トヨタの開発戦略:高熱効率・低燃費エンジン14機種を2年間で投入

TNGA適用を、後輪駆動車、商用車に拡大

2014/09/12

要 約

新開発の1.3Lガソリンエンジン
新開発の1.3Lガソリンエンジン(出展:トヨタ)
急速燃焼を実現するタンブル流(縦渦)
急速燃焼を実現するタンブル流(縦渦)(出展:トヨタ)

 本レポートは、トヨタの内燃エンジンの改善計画と、TNGA (Toyota New Global Architecture) の進展について報告する。

 トヨタは、2014年4月から2015年の間に高熱効率・低燃費のエンジン14機種を投入し、2016年に世界で販売する車両の3割に搭載する。2014年4月に1.0Lと1.3Lの新エンジンをそれぞれPassoとVitzに搭載し、1.0Lエンジンは国内ガソリン登録車最高のJC08モード走行27.6km/Lの燃費を達成した。2014年7月には、Lexus NXにLexus初の2.0L直噴ターボエンジンを搭載した。ハイブリッド車だけでなく、内燃エンジン車も含め環境性能を高める方針。

 TNGAについては、2015年に新型Priusを適用第一弾として発売する計画。TNGAは前輪駆動のB/C/Kプラットフォームから採用を開始するが、順次、後輪駆動の上級車や商用車にも適用を拡大し、ゆくゆくは全てのプラットフォームに導入する方針とされる。

 トヨタは、TNGAの実現のため、複数のモデルで共用できる部品の開発について部品サプライヤーと協議している。デンソーは、いち早くモデル・カーメーカー系列を超えてB~Dセグメント車に搭載可能なエアコンユニットを実用化している。


関連レポート:
トヨタ:TNGAの導入で商品力の向上と原価低減を同時に達成 (2014年1月掲載)




2014~2015年に、高熱効率・低燃費エンジン14機種を順次導入

 トヨタは、世界で戦うにはハイブリッドだけでなく内燃エンジン全般のレベルアップが必要として、エンジンラインアップを大幅改良する。世界トップレベルの最大熱効率を達成し、従来型比で10%以上の燃費向上を実現していく。

 ハイブリッド用エンジン開発で磨いた燃焼技術を活かし、高熱効率・低燃費エンジン群を開発・改良した(2014年4月発表)。急速燃焼と高圧縮比化により燃焼を改善し、ポンピングロス・冷損低減と低フリクション化により損失を低減した。燃費向上の貢献度は燃焼改善が50%程度、損失低減が20~30%、残りはエンジン全体の協調制御によるとしている。
 2015年までに、世界で1.0Lから5.0Lまで合計14機種の新エンジン(ターボエンジンやディーゼルエンジンを含む)を導入し、2016年に、世界で販売するトヨタ車の3割に改良型エンジンを搭載する。 2014年4月、まず1.0Lと1.3Lエンジンを開発し、それぞれPassoとVitzに搭載した。

1.0Lと1.3Lの高熱効率・低燃費エンジンを実現した技術

新開発
エンジン
最大

効率
JC08
燃費
燃費
向上率
燃焼改良 損失低減
急速燃焼 高圧縮比 ポンピングロス・
冷損低減
低フリクション
1.3Lエンジン
(1NR-FKE)
38% 25.0km/L
(Vitz)
21.8km/L
(Ractis)
従来
型比
約15%
高性能・
高タンブル
ポート
圧縮比 13.5
・圧縮比バラツキ低減
・大量クールドEGR
・新構造ウォータ
ジャケットスペーサー
・4-2-1排気管
・アトキンソン
サイクル
・大量クールドEGR
・電動-VVT
・ピストンスカート表面改質
・新構造ウォータジャケット
  スペーサー
・樹脂コートベアリング
・低フリクションチェーン
・曲げロス低減補機ベルト
1.0Lエンジン
(1KR-FE)
37% 27.6km/L
(Passo)
従来
型比
最大
30%
高性能・
高タンブル
ポート
圧縮比 11.5
・大量クールドEGR
・ウォータジャケット
  スペーサー
・アトキンソン
サイクル
・大量クールドEGR
・ピストンスカート表面改質
・ウォータジャケット
スペーサー
・低フリクションチェーン
資料:トヨタ広報資料 2014.4.10、日本経済新聞 2014.4.11
(注) 1. 熱効率はエンジンのエネルギー効率を数値化したもので、燃料を燃やすことで生じた熱エネルギーのうち有効な仕事に変換された割合を示す。熱効率が高いほど、燃費効率が高い。
2. 燃費および燃費向上率は、JC08モード走行で、2WD・アイドリングストップ搭載車の場合。
3. 2010年にモデルチェンジしたVitz 1.3L車の燃費は21.8km/L。その後、同クラス競合車である日産ノート 1.2L車(燃費は25.2km/L)、ホンダ・フィット 1.3L車(燃費は26.0km/L)など燃費性能の高いモデルが発売されていた。
4. アトキンソンサイクルは、吸気バルブの閉じるタイミングをピストンが圧縮工程に入ってからにすることで、実効圧縮比を小さく抑え膨張比を大きくし、効率を向上させる。トヨタは、これまでアトキンソンサイクルをハイブリッド車専用エンジンに使用してきたが、今回初めて通常のガソリンエンジンに採用した。

 

 



Lexus NX:直噴ターボエンジンを搭載

ターボエンジンを搭載するLexus NX200t
ターボエンジンを搭載するLexus NX200t(出展:トヨタ)

 トヨタは、ハイブリッド車より価格を抑えたターボエンジン車を投入する。

 2014年7月、Lexus初のコンパクトクロスオーバーSUV NXを日本国内で発売した。新開発ターボエンジンを搭載したNX200t(価格は428万円から)と、ハイブリッドシステムを搭載するNX300h(492万円から)をラインアップした。NX300hは、Harrier/Camryハイブリッドと同じエンジンを搭載する。

 2.0Lターボエンジンは、V6 3.5Lエンジン並の動力性能を確保しながら、燃費12.8km/Lを実現した(RX350のV6 3.5Lは9.1km/L)。ダウンサイジング・ターボエンジンとして、BMW/Audiなどのドイツ勢に対抗する。トヨタが2014~2015年に投入する新エンジン14機種の一つになる。

 2.0L直噴ターボエンジンを他車種にも搭載するほか、1.2Lターボエンジンも投入する計画。


2.0Lターボエンジン「8AR-FTS」を新開発

 2.0L直列4気筒ターボエンジン「8AR-FTS」を新開発した。ツインスクロールターボチャージャーと、可変角を拡大したDual VVT-iW(Dual Variable Valve Timing-intelligent Wide)を組み合わせるとともに、最適な燃焼効率を実現する直噴D-4ST(Direct-injection 4 stroke gasoline engine Superior version with Turbo)を採用することで、低回転域から強大なトルクを発生させ、滑らかで爽快な加速フィーリングを生み出した。
 組み合わせる6速ATも新開発した。走行状態に応じて必要なエンジントルクを算出し、エンジンとATを制御する「駆動力オンデマンド」式の新制御ロジックを採用、ターボエンジンのトルクを最大限に活用し、アクセル操作に対する優れたレスポンスを実現した。
資料:トヨタ広報資料 2014.7.29
(注) 1. ツインスクロールターボ:エクゾーストマニフォールドからターボチャージャーのタービンへの流路を2つに分け片方にバルブを設けて、エンジン回転数によりそのバルブを開閉・調整して、排気ガスの流量を最適化する。また、例えば4気筒エンジンの場合、2気筒ずつの排気をそれぞれの流路に通すことで、気筒ごとの排気が干渉することを防ぐ効果もある。
2. D-4ST:Direct-injection 4 Stroke gasoline engine Superior version with Turbo。筒内直噴とポート噴射の2つのインジェクターを装備し使い分けるシステム。

 

ターボ小型エンジンと自然吸気V6エンジンの性能と燃費比較

搭載車種 NX200t RX350
エンジン型式 8AR-FTS 2GR-FE
種類 直列4気筒ターボ 自然吸気V型6気筒
総排気量 1998cc 3456cc
JC08モード走行燃費 12.8km/L 9.1km/L
最高出力 (kW (PS)/r.p.m.) 175(238)/4,800-5,600 206 (280)/6,200
最大トルク(N・m(kgf・m)/r.p.m.) 350 (35.7)/1,650-4,000 348 (35.5)/4,700
燃料噴射方式 筒内(噴射)+ポート(噴射) ポート(噴射)
車両重量 1,740kg 1,880kg

資料:トヨタのカーラインアップ資料
(注)それぞれ2WD車。NX200tはアイドリングストップを装備するが、RX350には設定なし。

 

トヨタのターボチャージャー内製と調達の計画

投入時期 ターボチャージャー生産・調達 エンジン生産
AR型 2000cc直噴 2014年 三好工場(2015年に10万基体制) (九州)苅田工場
NR型 1200cc直噴 2015年 IHIから調達(年10万基規模) 下山工場
新興国向けディーゼルエンジン 未詳 豊田自動織機から調達

資料:日本経済新聞 2014.8.25、日刊工業新聞 2014.6.20
(注)豊田自動織機は、トヨタのIMV/ランドクルーザー向け2500cc~4500ccディーゼルエンジン、カローラ/RAV4向け2000cc/2200ccディーゼルエンジンを生産・供給している。

 

 



TNGAは「もっといいクルマを開発する」ことからスタート

 トヨタのTNGAは、「もっといいクルマ」を開発することからスタートする。

 (1)プラットフォームごとに、最高のプラットフォーム、ユニットを開発し、ドライビングポジションなどの「アーキテクチャー(クルマづくりの設計思想)」を定める。

 (2)定められた「アーキテクチャー」に基づき、共通のプラットフォームをベースとする複数車種を同時に開発(グルーピング開発)し、20~30%の開発効率向上を目指す(これまでは、車種単位での個別最適に陥りがちだった開発の進め方をより大括りにして、全体最適でもっとよいクルマをつくる取組みに改める)。

 (3)プラットフォームを共有する車種間で、当初20~30%、いずれは70~80%の部品共用を目指す。購入コストの大幅低減を図るが、上記の取り組みを通じて結果として得られる効果と位置づけている。また部品サプライヤーとの協働を重視している。


 以下に、2014年1月に掲載したレポート「トヨタ:TNGAの導入で商品力の向上と原価低減を同時に達成」以降に明らかになったTNGAの進展を報告する。

 

 



後輪駆動Nプラットフォームや商用車にも適用

 トヨタは、部品の共用化が容易な3つの前輪駆動用プラットフォーム(C/K/Bプラットフォーム)から、TNGAを導入する。生産台数の約5割をカバーする見込み。

 さらに後輪駆動用Nプラットフォーム、商用車シリーズにも順次導入していく計画。ゆくゆくは、全プラットフォームにTNGAの考え方を導入する方針とされる。

TNGAを導入するプラットフォーム・プロジェクト

Cプラットフォーム  2015年11月に投入予定の次期型Priusから、順次導入する。
Kプラットフォーム  CamryなどDセグメント車が対象。2016年後半から導入。次期型Camryが、TNGA発想で開発したユニットを初搭載するとされる。
Bプラットフォーム  VitzなどBセグメント車が対象。2018年から導入。
Nプラットフォーム  Lexus GS/IS、Toyota Crownシリーズなど後輪駆動上級車が対象。2018年にも、Lexusブランドで発売する新型車/GS/ISを一括開発する見込み。
商用車プロジェクト  商用車については、2017年をめどに、東京モーターショー2013に出展した試作車をベースに次世代タクシーの商品化を計画。またハイエース中心の現ラインアップに加え、衝突安全性の高いセミボンネットタイプのグローバル商用車の開発を進めている(このプロジェクトは2007年頃に計画されたが、経済危機で凍結されていた)。これらのプロジェクトにTNGAを導入する。
その他プロジェクト  IMVシリーズ、次期型エティオスなどにも、TNGAを順次導入していく。

資料:日刊自動車新聞 2013.11.20/2014.3.12/2014.5.29/2014.5.23、日刊工業新聞 2014.6.5

 

TNGAの運営

チームK  トヨタは、Camry、Avalonなど同じKプラットフォームを活用する車種の開発・調達・生産を一貫して担当する「チームK」を組織した。
仕入れ先との協力関係を重視  VWや日産のモジュール戦略は、カーメーカーのトップダウンでモジュールを開発し、最も競争力のあるグローバルサプライヤーを選定し発注していくとされるが、トヨタは部品メーカーの協力を重視し一体となって活動し、意見を交換しながら方向性を詰めていく方針。トヨタは、仕入先とトヨタの調達、生産技術、技術(研究・開発)の四位一体の活動を強調している。
 トヨタは、部品メーカーとの関係については、TNGA導入後も複数社発注を継続し、またティア1、ティア2、ティア3と連なる仕入先の枠組みを変える考えはなく、今のところ既存の仕入先での効率化を優先して進めるとしている。
マイナーチェンジにも適用  TNGAでは複数車種を同時に開発するので、マイナーチェンジでは、それらの車種の固有の内外装を除くと、燃費改善に向けたパワートレインの改良や先進安全機能の採用など、共通する改良が多くなると想定される。マイナーチェンジにもTNGAを適用して同時開発し、モデルライフ全体での開発効率をさらに高める。
ユニット部品に適用  2013年4月に発足した「ユニットセンター」が担当し、エンジン、トランスミッション、その他部品の開発・生産にもTNGAの発想を取り入れる。エンジンは、2013~2014年に投入する14機種の「高熱効率・低燃費エンジン」の要素技術をさらに高めながら開発する。
 FF用横置きガソリンエンジンについては、現在排気管をエンジンの前方に置くタイプと後方に置くタイプがあり、搭載姿勢は前傾と後傾があるが、TNGA対応ユニットでは後方排気、後傾に統一する。またシリンダー寸法を3パターンに絞り込んで、その組み合わせで中小型エンジンをカバーする構想。
 TNGAの発想を取り入れたパワートレインの実用化第1弾は、2016年度後半に発売するCamryに搭載するとされる。2500cc AR型エンジンをベースとし、グローバルに、自然吸気型、ターボ型、ハイブリッド型を設定する見込み。
ディーゼルエンジンも開発  ディーゼルエンジンについては、TNGAの考え方を取り入れて、主に新興国向けに1.5L以下の小型エンジンを開発し、2020年頃新興国中心に投入するとされる。トヨタは、2007年にいすゞと共同で小型ディーゼルエンジンを共同開発することで合意したが、経済状況の悪化から凍結した経緯がある。
 それとは別に、トヨタは、BMWから1.6Lディーゼルエンジンの供給を受け、2013年12月に欧州で販売するVersoに搭載した。BMWから2.0Lディーゼルエンジンの供給も受ける計画。

 

 



部品サプライヤーと協力、デンソーのエアコンユニットが先行

デンソーが開発した、車種を跨いで搭載可能なエアコンユニット
デンソーが開発した、車種を跨いで搭載可能なエアコンユニット
(人とくるまのテクノロジー展2014)

 トヨタは、複数のトヨタ車で共用できる部品の開発について、部品サプライヤーと協議を進めている。このうちエアコンユニットについては、デンソーが、一部の変更のみでB~Dセグメント車に搭載可能なエアコンユニットを開発し、既に2013年12月に発売されたトヨタ・ハリアー、2014年1月発売のノア/ヴォクシーに供給している。

 デンソーは、トヨタのTNGAや日産のCMF(Common module family)の構想が浮上する以前から、量のメリットを生み出すため、車種や系列を超えた受注が可能な標準化製品の開発を進めていた。TNGAの構想を先取りしていたことになる。また、トヨタ以外の複数の自動車メーカーからも受注したとされる。


デンソーの、車種をまたいで搭載可能なエアコンユニット

 デンソーは、B~Dセグメント車を対象に、セグメントや車種をまたいで搭載可能な世界初のエアコンユニットを開発した。従来は、車種ごとにサイズや構造が異なっていたが、構成部品であるエアミックスドア、サーボモータ、ブロアファンなどを新たに開発し、同社の従来製品比20%小型化することで標準化を可能にした。小型化しながらも大幅に高性能化し、各セグメントで要求される性能を実現できる構造とした。
 車両サイズが異なると必要な空調性能が異なるため、エアコンユニットの横幅のみ拡大・縮小して調整する。さらに、モーター出力の調整、「ドライバー席のみの空調」などの機能の追加を行う。
 この新型エアコンユニットは、エコカーにも対応できる。例えば、アイドルストップ車にはエアコンケース内のエバポレーターを蓄冷エバポレーターに置き換えることができる、またEV/HVでは、ヒーターコアを置き換えヒートポンプ式エアコンにすることなども可能。

資料:人とくるまのテクノロジー展2014での発表資料

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>