VWグループは3月13日、2024年の年次記者会見を実施した。Oliver Blume CEO、Arno Antlitz CFO兼COOが出席し、2023年の業績と2024年以降の見通しについて説明した。
VWグループは、コア(VW、VW商用車、シュコダ、セアト、クプラ)、プログレッシブ(アウディ、ランボルギーニ、ベントレー、ドゥカティ)、スポーツラグジュアリー(ポルシェ)にブランドを区分している。また、トラックのTRATON (スカニア、MAN、ナビスター、VWトラック&バス)、ソフトウェア開発のCARIAD、バッテリーやプラットフォームを手掛けるVolkwagen Group Technology (傘下にPowerCo)、金融サービスのVolkswagen Financial Services、ライドシェアのMOIAといった事業部門がある。
2023年通期決算のハイライト
- VWグループは2023年、VW「ティグアン(Tiguan)」、「ID. Buzz」、ベントレー 「ベンティガ(Bentayga)」、ポルシェ 「911 ダカール(Dakar)」、VW 「ID.7」、クプラ 「ダークレベル(DarkRebel)」、ランボルギーニ 「レヴェルト(Revuelto)」など、幅広いセグメントに新型車や改良型モデルを投入した。
- グループ全体の販売は前年比12%増の924 万台。主に欧州と北米で伸長した。中国市場でも困難な状況ではあったが、増加した。
- 2023 年の売上高は前年比15%増の3,223 億ユーロ、営業利益は 226 億ユーロ、純利益は179億ユーロ、ネットキャッシュフローは 107 億ユーロ。
不安定な厳しい市場環境にも関わらず、資本管理を体系的に実施し、このような業績を実現した。10の目標を掲げたグループの再編が業績達成の鍵となった。
- 計画:戦略的計画と資本配分、生産配分、商品戦略、パフォーマンスプログラム
- 商品:ブランドごとのデザインアイデンティティ、品質プログラム
- 中国市場:グループ販売320万台、EVは23%増、アウディ中国事業は過去最高の売上
- 北米市場:米ノースカロライナ州での車両生産および加オンタリオ州での電池セル生産を行う米国向けScoutブランドの再構築により大きな成長の可能性が見込まれる
- CARIAD :ソフトウェア開発会社、経営陣を刷新
- プラットフォームと技術への投資:VW:A0/Aセグメント、アウディ:B/Cアーキテクチャ、ポルシェ:Dセグメントアーキテクチャ
- バッテリー/充電技術開発:PowerCoと提携し、独ザルツギッター・西バレンシア・加オンタリオ州での工場立ち上げ、充電インフラの拡大
- モビリティソリューション:自動運転に関する新たな提携
- サステナビリティ:欧州でのリサイクル素材採用などブランド全体で800超の取り組みによりCO2排出量を34%削減
- 資本市場戦略:新たな経営陣
業績概要
- 乗用車部門の営業利益は前年比2%減の147億ユーロとなった。商品/価格構成は奏功したが、為替レート、商品原価、固定費で相殺された。
- 商用車部門の営業利益は37億ユーロと倍以上に伸長した。
- 金融サービス部門は想定通り減少した。
- グループ全体の設備投資額は144億ユーロで対売上高比5.4%、研究開発費は218億ユーロで8.1%だった。
2024年以降の見通し
PowerCoなどのパートナーを含めたグループ全体で、短中期の戦略であり、長期的には2035年戦略につながるTOP-10プログラムの達成に引き続き注力する。
2024年は過去最高となる30超の新型モデルを投入する。クプラ「タバスカン(Tavascan)」シュコダ「オクタビア(Octavia)」、「ID. Buzz」、「ID. 7 Pro」、ポルシェ「マカン4エレクトリック(Macan 4 Electric)」、アウディ「Q6 e-tron」といった一部のモデルを既に発表している。2024年は内燃エンジン(ICE)車、プラグインハイブリッド(PHV)、そして電気自動車(EV)を欧州、北米、中国市場に投入していく。
グループは今後、地域別の戦略とともに量より価値を重視する戦略をとっていく。
- 欧州には23の工場があるが、大きなプレゼンスを継続していく
- 中国市場では外資系メーカーをリードする地位を継続し、中国国内で中国市場向けの車両を開発・生産する戦略を強化する。2024年末までにVW China Technology Companyでは3,000人の専門家が働くことになる。VWは中国で、バッテリーセルで国軒高科(Gotion)、ADASで地平線(Horizon Robotics)、スマートコックピットで中科創達軟件股份有限公司(ThunderSoft)と提携する。またVW乗用車は小鵬汽車(Xpeng)と技術提携し、アウディは上海汽車(SAIC)と協力関係の拡大に合意している。
- 北米では、大規模な投資を計画している
- カナダ:セント・トーマス(St. Thomas)のバッテリーセル工場
- メキシコ:シラオ(Silao)エンジン工場、プエブラ(Puebla)工場、サン・ホセ・チアパス(San José Chiapa)工場
- 米国:ペンシルベニア州の本社、チャタヌーガ(Chattanooga)乗用車工場、サウスカロライナ州のScout の電気SUV工場、シアトルのクラウドコンピューティングセンター、シリコンバレーのCARIAD
- 南米ではプレゼンス向上に努める
- インドではシュコダが精力的な活動を続ける。
- ASEAN地域ではCKD生産を行っているが、成長の余地が見込まれる。
VWグループは今後数年間、アーキテクチャを刷新しハードウェア主体の車両からソフトウェア定義車両(SDV)へと移行する。開発はCARIADが行っているが、車両だけでなく開発プロセスでもAIが役割を果たしている。
もうひとつ投資の力点を置くのはバッテリーの改良で、市場のニーズに応じて航続距離、品質、価格をよりよいものにできる新たな素材や技術を試していく方針。
2024年の財務面での目標は以下の通り:
- 売上高は最大5%増
- 営業利益率は7.0-7.5%を維持、ネットキャッシュフローは107億ユーロから45億-65億ユーロに低下する。流動性は410億-490億ユーロと2023年とほぼ同じ水準を維持する
- 投資(設備・研究開発)には、2025年から2029年までに1,700億ユーロを投じる計画で、売上高投資比率は2024年に13.5%から14.5%とピークに達する。2023年の実績は13.5%だった。
Q&A
1. 欧州市場
Q:VWでは欧州の需要が今後数カ月で回復すると確信しているようだが、そのように楽観視できる根拠は何か? 欧州ではeモビリティのインセンティブが既に打ち切られ、2025年にはフリートのCO2排出目標が緩和される中、どのような戦略で電気自動車(EV)の売上を伸ばすのか?
A:(Oliver Blume CEO)欧州市場は確かに不安定だが域内のEV市場は落ち着きをみせている。当社では今年VWの全ブランドで新たに30モデル以上のEVを投入して商品主導の攻勢を図る。ただし、欧州のeモビリティに対応した条件を整えるためには、自動車メーカー、地域社会、連邦政府を始め全員が一丸となってインフラの拡大に取り組まなければならない。
また、小規模なセグメントで補助金やボーナスといったインセンティブを設けるのであれば資金を調達する必要がある。
2. 手頃な価格のEV
Q: eモビリティの成長を図るには販売価格2万ユーロ前後のもっと手頃なモデルが必要だと思うが、そのような計画、あるいはルノーと提携する計画はあるか?
A:(Oliver Blume CEO)手頃なEVに関しては、シュコダ、VW、クプラが2万5,000ユーロ台のモデルを用意しており、エントリーレベルへの対応としては正しい戦略だと思う。我々は新たな顧客がEVを購入できるようにしたいと考えている。
提携の可能性は否定しないが、今のところ具体的な計画はない。どのような決断を下すかは2024年中に分かるだろう。
A:(Arno Antlitz CFO兼COO) VWにはまだEVを投入していないセグメントもあるので、今後ラインナップを拡大して電動化の普及を図りたい。現在はスペインで生産する2万5,000ユーロ程度の価格の「ID.2」ファミリーに投資している。「ID.2」より小型のセグメントには既に多くの企業が参入しており、競争が激しいため採算を取るのが非常に難しい。そうしたセグメントへのEV導入に関しては他社との提携も検討する。
なお、VWではRoad to 6.5 (いわゆるAccelerate Forward)プログラムの目標達成を重視している。これは売上高利益率6.5%を継続的に達成して将来の技術や雇用への投資を確保するものだ。そのため当社では2026年に約100億ユーロの収益改善を計画している。
3. 投資計画
Q: 2024年度にはどのような大型投資を計画しているか? また、将来的にMEBプラットフォームを代替する、EV用のSSP (Scalable Systems Platform)の開発は今後数年間の投資計画にどのような影響を及ぼすのか?
A:(Arno Antlitz CFO & COO) 当社は1,800億ユーロの5カ年投資計画の下に3-4年スパンの様々なプロジェクトを抱えている。うち1,300億ユーロを電動化、EV、デジタル化に、残りを今後1-2年以内に内燃エンジン(ICE)車プロジェクトに投入する。
1,800億ユーロのうち9%は車両の改良、車種の拡大、eモビリティ化に必要な工場改修に投入する。また、約150億ユーロをソフトウェアとハードウェアの現行プラットフォームの改良、150億ユーロをバッテリー戦略に充てる。さらに150億ユーロを北米やインドなど特定地域への投資に充てて市場での地位向上を図る。
最も重要な投資プロジェクトはバッテリー関連のもので、ドイツ・ザルツギッター(Salzgitter)、スペイン・バレンシア(Valencia)、カナダ・セントトーマス(St Thomas)の各工場や中国の合弁会社などで実施する。「ID.2」ファミリーへの投資も重要だ。
また、今後2-3年は競争力を維持するためにICE関連の投資を続け、EVモードの航続距離が100kmの「ティグアン(Tiguan)」を始めとするプラグインハイブリッド車(PHV)数モデルとマイルドハイブリッド車(MHV)数モデルを提供する。それが済めばEV投資を増やすことができる。
A:(Oliver Blume CEO)SSPプラットフォームはVWグループ内にシナジー効果をもたらす。VWはA0セグメントのエントリーモデル、アウディはミッドレンジモデル、ポルシェはスポーツレンジモデルを担当しているが、SSPによって多くの標準化が可能となる。ランボルギーニやVWグループの他のブランドもSSPを使用することになるだろう。これはVWグループに大きなチャンスをもたらす。この電動化プラットフォームは将来的にVWグループのあらゆる車両に共通基盤を与えつつ、各市場やVWの各ブランドに合った独自の構成を実現することができる。
4. CARIAD
Q: VWのソフトウェア部門であるCARIADについて質問したい。VWではソフトウェア定義車(SDV)の開発に取り組んでいるが、最初のSDVが市場に登場するのはいつ頃か? 開発はVWだけで行うのか、それともパートナーと協力するのか? また、このシステムはいずれ他社に販売するのか?
A:(Oliver Blume CEO)我々は2028年にVWとアウディ向けに開発したSDVを投入する。製品群と体制は既に決まっている。パートナーとの提携は不可欠で大手ハイテク企業数社と提携の準備を進めている。これまで大手ハイテク企業が自動車部門に、あるいは自動車企業がソフトウェア部門に進出を試みた例はあるが、あまり成功していないように思う。したがって、提携こそが成功への近道だと思う。また、我々はこの分野でもAIが極めて重要であることを認識している。SDVは将来、AI定義自動車になるかもしれない。
SDVの技術を将来他の企業や団体に販売するかどうかは未定である。
5. eフューエル
Q: ポルシェなどVWの一部のブランドはeFuel (カーボンニュートラルな合成燃料)に取り組んでいるがeFuelには批判もある。VWの取り組みの方向性は正しいか?
A:(Oliver Blume CEO)VWグループにとってeモビリティは最優先事項だが、過渡期の現在、ICE車を計画に含めるのは当然だ。我々は環境保護に真剣に取り組んでいるが、ICE車に頼らざるを得ない地域の輸送も考慮しなければならない。排出量削減が必須の中でeFuelへの代替が意味を持つのは、eFuelを生産するための持続可能で再生可能な資源が豊富にある地域に限られる。したがって欧州ではあまり意味がない。ポルシェがチリでeFuelの試験プロジェクトを立ち上げたのはそのためだ。中東や豪州でもこの技術は有効だがまだ投資が足りない。
6. 生産能力
Q6: 量より価値を重視する戦略を取ると、ドイツや中国の工場は生産能力が余剰にならないか?
A:(Oliver Blume CEO)我々は市場に大量の自動車を投入して値引販売するようなことはまったく考えていない。販売台数を基に現実的な計画を立て、それに見合った生産能力で自動車を市場に届ける。市場動向を見る限り、当社が25%のシェアを持つ欧州市場は1,600万台から当面1,400万台に落ち込む可能性が高く、速やかな回復は難しいだろう。欧州各工場では夜勤を廃止する可能性もある。これは従業員の雇用を守るためであり、生産調整や体制再編を検討する機会にもなる。
7. 欧州でのEV販売
Q: 欧米におけるEV販売の伸びの鈍化はEVの可能性の限界を示しているのか? それともEVブームの反動のような周期的な現象なのか?
A:(Oliver Blume CEO)周期的なものだと思う。我々はeモビリティこそ未来であり、それが戦略だと確信している。ただし、欧米市場におけるEVの発展は依然として充電インフラに依存しており、eモビリティへの移行を実現するには政治的な支援と決断が必要だ。
8.中国車
Q: 欧州委員会は欧州で中国車に対する追加関税を計画しているが、中国市場でVW車に対する報復があると思うか?
A:(Oliver Blume CEO)第一に、我々は公正な世界貿易を支持している。事業に携わる者は同じルールに従わなければならない。一方が保護主義的な行動をとれば必ず報復があるだろう。我々にとって競争は非常に有益だ。競争によってレベルが上がることで顧客が恩恵を受ける。これは欧州と中国だけの問題ではない。関税や税金は合理的でバランスの取れたものであるべきだ。我々は保護主義を支持しない。
9. 800Vテクノロジー
Q: VWは既にポルシェ「タイカン(Taycan)」に800V技術を搭載しているが、この技術がまだグループ内に普及していないのはなぜか?
A:(Oliver Blume CEO)ポルシェにおける800V技術の採用は挑戦的な決断だった。当時はMEBプラットフォームと800V技術に協力してもらえるサプライヤーが存在せず、パートナーを見つけるのに苦労した。今は800V技術にこそ未来があると信じており、この技術によって充電時間短縮と車重軽減を実現する。
10.内燃エンジン車の未来
Q: 欧州委員会の姿勢とVWのICE車の関係だが、2035年以降のICE車販売禁止案に対してVWはどのように計画を整合させるのか?
A:(Oliver Blume CEO)VWグループでは2035年案に備えている。先にも述べたように我々は今後数年間ICE車に多額の投資を行い、欧州域外でもICE車を開発・改良していく。一方、我々が取り組んでいる環境保護の観点で見るとeモビリティは最善のものだ。我々は欧州委員会の決定に対して柔軟かつオープンに対応する。2035年計画を遵守する方針は変更しない。