日産、NTTドコモ、AT & Tの第5世代移動通信システム(5G)導入

Connected Carや自動運転を支援~TU Automotive Japan 2018から~

2018/11/07

要約

5Gのインパクト
5Gのインパクト(資料:日産)

  2018年10月16~17日、TU Automotive Japan 2018が開催された。本レポートは、日産、NTTドコモ、AT & Tの講演のうち、第5世代移動通信システム(5G)の車用途に関する発表を要約して報告する。

  5G通信は、LTEの100倍の超高速・大容量、超低遅延、多数同時接続が実現する見込み。これにより、現在各自動車メーカーが導入を進めているConnected Carに大きく貢献する。自動運転に関しては、車への3Dマップやプローブ情報の送信が効率的に行える。またV2X通信により、車載センサが届かない場所の情報を取り込む協調ITSも可能になる。

  3GPP (3RD Generation Partnership Project)という組織が仕様の標準化を進めている。2017年3月に、車車間通信(V2V)等に適用するセルラーV2Xの仕様が固まり、それを受けて日産など6社、NTTドコモ(車両はトヨタ車や日産GT-Rを使用)、AT & T(車両はFord車)がセルラーV2Xの実証実験を行っている。

  5Gは、最終的に「New Radio(NR)」と呼ぶ無線方式を採用する計画。しかし、日米欧韓の各国は、当面既存の4G LTE設備を使用してNew Radioを導入する予定(Non-Standalone: NSAと呼ぶ)。AT & Tは、2018年末までに世界で初めて米国12都市でNSA方式のNew Radioサービスを開始する。

  NTTドコモは、2020年にも5Gの商用サービスを開始する。ただし、まず大都市中心部やキーとなる地域・施設などに導入され、段階的に地域を拡大していく。新技術導入の常として、当初は限定的な使用から始まるとのこと。なお、一連の講演において、5Gの車への適用を開始する時期に関しての発言はなかった。

  なお、V2Xに関しては、長年研究されてきたDSRCを利用するシステムが先行している。トヨタ、GM、VWが既に実用化または近い将来の採用を発表。ホンダは、米国でDSRCを使用する安全システムのデモを行った。

 5GとDSRCが共存していくのではないかとの見解も報道されている。

関連レポート:
日産:自動運転時代を見据えたコネクテッド戦略(2018年1月)



3GPPによる5G仕様の策定

  3GPP (3RD Generation Partnership Project)は1998年に設立された移動通信システムの仕様を検討し、標準化することを目的とした国際的プロジェクトで、5Gの仕様を検討している。Release 14が既に発表され、今後15、16が発表される予定。

5Gの2つの発展の方向
5Gの2つの発展の方向(資料:NTTドコモ)

Release 14:

  • 2017年3月に、セルラーV2X(車車間通信などの高速移動環境に特化して検討された、基地局を介さない端末間の直接通信)の仕様を規定。これを受けて、日産など6社グループ、AT & T・Fordなど4社グループが、2018年にセルラーV2Xの走行実験を行っている。V2N(Vehicle to Network)には、既存の4G LTEネットワークを使用する。

Release 15と16:

  • 5G通信は、5G New Radio(NR)の無線方式を目指しているが、2017年12月にその仕様が決定した。4G(LTE)のエリア内に5Gのエリアを構築し4Gから5Gへのスムーズな移行を目指す方式で、Non-Standalone(NSA)と呼ぶ。また、28GHz帯を用いた5Gセルラーネットワークに接続する。これを受けて、AT & Tは、2018年内にNSA方式の5G New Radioのサービスを開始すると発表した。
  • しかし、NSAは、既存設備を利用するため通信速度や低遅延など本来の5Gの要求水準を満たさない暫定的なもので、いずれNew Radio Access Technology(Standalone:SAと呼ぶ)最終仕様に移行させる計画である。


日産:NTTドコモなど5社と共同で、日本初のセルラーV2Xトライアルを実施

NISSAN INTELLIGENT MOBILITY

NISSAN INTELLIGENT MOBILITY(資料:日産)

  日産の電子技術・システム技術開発本部 主管 村松 寿郎 氏より「5G通信は、どのようにして接続された自動車の新時代への道を開くか」と題した講演があった。

  日産は、「NISSAN INTELLIGENT MOBILITY(Intelligent Driving/ Intelligent Power/ Intelligent Integration)」を掲げている。具体的には、Electric Vehicle、Autonomous Drive、Connected Carを強化し、Mobility Serviceを充実させていく方針。

  これらは独立してあるものではなく、Connected技術が他の項目をサポートする要の位置にある。Mobilityを支えるプラットフォームとしてもConnected技術が不可欠であり、シェアリングサービスの「Easy Ride」や「NISSAN e-share mobi」もConnected技術が支えるなど、Connected技術は今後さらに重要性が増していく。Renault-日産-三菱自アライアンスとして、最終的に新車の90%をConnectedとする構想。

5Gのインパクト

  第5世代移動通信システム(5G)の導入により、以下の効果が期待されている。

1)大容量通信:ソフトウェア、エンターテインメントのコンテンツ、インターネットゲーム、プローブデータなどのOTAアップデートが可能になる。ナビの地図を例にすると、現在はカリフォルニア州の地図を送るのに10分以上かかるが、5Gでは全米の地図を30秒以下で送ることができる。
2) 超低遅延直接通信:V2XやV2Nにより、完全自動運転車の遠隔モニタリングとコントロール、協調ITSが実現する。また、現在のクラウド通信の伝送遅延は100msとされ、その間に時速100km/hで走行する車両は2.78m進むが、5Gで1msの低遅延が実現すると2.78cmに短縮される(1msは1/1000秒)。

<5GAAに参画>

  5G通信が実現しても、V2Xは相手方が同じシステムを搭載し、またアプリケーションが共通化されていないと実現しない。そこで5GAA(5G Automotive Association)が、2016年9月27日に、Audi、BMW、Daimlerのドイツ大手自動車メーカー3社、Intel、Ericsson、Huawei、Nokia、Qualcommによって結成された。次世代モバイル通信の第5世代(5G)技術を利用したコネクテッドサービス開発で協力することが目的。通信ソリューションの開発やテスト、推進などのほか、標準化のサポートや商業化の可能性の追求、グローバル市場の普及などにも努める。Renault-日産-三菱自アライアンスも参加している。

5Gのインパクト 5GAAに参加
5Gのインパクト 5GAAに参加(現在は90社以上が参加している)

資料:日産

<5社とセルラーV2Xトライアルを実施>

  日産は2018年1月、Continental、Ericsson、NTTドコモ、沖電気工業、Qualcommの5社と共同で、日本初のセルラーV2Xの実証実験を行うと発表した。V2VやV2Iには、国際標準化団体である3GPPにおいてRelease 14として規定された直接通信技術(基地局を介さない端末間の直接通信)を用い、V2N(Vehicle to Network)にはLTE-Advanced(LTE-A)ネットワークを用いた実験を行っている。セルラーV2Xは、車載センサ技術の補完として、見通し外となる環境においても、より広い通信範囲やクラウド通信の利用といった特長により、車両の通信能力を向上させることが期待されている。

  村松氏によると、この実証実験を約10カ月間行ってきたので、近く何らかの発表ができる見込みとのこと。

セルラーV2X実証実験での6社の分担 実証実験の範囲・関連図
セルラーV2X実証実験での6社の分担 同左実証実験の範囲・関連図(RSUはRoad Side Unit:路側機)

資料:日産

セルラーV2Xにより自動運転を支援:利用する車載システムの構築が重要

  自動運転においては、車載装備による自律した走行が求められるが、協調ITSによってより精度の高いシステムが期待される。自動運転車が自車位置を確認する場合、GPSにより現在位置を確認したうえで、

  • 高精細地図をダウンロードし、自車位置をより高精度に確認する
  • 路車間(V2I)通信により、信号と連携し、レーン毎の信号の状況を確認できる
  • 車車間(V2V)通信により、周囲の車の位置とその動きを確認することができる
  • また、トラックで研究が進んでいる隊列走行は、車車間(V2V)通信を利用する。

  このように、5G通信といってもその通信能力をフルに引き出すためには、通信を利用する車載システムを構築することが重要で、現在そこに注力しているとのこと。



NTTドコモ:V2X通信で、自動運転の「状況認知」を補完

  株式会社NTTドコモ コネクテッドカービジネス推進室室長 深井 秀一氏による「NTTドコモの次世代モビリティに向けた取り組み」と題した講演があった。

5Gの2つの発展の方向

標準化仕様上の5Gの定義と技術
標準化仕様上の5Gの定義と技術(資料:NTTドコモ)

  深井氏によると、5Gには2つの発展の方向がある。現在スマホなどに使用されている4G LTEをベースに発展させたEnhanced LTEと、新無線アクセスNew Radio (NR) Access Technologyである。本レポートで取り上げた各実証実験はEnhanced LTEを使用している。

  Enhanced LTEは、LTE(4G)のエリアの中に5Gのエリアを構築、5Gと4G双方の通信制御を4G側のコントロールチャネルで行うNon-Standalone(NSA)と呼ばれるネットワーク構成。基地局装置を4G・5G世代間で共用し、効率的・経済的で、4Gと5Gとの連携がスムーズに行えることから、日本や欧米の多くの国は、NSAによる5Gの早期導入を目指している。

  しかし、NSAは、既存設備を利用するため通信速度や低遅延など本来の5Gの要求水準を満たさない暫定的なもので、いずれNew Radio Access Technology(Standalone: SAと呼ぶ)最終仕様に移行させる計画。NRは、LTEとは異なる無線インターフェースで、5G本来の飛躍的な性能向上を実現する。Standalone(SA)については、2018年6月に3GPP(3RD Generation Partnership Project)のRelease 15で大枠が決定し、2019年末までに、全ての技術性能要件に対応した5Gの仕様が策定される予定。SAの導入予定時期は、「202X年」としている。

5Gを使った実証実験に成功

  深井氏は、多くのパートナーと共同で行っている下記3件のV2Xの実験を紹介した。なおNTTドコモは、日産など6社のセルラーV2X共同トライアルにも参加し、LTEネットワークとV2Nアプリケーションを提供、LTEによる広域通信とV2Xの直接通信の補完関係の評価を担当している。

<5Gによる交通状況データ活用に向けた実証実験>

  2017年9月、NTTドコモと住友電工は、5Gと自動車や道路・建造物などの交通インフラに搭載したセンサを活用し、交通状況のリアルタイムな情報収集・解析を行う実証実験を行った。センサを設置した住友電工 横浜製作所のテストコースに、ドコモの5G基地局と5G端末を搭載した自動車などを持ち込んで実施した。

  具体的には、自動車や交通インフラに搭載したセンサ(カメラ、LiDAR、ミリ波レーダ)から、走行中の自動車や歩行者・道路状況などの周辺環境の交通状況データを収集・解析することで、広範囲な交通状況をリアルタイムに把握する。このように把握した交通状況をもとに、自動車や歩行者へ高度運転支援・歩行支援を行うため、交通状況データの即時性や見やすさなどの向上に向けた課題抽出や対策検討を行った。

小型車載アンテナヘッドを使用し5G通信に成功
小型車載アンテナヘッドを使用し5G通信に成功(資料:NTTドコモ)
<お台場エリアにおいて、コネクテッドカー実現に向けた5G実証実験>

  2017年11月、NTTドコモは、トヨタ、デンソー、Ericsson、およびIntelと、5Gの活用に向けた実証実験を東京臨海副都心地区(お台場・青海地区)にて実施し、小型車載アンテナヘッドを用いて、複数の5G基地局に跨る走行実験に成功した。

  Ericssonの協力のもと、お台場・青海地区の3カ所に5G実験基地局を配置し、Intelが提供する全長約25cmの360度対応小型車載アンテナヘッドを用いて、公道を走行する実験車両と5Gによる通信を行った。小型車載アンテナヘッドでの通信に成功することで、5G商用環境に近い状況でのコネクテッドカーの実現可能性を立証した。

<世界初、時速300kmの超高速移動環境で5G無線通信実験>

  2018年4月、NTTドコモは、NEC、NTTと28GHz帯の周波数において5Gを用いて時速305kmで移動する自動車(日産GT-Rを使用)に搭載した5G移動局と、実験コースに設置した5G基地局との間における無線データ伝送に世界で初めて成功した。また、世界で初めて時速290kmで移動する5G移動局が通信中の5G基地局を切り替えるハンドオーバーにも成功した。新幹線などの超高速移動を想定した実証実験とのこと。

車載システムによる自動運転を補完するV2X通信の可能性

  深井氏によると、自動車メーカーの自動運転技術開発の状況を見ると、自動運転の大部分を車載システムとクラウド通信で行う方針と思われる。しかし、5Gを活用したV2X通信により、さらに安全・快適な自動運転が実現する可能性を探っていく。

  車載センサ・カメラの検出レンジは100~200mだが、V2V、V2I、V2Nにより、

1) 遮蔽物によりセンサで把握しきれない近傍領域のカバー

2) センサレンジ外の遠方領域の把握

3) 円滑なナビに必要な広域情報の取得、ダイナミックマップの車載コンピューターへの送信

  を行って、より快適な自動運転実現に貢献する。



AT & T:Edge Computingの重要性を強調

  AT & T Japanの代表取締役社長 岡 学氏より「The Future of IoT Connectivity」と題した講演があった。モバイル通信に関する部分を以下に報告する。

  調査会社Gartnerによると、2018年時点で、世界にはインターネットにつながるIoTデバイスが84億台あり、2025年には800億台に増加する見込みという。AT & Tは、今後のIoTデバイスの増加を牽引する要素として、5G、AI、ブロックチェーン、自動化、Edge Computing、IoT for Goodの6項目を挙げた。そのうちの5GとEdge Computingの2項目についての概要を紹介する。

2017年には、インターネットにつながる機器が84億台ある 2025年には、800億台に増加すると予想されている
2017年には、インターネットにつながる機器が84億台ある 2025年には、800億台に増加すると予想されている

資料:AT & T

5G:V2Xの共同実証実験を実施

  5Gが実現すると、あたかも室内におけるLANで結ばれた範囲での通信のような品質・速度が実現する。車用途では、下左図のようにソフトウェアのOTA、高精度ナビや進路策定の向上などの効果が期待される。

  AT & Tは、多くの自動車メーカーやIT企業と5G導入について共同実験を行っている(下右図)。2017年に、Ford、Delphi、ソフトウェア会社Savariと共同で、DSRC(Dedicated Short Range Communication)とAT & Tの既存のLTE基地局(DSRCの送受信ができるようにソフトウェアを強化した)を利用した実証実験を行い、二つの機能の協働を確認した。

  2018年には、Ford、Nokia、Qualcommと共同で、直接通信技術(基地局を介さないで、車と車、車とインフラ間で直接通信する)を用い、米国初のセルラーV2Xの実証実験を行っている。V2N(Vehicle to Network)にはAT & Tの4G LTEネットワークを用いる。

V2Xへの導入ではDSRC方式が先行

  Fordは、長年DSRC方式を研究してきたが、セルラー方式に変更したとされる。一方、実際のV2Xへの導入ではDSRCが先行している。

  トヨタは、2015年から日本で販売するクラウンなどにDSRCを使用するV2Xを実用化しているが、2021年から米国で販売するToyota/Lexus車に5.9GHz DSRCを使用するV2Xを搭載し、2020年代半ばまでに大半のモデルに設定すると発表した(2018年4月発表)。ネットワークへの接続は必要ないので、その分の費用も発生しないとしている。

  また、GMもCadillac CTSにDSRCベースのV2Vを使用する安全装備を搭載し、今後のV2Xの通信方式としてDSRCベースを支持しているとされる。VWは、2019年から主要ブランドの商用車も含む量販モデルにDSRCベースのV2Xを標準装備すると発表した。ホンダは、CES 2017において、DSRCを使用して交通安全性を高めるSafe Swarm構想を発表した。また、2018年10月に米国オハイオ州Marysville市で、DSRCベースの安全システムSmart Intersection Technologyのデモを行った。

  こうした状況のなか、5GとDSRCを共存させる構想も報道されている。

5Gにより実現すると思われる新技術 AT & Tが参画したV2X実証実験
5Gにより実現すると思われる新技術 AT & Tが参画したV2X実証実験

資料:AT & T

5G導入に伴い「Edge Computing」が重要に

  Edge Computingが議論されている。末端機器の近くにEdge Serverを置き、分散処理するネットワークである。今後ますます大量のデータの処理と通信が要求されるため、大容量通信が可能な5Gが導入されても、これまでの末端とクラウドの通信をそのまま拡大するのでは効率が悪化し、また膨大な記憶装置が必要になってしまう。Edge Computingを強化することにより、全体のアウトプットを最大化し、超低遅延にも貢献するという。

  2017年8月に、トヨタ、Intel、Ericsson、NTT、NTTドコモ、デンソーが参加して、AECC(Automotive Edge Computing Consortium)が組織され、AT& Tも参加した。同コンソーシアムの設立を呼びかけるプレス発表では、「Edge Computingや、より効率的なネットワーク構成技術などを活用することで、自動車とクラウド間のビッグデータの大容量通信と演算処理に重点的に取り組む。(省略)さらに、最も効率的な分散・階層型コンピューティングの研究も推進していく」としている。技術の進歩により、Edge Computingの考え方も変遷していくとのこと。

  自動車の場合のEdge Computingについては、岡氏によると、安全・快適な運転のため一定の車載システムが必要であり、特に自動運転車には必須となる。一方、V2Xやスマートシティが発展して車と都市インフラ(駐車場や監視カメラなど)が通信するようになると、そのデータは基地局など様々な箇所のEdge Serverで処理されることが想定されるとのことであった。

2018年内に米国の12都市でNew Radioのモバイル5Gサービスを開始

  2018年9月、AT & Tは、Ericsson、Nokia、Samsungと共同で、世界で初めて3GPPのRelease 15に基づく5G New Radioを使用するモバイル5Gサービスを、米国12都市で開始すると発表した。2019年初めには19都市に拡大する。


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キーワード

第5世代移動通信システム、5G、日産、NTTドコモ、AT & T、セルラーV2X、V2N、DSRC、New Radio、エッジ コンピューティング

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