分析レポート エアコン (欧米市場編)

エアコン (日本市場編) をみる

本稿では欧米編として欧州市場を主に述べ、北米市場については補足的に述べる。
HVACシステムの対象部品として、コンプレッサー(電動式含む)、コンデンサー、ヒーターコア(PTC式含む)、ブロワーファン、ECUを取り上げる。

過去には米国市場は1960年代のカークーラーの時代から米国南部を中心に中型車以上に搭載され、日本市場と同様に1980年代に入ると大衆車にも普及するようになった。一方の欧州市場では一部を除き比較的涼しい気候であった背景から高級車を除けばエアコンの普及は遅かったが、2000年代に入り欧州主要地域で熱波が問題となり広く普及するようになってきた。

近年のエアコン関連の欧米系サプライヤーの動きとして目立ったのは、米国大手のDelphiとVisteonが前身のGM・Fordの内製部門より続けていた空調機器事業をそれぞれドイツのMAHLE Behrと韓国のHanon Systemsへ売却したことがあげられる。詳細は後述の「主なエアコン関連メーカーの動き」に記すが、実質エアコンシステムの大手サプライヤーが米国資本から消えたことになる。

近年のハイブリッド車や電気自動車の普及に際して、従来のエアコンシステムでは対応が難しくなってきていることがある。その一つが、電動コンプレッサーの採用である。内燃機関が停止している状態でもエアコンが作動することが求められ、エアコンの"要"コンポーネントであるコンプレッサーをエンジン駆動式ではなく電動駆動式にする必要性が生じてきた。
また暖房手段についても、内燃機関搭載モデルでは当たり前であった循環クーラントによる温水暖房機能が使えなくなってきている。ハイブリッド車のEVモード走行や電気自動車はクーラント温水暖房の代わりにPTCなどの電気ヒーターを採用しているが、電力消費量が多いため電費悪化により航続距離の低下を招く欠点がある。その対応策として一部のモデルに外気熱を利用するヒートポンプ式エアコンが用いられ始めている。

従来からエアコンシステムおよびヒーターとして扱ってきていたが、近年はヒーターとエアコンを統合制御したHVAC(Heating, Ventilation and Air Conditioning)とも称されるようになってきている。本稿では主としてエアコンシステムと称しているが、暖房機能を含めた統合システムとして言及する場合にはHVACを用いる場合もある。

1) 近年の動向

Valeo S.A.

• フランスの空調関連製品最大手。空調部門は売上高全体の3割弱(2017年12月期)を占める。
  近年は自動運転技術を主とした安全デバイスに力を入れてきているが、依然欧州の空調機器サプライヤーとして強力な立場を維持している。
• 中国、ロシア、インドネシアなどの新興国を中心に投資を実施、アジアの大手自動車メーカーへの拡販を継続。
• 自動運転やパワートレーン関連への近年の投資が目立つなかで空調機器関連の投資はやや控えめで2018年には大きな動きは無く、直近では、2016年3月にドイツの投資会社Deutsche Beteiligungsよりドイツのバス用エアコンシステムメーカーSpherosを買収したことがあげられる。Spherosの年間売上高は約250百万ユーロ。大手バスメーカーやフリート会社向けに納入している。従業員数は1,100名。グローバルな販売ネットワークに加え、ドイツ、フィンランド、トルコ、米国、ブラジル、中国、インドに生産拠点を持つ。今回の買収により、Valeoはバス向けのサーマルマネジメント事業を強化する意向。

MAHLE Behr GmbH & Co. KG

• ドイツに本社を置くエアコンユニット、エンジン冷却システムならびにエンジン関連部品の大手。
  2017年12月期で、エアコン事業を含むサーマルマネジメント部門の全社比売り上げは約35%、従業員比率は約30%を占める。
• 2013年10月よりBehr GroupはMAHLEのサーマルマネジメント部門に統合された。
• 2015年7月、Mahle GroupはDelphiのサーマルシステム事業を約727百万ドルで買収。この買収により、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、米国、メキシコ、ブラジル、中国、インドにおけるDelphiの13工場と、米国およびルクセンブルグの研究開発センター3拠点が、Mahle Groupの約150の生産拠点に加わり、サーマルマネジメントの製造拠点は41拠点となった。
• 近年、空調機器関連の買収や統合が相次いだが、自前での新規工場開設等の生産投資は2014年8月に稼働開始した中国瀋陽市の「瀋陽貝洱汽車熱系統有限公司 [Shenyang Behr Thermal System Co., Ltd.]」を最後に大きな動きはない。

Behr-Hella Thermocontrol GmbH (BHTC)

• 独MAHLE Behr GmbH & Co. KGと独Hella KG, Hueck & Co.の50%ずつの折半出資による空調用電装品・電子制御機器に特化した合弁企業であり1999年に設立された。本拠地を独Lippstadtに設け、ブルガリアに生産工場を有している。
  2018年12月期の従業員数は2,820名、売上高は485百万ユーロとなっている。ドイツ系はもちろん、欧米系、日系、中国系と全世界のOEMに供給している。主な製品は空調制御機器や操作パネルを応用したHMI機器、日射センサーなどであり、コンプレッサーやコンデンサーなどの空調回路製品は生産していない。

Hanon Systems Corp. (旧Halla Visteon Climate Control Corp.)

• 1986年、Ford (米国) と万都 (韓国) の合弁により設立。1999年にVisteon (米国) の子会社Halla Climate Control Corp. (HCC。Visteonが70%出資)となるが、2013年3月にVisteonより自動車用空調事業を買収し、社名を「Halla Visteon Climate Control Corp. (HVCC)」に変更。
• 2015年6月、筆頭株主がVisteon International Holdings Inc.からHahn & Co. Auto Holdings Co., Ltd.に変更。Hahn & Co. Auto Holdings Co., Ltd.の出資比率は50.5%。(Visteonは車載情報機器・自動運転システムに資本を集中するため。)
  2015年7月、社名をHalla Visteon Climate Control Corp.からHanon Systems Corporationに変更。
  直近の設備投資で注目されるのは、生産拠点では米国オハイオ州にHVACシステムの新工場を建設中であり、2017年半ばから生産開始をする予定。開発拠点では中国上海市松江区(Songjiang District, Shanghai)に中国エンジニアリングセンターを2016年12月13日、開設したことが挙げられる。
• 技術面では、2015年11月、現代自動車と共同で電気自動車 (EV) 用スマート空調システムを開発。車両内の湿度、車両内外の気温、車両速度などを総合的に判断し、必要に応じて外部空気の流入を自動制御することにより、空調を作動させた際のエネルギー消費を最小限に抑えるもの。この空調システムは起亜自動車「Soul」のEVに採用され、韓国で生産され欧米にも輸出されている。

Modine Manufacturing Company

• HVACコンデンサーなど熱交換関連製品の米大手サプライヤー。商用車・トラック・大型車両向けが主体。米国、メキシコ、ドイツ、ハンガリー、中国等に生産拠点を持つ。
• 2014年に米国イリノイ州にあるMcHenry工場を閉鎖。同社はMcHenry工場における生産を、メキシコのNuevo Laredo工場、米国テネシー州のLawrenceburg工場、ミズーリ州のJefferson City工場など他の北米拠点に移転する予定。同工場では、自動車・商用車・オフハイウェイ車・ビル用HVAC向けに、パラレルフロー型コンデンサー、サーペンタイン型コンデンサー、オイルクーラー、ラジエーターなどを生産していた。

Air International Thermal Systems

• 豪州の空調部品サプライヤー。
• 2010年に香港のプライベートエクイティキャピタルUnitas Capitalにより買収される。その後、2015年9月に中国の奥特佳新能源科技股份有限公司 [Aotecar New Energy Technology Company Ltd.] により買収された。
  中国、北米、タイ、豪州、日本、欧州などに30を超える製造・研究開拠点を有する。主要顧客はGM、VW、Ford、長安汽車、マツダ、上海汽車、長城汽車、Fiat-Chrysler、Tata、スズキ、いすゞなど。

Preh GmbH

• 中国の均勝集団傘下のドイツの電装メーカーであり、ECUを含むコントローラー、センサー、スイッチ類を生産している。空調関連の製品としてはHVAC用ECUと操作パネルを生産しており、多くの欧米系主要自動車メーカーへ納入している。本稿では弊社調べで把握しているECUの搭載情報を掲載している。
• 2017年時点で従業員数は7,000名以上、世界9ヶ国に拠点を有する規模である。 前述のBehr-Hella Thermocontrol (BHTC)と生産品目が近くライバル関係ではあるが、Prehの企業規模はBHTCの約3倍となっている。BHTCが空調関連に特化しているのに対し、Prehは空調以外の電装品・制御製品も生産していることが関係している。BHTC同様にエアコン操作パネルを応用したHMI製品など自動運転や電気自動車に対応すべく製品開発を進めている。

注) エアコン関連部品の主要拠点。(一部エンジン冷却部品拠点を含む)

2) 主要拠点：拠点名、ロケーション、納入先

3) 主要提携・合弁関係図

欧州生産車

北米生産車

各社広報資料から作成

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