ITS世界会議2014 デトロイト:CTOシンポジウムの概要

GM, Ford, トヨタ, ホンダ, 部品メーカーがITSの未来を討議

2014/10/06

要 約

 第21回ITS世界会議デトロイト2014は、2014年9月7日から11日まで米国ミシガン州デトロイトで開催された。この世界会議には様々な企業・団体から人々が参集し、ITS技術に関する最新情報を発表・議論した。交通業界は今、多くのシステムの開発や導入が進み、未来の新しい姿に向かって大きく前進している。

 本レポートは、主要自動車メーカーと部品メーカーの技術責任者が、ITSの実用化による影響とITSを市場に導入する前に解決すべき課題について論じたプレナリーセッションの概要を報告する。また、今後のレポートで、ITS世界会議2014に出展された製品や技術を紹介する予定である。

セッション:2025年におけるITSのビジョン
企業名 登壇者 役職名
Continental Ralf Lenninger氏 上級副社長、インテリア・エレクトロニック・ソリューションズ
Texas Instruments Ahmad Bahai博士 最高技術責任者 (CTO)
Visteon Tim Yerdon氏 グローバル・ディレクター・オブ・イノベーション
Ford James A. Buczkowski氏 ディレクター、グローバル・エレクトリカル/
エレクトロニック・システムズ・エンジニアリング
トヨタ Kristen Tabar氏 副社長、トヨタテクニカルセンター
ホンダ Frank Paluch氏 社長、ホンダ R&D アメリカズ
GM Jon Lauckner氏 最高技術責任者 (CTO)

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Delphi CEO:ITSの進展を阻む課題とは

 ITS世界会議2014のCTO(Chief Technical Officer)シンポジウムは、Delphi AutomotiveのCEO、Rodney O'Neal氏による問題提議から始まった。同氏は、完全な自動運転が普及するまでに解決すべきいくつかの課題を取り上げた。同氏の問題提議は、このプレナリーセッションおよび世界会議全体を通して討議される包括的なテーマに焦点を当てるものであった。


Rodney O'Neal氏
Rodney O'Neal氏  Delphi Automotive CEO


課題1:安全の確保と「つながる機能(connectivity)」の必要性とのバランス
 O'Neal氏が提議した最初の問題は、安全の確保と「つながる機能(connectivity)」の必要性とのバランスに関するものであった。技術の進歩により、現代の車はナビゲーションシステムやインフォテインメントディスプレイなど様々な機器を搭載する。その上、ユーザーのスマートフォンにも接続して、さらに多くの機能を利用することが可能である。しかし、車内で利用できる機器や機能が増加すると、運転中に注意散漫になる危険性も増加する。またO'Neal氏は、車内でインターネットに接続する機会が増えると、サイバー攻撃にさらされる可能性も増える、という問題も指摘した。従って、ITSが広く普及する前に、車載システムへの脅威に対処する必要がある。


課題2:ITSのインフラ整備
 O'Neal氏がオープニングスピーチで取り上げたもう1つのテーマは、ITSのインフラ整備の必要性である。様々なレベルおよび量の自動運転を支えるために、どのような種類のインフラがどれだけ必要なのか。カメラや障害物センサーのように自立して機能する車載機器がある一方で、V2I システムのように他の機器のサポートが必要な機器もある。議論すべき問題は、自動運転を有益なものにするためには、どんなインフラがどれだけ必要かということである。


課題3:価格とコスト負担
 O'Neal氏は、価格とコストの問題についても言及した。同氏は、完全な自動運転車が購入可能な価格になるまでにはどれぐらいの期間がかかるか、と問いかけた。大半の人々が高い価格のために自動運転車に手が届かないとすれば、自動運転の技術が社会に与える影響は大幅に減じられる。またO'Neal氏は、ITSの整備に必要な資金を出すのは誰かという疑問も投げかけた。ITS技術の進展および普及のために資金を提供すべき者として、同氏が挙げたのは、消費者、企業、政府、その他の組織、またはこれらの組み合わせである。


課題4:法政策
 最後に、ITSを実用化するために必要な政策について、懸念が表明された。たとえば、法政策では、自動運転に関する条項を追加しなければならないだろう。現在、車に関するすべての法的問題は、人が車を運転しているという仮定に基づいている。だが、自動運転が可能になると、この仮定が常に適用できるとは限らなくなる。その他の政策課題として、ITSによって保険がどのような影響を受けるか、また、自動運転のテストにはどのような法整備が必要か、等が挙げられた。


パネリスト
プレナリーセッションのパネリスト (演壇から右へ):Jon Lauckner氏,
Ralf Lenninger氏, Ahmad Bahai博士, Tim Yerdon氏, James A. Buczkowski氏,
Kristen Tabar氏, Frank Paluch氏, モデレーター:Jeffrey Owens氏

 

 



ITSの普及で生まれる部品メーカーのビジネスチャンス

Continental:"Internet of Everything" を利用した、交通事故を防止
 
Ralf Lenninger氏はプレゼンテーションの冒頭に「(ビジネスを行う)最良の方法は問題を解決することである」という信念を披露した。ContinentalはITS、具体的には "Internet of Everything" を利用して、交通事故を防止しようとしている。"Internet of Everything" とは、すべての機器が何らかの方法で相互接続されているシステムを指す。それを実現するために、ContinentalはCisco, IBM, Nokia HERE等と業界を超えて協力し、「つながる車 (connected car)」のシステムインテグレーターの役割を引き受けた。経済的なインパクトとインセンティブという意味では、"Internet of Everything" により、今後9年間で総額約14.4兆ドルが創出されると見込まれる。これは、Continentalにとって大きなビジネスチャンスである。


Texas Instruments技術の変化と車の電動化が加速化
 Ahmad Bahai博士は、車と交通システムを、よりスマートなものにすることが目標であると述べた。同博士がこの目標との関連で注目するのは、技術の変化と車の電動化が加速化していることである。たとえば、「つながる車」は2010年には900万台だったが、2016年までに約2,400万台に増加する。また、現在、1台の車には平均8,000個余の半導体デバイスが使用されている。インテリジェントシステムは、半導体技術の進歩に伴って発展しているため、ITSの進展には、半導体市場の成長が不可欠である。


Visteon:"Internet of Things" によって得られるチャンスとインパクト
 Tim Yerdon氏のプレゼンテーションは、"Internet of Things" (Continentalの "Internet of Everything" と同意) によって得られるチャンスとインパクトに焦点を当てていた。たとえば、2018年に自動車向けコネクティビリティ事業が創出する売上高は約300億ドルと推定されるが、そのうちハードウェアによるものは50億ドルにすぎない。売上高のうち200億ドルはサービスによるものである。ビッグデータは、車1台につき年間150ドルの価値を創出すると推定される。最後にYerdon氏は、"Internet of Things" は市場を変える可能性を持っているが、そのためには企業がそれを消費者に受け入れやすい形で提示する必要がある、という言葉で締めくくった。

 



ITSの実用化によりOEMは交通システムの目標を実現

Ford"Connecting the highways to all mankind (すべての人々にハイウェイをつなげる)"
 James A. Buczkowski氏は、Henry Fordのビジョン "opening the highways to all mankind (すべての人々にハイウェイを開放する)" を "connecting the highways to all mankind (すべての人々にハイウェイをつなげる)" と言い換えて紹介した。同氏は、このビジョンを実現するためには、「ソリューションのネットワーク」の構築が必要だと提案した。そこでは、どんな人も様々な交通手段をシームレスに乗り継いで、目的地に辿り着くことができる。このネットワークは、V2V、ITインフラ、車両管理システム等のシステムで構成され、データによって動かされる。Fordは、「つながるシステム」から提供されるデータを収集・管理・分析する能力が、ITSを進展させるカギであると考えている。しかし、システムが多様であり、取り扱う情報が膨大であるため、この目標を実現するためには、すべての関係者が協力する必要がある。


トヨタ:交通死傷者ゼロの未来を創る
 
Kristen Tabar氏はプレゼンテーションで、人・車・交通環境をつなぐシステムを活用して、交通死傷者ゼロの未来を創るという目標を紹介した。トヨタは、ITSの進展により、同社が提唱する「統合安全コンセプト」を拡大したいと考えている。このコンセプトは、駐車状態から衝突前、衝突後など、様々な運転ステージを対象としており、各ステージに対応する安全技術が開発されている。安全技術には、リスク回避やリスク低減から衝突緩和、事故後の傷害軽減まで様々なレベルの技術が含まれる。トヨタは、つながる技術や自動化の技術の進歩が、リスク回避やリスク軽減など車の安全機能を拡大すると考えている。


ホンダ一つも事故の無い車社会を実現する
 Frank Paluch氏は、ホンダが提唱する "CLEAN, SAFE, FUN" の 要素を持つ車に適合する様々なITS技術とその影響を紹介した。トヨタと同様、ホンダの目標の一つも事故の無い車社会を実現することである。Paluch氏は、ホンダの車線維持支援システムが娘の運転をいかに進歩させたか、という逸話を披露した。また、自動緊急ブレーキや歩行者回避システム等の安全技術についても言及した。信号のある交差点でドライバーをスムーズに道案内するITS Intersection Assistは、「クリーンで楽しい」技術を重視するホンダの主張を明確に示すものである。ITSの進歩により、事故の無い車社会の実現というホンダの目標は進展するだろう。


GM2025年までにITSが実現すると予想されること
 Jon Lauckner氏は、ITS技術の影響、効用、ビジネスチャンス等を論じるのではなく、2025年までにITSが実現すると予想されることをいくつか発表した。

  ・ ハイウェイで自動運転が可能になる。
  ・ 特定の都市部の交通環境において、少なくとも一部の自動運転が可能になる。
  ・ 米国において「相当な比率の」車がV2V機能を持つようになる。
  ・ 車は、携帯電話を携行する歩行者や自転車に乗る人を識別・回避するV2P機能を持つようになる。
  ・ 車は、スマートフォン、自宅、職場等に接続が可能な大容量・高速の統合接続機能を持つようになる。
  ・ ITSインフラの開発・整備が「大幅に」加速化する。

 

 



Q&A:ITSの進展の必要条件と影響

Q:2025年までのITSの進展をサポートするのに必要なコンピュータの処理能力はどの程度か?  半導体の進歩によりITSはどのように進化するか。

Texas Instruments: コンピュータの処理能力は18カ月毎に倍増しているが、この指数関数的増大が永遠に続くわけではない。しかし、車載センサーの数が増加すると、さらなる処理能力が必要となる。必要な処理能力を得るためには、階層的処理、高効率のセンサー、センサー同士の高度な連携等を組み合わせることがカギとなるだろう。

Ford: 処理能力は重要だが、ITSの進展には、アルゴリズムやソフトウェアを活用することも必要である。

GM: 処理能力を増やす必要はあるが、処理装置やセンサーを車に搭載するためには、価格を引き下げる必要がある。また、車には、車の特性に合わせて設計したセンサーや処理装置が必要である。

 

Q:「つながる車」やITSは製品開発にどのような影響を及ぼすか?

Ford: 多くの車が「つながる」ようになると、社内・社外での協働がさらに必要になるだろう。また、製品開発が、コンポーネント中心からシステム中心にシフトすると考えられる。お客様に最大価値を提供する最適なソリューションを見つけるには、分野を超えたシステムエンジニアリングが求められるだろう。

トヨタ: システムの領域を拡大するためには、システムが重複する部分を明確にし、必要ならば統合しなければならない。トヨタでは、システムエンジニアリングが重要性を増している。

ホンダ: 現在の開発手法を変更する必要がある。現在の手法では、システムの品質、耐久性、堅牢性、安全性を重視し、お客様が車をどのように利用するかを予期している。しかし、「つながる車」は無限に変化する可能性がある。メーカーは開発サイクルを通して、その変化に対応しなければならない。

 

Q:ITSは自動車メーカーや部品メーカーのビジネスモデルを変容させるか?

Visteon: 当社は現在、ビジネスモデルの開発には3種のスピードがあると考えている。ハードウェアをベースとするスピード、ソフトウェアをベースとするスピード、そして「つながるサービス」をベースとするスピードである。現在のビジネスモデルはソフトウェア中心だが、将来は「つながるサービス」を中心とする新しいビジネスモデルが開発されるだろう。「つながるサービス」に関するビジネスモデルやビジネスチャンスは、自動車メーカーと部品メーカーが協力して開発しなければならない。

ホンダ: 市場の動向が予測できないため、柔軟性を確保する必要がある。従来のような自動車メーカーとティア1 の部品メーカーとの依存関係は、必ずしも通用しない。企業は自ら新しい技術を発見し、新しい方法やパートナーを探して、その技術を高めて行かなければならない。

Continental: 自動車メーカーが車を販売し、部品メーカーが部品を供給するという基本的なビジネスモデルは変わらない。他の分野から新たな企業が自動車市場に参入し(Googleなど)、新しい方法で車を利用する新たな顧客が加わることにより(Uber等)、新しいビジネスモデルが導入されるだろう。

 

Q:ITS技術がもたらす最大の便益とITS技術の実用化を阻む最大の障壁を一言で。

企業名 便益 障壁
Continental 全世界の進歩 産業間の協力
Texas Instruments 安全、生産性、生活の質の向上 現在:コスト
将来:技術の採用
Visteon つながる機能の普及 受容と統合
Ford より安全でスマートな移動体験 効率的な協力
トヨタ 安全と持続可能性 消費者の受容
ホンダ 衝突しない運転 規格
GM 衝突しない車 コスト

 

Q:「つながる車」のデータの所有者は誰か?

Ford: データの所有者は顧客であるが、企業は顧客にデータを共有化することの重要性を伝達・説明する責任を有する。データを運用する場合は、透明性も重要である。

Visteon: データの所有者は消費者であるが、データを使用してシステムを更新することを可能にできるかどうかは課題である。

Continental: データに関しては、インターネット業界と自動車業界の考え方は大きく異なる。インターネット業界は企業の私的データの重要性に注目するが、自動車業界はビジネスを補完するために顧客が創出するデータを入手したいと考える。

 

Q:ITSの実用化の前または後には、規格や規制が必要か?

GM: 現在利用している安全技術については、既存の規制や規格で事足りる。しかし、相互運用性(異なるメーカーの車同士が通信できるようにすること)のようなコンセプトについては、製品開発の前に、協力して新しい規格を作成する必要がある。

トヨタ: 品質や信頼性を保証するためには、規格が必要である。

Texas Instruments: 規格や規制に関する課題の一つは、役所や規格委員会の審査に時間がかからないよう、最小限のものにするべきだということである。

 

Q:ITS技術は高級車に導入される傾向にあるが、その利用者は年齢が高く、技術に疎い場合が多い。もっと価格が安い車にITS技術を導入し、若いドライバーにアピールしてはどうか。

GM: GMは特定のタイプの顧客をターゲットとしているが、年齢層にこだわっているわけではない。高級車を購入する人は、最新の装備や機器を好み、そのために喜んでお金も出す。また、ITS等の新技術は、当初は車両に組み込むのに高い費用がかかる。従って、企業はまず新技術にお金を出す顧客に的を絞り、その後、規模を拡大し、改良を重ねて、コストを下げようとする。

Visteon: 当社の製品はすべてプラットフォームをベースとしている。新技術の製品を受注すると、我々が最初に行うのは、その技術が使用しているアーキテクチャは何か、また、それを他の車にも展開するにはどんな方法があるか、を議論することである。

Continental: 一般に、新技術の普及は、成熟度と拡張可能性によって推進される。しかし、V2VのようなITS技術は、広く紹介される前に急速に普及している。そのため自動車業界は、新システムの紹介を迅速に行う方法を考える必要がある。

 

Q:V2X 通信を扱う、より大きなネットワークを運営するのは誰か?

ホンダ: 政府が運営することになるだろうが、政府だけに任せることはできない。最も可能性が高いのは、産業界のコンソーシアムが政府と協力して、そのネットワークを運営することである。

 

Q:ドライバーが不要な自動運転車が市販されるのは何年頃か?

企業名
Continental 2025年
Texas Instruments 2024年
Visteon 2030年
Ford 2025年よりはるかに後
トヨタ 2025年よりはるかに後
ホンダ 2025年よりはるかに後
GM 2025年よりはるかに後

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