人とくるまのテクノロジー展2016 thyssenkrupp エグゼクティブインタビュー

ティッセンクルップ・ジャパン株式会社 代表取締役 Nikolaus Boltze氏

ティッセンクルップ・ジャパン株式会社 代表取締役 Nikolaus Boltze氏

thyssenkrupp、日系OEMから熱間成形の要求が増加

 thyssenkruppはドイツを代表する大手重工業メーカーであり、鉄鋼製品で長い歴史を持つ。自動車用鋼板事業では、スチールを中心にボディ部品、骨格部品をラインナップ、さまざまな工法を駆使し顧客ニーズに応える。同事業ではJFEスチールと提携関係にある。自動車部品事業では、Bilsteinブランドのサスペンションシステムが有名だ。その他、シャシー部品ではEPSやステアリングコラム、パワートレイン向けではカムシャフトやクランクシャフトなどのエンジン部品も手掛けている。

 5月25~27日に開催された「人とくるまのテクノロジー展2016横浜」において、ティッセンクルップ・ジャパン株式会社 代表取締役 Nikolaus Boltze氏に同社戦略、日本市場での取り組みを聞いた。

マークラインズ(ML):自動車向け事業の現状は。
Boltze氏:6つの事業領域のうち5つが自動車向け。全社売上の1/4は自動車市場向けとなっている。日本には部品製造工場がないため、日本地域での売上は10%以下。日系OEMとのビジネスは主に米国、欧州、中国地域でとなっている。

ML:日系OEMの日本拠点の役割はどう考えていますか。
Boltze氏:日系OEMは、日本の本社で部品に承認を与える。当社はこれに対応するように技術チームを日本に置いている。日本で試作のビジネスはあるが、量産は日系OEMの海外拠点へ供給している。当社はグローバル供給体制を有している。フランスにおいて、トヨタにスチール製品を供給し、英国ではホンダに、スペインでは日産に提供している。中国、NAFTA共にサスペンション(ダンパー及びコイルスプリング)の生産がある。インドにも拠点がある。北米では、スプリング製品をホンダに、ダンパー製品をトヨタに、ステアリング製品を日産に提供している。

ML:thyssenkruppの世界市場でのポジションは。
Boltze氏:当社は年100億ユーロの売上を持ち、サプライヤーの中では世界20位ぐらいに位置すると見ている。



部品サプライヤーからソリュションプロバイダーへと進化

ティッセンクルップ・ジャパン株式会社 代表取締役 Nikolaus Boltze氏

ティッセンクルップ・ジャパン株式会社 代表取締役 Nikolaus Boltze氏

ML:thyssenkruppはスチール製品の印象が強い。
Boltze氏:当社は製品の付加価値の継続的な向上を目指している。製品構成としては、過去、2008~2012年はメカニカル部品および軽量化の要求に応える製品を提供していきた。現在、2015~2016年はメカトロニクス、電子化・電動化とHV、EV、FCV等の代替駆動システム、そして近い将来にはIndustry 4.0等のソフトウェア・デジタル化に向かうと考えている。車もスタンドアローンではなく、コネクテッドカー周りと情報のやりとりが始まっている。また、Industry 4.0は、すでに生産現場への導入が始まっている。当社は、各種生産設備の製造も行っている。このため、生産設備で培ったIndustry 4.0の技術を当社部品の生産管理から、さらには製品の寿命、ライフタイムでの管理を行うようになっていく。

ML:日本のOEMはそれぞれ独自の生産管理手法を守っているようにみえる。
Boltze氏:欧州では部品メーカーは様々なOEMと付き合う関係になっている。もちろん独自性や付加価値は維持しながら、各OEM、部品メーカーは共有のデータ交換プロトコルを有しており、それがコスト削減に寄与している。欧州のIndustry 4.0ではそれがさらに自動化、統合され、さらなるコスト削減および付加価値の寄与になるだろう。日本は今まで、OEM、Tier1, Tier2など縦型の関係が強かった。日本でもOEM共通のデータ交換プロトコルがあれば、開発期間の短縮やコスト削減ができるであろう。

ML:日本への工場進出は考えているか。
Boltze氏:日本の車両生産台数は900万台。日本国内での乗用車販売台数は400万台で成熟した市場となっている。日本からの輸出は減っていく傾向だ。また、日本は世界で2番目の鉄鋼生産国。JFE、新日鉄住金がいる。このため、日本に鉄鋼工場を作ることは考えていない。ただし、ユニークでニッチな製品であれば、日本のパートナー企業と組んで製造し、世界中に売ることは考えられる。

ML:注目される市場は。次にどこに製造工場を作ることを考えているか。
Boltze氏:東南アジア (Malaysia, Thailand, Indonesia, Vietnam) と見ている。

ML:日系OEMへの自動車部品の納入実績は。
Boltze氏:Bilsteinブランドのサスペンションはマツダ、スバル、日産 (GT-R) に入れている。プレミアムブランド向けで、ホンダも興味を示している、トヨタ (FJ Cruiser) にも採用されている。ステアリングシステムは、マツダ (3、Atenza) と日産車に搭載されている。現在、開発案件も沢山頂いている。

ML:ステアリングシステムでは、ADASや自動運転技術が注目されている。
Boltze氏:当社ではエレクトロメカニカル、ソフトウェア、電子制御部品を揃えている。カメラやレーダーは製造していないが、それらのセンサーからデータを得て、実際に制御、運転パラメーターを生成しているのが当社のステアリングシステムだ。これら先端技術ではセンサー等が注目されがちだが、フェールセーフの観点で実際に動作するエレクトロメカニカル製品の重要度が増している。

ML:ステア・バイワイヤー技術への取り組みは。
Boltze氏:開発を終えて、すでにテストコースで実車に載せて検証している。欧州のOEMと共同で開発した。公道ではまだ認可されていない。これらの技術は、まずは法制化を待っているところだ。



ボディ部品・骨格部品ではコストやリサイクル性でスチールが主流

ML:各社の車体用鋼板への要求は。
Boltze氏:OEMによって要求はさまざまだ。JFEスチールと戦略的アライアンスを結んでおり、相互に補完する体制にある。日本の顧客が欧州で特殊なスチールグレードを要求した場合、クロスライセンスを使ってthyssenkruppのドイツ工場で製造し供給できる。

ML:車体用鋼板に要求される特性は。
Boltze氏:2~3年前までは日系OEMは、ハイテン材・冷間成形の要求が多く、欧州・米国のOEMは熱間プレス・熱間成形が主流だった。最近は日系OEMが変わってきて、さらに部品形状も複雑になったために、熱間成形の要求が増えてきている。thyssenkruppは冷間成形にも熱間成形にも使用できる鋼材グレードを開発した。欧州OEMと日系OEMの考え方はかなり近くなってきている。

ML:部品の樹脂化やCFRP等への取り組みは。
Boltze氏:カーボンファイバーについては自社に研究開発センターを持っている。価格が高いのでプレミアムカーやスポーツカーには使われるだろう。リペアができない、リサイクルができない等のデメリットがある。自動車用部品はコストやリサイクル性を考えるといつもスチールに戻ってくるというのが実情だ。

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