次世代エンジン開発

止まらない進化、マツダのこだわり

2016/02/04

要 約

2015年人とくるまのテクノロジー展
(マツダ資料から)

 2016年1月13日から3日間、東京ビッグサイトにて第8回AUTOMOTIVE WORLD2016が開催された。展示会では昨年より145社増加、781社が自動車用部品等を展示。同時に各種専門セミナ-、記念講演が多数開催され、自動車の軽量化、デザイン、電動化、エンジン技術、センサー技術等のトピックスが議論された。本稿はセミナ-「次世代エンジン開発 止まらない進化」(Auto-7)の内容から内燃機関の将来動向を報告する。


 2020年以降も自動車用の内燃機関は進化を続け、欧州・米国・中国・日本で継続して使われていくと予測されている。地球温暖化抑制の為、自動車からのCO2排出量の削減、熱効率の高いディーゼルエンジンの活用とその排気処理課題、排気試験モードと実走行問題、HCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)は本当に実現できるのか?、日米欧で異なるハイブリッド車及び電動化の行方、究極と言われるFCV(燃料電池車)等、自動車用の内燃機関を取り巻く課題は際限がない。

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内燃機関の進化

 乗用車用エンジンは2025年以降もハイブリッド用も含め進化を続ける。今後も内燃機関が主要な動力源であることにまちがいはない。メインはガソリンエンジンで直噴化と過給が進む。ディーゼルも進化しながら2015年時点とほぼ同数が残る。

AVL資料AVL資料
(AVL資料:2016Automotive worldセミナauto-7より)

 



日米欧中で異なるハイブリッド車及び電動化

AVL資料
(AVL資料:2016Automotive worldセミナauto-7より)

 2025年頃にはハイブリッドシステムが増加し日本では乗用車生産台数の約50%、米中で約15%、欧州で約30%の比率となる。各地域の生産台数は日本で約500万台(1/2フルハイブリッド)、欧州約400万台(3/4マイルドハイブリッド)、米国約300万台(2/3フルハイブリッド)、中国約800万台(3/4マイルドハイブリッド)。マイルドハイブリッドシステムの主流の電源電圧は日本を除き、48Vと予測されている。













マツダのアプローチ

 マツダのSKYACTIVは第2世代、第3世代への研究を意欲的に進めている。欧州勢がダウンサイズターボを進める中、独自路線にこだわる。電動化やダウンサイズターボシステムは原則として採用しない。その理由は実用燃費の悪化と製品コストが高いからだという。圧縮比を現状14から20~30へと高め、均質リーンバーンなどにより計算上熱効率50%の可能性が見えてきている。SKYACTIV進化の方向性は①ターボは付けず排気量を大きく②圧縮比はさらに上げ③均質リーンバーン④気筒停止(低負荷域)⑤冷却損失低減がポイントになる。

 セミナ-「次世代エンジン開発 止まらない進化」の中でマツダ(株)常務執行役員人見光夫氏は個人的見解としながらも:

●現時点で世界の主流は過給ダウンサイジングだがマツダは排気量落とさず、無過給のまま高圧縮比化(むしろ排気量は拡大)する。

●ドイツの年間平均走行距離で4Lカー(燃費4L/100kmの車)が排出するCO2量はほぼ電気自動車のWell to Wheel CO2発生量 (発電時)と同じであり、電気自動車を増加させるより内燃機関を搭載した車の燃費を改善すべき。

●PHEVはモード燃費が良く優遇されるが、実走行燃費との乖離が大きい。

●減税や免税を排気量で決める国がまだ多い。

 と述べる。

 

カタログ燃費の乖離(大きい排気量で圧縮比を上げ軽負荷運転するのが合理的)

ダウンサイズターボ車
(マツダ資料からMarkLines作成)
 欧州カタログ燃費と実用燃費(ADAC ECO test燃費)の相関をとるとダウンサイズターボ車はカタログ燃費からの乖離が15-20%でる。ハイブリッド等の電動車ではその乖離が15-45%まで大きくなる。マツダのSKYACTIV-G(2.0L)は乖離は少ない。これはダウンサイズターボ車やハイブリッド等の電動車は認証試験モード時はエンジンやモーター効率が良い所を使えるが一般走行になると車速が早くなり、燃費効率が悪くなる為。

 

実用燃費の目標値(30%の改善が目標)

Well to wheel CO2 削減の見通し
(マツダ資料から)
 ガソリン車の燃費を25%程度低減出来ればWell to wheel CO2発生量で電気自動車と同等となる。実際、マツダの1.3Lガソリン車実験結果でも電気自動車と比較すると26%低減すればいいという結果が得られている。つまり目標として30%の改善を進める。

 

熱効率の改善

熱効率改善
(マツダ資料から)

 

 現状SKYACTIVから燃焼期間を短く空燃比を4までリーン、圧縮比を20~30、壁冷却損失を半減すれば、シミュレーションでは50%の熱効率まで改善する余地がある。

 

【熱効率改善の道のり】

軽負荷:2000rpm-IMEP290kPa

現状 ステップ1 2 3 4
燃焼期間 ガソリン 75deg 30deg
ディーゼル 40deg
図示比熱比 ガソリン λ=1均質 ← ← λ=4均質
ディーゼル λ=2.8層状 λ=2.8均質
圧縮比 ガソリン 14 ← ← ← ← 20 30
ディーゼル
壁冷却損失 ガソリン ベース ← ← ← ← ← ← 0.5*GE
ディーゼル
吸気弁 閉時期 ガソリン 93deg下死点後 ← ← ← ← ← ← ← ←
ディーゼル 36deg下死点後

(マツダ資料:2016Automotive worldセミナauto-7より)

 

熱効率改善
(マツダ資料から)

 

 ダウンサイズターボは低負荷は燃費がいいが高負荷になると排気量大にかなわない。

 

(1500rpm 95RON)
排気量に対する考察

 

 2Lの現状SKYACTIVをベースとして進化させるとダウンサイジングは将来の均質リーンバーン高圧縮比の進化を考えると好ましくない。むしろより大排気量にして広いリーン領域を確保した方がいい。

 

【排気量に対する考察】
過給ダウン サイジングエンジン 1L or 1.4L ベース大排気量 2L より大排気量 2.5L
出力性能 同じとする
効率 最悪 狭いリーン領域 ベース 最良 広いリーン領域
NOx 最大 最も高負荷運転 ベース 最低 最も軽負荷運転
コスト DEの場合 最も高い turbo,intercooler 高価な後処理 ベース 最低 最も軽負荷運転 廉価な後処理
(マツダ資料:2016Automotive worldセミナauto-7より)

 

 



AVLの予測(AVL List GmbH Powertrain Systems Passenger Cars:上席副社長G Fraidl博士)

AVL資料
(AVL資料:2016Automotive worldセミナauto-7より)

 VWのディーゼル排気問題に端を発し欧州では実走行(RDE:Real Driving Emission)時の排気規制が政治問題化している。実際、認証試験をパスした車でも実走行するとNOx(窒素酸化物)値が大きくなる。これは認証試験の試験温度や走行パターンが異なる事などが原因だが、欧州ではRDE規制が2018年頃から導入されようとしている。

 上図の赤点はディーゼル車でNOx CF値(ConformityFactor=適合係数=RDE値/認証試験値)が6から20位と大きい。一部のガソリン車(青点)も12の車もある。したがって欧州では認証試験パターン変更(より車速が早くなる)とRDE対応(実路走行時の排出ガス測定)が行われる為、エンジン燃費の良い所(スイートスポット=2000rpm近傍の軽負荷運転領域)を多く使いながら、モーターなどで高速時は不足分を補助するパワ-トレンの「電動化」(Hybridや補機類の電動化)と「エンジン排気量の適正化」が必要となってくる。

 AVLは2020年以降のガソリンエンジンの主流技術は

(燃焼システム):直噴理論空燃比運転、アトキンソン、ミラーサイクルが主流、HCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)は不透明
(空気マネジメント):可変動弁、気筒停止、クールドEGR
(過給システム):固定ジオメトリーターボ
(後処理):ガソリン用GPF(Gasoline Particulate Filter) と予測している。

 

AVL資料
(AVL資料:2016Automotive worldセミナauto-7より)

 

 



止まらない進化

 2020年以降も自動車用の内燃機関は進化を続ける。VW問題で欧州メーカーは電動化の拡大に舵をきるが、そもそも熱効率が高いディーゼルエンジンはなくならない。その排気処理課題を長年産官学一体となって研究している。産学連携は欧州の歴史が古いが、日本でも2014年にAICE(後述)が結成され研究の推進が期待されている。HCCIは本当に実現できるのか?マツダの圧縮比30の世界はシミュレーションだが、ポテンシャルは理解できるが、いつ実用化するのか?目が離せない。

AICEについて(AICE運営委員会委員長:松浦浩海氏提供)

 経済産業省の後押しで欧州の産学官コンソーシアムを手本に内燃機関に関する産学官連携体制が日本でも2014年に設立されている。内燃機関に関する産学官連携は欧州に古い歴史がある。ドイツOEMとアーヘン工科大学をはじめ広範囲なコンソーシアムが欧州には存在し、研究成果が産学で共有されている。

AICE概要
名称 自動車用内燃機関技術研究組合 The Research association of Automotive Internal Combustion Engines 略称:AICE(アイス)
設立年月日 平成26年4月1日
理事長 大津 啓司(本田技術研究所 常務執行役員)
組合員 いすゞ、スズキ、ダイハツ、トヨタ、日産自動車、 富士重工業、本田技術研究所、マツダ、三菱自動車工業、   国立研究開発法人産業技術総合研究所、(財)日本自動車研究所 (9企業2団体)
事業の概要 内燃機関の性能向上技術の基礎・応用研究
主な事業 ●経済産業省 平成27年度「エネルギー使用合理化先進的技術開発費補助金   (クリーンディーゼルエンジン技術の高度化に関する研究開発)   (事業費:7.5億円 うち補助金5億円)」 ●内閣府主導SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の中の1テーマ   (革新的燃焼技術の研究)   実施大学と連携し研究(予算規模は約20億/年(2014年度))

 

AICE2014年度研究成果概要

 

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>