トヨタとスズキ:業務提携の検討開始を発表

「仲間づくり」と、環境・安全・情報技術等の分野での連携

2016/10/24

要約

記者会見での豊田社長と鈴木会長
記者会見での豊田社長と鈴木会長(写真:トヨタ)

 トヨタの豊田章男社長とスズキの鈴木修会長は、2016年10月12日にトヨタの東京本社会議室で共同記者会見を開き、「両社の協力関係の構築に向けた検討を開始することを決めた」と発表した。

 両社は、環境や安全、情報技術等の分野での連携を強化していく。次世代環境対応車、自動運転技術、コネクティビティ技術などの先進技術開発の取り組みが世界でかつて無いスピード感で進んでいること、そして、新たなルール作りなどで他社との連携の重要性が増していることがその背景。

 トヨタは「欧米各社よりも仲間づくり、標準づくりの面で遅れて」おり、スズキは「価格競争力の高いクルマをつくる技術を一貫して磨いてきたが、先進・将来技術の開発に課題を抱え、危機感を持ってきた」とそれぞれの問題意識を説明。

 具体的な協業の分野、資本提携については、これからの議論だとしている。今回の発表は、まず、ステイクホルダー/業界に向けて両社が提携を検討していることを伝えるため行ったとしている。両社は、創業地が近く、創業家が親しいことから、この2社の提携は過去から噂されていた。

 トヨタは2016年8月にダイハツを完全子会社化し、既に富士重工にも16.5%を出資する筆頭株主でもある。マツダとの提携も2015年5月に発表している。これで、日本の乗用車メーカーは、トヨタグループ/スズキ/富士重工、日産-三菱、ホンダの3陣営に分かれる構図となる。

 

 

トヨタとスズキの提携関係

 

 

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業務提携に向けたそれぞれの意図:「仲間づくり」と「先進技術開発」

 

トヨタ側の意図

「仲間づくり」

「トヨタは、環境や安全、情報等に関する技術開発に取り組んでいるが、欧米各社よりも仲間づくり、標準づくりの面で遅れている」。
「将来を見据えて、水素社会に向けた様々な取り組みや、人工知能、ロボティクス分野での技術開発などの取り組みも進めているが、これらの分野では他社とも連携しながら開発を進めている。仲間づくり、標準化といったことの重要性を認識しながら進めなければならない。」
「『もっといいクルマづくり』と『自動車産業の発展』に役立つ取り組みであれば、我々は常にオープンな姿勢。」
「ダイハツは新興国の小型車事業の根幹を担う。その上で、スズキとの提携については、法規制も踏まえながら、これから協議を進めていく。」

スズキ側の意図

「先進技術開発」

「独立した企業として経営していくことには変わりはない」。

「スズキは、国内にあっては軽自動車が、海外にあってはインドが中心に、価格競争力の高いクルマをつくる技術を一貫して磨いてきたが、先進・将来技術の開発に課題を抱え、危機感を持ってきた。」

 資料:トヨタ/スズキ プレスリリース 2016/10/12

 

ダイハツとの関係

日本の軽自動車市場では、スズキとダイハツを含むトヨタグループを併せたシェアは60%を超える。豊田社長は「提携の検討を進める上では、独占禁止法の法規制も踏まえて議論する。具体的な内容は、ダイハツも含めて両社間で公正かつ自由な競争を行うのが前提なので、必要があれば公正取引委員会などに相談する」としている。

 

インド事業の協力

豊田社長は「開拓者であるスズキに敬意を持っている。インドで「スズキを活用する」というのは大変失礼。開拓者精神を学びたい」としている。


トヨタの提携関係:ダイハツ、富士重、マツダ、BMW、PSA

ダイハツ:新興国小型車カンパニーを共同で設置

 トヨタは、完全子会社化(2016年8月)したダイハツとの役割分担について、2016年10月に発表。新興国での小型車事業の強化に向けて、2017年1月をめどに、両社からなる「新興国小型車カンパニー」(仮称)を設置する。同カンパニーは、中国を除く新興国向けの小型車(A、Bセグメント車)の企画から生産準備までを担い、ダイハツの良品廉価なものづくりをベースに競争力ある商品を展開する。

 トヨタの「トヨタコンパクトカーカンパニー」は、先進国向けの小型車を担当し、住み分ける。

トヨタとダイハツの役割分担

ダイハツ ・新興国向けの小型車の開発・調達・生産準備を、基本的に、ダイハツに一本化。
・ダイハツが進める新アーキテクチャー「DNGA」を展開。
トヨタ トヨタは知見・経営資源の面からサポートする。
商品企画、事業企画 トヨタとダイハツが、一体となって策定・共有。
生産 両社の既存拠点を相互に有効活用。

 

富士重工:軽自動車のOEM供給を受け、小型スポーツカーの共同開発などを進める

 トヨタは富士重工に16.48%出資する筆頭株主で、以下の事業を共同で進めている。

軽自動車 富士重工は軽自動車の生産を2012年に取りやめ、トヨタグループのダイハツからOEM供給を受けている。
小型スポーツカー トヨタ 86/スバル BRZを共同開発し、富士重工の工場で生産を2012年から行っている。
小型車 トヨタ ラクティスの供給を受けて、スバル トレジアとして2011年から2016年6月まで日本で販売。2016年秋から、ダイハツが開発した小型車をトヨタ、ダイハツ、スバルの3ブランドで販売すると報道されている。
アメリカでのカムリ生産(2016年5月まで) 富士重工のアメリカ工場で、トヨタ カムリの受託生産を2007年から行っていたが、2016年5月に終了。その生産ラインでは、同年7月からはスバル アウトバックの生産を行っている。トヨタの北米事業の再編と、富士重工の北米での生産能力増強の一環。
ハイブリッド技術 富士重工が開発中のHV/PHVモデルの開発では、トヨタの協力を得ているとされる。

 

マツダ:2015年5月に業務提携を結ぶ、具体案は検討中

トヨタはマツダと、2015年5月、「クルマが持つ魅力をさらに高めていく」ことを念頭に、両社の経営資源の活用や、商品・技術の補完など、協力関係の構築に向けた覚書に調印。現在、両社で組織する検討委員会で業務提携内容を協議中も、2016年10月現在、具体案は公表されていない。
 両社はそれまで、トヨタがハイブリッド技術のライセンスをマツダへ供与し、マツダはメキシコ工場で2015年からDemio(Mazda2)ベースでYaris iAを生産し、トヨタへOEM供給するなどの提携を進めていた。

(注)マツダといすゞは2016年7月11日、いすゞが開発中の次世代ピックアップトラックをマツダへOEM供給することで合意したと発表。マツダはFordと共同開発したピックアップBT50をタイで生産しているが、OEM供給を受けることにより生産能力を乗用車に振り向ける。また、いすゞはGMとの次世代ピックアップの共同開発を取りやめ、単独開発することを2016年7月22日に発表した。

 

BMW:小型スポーツカーの共同開発、次世代環境技術で共同研究を進める

 BMWグループとトヨタは、協業に関する契約を2013年1月に締結。 FCシステム、スポーツカー、軽量化分野で協業し、次世代リチウムイオン電池、リチウム空気電池技術の共同研究も行っている。

FCシステム BMWはトヨタと2020年を目標に、FCスタック・システムをはじめ、水素タンク、モーターやバッテリーなどのFCVの基本システム全般の共同開発や、水素インフラの整備や規格・基準の策定に向け協力している。
BMWのFCVプロトタイプ(2015年公開:5 Series GTベース)の、燃料電池スタックはトヨタ製が採用されている。
スポーツカー 両社は、ミッドサイズのスポーツカーのプラットフォームの共用を図る。それぞれ、トヨタ スープラ後継、BMW Z4後継となり2018年に発売の予定。
軽量化技術 強化樹脂など先端材料を活用したボデー構造の軽量化技術の共同開発を行う。成果は共同開発している、上記のスポーツカーのプラットフォームや両社の他の車種にも織り込む予定。
次世代リチウムイオンバッテリー技術の共同研究 次世代リチウムイオンバッテリーの性能を向上させることを目的に、正極、負極、電解液の材料の研究を行う。
ポストリチウムイオンバッテリー技術   エネルギー密度や燃費の面で、現在のリチウム電池の性能を大幅に超えるリチウム空気電池の共同研究を行う。
自動運転技術ベンチャーへ共同出資 トヨタとBMW、保険会社Allianzはそれぞれの傘下企業を通じて、2016年10月、アメリカの自動車技術ベンチャー企業Nautoに出資(金額などは非公表)。Nautoは2015年創業で、車のフロントガラスに取り付けた小型カメラで運転手や周辺の環境を撮影して、クラウド上のAI(人工知能)が分析するシステムを作っている。今回出資した3社はNautoとライセンス契約を結び、同社のデータやシステムを利用する。

 

PSA

小型乗用車の共同開発/生産 トヨタとPSAは、チェコの折半出資の工場「Toyota Peugeot Citroen Automobile Czech」で2005年よりAセグメントの小型車の生産を行っている。現在生産しているのはToyota Aygo、Peugeot 108、 Citroen C1。
小型商用車の共同開発 また両者は、小型商用車を共同開発し、Toyota ProAce、Peugeot Traveller、Citroen Spacetourerとして2016年に発売。生産はPSAの工場で生産される。先代Toyota ProAceは2013年から、PSAからOEM供給を受けていた。


トヨタとスズキの主要アジア市場でのシェア

日本乗用車(除く軽)
市場規模:約275万台
日本軽乗用車
市場規模:約130万台
中国乗用車
市場規模:約2,400万台
日本乗用車
日本軽乗用車
中国乗用車
・トヨタグループが、プリウスなどで約半分の市場を押さえる。スズキは小型乗用車にも力を入れ始めている。 ・トヨタグループのダイハツとスズキは軽市場で長年シェアトップを争ってきたライバル。今回の提携の検討でも、スズキとダイハツの関係の整理は重要な論点となり得る。 ・世界最大市場の中国では、両者とも存在感は小さい。特に、スズキは2011年には2.1%のシェアがあったがその3分の1以下まで落ちている。

 

タイライトビークル
市場規模:80万台弱

 

インドネシアライトビークル
市場規模:100万台弱

 

インド乗用車
市場規模:約300万台
タイライトビークル
インドネシアライトビークル
インド乗用車
・トヨタはタイでもシェア第1位であるが、2015年からシェアは下落傾向。新型Pickup Hiluxが不振。 ・トヨタ/ダイハツで市場の半分以上を占める、現地で人気のMPVで大きなシェアを獲得している。スズキは2014年まではシェア第2位であったが、ホンダに抜かれ現在シェア第3位。 ・スズキが半分近いシェアを占め、圧倒的な地位を占める。トヨタは上級車では一定の地位を確保しているが、市場の大きい低価格車・小型車に課題がある。

資料:MarkLines Data Center
(注):シェアは、タイとインドネシアは2016年1-8月の累計値で、その他は2016年1-9月の累計値。「市場規模」は各市場とも2016年の販売台数見通し(マークラインズ推計)。

 



(参考)トヨタとスズキの2016年度計画

 

販売台数:2016年度計画

(千台)

  トヨタ スズキ
日本 軽四輪 - 550
登録車 - 100
合計 2,240 650
海外 北米 2,880 -
欧州 950 232
アジア 1,470 1,888
その他 1,360 186
合計 6,660 2,306
合計 8,900
(10,150:注)
2,956

資料:トヨタとスズキの2016年度第1四半期決算資料より作成。
(注)中国での合弁会社の販売台数など非連結会社の販売台数を含めた車両小売販売台数。

 

2016年度 業績見通し

(億円)

  トヨタ スズキ
売上高 260,000 31,000
 (日本) - 10,300
 (海外) - 20,700
営業利益 16,000 1,800
営業利益率 6.2% 5.8%
純利益 14,500 930
設備投資 13,400 2,200
研究開発費 10,700 1,400
想定為替レート
(1米ドル)
102円 105円

資料:トヨタとスズキの2016年度第1四半期決算資料より作成。

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キーワード
トヨタ、スズキ、提携

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