百度の自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」

レベル4の自動運転技術を搭載した小型量産型バス「アポロン」をラインオフ

2018/11/16

要約

アポロン
百度の小型量産型自動運転バス「アポロン」(CES Asia 2017)

 2018年7月に中国インターネット協会及び工信部より発表された「2018年中国インターネット企業トップ100」において、中国大手ITの百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)の3社はトップ3となった。同発表によると、上位100社の営業利益の総額は前年比82.6%増の2,707.11億元で、うち11社が前年比40%以上の利益率を達成した。トップ2社のアリババとテンセントのインターネット総収入は、上位100社のインターネット総収入の25%以上を占める。

 百度、アリババ、テンセントは、それぞれの社名の頭文字からBATと呼ばれ、検索サービスの百度、EC(BtoC、BtoB)のアリババ、オンラインゲーム/SNSのテンセントは、各分野で確固たる地位を築いた。消費者や企業のニーズに基づいた各種サービスを提供/拡充するために、企業買収や新規事業の立ち上げを次々に展開。その結果、巨大なプラットフォーマーとなり、金融、小売、物流、教育、製造、各種サービスなど様々な業界に影響を与える存在となっている。

 BATの一角である中国検索サービス最大手の百度の売上高は、アリババとテンセントとの約1/3程度である。2016年は医療広告に関する問題が発生し、政府が規制を強化したことにより純利益が減少した。インターネット広告頼みの収益構造から脱却を図るために、自動運転領域に積極的に取り組んでいる。2017年4月に自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」を発表。2017年11月には、政府より自動運転に関する国家次世代AI開放イノベーションプラットフォームを推進する企業として委託を受けた。

 
関連レポート:

CES Asia 2018:電動化、インテリジェント化、コネクテッド化(2018年7月)
中国新興EVメーカー:IT企業の資金や協力を得てスピード開発(2018年4月)

 

 



エコシステムを形成するBAT

  百度、アリババ、テンセント(以下、BAT)は、いずれも創業当初の業容から各種サービスの拡充や企業買収を行い、巨大なプラットフォーマーとなった。BATは検索、EC、オンラインゲーム/SNSとそれぞれの得意分野を持ち、膨大なデータを蓄積している。ユーザーの日常生活ニーズに基づいた各種サービスを提供、決済システムや物流などのインフラ部分も展開している。サービスの多くは、自らが提供するのではなくパートナー企業(買収した傘下子会社を含む)からユーザーに提供される。BATは、サービス提供の基盤(プラットフォーム)を構築し、企業(プレイヤー)とユーザーの橋渡し(マッチング)をすることで収益を生み出す。ユーザーの検索、購入、決済、利用等の接触ポイントのサービスを取り込み、繰り返し利用してもらうことで、ユーザーエクスペリエンスを高めている。

百度 アリババ テンセント
中国ネット検索最大手 e-commerce 中国オンライゲーム最大手/SNS
設立年 2000年 1999年 1998年
創業者 李彦宏(Robin Li) 馬雲(Jack Ma) 馬化謄(Pony Ma)
本社所在地 北京市 杭州市 深セン市
売上高(百万元) 84,809(2017年) 250,266(2018年) 237,760(2017年)
クラウド 百度雲 阿里雲 騰訊雲
決済 百度銭包 支払宝(Alipay) 微信支払(WeChat Pay)
新興EVメーカー 蔚来汽車(NIO)、威馬汽車(WM Motor) 小鵬汽車(Xiaopeng) 威馬汽車
ライドシェア - 滴滴出行(DiDi) 滴滴出行、美団打車
物流 蘇寧物流(Suning) 菜鳥(Cainiao) 京東物流
地図 百度地図 高徳地図(AutoNavi) 騰訊地図
ネット通販 - 淘宝(Taobao)、天猫(Tmall) 京東(JD)、拼多多(Pinduoduo)

(資料:各社発表及び各種報道をもとにMarkLinesが作成)

 



百度:ネット広告中心の収益構造から脱却を図り、自動運転に注力

百度の売上高及び純利益

  中国インターネット検索最大手の百度は2000年に北京で設立され、2005年に米国NASDAQへ上場した。2016年春に医療広告に関する問題が発生し、政府がネット広告に関する規制を強化。これにより、2016年の純利益は前年比61.7%減の116.3億元と減少した。2017年の売上高は前年比20.2%増の848.1億元、純利益は前年比57.3%増の183億元と業績が回復した。

  百度はここ数年アリババ及びテンセントから売上高に差をつけられている。強みの検索関連サービス(地図、翻訳、文庫(資料サイト))は充実しているものの、アリババやテンセントのように、グループ会社からの売上が直接または間接的に結びつく強力なEC事業がない。また、中国で浸透しているQRコードを使った決済分野で、アリババの「支払宝」やテンセントの「微信支払」に完全にシェアを奪われている。

 

 

 

百度の業績
12月期決算/(百万元) 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
売上高 31,944 49,052 66,382 70,549 84,809
営業利益 11,192 12,804 11,672 10,049 15,691
税引き前利益 12,218 14,484 37,907 14,509 21,283
純利益* 10,552 13,197 33,664 11,632 18,301

*Net income attributable to Baidu, Inc.
(Baidu, Inc. annual reportよりMarkLinesが作成)

 

国から委託を受けた自動運転領域への取り組み

  アリババやテンセントより早い段階から自動運転領域に取り組んでいる百度は、インターネット広告頼みの収益構造から脱却を図るために、積極的に自動運転領域に取り組んでいる。具体的には、自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」を2017年4月に発表。「Apollo」には、OEMや部品メーカーはもちろんのこと、行政や研究機関、メディアなど多方面の企業及び団体が参画し、エコシステムを形成している。2017年11月には、国家次世代AI開放イノベーションプラットフォームを推進する「自動運転領域」の企業として政府機関から委託を受けた。受託後は大手外資OEMも続々と「Apollo」に参画している。

  2018年5月に、千年の大計として国家級新区の位置付けで開発されている河北省保定の「雄安新区」でApolloオープンプラットフォームのレベル4の公道実証実験を行った。7月にはレベル4の自動運転技術を搭載した小型量産型バス「アポロン」のラインオフを発表。「アポロン」は、中国の10都市で運行中で、日本では2018年中にSBモバイルにより実証実験を開始する予定である。

 

Apollo自動運転ロードマップ
2018年  量産レベル 閉鎖空間での自動運転
2019年  限定された区域(都市)での自動運転
 量産レベル 限定された区域での自動運転
2020年  量産レベル シンプルな道路(都市)での自動運転
2021年  高速道路及び道路(都市)での自動運転

(資料:百度のApolloサイトよりMarkLinesが作成、2018年11月時点)

 

百度の自動運転関連の主な取り組み
2014年 8月 自動運転の研究に着手
2015年 12月 自動運転事業部を設立。3年で自動運転を商用化、5年で量産化を計画
2016年 4月 シリコンバレーに自動運転の研究開発拠点を設立
8月 シリコンバレーのLiDARセンサー企業VelodyneにFordとともに1.5億ドルの投資を行うと発表
9月 AIの「百度大脳」を発表
NVIDIAとAIを活用した自動運転技術プラットフォーム開発に関する提携を締結
10月 福田汽車と自動運転、コネクテッドカー、ビッグデータ等に関する戦略的協定を締結
2017年 1月 北京汽車と合同実験室の建設(Leaning MAP、自動運転レベル3におけるディープランニング、DaaS(Data as a Service)をベースとしたプロダクトマーケティング、顧客サービスなどで協業を推進)
4月 CES 2017で音声対話AIアシスタント「DuerOS」を発表
自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」を発表
一汽解放と一汽技術センターで自動運転トラックをテスト走行
5月 Continentalと戦略的提携の合意を締結(自動運転、コネクテッドカー、インテリジェントモビリティの分野で提携)
6月 Boschとスマートモビリティの分野での戦略的提携の枠組みに合意
「博世道路特徵(Bosch Road Signature)」自車位置認識サービスをBoschが提供
長安汽車とインテリジェントモビリティ及び自動運転車の量産化に関する研究開発領域について提携
奇瑞汽車と自動運転車関連(製造、IoV(Internet of Vehicle)、高精度地図等)の戦略的提携の覚書を締結
7月 TomTomと高精度地図の共同開発を発表
8月 江淮汽車と自動運転を含む提携に合意、2019年に自動運転の量産化を目指す
9月 ZFと自動運転を含む戦略的枠組み提携に合意
10月 北汽集団と自動運転を含む戦略的枠組み提携に合意
11月 力帆汽車、百度、カーシェアリングプラットフォームを展開する盼達用車(Panda Auto)の3社で自動運転領域に関する戦略的提携を締結
12月 雄安新区とAI Cityのパイロットモデルの構築に関する戦略的協定を締結
2018年 1月 CES 2018で「Apollo 2.0」を発表
3月 北京市初の自動運転試験用臨時ナンバープレートを取得
4月 小康汽車の親会社の小康集団と自動運転領域における戦略的提携を締結
2020年前後にレベル3、2021年前後にレベル4の自動運転車の量産を目指す
長城汽車と自動運転、カーシェアリング、コネクテッド、ビッグデータ等の領域における戦略的提携の覚書を締結
5月 雄安新区で自動運転のテスト走行を実施
6月 百度、BYDとカーシェアリングプラットフォームを展開する大道用車の3社で自動運転技術及びカーシェアリングの運営に関する戦略的提携を締結
ホンダがApolloに参画
7月 Intel傘下のMobileye技術をAplloプラットフォームに採用
NVIDIAとAIを活用した自動運転技術プラットフォーム開発に関する提携
Valeoと自動運転領域における戦略的提携の締結合意を発表
蘇寧物流と自動走行車輌の量産に向けた戦略的提携を締結
レベル4の量産型自動運転バス「アポロン」をラインオフ
SBドライブと「アポロン」の日本での活用に向けた協業について合意
BMWがApolloのボードメンバーでの参画についての覚書を締結
Daimlerと自動運転及びコネクティビティで戦略的提携の覚書を締結。
百度のコネクテッドサービスをMercedes-Benzのインフォテインメントシステム「MBUX」に統合することで合意
8月 長安汽車と自動運転、コネクテッドカー領域に関する戦略的提携を締結
長城汽車WEYブランドと自動運転車、高精度地図等に関する戦略的提携合意
2020年第4四半期に自動運転車の量産化を目指す
9月 ZFと戦略的提携を締結
インテリジェント交通システムを開発する北京千方科技股份有限公司(China Transinfo)と戦略的提携合意書に調印
10月 自動運転レベル4に向けてFordと共同実験を2018年内に行うと発表
長沙市で自動運転のタクシー試験運営に合意
PSAと自動運転に関する覚書を締結
11月 一汽グループとレベル4の自動運転車の2020年の量産を発表し、レベル4の新型「紅旗E・界」を公開
百度世界大会で江鈴汽車と共同開発した自動運転車両「特順(Teshun)」とアポロンを公開
バレーパーキングソリューションに関して、BYD、長城汽車、江淮汽車、力帆汽車、大道用車等の9社と共同プロジェクトの推進を発表
Volvo Carsと自動運転対応のEV共同開発に合意
VWグループがApolloへの参画を発表。初の共同プロジェクトとして、レベル3からレベル4の自動運転技術が必要となる自動バレーパーキングに取り組む

(資料:百度の発表及び各種報道をもとにMarkLinesが作成)

 



自動運転オープンプラットフォーム「Apollo」

  2017年4月に発表された百度の「Apollo」は、OEM及び自動運転領域ビジネスに携わる企業/機関・団体などに対しオープンプラットフォームを提供する。つまり、「Apollo」に参画する企業/機関・団体は、公開された仕様やソースコード等を活用することにより、開発のスピードアップを図れるだけでなく、機能の追加変更、アップデートなどに関して柔軟に対応できる。「Apollo」では、メンバーが開発したハードウェア(デバイス)やソフトウエアシステムを効率的に融合させ、各々の自動運転システムの構築がサポートされる。これらのシステム構築の場は、プラットフォーマーの百度が提供している。

  「Apollo 3.0」は、「Cloud Service Platform」、「Open Software Platform」、「Hardware Development Platform」、「Open Vehicle Certificate Platform」の4つのプラットフォームから構成されており、閉鎖エリアでの量産モデルの自動運転車の安全な走行を視野に入れアップグレードされている。これにより、Valet Parking、MicroCar、MiniBusの3つのソリューションが提示された。具現化された小型バス(MiniBus)が金龍汽車との共同開発の自動運転レベル4の「アポロン」。MicroCarは、新石器慧通科技(Neolix)と共同開発した無人の小型物流車である。MicroCarは、2018年7月時点で雄安と常州で運営している。

 

「Apollo 3.0」のフレームワーク
Cloud Service Platform HD Map Simulation (Scenarios, Execution Modes, Automatic Granding System, 3D Visualization) Data Platform (Simulation Scenarios Data, Annotation Data, Demonstration Data) Security OTA DuerOS Production- level Service Components
Open Software Platform Map Engine (Element retrieval, Spatial retrieval, Format adaptation, Cache management) Localization Perception Planning Control End-to-End HMI
Runtime Framework
Real Time Operation System
Hardware Development Platform Computing Unit GPS/IMU Camera LiDAR RADAR Ultrasonic Radar HMI Device Black Box(Soft Storage/W, Data Reader S/W) Sensor Unit
Open Vehicle Certificate Platform Certified Apollo Compatible Drive-by-wire Vehicle Open Vehicle Interface Standard

(資料:百度Apolloサイト及び各社報道によりMarkLinesが作成、2018年10月時点)

 

Apolloに参画している企業/団体
OEM 部品メーカー IT関連 半導体関連 AI技術/LiDAR 地図/
ナビゲーション
中国 北汽新能源汽車、北京汽車、BYD、BYTON、長安汽車、奇瑞汽車、東風汽車、中国一汽、一汽解放、福田汽車、長城汽車、江淮汽車、金龍客車、猎豹汽車、力帆汽車、NIO、小康集団、威馬汽車、衆泰汽車 華陽集団、Desay SV Automotive 、E-LEAD、AUTO-LINK WORLD航盛集団、UAES(中聯汽車電子とBoschの合弁) 博創聯動、極客邦科技(ITインテリジェントサービスプラットフォーム)、智行者科技、新石器彗通科技、ThunderSoft Neousys、紫光展悦 禾賽科技、地平線、知行汽車科技、景馳科技、Momenta、PATEO、PlusAI、RoadRover、RoboSense、中科慧眼、踏歌智行、同行者科技 北斗星通、飛歌、遠特科技、北京耐威科技、理工雷科
欧州 BMW Group、Daimler、Volvo Cars、VW、PSA Bosch、Continental、esd electronics、Valeo、ZF、Delphi、WABCO Infineon、NXP TomTom、OpenDRIVE
北米 Ford AutonomouStuff、Leopard Imaging BlackBerry、Microsoft、Visual Theat(セキュリティ、コネクテッド) Analog Devices、Fortemedia、Intel、NVIDIA、On Semiconductor PolySync、Velodyne LiDAR、Innovusion NovAtel(GPS)
日本 Honda Panasonic Renesas Electronics Pioneer
韓国 Hyundai Group
シンガポール Flex
その他 Jaguar & Land Rover

 

モビリティサービス ロボット 大学/研究機関 政府/地方政府/地域関連企業 その他
中国 車和家、大道用車、eHi CarServices、首汽租車、Panda Auto、神州優車集団 COWA ROBOT、金瑞麒智能科学、海航量子智能、THOR TECH 北京航空航天大学、北京理工大学、中国汽研、長沙智能駕駛研究院、上海交通大学、同済大学、清華大学 安亭上海国際車城、保定市、知能車聯(北京市自動運転試験関連機関)、北京亦庄、重慶両江新区、蕪湖市、雄安新区、長沙市 CSCN(メディア)、獅橋資本(金融)、LOVOL(工作機械)、蘇寧物流、Udacity(教育)、ZTE
シンガポール Grab

(資料:百度の発表及び各種報道をもとにMarkLinesが作成)



音声対話型AIアシスタント「DuerOS」

  「Apollo」を構成する4つのプラットフォームのうち「Cloud Service Platform」の構成要素の一つに「DuerOS」がある。CES 2017で音声対話型AIアシスタントのオープンプラットフォームとして発表された「DuerOS」をインストールすることで、デバイスに対して音声コマンドの実行が可能となる。なお、すでに多くの中国車には、百度のスマートフォン連携システム「CarLife」(地図/通話/音楽)が装備されている。


  「DuerOS」に対応するデバイスは、家電やスマートフォン等以外に自動車も想定されており、自動車用には「自動車ユニット」という車載機器用に開発されたインテリジェント音声ソリューションが用意されている。開発側は、「自動車ユニット」の導入により車載付属機器、ナビゲーション、インテリジェントバックミラーなどのメーカーは効率的に開発を行うことができる。一方、ユーザー側は、音声による操作が可能になるとともに、各種コンテンツのアップデートの利便性向上などが挙げられる。なお、2018年9月時点で「DuerOS」のデバイスはインストールベースで1.41億台となっている。

  すでに音声対話型AIアシスタント「DuerOS」を搭載したスマートスピーカー「小度(Xiaodu)」が発売されており、2018年11月の百度のAI開発者大会では「小度車載OS」が発表された。

 

DuerOSの自動車ユニットが提供するインタラクティブ音声アシスタント4大機能
ナビゲーション及び道路状況  ナビゲーション、リアルタイム位置情報、周辺検索情報、道路検索情報
エンターテインメント情報  音楽再生、楽曲選択、FM選局、ニュース
情報検索  電話の発信/応答、自動車ナンバーによる通行制限通知、天気予報、フライト情報、予約タイマーなど
自動車制御  空調コントロール、ライトのオンオフ、窓の開閉、シート調整、車内環境の確認

(資料:百度の発表及び各種報道をもとにMarkLinesが作成)


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