トヨタの電動車戦略:2030年に電動車550万台、EV・FCV 100万台を目指す

電池の開発・生産に2030年までに1.5兆円を投資、「標準電池」を導入する構想

2018/03/14

要約

 本レポートは、トヨタの電動化戦略の概要を報告する。

小型モビリティi-Rideコンセプト(東京モーターショー2017)

小型モビリティi-Rideコンセプト(東京モーターショー2017)

 トヨタは2017年12月18日、2030年に電動車販売550万台以上、うちEV・FCVは100万台以上を目指す中長期計画を発表した。2025年頃までに、HV・PHV・EVをグローバルに販売する全車種に設定し、内燃エンジンのみの車種はゼロとする計画。
 また上記発表5日前の12月13日に、パナソニックと、車載用角型電池事業で協業すると発表した。今後の電動車開発では電池が鍵となる。パナソニックと提携することで電池の開発・供給のめどがつき、今回の電動車計画を正式発表することができたとのこと。電池の開発・生産だけに、2019~2030年の間に1.5兆円を投資する計画。

 レポート後半では、EV分野に関して、2018年2月28日~3月2日に開催されたバッテリージャパン2018におけるトヨタ自動車株式会社 先進開発推進部 EV事業企画室 室長 豊島浩二氏の「トヨタが実現したいEV社会像」と題した講演の概要を報告する。
 深刻な環境問題を認識し、EV本格導入を契機に、持続可能なエコシステムを構築する構想。具体的には、今後のEV本格導入に際して「標準電池」を開発。電池のリユース・リサイクルを進め、また再生可能エネルギーで充電する体制を社会全体で構築する構想。
 また「標準電池」の活用により、特に小型EVで課題となる内燃エンジン車との価格差にチャレンジし、また中古EVの査定額が大幅に下がるという問題にも取組む。



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トヨタの電動車550万台計画

 トヨタは2017年12月、2030年に電動車販売550万台以上、うちEV・FCVは100万台以上を目指す計画を発表した。2025年頃までに、電動専用車種を拡大し、またHV・PHV・EVをグローバルに販売する全車種に設定し、内燃エンジンのみの車種はゼロとする計画。
 トヨタは、持続可能な社会を目指して、1997年に世界初の量産HVプリウスを発売するなど電動化を主導してきた。2016年の世界の電動車市場323万台のうちトヨタは140万台を販売し、43%のシェアを誇る。しかし今日、世界各国・地域のZEV(Zero emission vehicles)規制やCAFE(Corporate average fuel economy)規制が厳しくなっており、この両方に対応していかねばならない。HVは、米国カリフォルニア州や中国のZEV規制対象から外されたが、依然としてCAFEをクリアするためには強力な武器となる。ZEV規制にはEV・FCV、CAFEにはHV・PHVで対応する。
 HVについては、ハイパワー型など多様化を進め、FCV・PHVは2020年代に商品ラインアップを拡充する。各種の規制と、顧客ニーズを見定めながら、商品導入を決定していく。電動車の多様化が必要と考えられ、電動車のフルラインメーカーであることが、トヨタの強みとしている。
 なお、12月18日の発表に先立って、EV開発に関する協業について2件の発表があった。
 まず9月に、マツダ、デンソーの2社とEVの基本構想に関する共同技術開発に向けた契約を締結し、EV C.A. Spirit(株)を設立した。EVのプラットフォームに加えて、電池、モーター、インバータなど主要ユニットに必要な特性を研究して、それぞれの開発担当部門に要求していく。
 また12月13日に、パナソニックと車載用角型電池事業で協業すると発表した。電池は今後の電動車開発の鍵であるが、電池に関するストーリーを描き切れていなかった。今回パナソニックと提携することで電池の開発・調達のめどがつき、トヨタは電動車550万台の計画を正式発表することができたとのこと。全固体電池の開発・生産でも協力していく。  

 

世界の電動車市場とトヨタのシェア 新たな価値を提供し事業を拡大するチャンス 車両電動化のマイルストーン
世界の電動車市場とトヨタのシェア 新たな価値を提供し事業を拡大するチャンス 車両電動化のマイルストーン

資料:トヨタ



トヨタの電動化計画

車両電動化全般 ・2030年に、グローバル販売台数における電動車を550万台以上。ゼロエミッション車であるEV・FCVは、合わせて100万台以上を目指す。
・2025年頃までに、全車種に電動グレードを設定し、内燃エンジン車のみの車種はゼロとする。
EV・FCV ・EVは、2020年以降、中国を皮切りに導入を加速し、2020年代前半には、グローバルで10車種以上に拡大する。日本・インド・米国・欧州に順次導入する。
・FCVは、2020年代に乗用車・商用車の商品ラインアップを拡充する。
HV・PHV ・HVは、トヨタハイブリッドシステム(THSⅡ)を高性能化するとともに、ハイパワー型、簡易型など多様なハイブリッドシステムを導入する。
・PHVは、2020年代に商品ラインアップを拡充する。

資料:トヨタ

(注)2030年の電動車台数は、現在のトヨタグループ世界販売1,000万台強のレベルで考えて、2030年にトヨタ単体でこのくらい販売したいという数字とのこと。トヨタと協業しようというOEMが出てくれば、台数はさらに膨らむ可能性がある。

 



EVを広いセグメントや用途に提供

 これまでトヨタでは、EVはその移動距離の制約から小型車やコミューター中心に近距離用途とし、HV・PHVは乗用車全般をカバーする電動車の中心、FCVは中距離用途との位置付けをしていた。しかしグローバル市場の変化を見て、軽乗用車からトラックまでをカバーし、またMaaS(Mobility as a Service)のような新たな用途にも積極的に対応する方針に修正した。

 CES 2018ではMaaSに向けたEVのe-Paletteを出展し、デトロイトモーターショー2018で初披露したLexus LF-1 LimitlessコンセプトはEVも想定している。グローバル市場向けに上級車のEVも計画する。

これまでの、電動車の棲み分け 今後EVを広いセグメントや用途に向け提供
これまでの、電動車の棲み分け 今後EVを広いセグメントや用途に提供

 資料:トヨタ



電池の開発・生産に2030年までに1.5兆円を投資

 今後、特に重要になるのが電池の開発・供給体制の強化である。トヨタの電動車販売は、2017年の約150万台から2030年に550万台に大幅増加を見込む。しかも現在プリウスHVの電池容量は0.75kWhだが、今後日産リーフのような大容量電池(40kWh)を積む車種も必要になる。トヨタは、2019~2030年の間に電池だけで1.5兆円の投資(研究開発と設備投資、設備投資が5割以上)が必要であり、またその方向にアクセルを踏み込んだ。「電池を制するものが電動化を制する」と言われているが、その準備ができたとのこと。 
 また、電動化と資源・エネルギー問題は切り離すことができないクルマの両輪であり、電動化を支える社会基盤整備にも注力する方針。電動車の増加は、そのままだと資源不足・価格高騰を招き、産業廃棄物増加にもつながるが、使用済み電池はニッケル、リチウム、コバルトなどのレアメタルを含む貴重な資源である。また、再生可能エネルギーは稼働が不安定であり、電気を貯蔵するための定置用蓄電池としてリユースすることで安定循環に貢献する。
 トヨタは、今後厳しくなるZEV規制、CAFE規制を考えると、電動車に関しては、電池、インバータ、モーターなどのユニットを含めて開発の成果を抱え込むのではなく、オープンにしていく。特に電池については、かつてない膨大な量であり、日々の進歩を取り込みながら、同時にリサイクルまで見ていくことが必要になる。トヨタ自身が主導しながら、オープンな協力体制を構築していく方針。

電動車550万台へ異次元の構えが必要 大容量電池を搭載するEVにも対応 開発・生産への思い切った投資が必要
電動車550万台へ異次元の構えが必要 大容量電池を搭載するEVにも対応 開発・生産への思い切った投資が必要

資料:トヨタ  



トヨタが実現したいEV社会像

 以下は、バッテリージャパン2018での、トヨタ自動車 豊島浩二氏の講演の概略を紹介する。トヨタが環境対応車に取組んできた原点を再確認し、単にEVを投入するだけでなく、これを機に真にエコな社会を創っていきたい、またそうしてこそEVが社会に十分な貢献ができる、との発想である。
 ここまでの電動車550万台計画における「電動化を支える社会基盤の整備」について、対象をEVに絞り、一歩掘り下げた構想を示している。



トヨタのエコカーの取組み


開発・生産への思い切った投資が必要
トヨタが目指す姿とは(資料:トヨタ)

 初代プリウス誕生において、トヨタは21世紀に向けて企業としてなすべきことに真摯に向かい合った。化石エネルギー消費急増に対して、
1.エネルギー対応
2.CO2削減(地球温暖化対策)
3.大気汚染防止
の3つのキーワードを追求した。

 いつの時代もプリウスは先駆けの存在であり、変化と進化をもたらしてきた。4代目プリウスは、前人未到の燃費「40km/L」へ挑戦し、
1.ころがり抵抗の低減→Cd=0.24へ挑戦、
2.エンジン燃焼改善→熱効率40%へ挑戦、
3.HV効率アップ→小型化・効率化へ挑戦した。
 トヨタは、こうした挑戦を今新たにEV分野で起こそうとしている。



LCA(Life Cycle Assessment)でのCO2排出量削減を目指す

 CO2は、走行中だけでなく、車のライフサイクルの諸々のステージにおいて発生している。LCAとは、製品の原材料調達から、生産、流通、使用、廃棄に至るまでのライフサイクルにおける投入資源、環境負荷及びそれらによる地球や生態系への潜在的な環境影響を定量的に評価する手法。 
 トヨタのHVのライフサイクルCO2排出量は、一般的な2Lガソリン車に比べ東日本大震災前の原子力発電稼働時で45%減と算定。豊島氏が担当したプリウスPHVは震災前で47%減であったが、稼働原発が少ない現在は43%減とのこと。
 日本は再生可能エネルギー用途に向いた土地が少なく、発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率は10%未満、水力を加えても20%未満と低い。従って、現在日本で走行するEVは、主に化石燃料で発電した電気で走行し、電池の製造にもCO2をかなり排出するので、LCAで見たCO2削減は満足すべき状態ではないという。
 4代目プリウスのPHVでは、世界初のソーラー充電システムを実現した。1日に5km(年間約1,000km)走る電力をつくれるので、年間1万km走行するプリウスPHVの場合、約1割をソーラー充電でまかなうことができる。  



トヨタのEV事業企画室が目指すEV社会像

 トヨタが環境問題に挑む理由は、技術で社会に貢献し続ける、変化を作りだすことであり、Game changerに止まらず、サステナブルなエコシステムが継続可能なようにLife changer/Social changerを目指すとしている。1台当たりの環境性能は向上しているが、販売・保有台数が増えているので依然としてチャレンジングな状況が続いている。
 トヨタが目指すEV社会像を、「スローフード」運動にたとえて説明している。「スローフード」は、「ファストフード」に対して唱えられた考え方で、1986年にイタリアで始まった。オーガニック農法で環境に貢献する、すべての人に食で健康を届ける、地元の小規模事業を支えるなど、持続可能で健康な食文化を目指している。
 同じように持続可能なモビリティ社会は、「社会-EV-人をつなぐ」「すべての人に移動の自由を提供する」「LCAで環境に貢献する」ことを目指している。



EVを使い易い環境を整備する

EV企画コンセプト EVの果たす役割 スローフード
持続可能なモビリティ社会を目指す 持続可能な食文化を目指す
社会への愛
Communication
社会ーEV-人をつなぐ 生産者ー消費者のコミュニケーション
食への安心
人への愛
Accessibility
すべての人に移動の自由を すべての人に食で健康を
よい素材とよい調理
地球への愛
Sustainability
LCAで環境に貢献する オーガニック農法で環境に貢献する
有機農法、有機栽培

資料:トヨタ

 



EVで目指す新たな社会の変革

 トヨタは、EVが特に目指したい新たな社会の変革として、
・エネルギーを創る(省エネを超えて再生可能エネルギーを創る)
・エネルギーを蓄える(再生可能エネルギーは変動が大きいので蓄える必要がある)
・エネルギービジネスを起こす(EV電池で様々なエネルギービジネスのきっかけをつくる)との社会変革を目指している。
 また、EV普及のために、
「電池シェアリング」「EVシェアリング」「情報シェアリング」の3項目を掲げた。このうち「電池シェアリング」が要となる。

<標準電池により電池シェアリングを促進>


開発・生産への思い切った投資が必要
電池資源の活用(資料:トヨタ)

 電池シェアリングでは、トヨタ以外のEVや建設機械用に、また家庭用・産業用蓄電池としても利用できる「標準電池」を開発し、リユース・リサイクルの拡大と再生可能エネルギーで充電する体制の構築を目指す。
 EVで何年間か使用し、EV駆動用電池としては使用できなくなったが、家庭用や産業用蓄電池としては十分な性能を維持している電池をリユースするシステムを構築する。1つの電池パックを15年間使い続けたいとのこと。また15~20kWhの電池が標準化の候補だという。小型モビリティに搭載する電池容量であり、家庭用にもそのまま使える。さらに複数個組み合わせて、産業用(~数百kWh)や電力系統用(~数十MWh)にも使用できる。
 使用済み電池の検査も共通化する。各EVの日々の充電パターンや走行データをデータコミュニケーションモジュール(DCM)経由で収集・解析し、快適に利用でき、電池が長持ちする充電・走行を研究する。急速充電を利用したか否か、その劣化への影響も調査していく。
 リユースや再資源化の作業(運搬、分解、熱処理など)の標準化により、それらの工程の効率を向上させる。レアメタルでは現在はニッケルと銅のみを回収しているが、コバルトの回収技術を確立する。
 次に、再生可能エネルギーで充電する仕組みを社会全体で構築し、LCAでのCO2排出量削減を目指す。日本では再生可能エネルギー比率が低いが、EV充電という安定した需要を創造し、安価で信頼できる蓄電池が確保されれば、再生可能エネルギーへ投資しやすい環境整備の一環になると期待している。「再生可能エネルギーは、無限のエネルギーだ」との考え方。
 こうした一連の動きを、新たなビジネスモデルとして確立する。トヨタが主導するが、関連する業界、既存の企業とも連携し、オープンイノベーションを進めていきたいとしている。
 ちなみに、トヨタは2018年1月、中部電力と共同で電動車の駆動用電池をリユースした大容量蓄電池システムの構築、および使用済み電池のリサイクルについて実証を開始すると発表した。



「標準電池」導入によるEV事業の変革

 今後は上級車のEVも開発される予定だが、日本や新興国地域で本来狙う領域は小型EV(例えば、東京モーターショー2017で紹介したi-Rideなど)である。このクラスでも航続距離200~300kmを目指すにはそれ相応の電池が必要になり、いわば車両価格150万円の車がさらに150万円のコストの電池を搭載するイメージとのこと。「内燃エンジン車とEVの価格差」が特に大きく響くクラスなので、その緩和を目指す。
 そこで、EV開発において、電池のスペックを標準化し、車両の開発と電池の開発を分離し並行して進めることを検討している。コストも切り離して管理する。
 電池を標準化し全てのEVが共有する仕組みを構築すると、例えば200km走行できるEV購入から2~3年後に400km走行できる新しい電池が開発・発売された場合、電池を積み替えることが可能になる。また現在、EV中古車の査定額は内燃エンジン車に比べ著しく低下しがちである。標準化により新しい電池に交換して、より妥当な価格で中古車市場に出すことが可能になる。現在はEV車両と電池がセットで開発されているので、車両と電池のマッチングが問題となり、進化した電池への交換は困難であるという。

<EVシェアリング>
 小型モビリティを取巻く社会背景として、交通弱者の増加、歩行エリア拡大への要求などがある。小型EVに自動運転も組み合わせて、すべての人に移動の自由を提供していきたい。東京モーターショー2017で紹介したi-Rideは、車椅子利用者にも乗りやすいように工夫してある。1人乗り三輪のi-Walkは高齢者の足となることを目指し、車椅子に合体することもできる。EVの無人宅配車なども検討している。
<情報シェアリング>
 EVはセンサー・カメラやAIを装備することにより、交通安全、インフラや天候の監視に力を発揮する。EVは充電中など目覚めている時間が長いので、いわば新たな「番犬」の役割を担う。  

Concept-愛iの姉妹車i-Ride、全長2.5m、2人乗り(東京モーターショー2017) 1人乗り三輪のi-Walkは高齢者の足となる(東京モーターショー2017)
Concept-愛iの姉妹車i-Ride、全長2.5m、2人乗り(東京モーターショー2017) 1人乗り三輪のi-Walkは高齢者の足となる(資料:トヨタ)

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キーワード
トヨタ、電動車、EV、LCA、再生可能エネルギー、標準電池

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