分析レポート カーナビゲーションシステム (日本・欧米市場編)

1. カーナビゲーションシステム周辺の現状と今後

1. はじめに、本稿が取り上げる市場である日本、米国、欧州においてカーナビゲーションシステム機器(以下、カーナビ機器と称す)の実情が異なるため各地域について簡単に述べる。傾向として日本市場はオーディオやDVD/Blu-rayプレイヤーなどカーナビ・テレマティクス以外のエンターテインメント機能も備えたカーナビ機器が主流となっており、欧米市場ではインターネット機能・ナビ機能とエンターテインメント機能を統合したIVI(In-Vehicle Infotainment)機器が主流となっている。

1. 日本市場: 従来、純正カーナビはアフターマーケット品と同様にDVDやHDDにストレージされた地図データを使用しGPSを利用したカーナビ機器単体としての機能が主流であったが、機能面ではアフターマーケット品に劣る部分も多くアフターマーケット品の後塵を拝してきた。
   近年では、純正品ならではのテレマティクス対応をほぼ標準化し、Bluetooth対応やUSB接続ポートの装備、テレビやDVD/Blu-rayムービー再生などのアフターマーケット品が売りとしていた機能の充実や低価格化を図りながら進化を続けている。さらにはアフターマーケット品では対応できない駐車支援などの車載カメラ連携機能や事故発生通知などの車両情報連携などで純正装着が優勢な構図に変化してきている。後述の欧米市場とは異なり、カーナビ機能を主体としたカーナビ機器というハードウェアの形態が主体となっている。

1. 米国市場: 従来、米国市場に広く普及していた市販PNDがカーナビの主力であり車載カーナビ機器の普及は日本市場に比べると鈍い状況であった。
   近年の車載カーナビ機能は、日本市場で発展してきたカーナビ主体機器の普及ではなく、欧米系自動車メーカー、日系ではトヨタ自動車が積極的に進めているIVIを機器サプライヤー、インターネット企業、各種情報サービス企業などと連携をして展開し、カーナビ機能については一つの機能(アプリ)としての「カーナビ」に急速に移行してきている。このためカーナビ機器としては、IVIに組み込まれるカーナビボードやハードウェアとしては実態が無いカーナビアプリとなっており、カーナビ機器というものが日系自動車メーカー純正品を除けば縮小の方向にある。
   また、KT法(Kids Transportation safety act)にともない2015年から販売される新車への搭載が義務化されるバックモニタ機器として、リアカメラとともにドライバー席へのディスプレイ搭載が必要とされることから、車載オーディオ機器にディスプレイを備えたDA(Display-Audio)が標準装備化されつつある。このDAの多くはスマホ内にあるナビアプリを映し出す機能もあり、またスマホの通信機能を使いDAへの追加オプションとしてのナビ拡張機能も考えられている。

1. 欧州市場: 日本市場の多くはナビ専用スイッチによる操作、米国市場ではタッチディスプレイ操作が主体である。一方、欧州市場ではディスプレイを有したカーナビは一部の高級車に標準搭載されている以外はそれほど普及しておらず、米国市場のようなクラスターセンター部での操作ではなく、ドライバーが前方より視線を外すことがなく操作が出来るよう、例えばBMW車搭載のiDriveコントローラーのような多機能スイッチの組合せ、クラスタメーター周辺に設けられた必要最小限の情報を表示する小型ディスプレイによるIVIが主体となっている。

1. 地図データはCD-Rから大容量HDDへ発展してきたが、大容量を求めないシステムの場合は耐久性や動作速度を鑑みSSDや低価格なSDカード式が増加してきている。
   また、前述のスマートフォンとの連携により車載機器に地図データを持たない完全オフボード型ナビも可能であるが、通信困難な環境下における安全性を鑑みたナビ機能を維持するには、車載システムへの地図データのストレージは当面必要とされると考えられる。

2. 本稿でのカーナビの定義

1項で述べたように純正ライン装着品であってもカーナビシステムの形態が移行過渡期であり、本稿においてカーナビ機器メーカーを定義する場合に、ディスプレイや機能スイッチを一体化したカーナビ機器本体を製造するサプライヤと、IVI機器の中の一機能としてのカーナビ機能を司るカーナビボードのサプライヤとがある。(カーナビアプリの場合はカーナビ機器としての実態が無いため本稿では言及しない。)よって本稿では、ライン装着品における従来の単体機器カーナビを主に扱い、IVI等のカーナビ単体機器以外の場合はIVI機器またはカーナビボードのサプライヤとして記載する。

3. 主要カーナビゲーションシステム機器メーカーの世界展開

カーナビゲーションシステムが車載カーナビ機器として普及が先行していたのは日本市場であり、現在でも日本市場では車載カーナビ機器が主流である。一方、欧米市場はカーナビ機能が主体のカーナビ機器が普及することなくIVIならびに米国市場ではDAの普及が加速してきている。本項ではこの市場特徴性を踏まえ、前項の定義に沿って主要カーナビ機器メーカーについて概要を述べる。

1) 日本市場

アイシンAW

ライン装着に特化し、トヨタ向けライン装着ナビではトップシェアであり、トヨタ・富士重のほかフォルクスワーゲンやアウディなどフォルクスワーゲン・グループへ納入を行っている。日本国内シェアではクラリオンとトップの座を競っている。また富士通テン、アルパインなどAV主体のメーカーにナビボード(カーナビエンジン部分)を供給する。AV一体ナビについては逆にAVメーカーよりオーディオ部分の供給を受けている。

アルパイン

日本ではホンダへのライン装着ナビの供給主体である。欧州・北米・中国など海外メーカー向けが多く、BMW、ベンツの日本市場仕様車には、ライン装着採用されている。ディーラー装着ナビではマツダ、三菱向けに純正指定されている。ナビエンジン部分はアイシンAWが供給。中国の市場ニーズに対応するため開発機能の現地化を進めている。

クラリオン

ディーラー装着ナビを含めるとトヨタを除くすべての日系カーメーカーにナビを供給しており、日本市場ではアイシンAWとシェアトップの座を競っている。ライン装着については、日産の日本市場向けは100%に近く、三菱、ホンダ、ダイハツ、スズキ、アウディへも供給を行っている。一方、ディーラー装着ナビではホンダ向けの割合が多い。グローバル戦略を進めるため、中国やアジア、中南米での生産や開発体制を強化する方針で、中国を低コストでカーナビを生産・開発する中心拠点とし、タイには新工場を2012年より稼働し、インドではカーナビと車載オーディオの現地生産を検討中。提携では2013年に米グーグルと音声認識と検索技術に関する契約を締結し、クラウドサービス「スマートアクセス」を通じてグーグルの音声検索を利用する目的地検索機能「インテリジェントボイス」に、自然対話型の音声認識を付加するものである。

JVCケンウッド

富士重向けのライン装着ナビ納入のほかに、マツダ、三菱など各社にディーラー装着用を供給している。自社生産しないナビエンジン部分と自社生産のAV部分について、デンソーと相互供給を行っている。低価格帯のナビについては海外メーカーと共同開発している。

デンソー

アイシンAWと同様にライン装着を主体としており、トヨタ向けではアイシンAWとシェアを分けている。しかし、アイシンAWと異なりディーラー装着ナビもトヨタ向けを主に有している。インド、ブラジルにテクニカルセンターが開設され製品開発の現地化を進めている。
提携では、2013年9月にスマートフォン(スマホ)の連携を図るテレマティクスサービス「ARPEGGio(アルペジオ)」の拡充に向け、インターネット検索大手のヤフーと協業すると発表した。また、2012年3月には、3次元画像の生成・解析技術を活用したソフトウェアやサービスなどを提供している株式会社アイネットより3D事業部を買収することで合意したと発表。

パイオニア

ホンダ向けにライン納入をしているが、市販での知名度をいかして、広くディーラー装着用に採用されている。2009年に中国におけるカーナビゲーションビジネスの拡大を目的に上海汽車工業(集団)総公司との合弁会社を設立。三菱電機とカーナビゲーションシステム開発における業務提携関係を強化。

富士通テン

ナビエンジン部分は、アイシンAWやデンソーより供給を受け、自社にてAV機能を追加している。ディーラー装着が主体だが、トヨタ・ダイハツへはライン装着ナビを供給している。

パナソニック

2013年4月にオートモーティブシステムズ社を母体にパナソニックオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社(AIS社)が発足。
市販・ディーラー装着が主体であるが、前述のAIS社発足後はライン装着ナビにも力を入れており、日本国内ではトヨタ・マツダへナビ機器を、海外ではGMとの共同開発したIVIをChevrolet・Holden向けにはMyLinkを、Buick/GMC/Opel向けにはIntelliLinkを生産している。

三菱電機

ライン装着ナビは従来よりホンダ・三菱向け、ならびにメルセデス・ベンツの日本向け一部車種に採用されている。さらに近年では、Volvoの次世代カーインフォテインメントシステム戦略的パートナーとして選ばれ、2013年11月以降に発売されるVolvoの全ての車両にナビ機能を含むシステム機器が搭載されている。中国でのカーマルチメディア製品強化のため、開発・製造・販売を行なう子会社を2012年5月より、また第一汽車(FAW Group)傘下の会社との合弁で開発・設計・製造・販売会社を同年1月より稼働を開始した。

Bosch

欧米系メーカを中心としたOEM供給であったが、日産の北米市場のテレマティクスサービス「Nissan Connect」対応のSDナビユニットを受注したことによりクラリオンの対日産北米ビジネスのシェアを取り始めている。

Continental

08年モデルよりVWの一部車種にライン装着されているほか、Motorola社の車載ビジネスを買収したことによりTCU(Telematic Control Unit)の世界的なサプライヤとなっている。

Harman Becker

インターネットラジオサービスなどを有し以前より欧米系へOEMビジネスを有していたが、トヨタ北米向けEntuneユニットのビジネスを獲得したことにより日系OEMへの進出も成功し、アイシンAWやデンソーの対トヨタ北米ビジネスのシェアを取り始めている。

2) 米国市場

3) 欧州市場

1) 日本市場

メーカー: トヨタ

メーカー: 日産

メーカー: ホンダ

メーカー: マツダ

メーカー: 三菱

メーカー: スバル

メーカー: ダイハツ

メーカー: スズキ

2) 北米市場

3) 欧州市場

聞き取り調査ほか

日本企業

欧米企業

各社広報資料等から作成

<自動車産業ポータル マークラインズ>