※英GlobalData社 (旧LMC)のアナリストによるショートレポートをマークラインズが翻訳したものです。
・過去の実績は、米大統領選の結果が世界のトラック市場に与える影響について、長期的には不確実性をもたらすものの、短期的には大きな影響を及ぼさないことを示している。しかし、中長期的には、トランプ氏の再選により、特に排出ガス規制、貿易、米国製造業に対する政策を通じて、大きな影響を与えることになると予想される。
・環境規制に関するトランプ大統領のこれまでのスタンスは、カリフォルニア州に対して大気浄化法(Clean Air Act)に基づく排出要件よりも厳しい基準を設定することを認めた権限撤廃を含め、排ガス基準の緩和を推進することを示している。第2期目のトランプ政権下でも同様の措置がとられる可能性が高く、重量級車両に関する排ガス基準の緩和や実施の延期、ゼロ・エミッション・トラックへのインセンティブの縮小などが考えられる。そうなれば、世界中のトラックメーカーが、特に米国の需要によって影響を受ける市場では、排ガスに焦点を当てた投資を再考するかもしれない。
・米国で規制圧力が緩和されれば、ゼロエミッション車(ZEV)技術の普及が世界的に遅れる可能性がある。トランプ大統領の政策が、従来のディーゼルやガソリントラックを電気自動車(EV)や燃料電池(FCV)トラックより優遇するものであれば、世界のメーカーは(とりわけ米国の輸出市場と連携する場合)、ZEVの研究・生産に向けた投資を見直すことが予想される。
・トランプ大統領の過去の貿易政策には、世界の自動車サプライチェーンに影響を与える関税の上乗せ・見直しが含まれていた。新しい「アメリカ・ファースト」を主張しての製造業を保護するアプローチは、関税の導入や米国内生産への支援によって、世界大手のトラックメーカーや部品サプライヤーに影響を与える可能性がある。
GlobalDataの予測の変更
- 第3四半期の見栄えのしない結果を受け、10月にEUにおけるトラック生産台数見通しは下方修正された。2025年の通年見通しもまた若干下方修正された。その結果、EUにおける2024年通年のトラック生産台数は前年比24%減、2025年はわずか4%増にとどまると予想される。これらの数値は、米大統領選挙の結果が出る前に調整されたものである。
- 米国の選挙結果を受けた調整として、GlobalDataは中国におけるトラックの生産見通しを下方修正した。これはトランプ政権の報復関税が中国の輸出に悪影響を及ぼし、トラック需要の主要な原動力のひとつである工業生産全般にも悪影響を及ぼすという前提に基づく。
北米への影響
- 北米におけるトラック生産見通しは、12月に調整が入る可能性が高い。
- 乗用車および小型トラックに対するEPA27の排ガス規制(2027年型車から適用)が現段階で撤回される可能性は低い。EPA27は第1期目のトランプ政権下に公布され、もはや技術的に強制するようなものではないため、この影響による混乱はあまりないと予想される。
- しかし、重量級車両を対象としたガス排出基準フェーズ3 (GHG 3)の撤回リスクは大きい。さらに、大気汚染防止法に基づき独自の排出基準を設定するため策定主体であるカリフォルニア州大気資源局(CARB)とその独自権限に対し、異議を唱える取り組みが再開されるリスクも大きい。
- GlobalDataのモデリングによると、ZEV車両への移行はICE車両に回帰する場合と、コスト的に同等か、それに近い水準にある。ZEVの普及は、特に重量級車両セグメントでは、よりゆっくりと進むかもしれないが、厳しい規制がなくても、導入は拡大し続ける可能性が高いとみている。
欧州への影響
- 特に、ドイツの三党による「信号連立」が崩壊し、キリスト教民主同盟(CDU)のフリードリヒ・メルツ党首が首相候補として、総選挙が2025年2月に行われる可能性が高い。英国のスターマー首相も、ネット・ゼロのスケジュールを修正するよう強い圧力を受けるだろう。
- ウクライナ: 戦争が早く終焉する可能性は依然として低いが、和平交渉がどのような形で実現したとしても、主にエネルギーコスト、サプライチェーン、地域の安定への影響を通じて、欧州のトラック産業に大きな影響を与えることは間違いない。
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