フィアット・クライスラーの新5カ年計画:2018年に世界販売700万台へ

マセラティとアルファロメオの拡販、ジープを世界6カ国で生産へ

2014/05/30

要 約

FCAの販売目標フィアット:クライスラーを完全子会社化
  フィアットは2014年1月29日付で、クライスラーの株式100%を取得して、完全子会社化を完了した。統合された新会社は、社名をフィアット・クライスラー・オートモービルズ(Fiat Chrysler Automobiles NV、略称はFCA)となり、オランダで登記され、納税地は英国となる。
  実体としては、従来通り、イタリアのFiat S. p. A.と米国のChrysler Group LLCの会社組織はそのまま存続し、FCAは両社の親会社となる。FCA本社の所在地は正式に発表されていないが、報道ではロンドンが有力であり、小規模な財務機能が設置されるという。

新5カ年計画

 フィアットとクライスラーは、2009年から2013年までの5カ年計画で運営されてきたが、今回フィアットとクライスラーが完全統合したことに伴い、新たな視点で新5カ年計画が立案された、2014年5月6~7日には機関投資家などを招いて説明会を開催、2014年から2018年までの5カ年計画を発表した。以下はその概要である。

販売目標:700万台

 販売台数は、2013年実績の約440万台から、2018年には700万台の販売を目標とする。ブランド別の販売では、高級車ブランドのマセラティとアルファロメオの拡販を図るとともに、ジープのグローバル生産・販売体制を推進する。

地域別販売:中国と北米で拡販

 地域別販売では、アジア太平洋地域の販売を2013年の約20万台から2018年には110万台へ5倍以上拡販する。この大半はジープ車の中国での合弁事業の貢献を見込んでいる。また、北米地域でも5割増の販売を目指す。

財務目標:2018年純利益50億ユーロ

 売上高目標は2018年に1,320億ユーロ(2013年実績は868億ユーロ)、純利益は50億ユーロ(2013年実績は19.5億ユーロ、特殊要因を除くと9億ユーロ)を設定している。新商品開発と生産工場に、5年間で480億ユーロを投資する。

株式市場の評価:不評で株価は10%以上下落

 機関投資家やアナリストの反響は、新5カ年計画はかなり野心的だが実現性に乏しくリスクが高いとして否定的な見方が多く、説明会後に株価が10%以上下落した。マルキオンネ(Marchionne)CEOは、目標に達しなくても、計画の大半が進展すれば成功といえるとコメントしている。2009年に発表した前回の5カ年計画は、個別のブランドやプロジェクトでは進展が見られなかったものもあるが、全体的に見れば2009年の130万台から2013年目標台数260万台に近い240万台(卸売台数は260万台)を販売した実績がある。

 
関連レポート

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ブランド別販売目標

2013年
(百万台)
2018年
(百万台)
年率成長
(年成長率)
2018年/2013年比
拡販比率
マセラティ・フェラーリ
0.02
0.08
~32%
400%
アルファロメオ
0.1
0.4
~40%
400%
ダッジ
0.8
0.7
~-3%
88%
クライスラー
0.4
0.8
~15%
200%
ジープ
0.7
1.9
~22%
271%
ラム・フィアット商用車
0.9
1.2
~6%
133%
フィアット
1.5
1.9
~5%
127%
合計
4.4
7.0
~10%
159%


マセラティとアルファロメオに大きな投資

マセラティ

ハイクラス高級車市場のセグメント・カバー率を50%から100%へ  マセラティがターゲットとするハイクラス高級車市場は、グローバルで約100万台の市場があるが、2013年時点の4車種では市場の約50%しかカバーできていないという。高級SUVセグメントにも参入し、6車種で100%をカバーする。
販売目標:2018年7.5万台
拡販は可能だが、目標台数達成は疑問
 販売台数も2013年の1.5万台から7.5万台への拡販を狙う。市場カバー率を倍増させる高級SUVの「Levante」の市場投入は2015年であり、グローバルな販売ネットワークの整備とブランド浸透に時間がかかる。
投資は20億ユーロ  マセラティに対する投資は、20億ユーロと発表されている。

 (注) なお、フェラーリはブランドの希少性を維持するために年間0.7万台に生産を制限する方針を堅持する。

マセラティ商品計画
2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
Luxury Full-size Sedan Ghibli
Luxury Large-size Sedan Quatto Porte
Luxury SUVs Levante
Luxury Sport Coupe & Spider Alfieri Coupe
Alfieri Cabrio
Granturismo Full Change
Grancabrio →End

アルファロメオ

重点ブランドとして8車種の新型車を投入、投資は50億ユーロ  FCAの高級車戦略のもう一つの重点ブランドがアルファロメオである。2018年までに8車種の新型車を投入。
 新商品開発と工場への投資は、50億ユーロと発表されている。
ブランドを再定義  アルファロメオのブランドを再定義し、後輪駆動と4輪駆動の駆動方式に統一、対象セグメントもCセグメント以上に絞る。
 現在販売している3車種のうち、Bセグメントの「Mito」を中止する。
販売目標:40万台新型車の本格投入が2016年からとなるため2018年40万台販売は達成困難  2013年の7.3万台から2018年には40万台の販売を計画している。
 ミッドサイズの「Giulia」の市場投入が2015年後半になる上、残り7車種も2016年から2018年の間に投入される予定。グローバル展開は新型車の投入が必要となるために、2018年に40万台までの販売を達成するのは極めて難しいと予測される。
アルファロメオ商品計画
2014年 2015年 2016~2018年
Subcompact Mito →End in 4Q
Compact Giulietta New Giulietta
    New
Mid-size New (Giulia) New
Full-size New
SUVs New
New
Specialty 4C
4C Spider
New

 



ジープ:欧州、中国、ブラジル、インド生産で190万台への拡販を計画

ジープも重点ブランド
販売目標は190万台
 ジープ・ブランドは高級車ブランドに次いで、年率成長率が22%増と高い上に、台数では2013年の79.8万台から2018年には190万台へ110万台の拡販を期待する重要なブランドである。
ジープ商品計画
新型「Cherokee」と
新型「Renegade」
 5カ年計画の中で大きな役割を果たすのが、2013年後半に投入されたDセグメントSUVの「Cherokee」と、2014年後半から新規投入が始まるBセグメントSUVの「Renegade」である。EセグメントSUVの「Grand Wagoneer」はラインナップへの追加になるが2018年の投入で、販売への貢献は期待できなさそうである。
北米に加え、欧州、中国、
インド、南米でも
ジープの生産開始
 ジープの拡販は、現地生産による関税障壁を超えた生産販売体制の構築に依存する。ジープは2013年時点で北米の4工場で5車種を生産していたが、2018年には6カ国の10工場で6車種を生産する。
 2014年後半に欧州で「Renegade」の生産が開始されるのに続き、中国、インド、南米などでも現地生産が進められる。現地生産に伴って、ジープの販売ネットワークの整備が必要になる。特にアジア地域では、ジープ販売店を、2013年の396拠点から2018年には1,270拠点に拡大する。

 



クライスラーとダッジの住み分け

クライスラー・ブランドの再定義
市場カバー率を
25%から65%へ
新規に3車種を追加
 顧客の立場からみると、クライスラーとダッジで、ブランドの違いがはっきりしないという批判があった。新5カ年計画では、クライスラー・ブランドをシボレー、フォード、トヨタなどのメインストリーム・ブランドと位置付け、競合ブランドと同様なラインナップを整備する。具体的には2013年時点に3車種で25% の市場カバー率だったのを、2018年までに3車種を新規に追加して6車種とし65%の市場をカバーする。
ダッジ・ブランドはパーフォーマンス・ブランドと再定義  ダッジ・ブランドは、パフォーマンス・カーのブランドとい う位置付けを明確にし、同じく高性能をアピールするSRT(Street RacingTechnology)ブランドを吸収する。このブランドの再定義で、SRT「Viper」はダッジ「Viper」へと変更になる。
クライスラーとダッジブランドの重複回避リスク  92%のクライスラーグループのディーラーは、クライスラーとダッジ・ブランドの併売だが、ダッジの量販ミニバン「Grand Caravan」の顧客をクライスラーの「Town & Country」ですべて取り込めるのかというリスクがある。同様に、ダッジの量販ミッドサイズセダン「Avenger」の顧客を、クライスラー・ブランドの「200」で取り込めないリスクもある。
2018年の販売目標は
クライスラー80万台
ダッジ70万台
 ダッジ・ブランドは量販車種の「Grand Caravan」と「Avenger」を重複解消で打ち切るために、ブランドとしては2013年の80万台から2018年に70万台と唯一減少する。この分、クライスラー・ブランドはダッジの顧客の分を吸収することに加えて、新商品で市場のカバー率を上げるため、2013年の40万台から2018年の80万台へ倍増が期待される。

 



フィアットとランチア

フィアットは
エモーショナルで合理的でもある
 フィアットはエモーショナルな面と合理的な面の両面を持つジッパー(Zipper)ブランドとして位置づけられている。「500」シリーズなどがエモーショナルな面を代表するモデルで、合理的な面を代表するモデルには「Panda」や「Punto」がある。
フィアットの販売目標190万台  フィアットはBセグメント車に強みを持つブランドであり、南米、中国、インド、北米などにグローバル展開を図ってきている。フィアット・ブランドは2013年の150万台から、2018年には190万台への拡販が期待されているが、欧州地域の販売は横ばいで期待しておらず、アジア太平洋地域と北米での拡販を期待している。
ランチアはイタリア国内向けの1車種のみ  往年の高級車ブランドだったランチアは、Bセグメント車の「Ypsilon」のみとなる。しかもイタリア国内のみのブランドとなって、ブランド消滅に近づいた。

 



地域別販売目標:北米、アジア太平洋地域で増販を狙う

  地域別の販売で増加分が一番多いのが北米地域で、2013年から2018年で100万台、次いでアジア太平洋地域である。ラテンアメリカと欧州も増販を期待されているが、北米やアジア太平洋地域ほどではない。

2013年
(百万台)
2018年
(百万台)
2018年/2013年
拡販比率
FCAのCGAR
(年成長率)
需要CAGR
(年成長率)
アジア太平洋
0.2
1.1
550.0%
~40%
5.5%
ラテンアメリカ
0.9
1.3
144.4%
~8%
3.2%
北米
2.1
3.1
147.6%
~8%
1.4%
欧州
1.1
1.5
136.4%
~6%
3.4%
合計
4.4
7.0
162.8%
~10%
n.a.

 



北米 大幅なシェアアップを狙う

北米市場でシェア
11.5%から15.5%
4%アップを狙う
 北米市場の需要は今後5年間年率で1.4%増と安定的に推移すると予想されている中、FCAは年率8%増を計画している。マーケットシェアは2013年の11.5%から15.5%へアップさせる計画だが、競争の激しい北米市場で5年間のうちにFCAのシェアを4.0%ポイントも上げるのは不可能であるとアナリストから厳しく批判されている。FCAはジープ、ラム、クライスラー・ブランドを拡販してシェアアップを図る計画。

北米地域の販売

2013年
(千台)
2018年
(千台)
2018年/2013年
拡販比率
Dodge
736
660
-10%
Jeep
557
800
44%
Ram
463
620
34%
Chrysler
332
770
132%
Fiat
60
100
67%
小計
2,100
2,900
38%
Alfa Romeo
0
150
n.a.
合計
2,100
3,100
48%

 



アジア太平洋、特に中国での拡販

アジア太平洋で
5倍増110万台
核は中国戦略
 FCAはアジア太平洋地域で2013年の20万台から、2018年には110万台へ5倍以上の拡販を狙う。その核となるのが中国戦略であり、2013年の13万台から2018年には85万台まで拡販する計画である。
大規模な生産投資
現地生産車は
2車種から8車種へ
生産能力77.5万台
 このためには完成車の高い関税を回避するために現地生産モデルを増やす。2013年時点でフィアット・ブランドの2モデルを現地生産しているが、2018年にはジープ・ブランドを加えて現地生産車を8モデルまで拡大する。組立工場を3工場へ、トランスミッション工場は3工場へと整備し、2018年時点で生産能力を77.5万台まで引き上げる。

中国への生産投資

2013年 2018年
組立工場 2 3
エンジン工場 1 5
トランスミッション工場 2 3
生産能力 (万台) 19.5 77.5
生産車種数 2 8
現地生産モデル Ottimo, Viaggio Ottimo, Viaggio
Crossroad, 500X
D Sedan, Cherokee
Renegade, C UV

中国市場向け商品計画

 中国市場向けの商品戦略としては、2018年までに新型車とマイナーチェンジ(MC)車を合わせて13車種を投入する。新型モデルの投入で中核となるのが、ジープ・ブランドである。これまでは完成車の輸入販売だけだったが、2015年にはミッドサイズSUV「Cherokee」、2016年にはサブコンパクトSUV「Renegade」とコンパクトクラスSUVの新型車を現地生産する。

 FCAは中国市場への進出が主要自動車メーカーに比べて大幅に遅れており、同じように遅れて進出しながら急拡大を続けているフォードの業績の再現ができる可能性はゼロではない。しかしながら、中国販売の5割以上を期待するジープの現地生産と本格的な販売が2015年以降となることから、販売目標の達成時期が後ろにずれる可能性が高い。

中国商品計画
2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
Fiat A 500/500C
B UV 500X 500X
C Ottimo Crossroad追加 Ottimo MC
Bravo →End        
Viaggio
D D Sedan
D UV Freemont →End
Jeep B UV Renegade
C UV Compass/Patriot C-UV
D-UV Wrangler
Cherokee Cherokee
E-UV G. Cherokee G. Cherokee
          G. Wagoneer
Chrysler E 300 300
G. Voyager G.Voyager
Dodge D UV Journey →End

注) 太字は中国生産モデル。 フィアット「Freemont」はダッジ「Journey」のリバッジ・バージョン

 



2018年の財務目標

 FCAは2018年の売上高目標を、2013年の868億ユーロから52%増の1320億ユーロに設定している。売上の約50%は北米が占めるが、ジープとアルファロメオの拡販でアジア太平洋、ラテンアメリカ、欧州地域でも売上を伸ばす計画になっている。

 EBIT(金利税引前利益)は、増販とプラットフォームやパワートレインの共通化で、2013年の4.1%から6.6~7.4%への改善を目指す。税引後利益は、2013年の9億ユーロ(1株当たり0.1ユーロ)から、2018年には47~55億ユーロ(1株当たり3.9~4.4ユーロ)を計画している。

 FCAの利益目標の実現性については、多くの関係者から疑問の声が寄せられている。

2013年 2018年
売上高 (億ユーロ)
868
1,320
EBIT (億ユーロ)
35
90
EBIT マージン(%)
4.1%
7%
税引後利益 (億ユーロ)
9
50
EPS (ユーロ)
0.1
4

                     <自動車産業ポータル、マークラインズ>