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自動車のコネクティビティ技術が提供する新たな収益源と利便性
企業・個人・社会を潤すコネクティッドシステムの潜在能力:TU-Automotive Detroit 2015より

2015.7.6 No.1413

 

要約

TU-Automotive Detroit exhibition floor
TU-Automotive Detroit の展示会場の様子

  2015年のTelematics Update Detroit(TU-Automotive Detroit) は2015年6月3日・4日に米国ミシガン州Noviで開催され、会期中、3,000人以上が来場。展示会と討論セッションでは、テレマティクス、モビリティ、自動運転車という3つの主要テーマが取り上げられた。モビリティと自動運転車は今年初めて採用されたテーマだが、展示とディスカッションは、今回もテレマティクスとコネクティビティに関するものが多く、これらをテーマとしたプレゼンテーションが、いくつか同時に行われることもしばしばあった。


 本レポートは、コネクティッドカーが企業・顧客・社会に提供する、以下のような新たなビジネスチャンスと利便性、それに伴う問題を取り上げる。

  • 自動車の診断を行い、故障を見つけるとドライバーに知らせ、ディーラーで修理を受けるよう促す。その結果、ディーラーを潤すようになる。

  • 路面状態に関する情報をクラウドに送り、他の車や地域の交通規制当局と共有する。

  • 路上の駐車スペースの空き状況などに関する情報を提供することにより、交通渋滞を低減する。


 本レポートは、TU-Automotive Detroitの討論セッションについて報告する3本のレポートのうちの2本目である。1本目は、自動運転車に関する考察や概念の概要を紹介した。まもなく掲載される予定の3本目は、インフォテインメントシステムおよびサービスの改善に関する問題を取り上げる。


関連レポート:
自動運転技術実現への社会的な課題と、ドライバーの関与のありかた:TU-Automotive Detroit 2015

 

 

テレマティクス技術が収益を創出する:パネルディスカッション

セッション: コネクティッドカーの収益化
企業発表者役職
Hyundai  (現代自動車) Michael Deitz シニア・グループ・マネージャー、コネクティッドカーおよびオーナーマーケティング
Group 1 Automotive Wade Hubbard 副社長、固定業務(フィックスド・オペレーション)担当
AT&T Cameron Coursey 副社長、IoT (Internet of Things)関連商品開発担当
Strategy Analytics Roger Lanctot アソシエート・ディレクター

 「コネクティッドカーの収益化」と題したセッションでは、パネリスト達が、車載テレマティクスが自動車のサプライチェーンの中でどんな収益機会をもたらしているか、また、テレマティクスが自動車販売やサービスの枠組の中にどのように組み込まれているか、等を議論した。

顧客がテレマティクス技術の利便性を理解できるようにする必要がある:現代自動車

Michael Dietz氏は、テレマティクス技術は自動車販売を促進する可能性はあるが、それを独立したセールスポイントとして提示するべきではない、と述べた。ディーラーは顧客に、テレマティクスが顧客の抱える問題をコストパフォーマンスの高い方法で解決できることを具体的に知らせ、顧客が同技術の利便性を理解できるようにする必要がある。また、コネクティッドカーは、車に不具合が生じた場合、診断情報を車から直接顧客に提供することにより、顧客の信頼を強化するという役割も果たす。


アフターサービスから得られる利益の比率
アフターサービスから得られる利益の比率
出典:全米自動車販売業協会 (NADA)、Strategy Analytics
テレマティクスは、修理やサービスを求める顧客をディーラーに呼び戻す役割を果たす:Group 1 Automotive(自動車販売会社)

 Wade Hubbard氏は、別の視点から、テレマティクスは購入時のセールスポイントというより、所有している全期間を通じて重要な機能を提供するものだと考えている。コネクティッドカーは、自動車の故障を発見するために、複雑な診断や分析を実施する機能を有する。
 収益については、ディーラーが新車販売によって収益を得ることは難しくなっている、と同氏は指摘した。Group 1 Automotive社の2014年の収入の11%は補修部品やサービスによるが、そこから得られた利益は同社の総利益の約40%にのぼった。テレマティクスは、修理やサービスを求める顧客をディーラーに呼び戻す役割を果たすことができるだろう。


全ての車にテレマティクスが搭載される将来では、そのサービスの差別化が重要:AT&T

 Cameron Coursey氏は、欧州が全車にe-call緊急通報システムの搭載を義務付けたように、すべての自動車にテレマティクスが搭載される、という将来の見通しを提示した。従って今後は、テレマティクスサービスが存在するかどうかではなく、どのようなテレマティクスサービスが提供できるのか、ということが問題になる。そして、テレマティクスサービスの差別化が、新車販売において、より大きな役割を果たすことになるだろう。新モデルを購入しなくても、車載テレマティクスのアップグレードができるという機能は、自動車メーカーが競合メーカーと差別化のための手段とすることができる。


テレマティクスサービスの提供方法について

 テレマティクスサービスの提供方法について、顧客は会費ベースのビジネスモデルを好まない傾向にある、という点でパネリスト達は一致した。Roger Lanctot氏は、全車に基本レベルのサービスを組み込み、顧客が必要な機能を追加購入できるというビジネスモデルを提案した。これとは別に、Wade Hubbard氏が紹介した顧客のフィードバックによると、車のセンタースタック(センターコンソールに配置される、ディスプレイ/コントロールパネルなどの総称) に新しい技術を持ち込む必要はなく、既存のスマートフォンと同様の機能を持たせれば十分だ、という声も聞かれた。


 

顧客とつながるための自動車のコネクティビティ:Ericsson

セッション: ネットワーク化された社会とコネクティッドカー・クラウド
企業発表者役職
Ericsson (注) Magnus Lundgren ヘッド・オブ・コネクティッド・ビークル・クラウド
(注): スウェーデンを本社とする通信機器機器メーカー。

「つながる車」よりも「つながる顧客」

 「ネットワーク化された社会とコネクティッドカー・クラウド」と題されたセッションでは、Magnus Lundgren氏は、Ericsson社が着目するのは、「つながる車」よりも「つながる顧客」の方だと語った。同氏の指摘によると、カーシェアリングサービスが利用できる今日、顧客とは必ずしも車の購入者ではなく、車の使用者の場合もある。また、同氏は、コネクティビティ技術から最も利益を得るのはサービス業である、とするウォールストリートジャーナルの記事を紹介した。Volvo CarsとEricssonの提携が成功している理由の一つは、Volvo Carsが「つながる顧客」を中心とする未来図を描いているからである。


Visualization of Ericsson Cloud deployment model
Ericssonのクラウド展開
出典: Ericsson
Visualization of communications
路面の状態や様々な事象について車とクラウドが通信する
出典: Ericsson
Volvo CarsとEricssonの提携成功の要因は、簡単なクラウド接続と世界展開の決断

 両社の提携が成功している別の要因として、Volvo Carsの設計哲学が挙げられる。これは、顧客と車およびクラウドを接続する際に複雑な手続きを排し、クラウドの機能やアプリケーションを迅速に利用できるようにする、というものである。成功のもう一つの理由は、Ericssonの自動車向けクラウドサービス Connected Vehicle Cloud を世界に展開すると決断したことである。そのおかげで、複数の地域をカバーする標準化されたソリューションを提供することができた。最後に、この提携自体がVolvo Carsの成功に寄与する要因の一つである。提携により、各社はそれぞれ中核となる分野に集中することができた。Ericssonはクラウドと顧客サービスを開発し、Volvo Carsはヒューマン・マシン・インターフェースの開発に注力している。

コネクティッドカーの利用事例

 Magnus Lundgren氏は、ネットワーク社会におけるコネクティッドカーの利用事例を数多く紹介した。
・ 自動車とディーラーが接続され、保守点検のスケジュールについて情報をやり取りすることができる。
・走行中の自動車が、凍って滑りやすい路面の情報をクラウドに送り、そこを経由して他の車に危険な場所の情報が伝えられる。この情報は、事故や交通パターンのデータと共に地域の道路管理当局に送られ、さらに分析することもできる。
・ つながる機能を有する安全システムの例の一つに、自転車用ヘルメットに装着し、スマートフォンを経由してクラウドと接続するデバイスを利用したものがある。クラウドは自転車の位置情報をコネクティッドカーに送り、衝突の危険がある場合には、両者に警告を発する。
・ Roam Deliveryと呼ばれる宅配サービスで、商品を顧客の自宅ではなく自家用車に届けるというもの。自動車の位置情報はクラウド経由で送信され、宅配業者は1回限りのデジタルキーを受け取って、自動車にアクセスすることができる。

 

自動車のコネクティビティは顧客にどんな付加価値を提供するか:Volvo Cars

セッション:つながる顧客が自動車産業をどう変えるか
企業発表者役職
Volvo Cars Klas Bendrik 上級副社長 兼 グループ最高情報責任者

Examples of companies
顧客と自社のサービスをつなげることで成功した企業
出典: Volvo
自動車業界が、コネクティビティ技術によって提供される機会を活用しないならば、代わりに他の業界や企業が活用する

 「つながる顧客が自動車産業をどう変えるか」と題されたセッションでは、Klas Bendrik氏が特定の企業を取り巻く興味深い現象を紹介して、議論を開始した。同氏は、Uber, Facebook, Airbnb, Alibaba等の大手「サービス業者」は、自動車やメディアコンテンツ、不動産、在庫品などサービスに関連する資産を積極的に所有しないことを指摘した。このような企業の業務の鍵は、顧客と、顧客が求めるサービスまたは提供可能なサービスとをつなぐ能力にある。つまり、これらのサービス業者は、現在、そして将来も常につながっていたいという顧客の期待を十分活用していると言えるだろう。Klas Bendrik氏は、もし自動車業界が、コネクティビティ技術によって提供されるビジネスチャンスを活用しないならば、代わりに他の業界や企業が活用するだろう、と述べた。


Volvo XC90のコネクティビティ技術

 自動車のコネクティビティは、企業が顧客に付加価値を提供する新たなビジネスチャンスを開くものである。Klas Bendrik氏は、Volvo XC90の無線によるアップデート機能のように、顧客に便益を提供するコネクティビティ技術の例を紹介した。

 XC90は、事故の際の緊急通報システムも搭載する。その他のコネクティビティ技術には、自動車の冷暖房を遠隔制御する機能やエンジンを遠隔スタートさせる機能、そして先に述べたRoam Deliveryという宅配システムで、宅配業者が1回限りのデジタルキーを使用して車に商品を届けるシステム等が挙げられる。

 また、コネクティビティ技術は他のシステムの進展にも寄与し、2017年にVolvoがヨーテボリ市で予定している自動運転技術の実証実験計画では、すべての車両がクラウドに接続されて交通情報にアクセスする。

 

コネクティビティ技術を利用して交通渋滞を解消する:Inrix

セッション: 目的地にもう着いた?コネクティッドカーにおけるドライビングインテリジェンス
企業発表者役職
Inrix(注) Bryan Mistele CEO
(注): 米国の大手交通情報会社。

都市の交通渋滞の約30%は駐車場を探す人々が原因

 コネクティッドカーの現状について、Bryan Mistele氏は、ナビゲーション情報や交通情報をドライバーに提供する能力はこの数年で大幅に向上した、と語った。同氏は「目的地にもう着いた?コネクティッドカーにおけるドライビングインテリジェンス」と題したセッションで、Inrix社が交通渋滞の問題を解消するために、どのようにコネクティビティ技術を利用しているかを紹介した。都市の交通渋滞の約30%は、駐車場を探す人々が原因だとされる。また、Frost & Sullivanの調査によると、ドライバーは駐車場を探すために年間平均55時間を費やしている。このために使用される時間と燃料は、消費者および経済にとって約6億ドルのコストとなっている。


InrixはOn-Street Parkingサービスにおいてコネクティッドカーと都市システムの両方が提供する情報を活用

 Bryan Mistele氏は、コネクティッドカーは渋滞解消に必要なシステムの一部でしかない、と指摘した。コネクティッドカーは、個人にとっては渋滞問題を解消するもので、ドライバーはより良い決断をして渋滞を回避することができる。しかしながら、都市の交通を最適化するという問題は、まだ解決されていない。この問題を解決するためには、都市は適切な投資を行い、「つながる機能」を持つインフラストラクチャーの整備を進めなければならない。Inrixは、同社のOn-Street Parkingサービスにおいて、コネクティッドカーと都市システムの両方が提供する情報を活用している。


BMWのiParkに使用されるInrix On-Street Parkingサービスの画面例
BMWのiParkに使用されるInrix On-Street Parkingサービスの画面例
出典: Inrix
BMWへ駐車場空き情報などを提供

 On-Street Parkingサービスは、駐車スペースへの出入り、リアルタイム交通調査、スマートメーターの利用、駐車センサー、車載ナビゲーションデータなど、様々なデータソースからの情報を利用して、駐車場占有率モデルを開発している。同サービスは、駐車場の空き情報を1時間ごとに更新して提供するほか、駐車料金、特定地域の規制や方針等の情報も提供する。路上の駐車スペースが空いていない場合は、Inrixの路外駐車場の情報も利用して、駐車可能な場所を紹介する。InrixはBMWと提携し、インターネット接続システムConnectedDriveを搭載するBMWのモデルにOn-Street Parkingサービスを提供する。

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