カーナビとスマートフォンの連携と攻防

~情報収集能力で勝るスマートフォンを活用しながら、操作性や車両情報活用で生き残りを図るカーナビ~

2012/06/29

要 約

 GPS方式による自車位置計測手法とデジタル地図の活用によって、経路探索/誘導のための道具として登場したカーナビゲーションシステム(以下、カーナビ)は、携帯電話を活用したテレマティクス技術の導入によって機能が向上し、今ではクラウド技術やSNS技術をも取込んだ移動体端末としての性格を持っている。

 移動体情報端末と言えば、2000年代後半から登場したスマートフォン(iPhoneやAndroid端末など)が急速に普及し、近年はカーナビと連携した製品が登場してきている。

 自動車業界にとって、スマートフォンサービスは無視できない存在となって来ており、(1)データ連携、(2)機能の融合を図る一方、(3)スマートフォンに依存する状況も生まれてきている。

 カーナビとスマートフォンサービスの連携の形態についてはまだ流動的だが、スマートフォン機能をカーナビやディスプレイ付きオーディオと連携させることによる「ユーザーの利便性向上」の取り組みは今後急速に進むと思われる。

 
関連レポート: 人とくるまのテクノロジー展2012:カーナビゲーションの取材報告 (2012年6月)



カーナビ機能の強化を図るスマートフォン・IT業界

 

 スマートフォンサービス
2007年  ・iPhoneサービス開始
 ・Nokia MapsのSymbian端末搭載開始
2008年  ・Android端末サービス開始
2009年  ・Google Maps Navigation サービス開始
 ・iPhone向け地図配信サービス開始
2010年  ・Android端末向け地図配信サービス開始
 ・Google Maps NavigationがAndroid端末で使用開始
2012年  ・アップル が地図情報の自社サービス開始を発表

 

 スマートフォンは、豊富な情報提供コンテンツ、および情報センターの強力な演算能力を背景に、カーナビに十分対抗できるナビゲーション機能を備えてきている。 特に、リアルタイム情報を使った最適経路演算機能や音声認識機能など、カーナビの機能を上回る性能を備えたアプリも登場している。
スマートフォン
向けサービス
ノキア  2007年にOVIストアでNokia Maps の提供を始め、Symbian端末へ搭載された。さらに、Nokia E61 に ナビタイムジャパンの提供するNAVITIMEのサービスが搭載された。
グーグル  2009年に、Google Maps Navigation のサービスが開始された。2010年には、Android端末にて使用が開始され、iPhoneと両方に地図データを供給している。
ゼンリン
データコム
 2009年に、iPhone向け地図配信サービス「いつもNAVI」の提供開始。2010年にはAndroid端末向けにサービス提供を拡大した。
アップル  携帯端末向けOSの新バージョン「iOS6」の発表の中で、Google Mapsに代わるアップル独自の地図サービスの提供を発表し、新しい地図アプリを使って、渋滞情報を含めた本格的ナビゲーション機能の提供を始める。 なお、同時に音声操作機能「Siri」の新バージョンの提供も発表し、自動車市場への攻めの姿勢を明らかにした。
ナビタイム
ジャパン
 2002年に始めたケータイ・ナビサービスをiPhone、 Android端末などのスマートフォン向けにも拡大し、NAVITIMEとして提供している。
 NAVITIMEは、徒歩・電車・車・バス・飛行機などの様々な移動手段を組み合わせて、出発地から目的地までの最適なルートを検索する「トータルナビ機能」やスマートフォン搭載のGPS機能を使ってルート案内する「ドライブサポーター機能」などを備えている。

 

 



スマートフォン・IT業界の動きに対抗する自動車業界

 

自動車業界の動き 2009 2010 2011 2012
(1)スマートフォン
  演算結果の
  車載ナビへの取込
  (データ連携)
・トヨタ/KDDI/ナビタイムジャパンが、携帯電話で検索し目的地として設定
    ・富士通テンが、iPhoneと連携するカーナビ「AVN-F01i」発表
デンソーが、NaviCon提供
      アイシンAWが、スマートフォンとの連携アプリを提供
(2)スマーフォン機能の
  車載ナビへの取込
  (機能融合)
    デンソーが、ARPEGGiO発表
      クラリオンが、クラウド型テレマティクサービス「SmartAccess」発表
(3)スマートフォンによる
  ナビ演算結果の
  車載機への表示
  (スマートフォン依存)
・ホンダが、センター型カーナビを発表
  クラリオンが、Terminal Modeの開発でNokiaと提携
 (Terminal Modeは後にMirrorLinkに改名)
    アルパインが、MirrorLink対応車載機を発表
パナソニックが、トヨタの欧州仕様車にMirrorLink対応機種を納品
アイシンAWが、iPhone用ナビアプリ「Navielite」発売
      →・トヨタ車のディスプレイ付きオーディオと連携
    ・トヨタが、オンディマンドディスプレイのコンセプトを発表
      ・トヨタが、タイでスマートフォン利用のテレマティクスサービス開始
・ホンダが、インターナビ・ポケットのサービス開始
 →ディスプレイコンポとの接続も発表
(4)その他の動き   ・スマートクレイドル開発発表(パイオニア
    →・ドコモドライブネット用に提供
    ・トヨタとマイクロソフトがクラウドサービス開発で提携
      ・日立がクラウド型テレマティクスサービスソリューションを発表


 スマートフォンサービスの豊富な情報提供コンテンツ、およびセンターの強力な演算能力は、車載ナビを凌駕する性能をユーザーに提供し始めている。自動車業界は、このスマートフォンを車載ナビ/車載情報機器と連携させる動きを始め、スマートフォンサービスが車ユーザーに与えるメリットも追求し、かつ車載情報機器の価値を高めるための摸索を始めている。

 自動車業界の動きを、

 (1)スマートフォンによる目的地検索結果を車載ナビに送信・設定するなどの「データ連携」
 (2)スマートフォン機能を車載ナビで操作するなどの「機能融合」
 (3)スマートフォンによるナビ演算結果を車載機に表示する「スマートフォン依存」
 (4)関連するその他の動き

の4つの分類で紹介する。

 

(1)データ連携

 スマートフォンによる目的地検索などの演算結果を車載ナビに取り込むなど、スマートフォンアプリの演算結果表示を車載ナビの画面に行う。
デンソー NaviCon  2011年にスマートフォンによる目的地検索結果をカーナビに転送し目的地を設定するなどの機能を持った「NaviCon」の提供を始め、2012年には対応するカーナビ機種の拡大を進めている。(トヨタ純正モデル、富士通テン、JVCケンウッドの2012年市販品に対応)
 NaviConはApp Store 及び Google Play からダウンロードでき、対応するアプリは100種類以上ある。
富士通テン iPhone連携  スマートフォンのカメラ映像を車載ナビに表示し、目的地方向表示も行うなどのiPhone連携機能を持ったカーナビを2011年に発売した。
 他に「どこCAR」、「TwitDrive」、「Carニュースリーダー」などのドライバーを支援するアプリを提供しており、App Storeから無料でダウンロードできる。
アイシンAW スマートフォン
連携アプリ
 スマートフォンで調べた検索結果や登録されている連絡先を、カーナビの目的地として設定できる。カーナビの燃費情報やエコトライアル履歴をスマートフォンに送信し閲覧できる。
 iPhone および Android端末に対応。トヨタのディーラーオプション向けカーナビと連携する。

 

(2)機能融合

 スマートフォン機能を車載ナビに取込み、車載情報機器の高信頼性機能を持たせながらスマートフォン機能を活用する。
デンソー ARPEGGiO  2011年にARPEGGiOを発表した。その骨子は、「カーナビ画面でスマートフォンを操作する情報サービスを開発 ~車室内でスマートフォンアプリケーションの安全な利用を実現~」というものである。
 ユーザーは、自分のスマートフォンに、「ARPEGGiOアプリ」をインストールしておき、車に乗り込む際にARPEGGiOアプリを起動させておく。すると、スマートフォンとARPEGGiO対応のカーナビが自動的に無線(Bluetooth)で通信し、カーナビディスプレイ上に、ARPEGGiOで利用可能なスマートフォンのアプリケーションが表示される。トヨタ純正ナビ「NHSD-W62G」に搭載。スマートフォン向けアプリでは、 Smart G-Book ARPEGGiO として提供。
クラリオン Smart Access  2012年にiPhoneのアプリを車載ナビ本体で操作・表示できる機能を備えた「Smart Access対応ナビ」を発売した。
 Smart Access では、スマートフォン連携に加えて、クラウド型テレマティクサービス機能を備え、車を見守るVRM(Vehicle Relational Management System)やユーザーを見守るCRM(Customer Relational Management System) および緊急コール(Eコール)などの機能を持っている。

 

(3)スマートフオン依存

 ナビゲーションの演算はスマートフォンによって行い、車載器はスマートフォンの操作および演算結果の表示のみ行う。
 車載ナビゲーション装置を装備しない車に対しては、表示装置だけを搭載し、スマートフォンによってナビゲーション機能を持たせる。
ホンダ インターナビ・
ルート
 2009年に、ホンダのサーバーでルート検索を行い、そのルートを車載ナビに送信・表示する「インターナビ・ルート機能」を発表し、ナビゲーション機能を車外で実行し車載機に取込む機能の先鞭をつけた。
インターナビ・
ポケット
 2012年に「インターナビ・リンク」のスマートフォン用アプリケーション「ドライブロケーター」に、ナビゲーション機能を追加し、新たに「インターナビ ポケット」としてサービスの提供を開始した。
 6.1型の液晶ディスプレイを搭載したデュアルサイズディスプレイコンポ「WX-135CP」と、インターナビ ポケットをインストールしたiPhoneを接続すれば、大きな画面に地図を表示して、ルート誘導ができるカーナビとして利用できる。
クラリオン Terminal Mode/
 MirrorLink
 2010年に、欧州の標準化活動の中心企業であるNokiaと技術提携し、スマートフォン演算結果を車載機に取込むための標準仕様である「Terminal Mode」の開発を発表した。
 スマートフォンで利用できる膨大なアプリケーションやサービスを、車載機器でも利用できるようにし、ユーザーの利便性を高め、車載情報システムに大きな変革をもたらすことを狙う。 なお、「Terminal Mode」は後に「MirrorLink」と名称が変更された。
アルパイン MirrorLink対応
ディスプレイ
 2011年に、標準規格「MirrorLink」対応ディスプレイ(App Link Station : ICS-X8)の発売を、欧州にて始めた。
 ナビゲーション・音楽・電話などのアプリケーションを搭載したスマートフォンNokia701と App Link Stationとを接続することで、車載機として快適に操作することが可能になる。
パナソニック MirrorLink対応
ディスプレイ・
オーディオ
 2011年に、トヨタの欧州向けiQに、カーメーカー純正商品として世界初のMirrorLink対応ディスプレイ・オーディオを納入した。
 「MirrorLink」対応スマートフォンアプリやiPhone4アプリを車載器側ディスプレイに表示し、車載器側タッチパネルでスマートフォンアプリの遠隔操作が可能になる。
アイシンAW Navielite  2011年にiPhone用ナビアプリ「Navielite」を発売した。車載ナビのノウハウを凝縮した本格スマートフォンナビアプリであり、音声案内と拡大図表示・3D表示により、わかりやすい誘導をする。
 2012年にはトヨタ車のディスプレイ付きオーディオ(DAN-W62)との連携も発表した。
トヨタ オンディマンド
ディスプレイ
 2011年に、カーナビから脱却したテレマティクスの姿として、スマートフォンへの操作情報送信とスマートフォンからの情報を受信・表示する機能を持った車載機を「オンディマンドディスプレイ」と名付け、スマートフォン連携システムのコンセプトとして発表した。
 表示機能がメインなので、既存のカーナビのような高性能プロセッサは搭載せず、地図表示やルート設定などの処理はスマートフォンで行う。
テレマティクス
サービス
 2012年にタイにて、スマートフォン利用のテレマティクスサービスを開始した(smart G-Book)。カローラ・アルティス、フォーチュナー、ハイラックス・ヴィーゴ・ダブルキャブの特別仕様車に、smart G-Bookの3年間の利用権と、スマートフォンと連携可能なディスプレイ・オーディオを標準装備。
 交通情報を加味したルート案内、オペレータによる目的地設定代行、事故や危急時の緊急通報サービスなどを展開する。

 

(4)その他の動き

 スマートフォンを車載情報装置と連携することに関連する動き。
パイオニア スマート
クレイドル
 車載ナビはGPSによる測位技術を主にしながら、衛星信号を受信できない環境でも、車両情報を使った推定航法を使って自車位置推定精度の悪化を防いでいる。 スマートフォンは車両情報とリンクしていないのでGPS航法のみであり、GPS測位位置の軌跡を使った推定航法は使えるが、自車位置精度の面では車載ナビには劣っている。
 この欠点を補う技術として、スマートクレイドルは内部にジャイロや加速度センサーを備え、車載ナビで進歩した「推定航法演算」を行い、自車位置精度向上を可能にしている。
 2010年に「スマートクレイドル」は発表され、2011年からドコモのドライブネット用に提供された。
トヨタ クラウドサービス
開発
 2011年に、トヨタ自動車とマイクロソフトはクラウドサービスに関する開発で提携を発表した。マイクロソフトの「Windows Azure」を採用。2015年までにトヨタとマイクロソフトが共同で独自のグローバルクラウドプラットフォームの構築を目指す。
 トヨタは、人と車と住宅をつなぎ、エネルギー消費を統合的にコントロールするシステム「トヨタスマートセンター」のグローバル展開や、第2世代テレマティクスービスを目指したマルチクラウドサービス(T-MACS)の構築を発表した。
日立 クラウド型
テレマティクスサービス
 2012年に日立からクラウド型テレマティクスサービスソリューションが発表されている。
 2010年から商用サービスを始めた日産のEV(リーフ)用の情報システムでの開発経験をベースに、クラウド型テレマティクスサービスに発展させている。 

 



今後の進化の方向

 カーナビとスマートフォンの関係はまだ流動的だが、「スマートフォンとの連携拡大」、およびその連携の形態として「スマートフォン依存」と「機能融合」の2つの方向に関する開発が今後数年継続すると思われる。
スマートフォンとの連携拡大  スマートフォンサービスは無視できない存在となっている。スマートフォンの特徴である「リアルタイム情報の収集・処理機能」をカーナビと連携させることによって、実際の交通状況により合ったルート検索・案内が可能になるなどの「ユーザーの利便性向上」の取り組みは急速に進むと思われる。
予想される
連携の形態
スマートフォン依存  スマートフォンの機能そのままカーナビに取込む方式が、コストを抑えてナビゲーション機能を提供する手段として定着する。
 ナビゲーション装置を搭載しない車に対しても簡単にナビゲーション機能を付加できる方式として、搭載数は増加すると思われる。
機能融合  車載情報機器としての信頼性/車外からのセキュリティ確保を重視するアプリケーションを搭載するために、スマートフォン機能をカーナビの中に取込み、車載情報機器の一部として動作させる形態となる。
 カーメーカーは、車両情報の活用、あるいは車外情報を車の運動制御とリンクさせるなど、車載組込みシステムならではの特徴を生かして、車の安全性・経済性を高める取り組みに力を入れてくると思われる。
技術動向 技術提携  IT業界と自動車業界の融合・技術提携が深化する。
車載アプリ開発  自動車業界がIT業界の技術を取り込み、カーナビの一部としてアプリの販売を拡大する。
通信能力の強化  クラウド技術の導入が進み、車載情報機器の演算能力を高める投資より、通信能力の強化によった車外演算能力の円滑活用が進む。

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>