人とくるまのテクノロジー展2015:Post2025年の乗用車用パワートレーンの主流は?(日本メーカー編)

トヨタ、日産、ホンダ、マツダが考える内燃機関の将来技術

2015/06/15

要 約

 人とくるまのテクノロジー展2015(於パシフィコ横浜、2015年5月20~22日)の自動車技術会2015年春季大会フォーラムで、「Post 2025年の乗用車用パワートレーンの主流は?」と題して、産官学の各方面から講演があった。今回その中から、自動車メーカー4社の講演内容を紹介する。

 背景には、大気汚染、地球温暖化への対応として、今後CO2 削減の必要性がさらに高まり、そのために様々な手段を講じていく必要が生じている。そういった状況の中、パワートレーンの将来像としては、4社ともにEV、PHVが増加していっても依然として内燃機関がなくなることはないとしている。したがって、内燃機関のCO2 削減は、将来にわたって継続的に進めていかねばならない重要な技術課題である。今回の講演での、自動車メーカー4社が考える将来の内燃機関の技術の方向性を解説する。

 
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自動車を取り巻く環境・エネルギー問題はさらに大きくなっていく

環境エネルギー問題
資料:本田技術研究所

 以前は都市部の排気ガスによる大気環境汚染が問題であったが、現在はグローバルな環境問題として、CO2等温暖化効果ガスによる地球温暖化に対する取り組みが始まっている。さらに再生可能なエネルギー問題の対応が課題となっており、今後、この問題はさらに大きくなっていくことが予想されている。

 

 



各国の燃費法規動向

各国の燃費法規動向
資料:本田技術研究所

 環境・エネルギー問題への対応として、各国で燃費規制強化が進められており、CO2削減が必須課題となっている。現在規制強化は欧州が先行しているが、全世界で同様の取り組みが求められていく。乗用車に対する規制値は、欧州では2021年に95g/kmとする目標値が設定されている。さらに2025年には68~78g/kmという厳しい目標値案が提案されている。

 

 



内燃機関は当分なくならない

 IEAによる乗用車の新車台数予測(下図)によると、電動技術による車の普及率は、今後さらに進んでいき、2050年には大半の車が電動技術による車となり、純粋な内燃機関だけで走る車は全体の10%程度までになってしまう。ただし、純粋な電動車であるEV、FCVの普及は、2050年になっても半数にも満たない。HEV及びP-HEVが増加し続けていくが、それらの車には依然として内燃機関が搭載されている。言い換えると内燃機関を搭載する車両が2050年になっても、半数以上である見込みである。したがって、内燃機関の燃費向上の追求は当分続けていく必要があることわかる。今回の4社の講演では、自動車の将来を考える上での、この前提条件は共通している。続いて、4社の考える将来のパワートレーンについて、紹介する。

電動化車の将来比率予測
資料:日産自動車

 

 



トヨタ:将来の自動車用パワートレーン技術開発の方向性

友田晃利氏 将来エンジンのキー技術
トヨタ自動車 ユニットセンター エンジン先行設計部 部長 友田晃利氏 資料:トヨタ自動車

 

 トヨタ自動車からは、ユニットセンターエンジン先行設計部の部長、友田晃利氏が「将来の自動車用パワートレーン技術開発の方向性」について講演した。

 トヨタは将来エンジンのキー技術は、熱効率の向上、燃料対応、走りの性能向上のそれぞれの課題に対し、①リーンバーン、②可変圧縮比、③燃料改質の3つが重要なキー技術になるとしている。

過給リーンバーンによる最高熱効率向上
資料:トヨタ自動車

 現行プリウスのクールドEGRに対して、大量クールドEGRによってNAエンジンの改良を進めているとのことである。さらに熱効率40%以上を狙っていくためには、燃焼促進、冷却損失低減そして、過給リーンバーンが有効であるとしている。これらの技術を組み合わせることで、既に最高熱効率44%という実験結果を得ているとのことである。

可変圧縮比による効率向上
資料:トヨタ自動車

 可変圧縮比は、低負荷域と高負荷域で圧縮比をそれぞれの状況に合わせた最適値に変えてやることで、高効率で走れる領域を拡げることができる。

 可変圧縮比を実現する方法として、図に示すように、マルチリンクメカニズム(ダイムラー)、デュアルピストンメカニズム(ホンダ)、可変長コンロッド(FEV)、可変圧縮比シリンダーヘッド(SAAB)等があり、トヨタも多くのアイデアを試しているという。

燃料改質による効率向上
資料:トヨタ自動車

 燃料改質について、豊田中央研究所が研究成果を2011年に発表している。EGRシステムで排気ガスを再循環させる際に、排気ガスに燃料を加えることで改質して燃焼室に送り込む。これにより、燃焼を速くして熱効率を向上する。

 友田氏は、2025年においても、エンジンがパワートレーンの主流であるという。そして、各地域ごとのお客様の要求、エネルギー事情に応じたパワートレーンの提供が必要で、そのためには、最高熱効率の向上、高熱効率領域の拡大、燃料多様化対応などが、エンジンに求められている。トヨタは過給リーンバーン+燃焼制御、可変圧縮比、燃料改質等により、高熱効率化+多燃料対応を進めていくという。

 

 



日産:あと100年、内燃機関が戦うために今やるべきこと

平工良三氏
日産自動車 パワートレイン技術開発本部 パワートレイン先行技術開発本部 アライアンスGM 平工 良三氏

 日産自動車からは、パワートレイン技術開発本部、パワートレイン先行技術開発本部、アライアンスGM 平工良三氏が「あと100年、内燃機関が戦うために今やるべきこと」について講演した。日産自動車は、EVが将来の自動車技術の主流を担う可能性を秘めているものの、一気にEVに置き換わることは難しく、内燃機関をベースとするパワートレインの更なる進化は依然として重要であると考えている。

 

内燃機関の熱効率の進化
資料:日産自動車

 次の100年、内燃機関が進化し続けるとしたらどのような性能を達成しているかを想定してみる。上図は現在までの100年間に熱効率がどのように進化してきたかを示している。18世紀から19世紀にかけては、熱効率の向上の変化を直線で結ぶとグラフの傾きは小さい。次に18世紀後半から、現在の直近50年にかけての熱効率の変化を直線で結ぶと、大きな傾きで向上が続いていることがわかる。大胆な予測ではあるが、仮に、この傾きのまま次の100年考えると、2100年頃には熱効率60%を達成できることが期待できるという。

 

内燃機関の熱効率が60%を達成している状態
資料:日産自動車

 内燃機関の熱効率が60%を達成している状態を、圧縮比と冷却損失で想定すると上図の熱効率マップ(図中の色ごとの数字熱効率)が描けるという。高圧縮比化だけでは大きな熱効率向上は望めないが、冷却損失の削減と高圧縮比化を合わせて進めることで、熱効率を向上できる可能性があるとしている。

 冷却損失の進化の方策は、高応答遮熱膜、断熱材などが考えられる。圧縮比の革新は、超リーン状態で薄い混合気をきちんと燃焼させるために、混合気を攪拌してよく混ぜて燃え残しがないようにする希釈燃焼(含むHCCI)、水素添加、燃料改質、可変圧縮比機構などが考えられる。

 

ガソリン車の平均燃費推移 10-15モードを100km/Lで走るとは
資料:日産自動車 資料:日産自動車

 ガソリン乗用車の平均燃費(10-15モード)の20年間の推移をみると、年率平均2.5%向上し続けている。仮に、この進化がこのまま続けば、乗用車の平均燃費は2080年頃には100km/Lを超えることが予想される。

 ここで、100km/Lという数字が持つ意味がどれほどすごいものであるかを解説すると以下のようになる。10-15モード(4.16km)を走行した場合の燃料消費量は42ccとなる。42ccのガソリンが持つ熱エネルギーは約1.5MJである。これは50kgのアルミニウムを30℃昇温させる熱量にすぎないのである。つまり、熱エネルギーを運動エネルギーに変換する効率以前に、内燃機関本体を温めるだけで、ガソリンの熱エネルギーを消費してしまう、という計算結果である。すなわち、将来の燃費向上は、暖気で消費する熱量も極限まで削減することが重要だという。

組むべき技術開発
資料:日産自動車

 平工氏は、今取り組むべき技術開発を以下のようにまとめた。継続的な究極熱効率の探究として、冷却損失を低減するために高応答遮熱膜、断熱材等の技術開発、高圧縮比化を進めるために超希薄燃焼(含むHCCI)、水素添加等の技術開発、超高膨張比を実現させる可変圧縮比機構の技術開発が必要であるという。また、熱容量の徹底的な削減として、軽量化のために軽量材料を大量に適用可能にする新構造や新たな高強度材の開発、暖気に必要な熱量削減のために、断熱部材や膜による燃焼室の断熱化、熱伝導可変、指向性可変部材の開発、低温燃焼技術の開発が必要であるという。

 

 



ホンダ:内燃機関技術開発の現状

松尾歩氏
本田技術研究所 四輪R&Dセンター パワートレイン戦略担当 執行役員 松尾歩氏

 本田技術研究所から、四輪R&Dセンターパワートレイン戦略担当の執行役員松尾歩氏が、「内燃機関技術開発の現状」について講演した。

 

燃費向上の攻め所
資料:本田技術研究所

 燃費向上の攻め所として、4つのポイントを挙げている。まず1つ目はエンジンの熱効率の向上である。熱効率の攻め所としては、高圧縮比化、廃熱回収、低温燃焼、断熱等がある。2つ目は駆動系の伝達効率向上と変速レシオレンジ拡大である。3つ目は車体の走行エネルギー低減である。最後は電動化技術で、HEVシステム効率向上とコンベ車の減速エネルギー回生であるという。

 

内燃機関進化の方向性
資料:本田技術研究所

 燃費と走りを進化させるための内燃機関進化の方向性は、熱効率向上、廃熱回収と出力密度向上をそれぞれ進化させていくことである。リーン(希薄燃焼)と過給、そして大量EGRを使った希釈燃焼(シリンダー内での混合気を攪拌してきちんと燃焼させる)の技術がキーとなっていくと考えられる。ホンダはスパーク点火と予混合圧縮着火燃焼を融合させたHLSI(超希薄予混合燃焼)で、低NOxリーンバーンによる熱効率向上を狙っている。

軽量化が軽量化を生む
資料:本田技術研究所

 パワートレインのダウンサイズにより、ボディの軽量化を推進し、さらなる軽量化としてシャシー関係コンポーネントのダウンサイズと適正化を行っていく。その結果、車全体が軽くなることで、パワートレインのダウンサイズを行うことが可能になり、軽量化の正のスパイラル効果を生み出していくことができる。

 松尾氏は、今後EV・FCVの販売比率は増加していき、電動化に向けての技術開発も重要であるが、電動社会、水素社会には課題もあるという。したがって、世界的な自動車需要の拡大に伴い、2040年頃までの内燃機関を搭載する自動車は増加し続け、内燃機関の進化がCO2低減のキーとなるという。

 

 



マツダ:乗用車用内燃機関の進化構想について

山本寿英氏
マツダ 技術研究所 次世代パワーソース研究部門 部門統括研究長 山本寿英氏

 マツダからは、技術研究所次世代パワーソース研究部門の部門統括研究長の山本寿英氏が「乗用車用内燃機関の進化構想について」を講演した。

 

燃費改善
資料:マツダ

 燃費改善は損失を低減することである。熱効率改善にあたり、低減すべき損失は排気損失、冷却損失の二つが大きな要素である。その他に機械抵抗損失、ポンプ損失がある。それら損失を低減するための制御可能な因子としては、圧縮比、比熱比、燃焼時間、燃焼時期、壁面熱伝達、吸排気工程圧力差、機械抵抗の7つがあり、全ての燃費改善技術はこれら7つの制御因子を改善していく取り組みとなるという。

 

3rd Step冷却損失低減
資料:マツダ

 ガソリンエンジンの1st Step SKYACTIV-Gでは高圧縮比化と遅閉じ(ミラーサイクル)と機械抵抗低減で燃費向上を行った。2nd Step SKYACTIV-Gでは、さらなる高圧縮比化、リーンHCCI、さらなる機械抵抗低減等で改善を進めている。ディーゼルエンジンは1st Step SKYACTIV-D及び2nd Step SKYACTIV-Dで、低圧縮比化、燃焼期間及び燃焼時期の最適化、荷重低減による機械抵抗低減等で改善を進めている。そして、3rd Stepでは、ガソリンもディーゼルも冷却損失低減が課題となる。結局、ガソリンもディーゼルも目指す方向は同じであると言える。

 

冷却損失低減のための現象解明
資料:マツダ

 冷却損失低減のための現象解明として、燃焼/伝熱連成解析、遮熱壁の瞬時熱流束、壁近傍ガス温/流速計測等について解析をおこなっているとのことである。境界層熱伝達解析、詳細化学反応計算、マルチスケール解析で、伝熱面積、熱伝導率、ガス温、壁温への影響を解析し、冷損低減のための現象解明をおこなっていくという。

 

燃費改善 Well-to-Wheel CO2削減
資料:マツダ 資料:マツダ

 マツダは1st STEP SKYACTIV及び2nd STEP SKYACTIVで、高圧縮比化+リーン化によって改善した燃費率に対し、3rd STEP SKYACTIVでは、冷却損失低減によりさらに大幅な燃費改善を目指している。

 SKYACTIVエンジンの最終ゴールは、車両走行仕事の低減と組み合わせて、1st stepに対し約半減を目指しており、Well-to-Wheel CO2の排出量が、EVと同等になるレベルである。

 

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>