners: BMW, Daimler, Ford, GM, PSA, トヨタ, VW の7社。    Premium Partners: Fiat, Volvo, ホンダ,マツダ、現代, 長城汽車 の6社    Associate Partners: 三菱自工、日産、第一汽車、上海汽車、TATA の5社

 AUTOSARは、2003年にBMW, Daimler, Boschなどの主にドイツの自動車メーカー、電装メーカーによって設立され、その後多くの自動車メーカー、電装メーカーが参加をして、現在も100社以上のメンバーによって活動が展開されている。上表に示すように、最近では日米欧の自動車メーカーだけでなく、中国、韓国からの参加も見られる。

 車載制御装置(ECU)に搭載されるソフトウェアについて、「Cooperate on standards, compete on implementation」を基本スタンスにして活動し、AUTOSAR規格に基づいたソフトウェアを搭載した量産車の開発も始まっている。2012年11月に北京で行われた 5th AUTOSAR Open Conference での発表資料によると、AUTOSARソフトが搭載された量産車ECUの数が2012年には約3,000万個だったが、2016年には約3億個になると予想されている。3億個という数字は、全車載ECUの約1/4に相当する。  

ソフトウェア構成

ソフトウェア構成

構成部名称 機能 特徴/効果
アプリ層
  アプリケーションソフト部 ユーザに提供する機能の実現。 自動車メーカーの競争領域(独自ソフトウェア)。
インターフェイス部 アプリケーションソフトのメーカーごとの違いを吸収する。 異なるメーカーの作成したアプリケーションソフトの組合せが容易になる。(注1)
ランタイム環境 アプリ層に配置されているソフトウェア間のデータ交換やアプリ層と基盤ソフト間のデータ通信を管理する。 ECUハードウェア構成を気にすることなくアプリ層の開発が可能になる。
開発済みのアプリケーションソフトウェアの流用が容易になる。
基盤ソフト
サービス機能 OS、メモリ管理、通信管理などの機能。 競争領域であるECUハードウェアの性能向上をアプリケーションソフトの変更なしに実現できる。(注2)
ハードウェア抽象化機能 ECUハードウェアの違いを吸収する機能。
(注1): 例えば、ある車用に開発された電装メーカーA社作成のエンジン制御ソフトと別の車用に開発された電装メーカーB社作成の変速機制御ソフトを、新規開発車用のエンジン制御・変速機制御のために組み合わせること
(2): 演算速度向上、省電力化などのためにマイコンやECU部品を変更すると、例えばECUハード内部での処理に使うデータ構造は変わることが多いが、その変更されたデータ構造をアプリケーションソフトで使う標準データ構造に変更する機能を持つ。

 ソフトウェア構成は大きく3つの部分に分けられる。(図中で色付けした部分がAUTOSAR共通部である。)

 これらのソフトウェア構成によって、開発済みソフトウェアの流用やECUハードウェアを変更してもアプリケーションソフトウェアの変更をしないで済むことなどによる車載ソフトェア開発の効率化と高信頼性の実現を目指している。

 

今後の活動予定

 2013年以降の運営体制が発表され、今後も活動を継続することが決まっている。活動のポイントは、     ・将来の車開発ニーズに対応し続けること。(例えば、エネルギー管理機能など)     ・旧バージョンとの互換性を確保すること。 としている。

 AUTOSARの最近の活動の特徴の一つに「アジア地域との連携強化」の姿勢が見られる。下記に2013年のイベント開催状況を示したが、これを見ても中国では既に実施され、インドでの連携活動が予定されていることが分かる。次章に説明するJASPARとも8月に連携活動が予定されている。

日程 開催地 内容
2013年 3月 上海/中国  Electronica China(電子部品の国際見本市) にて AUTOSARがキーノートスピーチを行った。
2013年 4月 デトロイト/米国  SAE大会にてAUTOSARに関するパネルディスカッションを実施した。
2013年 8月 東京/日本  JASPAR活動報告会(詳細未定)でAUTOSARが発表する予定。
2013年 9月 プネ/インド  AUTOSAR Day を開催する予定。
2013年11月 ミュンヘン/ドイツ  6th AUTOSAR Open Conference 開始予定

 

 



JASPARの活動状況

JASPARの概要

名称  一般社団法人JASPAR (Japan Automotive Software Platform and Architecture)
設立  2004年9月
設立目的  高度化・複雑化する車載電子制御システムのソフトウェアやネットワークの標準化および共通利用による、開発の効率化と高信頼性確保
ビジョン・ミッション  2009年6月制定
  ビジョン  カーエレクトロニクス領域にて将来の共通課題を特定し、その解決のために標準化活動に取り組み、自動車産業全体の ・公正な競争基盤の創造 ・開発の生産性向上と技術発展 を促進する。
ミッション 活動テーマ  JASPARは、これまでの活動成果の維持・発展に加え、新しい協調領域を手がける会員企業の迅速な意見集約・意思決定を通じて、カーエレクトロニクス技術についての標準化活動を行う。
目標とする地位  JASPARは、会員の持つ確かな技術力を活かし、日本発の新構想・新技術の発信と普及促進を図ることにより、自動車産業を先導する団体を目指す。
想定する成果  海外標準化団体に対する日本企業のワンボイス化  世界標準への貢献
会員 (2013年5月1日時点) (125社) 幹事会員(5社) トヨタ自動車、日産自動車、本田技術研究所、デンソー、豊通エレクトロニクス
正会員(69社) 車メーカー(3社:スズキ、いすゞ、マツダ)、電装メーカー(28社) ソフト・ツールメーカー(25社)、半導体・電子部品メーカー(10社)、商社/その他(3社)
準会員(51社) 車メーカー(5社:現代自動車、UDトラックス、三菱自動車、富士重工業、日野自動車)電装メーカー(9社)、ソフト・ツールメーカー(22社)、半導体・電子部品メーカー(5社)、商社/その他(10社)
ワーキンググループ  機能安全WG、情報系アーキテクチャーWG など6WGが活動中

JASPAR

 JASPARは2004年9月にトヨタと日産が設立を発表し、本田技術研究所が賛同・参加して始まった、車載ソフトウェアを共通基盤技術領域と競争領域に分ける標準化活動は、世界の標準化活動への日本企業からの意見のワンボイス化と世界標準への貢献に向けて活動を継続している。以下に活動の成果と今後の活動予定を紹介する。

 

活動の歴史

第1期  2004年~2010年3月
  主な活動テーマ  FlexRay通信/AUTOSARソフトウェア標準化活動
主な成果  JASPAR技術規格書 34件発行
 AUTOSAR/FlexRay への規格提案実施
 実車適用評価によりJASPAR提案の有効性を実証
国際協調/連携  AUTOSARとの定期的情報交換
 AUTOSAR/FlexRay への規格提案実施。(AUTOSAR規格 R 4.1.1 に反映された。)
第2期  2010年4月~2013年3月
主な活動テーマ  機能安全(ISO26262)標準化活動
主な成果  各種設計ツールの策定 (一般公開の予定)(注)     ・解説書    ・チェックリスト    ・テンプレート    ・記入ガイド
 仮想的な電動システムを題材に詳細設計を実施。
 コンサルティング機関(exida、JARI/MIRA、SGS-TUV)による     ・ISO26262規格適合性診断  ・各種設計ツールの改良を実施。

(注)2013年6月以降、JASPARホームページ より公開予定。一部は日本規格協会から発行。

 第1期活動は、欧州で活動が進んでいた「FlexRayとAUTOSAR」の活動に対して、量産車への適用に関する規格に日本の意見を提案する活動であった。自動車メーカー/電装メーカー/ソフト・ツールメーカー/半導体・電子部品メーカーが一体となって、下記に説明する「車載装置を実現するための技術」を開発し、その成果をFlexRay ConsortiumやAUTOSARに規格提案した。(2010年10月:FlexRay規格 V3.0.1に反映された。)

 さらに、2007年から2009年に行われた経済産業省の研究開発事業である「自動車向け共通基盤ソフトウェア開発事業」(注:次節に詳細を説明した)を通して車載装置開発を実際に行ってみて、JASPAR提案の有効性を実証した。(2013年3月:AUTOSAR規格 R 4.1.1 に反映された。)

 第2期活動の中心は、ISOにて規格化活動が進められた「機能安全規格(ISO26262)」を量産車開発に適用するための具体化・標準化活動であり、実現力において国際的な優位性を保つことを目指した。各種設計ツールを策定し、実開発への適用評価も行ったことで、海外のコンサルティング機関とも連携を深めた。

 

経済産業省「自動車向け共通基盤ソフトウェア開発事業」の概要

事業名称  自動車向け共通基盤ソフトウェア開発事業
期間  2007年~2009年 (成果発表会 2010年2月)
参加企業  経済産業省からJASPARが委託を受け、JASPAR参加企業29社が実施。    自動車メーカー: トヨタ、日産、ホンダ等    電装品メーカー:デンソー、日立等    半導体メーカー:NECエレクトロニクス、ルネサス等    組込みソフトメーカー;イーソル、ヴィッツ等    ツールメーカー:キャッツ、ADaC等
活動概要  (1)エンジンやブレーキなどの制御向けの高信頼な基盤ソフトウェアの開発(AUTOSAR規格ベース)     ・障害物回避制御 ・車間距離制御 ・ステアリング制御 の実車適用により性能評価を実施。  (2)ソフトウェア設計支援や検証などの開発ツールの開発  (3)情報処理推進機構(IPA)から提供されたソフトウェア開発手法による開発プロセスの確立
主な成果 (注)  (1)従来のソフトと同等の車両性能を、AUTOSARよりも少ない演算リソースで実現できた。     ・AUTOSARソフトに比べ、演算処理速度約40%高速化、メモリサイズ約20%改善 など。  (2)日本のすり合わせ開発の強みを生かす、「設計から検証まで」のツールチェーンを確立した。  (3)車載ソフトウェア開発に必要な技術者スキルを定義した。

(注)経済産業省/JASPAR 自動車向け共通基盤ソフトウェア開発事業 成果発表会(2010年2月)資料より抜粋。

研究開発事業の目的

(注):図の横軸方向は基盤ソフトウェア開発拡大によって「共通領域」拡大の様子を示す。  研究開発事業の目的を上図に示す。車載ソフトウェアを「共通領域」と「競争領域」に分ける構成とする。標準化した基盤ソフトウェア(上図では、モジュール・プラットフォーム化と表記している)を使って「競争領域」の一部を作成できるようにすることで「共通領域」を拡大し、開発者が自分で新規開発する開発量を低減する。そこで得られた余剰開発資源を「競争領域」開発に適用し、特に「高価値領域」開発にシフトすることを目的にしていた。

 本事業の中で、「安全制御系:周辺監視センサにより障害物を回避」、「ITS系制御:設定車速の範囲内で車間距離を一定に保つ」、「ステアリング系制御:前輪とハンドル間に機械的接合のないステアリング」の3つの実車適用チームによって車載ソフト開発を行った。(各チームのメンバーは下表に示す。)この活動の中で、プロジェクト進捗の見える化と開発ツールの活用を進め、上表に記した成果を得た。

 

チーム名
安全制御系 ITS系制御 ステアリング系制御
自動車メーカー トヨタ自動車 本田技術研究所 日産自動車
サプライヤー デンソー ホンダエレシス 日立オートモティブシステムズ
日本精機 カルソニックカンセイ
ソフト・ツール メーカー サニー技研 永和システムマネジメント イーソル
OTSL ヴィッツ OTSL
永和システムマネジメント 日立情報制御ソリューションズ
未来技術研究所
イーソル
アドバンスド・データ・コントロールズ
半導体メーカー NECエレクトロニクス ルネサステクノロジ NECエレクトロニクス
富士通マイクロエレクトロニクス ルネサステクノロジ

(注)各社名は2010年2月当時のもの。

 

JASPAR活動の特徴

(1)標準化論議の対象が「車載装置を実現するための技術」である。(下記(注)参照) 
   ・欧米での標準化活動が主に「考え方・方法論」であり、「車載装置として実現する技術」は競争領域だとの認識があった。 ・例えば、AUTOSARの基本スタンスは、Cooperate on standards, compete on implementationである。
・しかし、開発の効率化と高信頼性確保のためには「実現する技術」の標準化が必要であるとの認識に立って活動を進めている。 ・この考えは、車載ネットワークの標準規格の一つであるCAN規格に基づいて作られた通信ICが多くのバリェーションを持ってしまい、「異なる半導体メーカーのICに互換性がなかった不都合を繰り返さない」という思いがJASPARのメンバーに有ったことによる。
(2)会員の構成が、自動車メーカー、電装メーカー以外の業界に拡大している。
・自動車メーカー、電装メーカー、ソフト/ツールメーカー、半導体/電子部品メーカーが、それぞれのビジネス領域にて実効の上がる課題設定が行われている。
・ソフト/ツールメーカーおよび半導体/部品メーカーが、それぞれのJASPAR標準規格作成に貢献している。
(3)国際標準化活動機関との意思の疎通が良く、国際標準化活動の一部を担っている。
・AUTOSAR との間で密な情報交換、および規格提案を行っている。

 本章で説明したJASPAR活動の特徴を上表に整理した。車載制御装置開発に関わる全ての業界が参加し、量産車向けの車載制御装置開発の効率化と高信頼性確保のための活動が行われている。  上表中に使われている「車載装置を実現する技術」とは、

車載装置で使用するCPU演算能力(演算速度、メモリ容量など)を、標準仕様を使わずに、各社独自装置で使っているものと同等品で実現する技術 (注)標準仕様は汎用性をもたせるために冗長になり、多くのCPU演算能力を要求することが多い。       その結果、車載装置のコストが上がってしまうことが多かった。
標準規格に基づく製品設計の際の「規格の解釈違いによる製品仕様の差」を無くするために、推奨仕様を準備する。
標準技術からの逸脱を防止するために、「製品が標準仕様に則った仕様かどうかの評価法」を規定する。
標準仕様に則った製品仕様開発を支援する「開発ツール」を開発する。

 ことなどを示している。上述した、JASPARからAUTOSARへの規格提案には、このような「車載装置を実現する技術」を含んでいる。

 

今後の活動予定

(1)情報系アーキテクチャWG : 持込機器インターフェイス/次世代高速LAN WG活動実施中
   ・2008年から車載情報機器での非競争領域における標準化領域の論議を始め、今までに     1)BluetoothコンフォーマンスWG(ほゞ終了)     2)持込機器インターフェイスWG の2つのWG活動を行ない、いくつかの定義書を発行した。        (連携関連団体:Bluetooth SIG, CE4A, CCC, GENIVI alliance など)
・2012年に、次世代高速LAN WGを発足させ、情報系ネットワークのみならず、制御系ネットワークも見据えた次世代高速ネットワークに必要な要件をとりまとめ、世界の標準化推進団体との協調・連携を図る活動を始めた。        (連携関連団体:OPEN alliance, GENIVI alliance など)
・今後、重点的な活動を「イーサネット」に広げる予定にし、論議を開始している。        (注)車載カメラ画像の車内配信用途が注目されている。
(2)情報セキュリティ : 論議対象の絞り込み論議中
・自動車の情報が外部のネットワークとつながる機会の拡大を想定し、その際のセキュリティ確保が解決すべき課題になっている。
・しかし、「情報セキュリティ」と言う課題には種々の概念が含まれるので、現在、論議対象を絞込むための論議が行われている。
・2013年度には論議対象課題が確定し、WG活動が開始される予定。

(注)LAN:Local Area Network の略語。複数の制御装置間のデータ通信のためのネットワーク。

 情報系アーキテクチャWG活動は、第1期の途中から始まり主に持込機器インターフェイスの標準化活動をしてきた。この活動は、多くのメーカーが参入しているスマートフォンなどの「持込機器」と車載器との接続に際して、持込機器のメーカーが違うたびに開発車両の環境で使えるかどうかの確認テストをしなくてはいけない現状を改善することを目指している。例えば現状では、iPhoneとAndroid端末ではそれぞれ車載器との接続のための専用開発が必要になっているので、それぞれで確認テストを行っている。

 近年、複数の車載カメラの画像データを一つの車載装置に集めるためのネットワークとしてイーサネットを使う動きが始まり、次世代の高速LANとして「イーサネット」に注目が集まっていることを受け、重点的な活動を「イーサネット活用に関する標準化」にも広げている。この活動は、コンピュータネットワークの分野で既に使われている「イーサネット技術」を、「安価に」「車載環境に耐える耐久性・安定性を確保し」「開発メーカー間の製品仕様の違い無く」車載装置に適用するための技術開発である。

 さらに、自動車の情報が外部のネットワークとつながる機会の拡大に伴って、コンピュータ社会で近年懸念されている「ハッキング」「ウイルス攻撃」などが車載装置でも発生するのではないかとの懸念が広がり、その対策としての「情報セキュリティ」に関して、JASPARでの標準化活動テーマの絞込み論議が始まっている。2013年度にはWG活動が始まる予定である。

 



自動車業界での標準化活動に関する考察と予想

 最後に、自動車業界での標準化活動に関する考察をまとめた。

標準化活動の今後の予想
   1)活動対象領域の拡大  車載装置の高度化・種類増加は益々進展し、車載装置開発量が増加する。  したがって、開発効率向上と信頼性確保のニーズはより強くなる。    (注)電動化、スマートシティ対応、ITS対応 など、エレクトロニクス活用が増える。
2)標準化済み技術の 質の変化への対応  「標準技術」になったものは、使用過程で変化して行く可能性がある。   ・使用環境の変化、 使用者による修正利用の拡大 などに起因する。 (注)JASPAR活動発足のベースは、当時の標準車載LANであったCANの仕様が「標準」と言えないほど多くのバリュエーションを持っていたことにある。 「CAN標準仕様」が多くのユーザに使用されている過程で変質してしまったのが現実であった。 JASPARの活動では、この「使用過程での変質(=修正仕様の発生)」を防ぐための定義書を作成したが、これで充分かどうかはこれからの運用に依存する。
 したがって、「標準技術」の使用者が自ら変質をさせない/許さない対応が必要になる。   ・使用者の立場(自動車メーカー、電装メーカー、ソフト・ツールメーカーなど)によって「標準化」の持つ意味が異なるので、JASPARのような関連業界が一体となって活動する場での、「変質させない」ための対応協議が大切になる。

 

(参考情報)立場の違いによる「標準化」の持つ意味の違い
   1)車メーカー  ・「仕様の差別化」と「開発効率向上/コスト低減/信頼性確保」の両立を図る手段と考えている。  ・「標準化技術」の活用領域を拡大することによって、      ・自社開発への投資の削減、      ・外注するサプライヤの選択肢の拡大、    により、開発効率向上とコスト削減および高信頼性確保を狙う。  ・「開発仕様」を「標準仕様+自社固有仕様」の2階建てにすることによって、他社差別化を図る。  ・「標準仕様」と「自社固有仕様」は一つの制御装置として実現するので、開発ツールなどの開発支援環境は標準仕様の開発ツールなどとの連携が必要になる。
2)電装メーカー  ・標準仕様による開発への対応要求に応える準備をし、受注拡大を図る。
 ・自社の製品系列(ファミリー)を世界標準仕様準拠を考慮して作ることで      ・少ない投資でのビジネス機会の拡大を図る。      ・車メーカーごとの特別対応投資の削減を図る。
 ・反面、競合サプライヤーにビジネスを取られるリスクが増す。
3)ソフト・ツールメーカー  ・競合メーカー間の競争が激しくなる。
 ・「標準開発仕様」対応に加えて、自社製品の特長付加のための投資が必要になる。
4)半導体・電子部品     メーカー  ・競合メーカ間の競争が激しくなる。
 ・「標準開発仕様」対応に加えて、自社製品の特長付加のための投資が必要になる。

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>